渚が日記を残していたことも意外だったが、『愛していた』という台詞のほうに驚愕した。
お互いに想いを伝えたことも囁いたこともなかったから…。
初めて口付けた時、渚に温かさはなかった。
魂はすでにこの世を去っていた。
最後まで渚は俺に伝えないようにと家族に頼んだ。
『顔を見たら泣いてしまうから』…と…。
「あなたに逢いたかった…」
もう一度呟かれて、人違いだと分かっていながら差し出した手の動きをとめられなかった。
ずっと触れたかった温もりがすぐそこにあるような気がした。
胸の中で嗚咽が聞こえる。
彼の肩を俺が零す涙で濡らした。
僅かに震える身体は、この世で人に預けたことなどない無垢なものをまとっていた。
「渚って呼んでいいから…。身代わりでも何でもいい。声を聞かせて…。日記の中に音はなかったんだ…」
どれほどの愛情が彼の中に渦巻いて生きていたのか漠然と知った。
世を見たことのない彼の世界で、夢見たものなのだろう…。
俺はこの愛情に堕ちてもいいのだろうか…。
彼を苦しめるだけにしかならないと思うのに、彼を愛してやりたかった。
かつて渚に何も伝えられなかった埋め合わせをするかのように…。
「あなたの名前は…?」
聞いた俺に俯いた顔が小さく戸惑う。
「…なぎさ…」
「うそ。渚さんはもういない…」
それはたとえ身代わりでもいいから愛してほしいと願う感情の表れだったのだろうか…。
目の前の人物がはっきりと渚とは違うのだと理解できる。
俺が覗き込んでみればまるで桜吹雪に消されてしまいそうな声がした。
「海(うみ)…」
「海…」
耳元で囁けば少しだけ頬を紅くした顔が見える。
恋する少年のようだ。
渚と同じ年だと聞けばずっと年上のはずなのに、腕の中の人は穢れの無い子供のようだった。
「海…」
…ごめん、こんな愛し方しかできなくて…。
心の中で二人の男に謝る。
渚を存分に愛せなかった償いかもしれないけど、海がそばにいてくれればいいと何故か思った。
渚が残した唯一のもののように感じた。
写真もメモも何もない。
この世に生を受ける前から人生を共にしていた兄弟を、俺はずっと忘れない…。
薄紅色の肌を見た時、たぶん、きっと、海も、桜の花のように儚く短く、残りわずかな人生を終えるのだと知った…。
その時は渚の時と同じように俺には知らされないのだろう。
『辛いとか悲しいとか、そんな顔、瑛佑くんには見せたくないから…』
気丈な渚の声が聞こえるようだった。
―完―
にほんブログ村
かなり曖昧に話は終わっていますけど、残された人間はまだこの世に存在しています。ハイ、最近登場しました。結構キツイ人間になって…。
お分かりになった方はポチッて…。続きがどうなるのか私も"今"考えているところです。
お互いに想いを伝えたことも囁いたこともなかったから…。
初めて口付けた時、渚に温かさはなかった。
魂はすでにこの世を去っていた。
最後まで渚は俺に伝えないようにと家族に頼んだ。
『顔を見たら泣いてしまうから』…と…。
「あなたに逢いたかった…」
もう一度呟かれて、人違いだと分かっていながら差し出した手の動きをとめられなかった。
ずっと触れたかった温もりがすぐそこにあるような気がした。
胸の中で嗚咽が聞こえる。
彼の肩を俺が零す涙で濡らした。
僅かに震える身体は、この世で人に預けたことなどない無垢なものをまとっていた。
「渚って呼んでいいから…。身代わりでも何でもいい。声を聞かせて…。日記の中に音はなかったんだ…」
どれほどの愛情が彼の中に渦巻いて生きていたのか漠然と知った。
世を見たことのない彼の世界で、夢見たものなのだろう…。
俺はこの愛情に堕ちてもいいのだろうか…。
彼を苦しめるだけにしかならないと思うのに、彼を愛してやりたかった。
かつて渚に何も伝えられなかった埋め合わせをするかのように…。
「あなたの名前は…?」
聞いた俺に俯いた顔が小さく戸惑う。
「…なぎさ…」
「うそ。渚さんはもういない…」
それはたとえ身代わりでもいいから愛してほしいと願う感情の表れだったのだろうか…。
目の前の人物がはっきりと渚とは違うのだと理解できる。
俺が覗き込んでみればまるで桜吹雪に消されてしまいそうな声がした。
「海(うみ)…」
「海…」
耳元で囁けば少しだけ頬を紅くした顔が見える。
