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BLの丘
夢のような吐息 12
2010-04-22-Thu  CATEGORY: 吐息
広い霊園の周りは桜の木で囲まれている。
今では新緑の葉が茂るだけだが、春には見事な薄紅色の世界を作るのだろう。
園の中でも隅の方に建てられた一基の墓石の前で宮原はとまった。
『砂原家(さはら)』とあるからには親などではなさそうだ。
野崎は少し離れたところで、何をするわけでもなく、花束を捧げ膝をついて静かに両手を合わせる宮原を見ていた。
水谷が真面目だと言っていたように、そこにはいつも見せる軽率な雰囲気は一つもない。
こんな場所では当然だと思いながらも、全身から醸し出されるオーラは全くの別人だった。
過去を悔やむようでもあれば何もかもをまっとうしたという満ち足りた空気さえ漂わせる。
そこに眠る人間がどういった人だったのか、漠然と知って、意味も分からなく野崎は震えた。

宮原が愛した人間なのだろう…。
そして彼を変えた全ての原因がここにあるのだろうとも察しがついた。
同時に何故こんなところに自分を…?という疑問も湧く。
野崎が聞きたがったからだろうか。
だからといって何もわざわざここまで連れてくる必要もなかっただろう。
見ていることが居た堪れなく、踵を返そうとしたところに宮原が「美琴さん」と声をかけてきた。
「先に行かないで。もう済んだから…」
掠れるような声に振り返った先に居たのは、見慣れない男だった。
野崎を連れ回そうという野性的な部分もなく、今感じるのは世の全てを包んでしまうかのような菩薩に見える。


すぐ近くに、海を見下ろせる崖の上の公園があった。
通りすがりのパン屋で促されるままサンドイッチとサラダを購入し、公園に向かった。
休日とあってか、子供連れの親子などがピクニック気分ではしゃいでいる。
野崎はこの場から逃げ出したいという気持ちを持つことすら躊躇った。
今は彼の傍にいてやりたいと、何故か思う…。

公園の端の方に作られたベンチの一つに並んで腰を下ろし、遅い昼食を取った。
これといって何を話すわけでもなく、二人の間に置かれた食物を交互に平らげるような時間。
だけど無言で過ごす今が嫌なものだとも思えない。
言葉などなくても互いの思うことが通じている居心地のよさにむしろ驚く。
野崎自身、気の回し方には自負する部分があったが、それに並ぶ能力を備えていると思えた。

崖の下から聞こえる波の音や風の音、遠くから聞こえてくる人の声。
ゆっくりと流れていく時間が新鮮だった。

野崎の頭の中では宮原のあれこれについていろいろと想像が巡っていたが、どれも当てはまらない気がしていた。
やがて考えることを諦めた。
きっと自分の推測の域を越える。
今日、ここまで連れてくることで、全てを話すと言った宮原の言葉を待つしかない…。

食事を終えて他愛もない会話をやめた宮原が脈略もなく突然口を開いた。

「一人は、30歳を迎える前に亡くなったんだ。…もう一人は、40歳を迎える前に世を去った…」
野崎は何も言わなかった。
あそこに二人の人間がいたということ自体が驚きだったが口を挟むのは憚られた。
「生まれた時から二人とも自分の寿命を知っていたんだよ。俺は聞かされてなんかいなかったけどな…。双子だったんだ。…先に出会ったのは兄のほうで、彼は俺と出会えたからか、自惚れかもしれないけど少しだけ長生きができた。彼が他界してそれから8年の月日を経て弟に偶然出会った。入院ばかりで出歩くことなんて全然できなくて、兄が残した日記だけが”外の世界”だったんだ。たった一度や二度の外出許可の中で出会ったことは偶然…奇跡っていっていいくらい。渚さんが…あ、兄のほうだけど、会わせてくれたのかと思ったくらい奇跡の出会いといって良かった…。けど、…渚さんとは逆に、海は…弟は、俺と出会ったことで寿命を縮めたんだ…」

まるで自分が殺してしまったと言いたげな辛そうな瞳が遠くの海原を見つめていた。



《以前書きました【桜の季節】をお読みいただけるとお話が分かりやすいかと思います。宮原が過去を振り返っている時であります。なるべく繋がんなくてもいいように書きたいんですけどね…。》

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コメント

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儚く散った人たち
コメント甲斐 | URL | 2010-04-22-Thu 00:33 [編集]
墓前を離れて、宮原さんが話し始めるまでの沈黙がすごく重い感じで、そんな中で『誰の墓だろうか、どんな関係の人なのか、なんで私をここに?』など野崎さんが頭の中でいろいろ考えている時の背景の音や周りの景色がとても綺麗で、対照的でした。
Re: 儚く散った人たち
コメントきえ | URL | 2010-04-22-Thu 09:31 [編集]
甲斐様
こちらにもありがとうございます。
暗い話になった……。

> 墓前を離れて、宮原さんが話し始めるまでの沈黙がすごく重い感じで、そんな中で『誰の墓だろうか、どんな関係の人なのか、なんで私をここに?』など野崎さんが頭の中でいろいろ考えている時の背景の音や周りの景色がとても綺麗で、対照的でした。

野崎もいっぱい頭の中を巡ることがあるようですが、ここまできてしまえば宮原の言葉を待つしかないって感じでしょうか。
あまりあっちの話を読まなくても通じるようにしたいんですけど…。
力量不足です。
コメントありがとうございました。
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