恋する少年のようだ。
渚と同じ年だと聞けばずっと年上のはずなのに、腕の中の人は穢れの無い子供のようだった。
「海…」
…ごめん、こんな愛し方しかできなくて…。
心の中で二人の男に謝る。
渚を存分に愛せなかった償いかもしれないけど、海がそばにいてくれればいいと何故か思った。
渚が残した唯一のもののように感じた。
写真もメモも何もない。
この世に生を受ける前から人生を共にしていた兄弟を、俺はずっと忘れない…。
薄紅色の肌を見た時、たぶん、きっと、海も、桜の花のように儚く短く、残りわずかな人生を終えるのだと知った…。
その時は渚の時と同じように俺には知らされないのだろう。
『辛いとか悲しいとか、そんな顔、瑛佑くんには見せたくないから…』
気丈な渚の声が聞こえるようだった。
―完―
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かなり曖昧に話は終わっていますけど、残された人間はまだこの世に存在しています。ハイ、最近登場しました。結構キツイ人間になって…。
お分かりになった方はポチッて…。続きがどうなるのか私も"今"考えているところです。
あーあ、ホント性格変わりましたね。
儚く消えてしまった人への恋情を忘れがたく想い続けた後に、いろいろあったんでしょうね。
そうか、下の名前はすっかり忘れてましたから、気づきませんでした。
そんないろいろが別の話で解き明かされるのでしょうか。
だから生き急ぐ人を見ると放っておけないのかな。
楽しみです。
儚く消えてしまった人への恋情を忘れがたく想い続けた後に、いろいろあったんでしょうね。
そうか、下の名前はすっかり忘れてましたから、気づきませんでした。
そんないろいろが別の話で解き明かされるのでしょうか。
だから生き急ぐ人を見ると放っておけないのかな。
楽しみです。
甲斐様
こちらにもありがとうございます。
> あーあ、ホント性格変わりましたね。
> 儚く消えてしまった人への恋情を忘れがたく想い続けた後に、いろいろあったんでしょうね。
> そうか、下の名前はすっかり忘れてましたから、気づきませんでした。
名前なんて書いていないんだから忘れて当然です。
私も自分の子なのに、あれ?なんて言う苗字だっけ?名前だっけ?年は?って振り返ります。
この前、あんけーとを貼ったときに、ヒサの苗字を探しましたね…(冷汗)
性格、変わりすぎちゃって、同一人物?!と聞きたくなりますよね…。
海に出会ったことでも何かあっただろうし…(考えていないのであまり語らず…)
> そんないろいろが別の話で解き明かされるのでしょうか。
> だから生き急ぐ人を見ると放っておけないのかな。
> 楽しみです。
人生なんて短いものだ…と感じている"瑛佑"君だと思います。
彼なりにいろいろと考えること、感じることがあるのでしょう。
アレもSSでなくなるっぽいのでどうしましょ…。(つぶやいてみる)
コメントありがとうございました。
こちらにもありがとうございます。
> あーあ、ホント性格変わりましたね。
> 儚く消えてしまった人への恋情を忘れがたく想い続けた後に、いろいろあったんでしょうね。
> そうか、下の名前はすっかり忘れてましたから、気づきませんでした。
名前なんて書いていないんだから忘れて当然です。
私も自分の子なのに、あれ?なんて言う苗字だっけ?名前だっけ?年は?って振り返ります。
この前、あんけーとを貼ったときに、ヒサの苗字を探しましたね…(冷汗)
性格、変わりすぎちゃって、同一人物?!と聞きたくなりますよね…。
海に出会ったことでも何かあっただろうし…(考えていないのであまり語らず…)
> そんないろいろが別の話で解き明かされるのでしょうか。
> だから生き急ぐ人を見ると放っておけないのかな。
> 楽しみです。
人生なんて短いものだ…と感じている"瑛佑"君だと思います。
彼なりにいろいろと考えること、感じることがあるのでしょう。
アレもSSでなくなるっぽいのでどうしましょ…。(つぶやいてみる)
コメントありがとうございました。
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