2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
夢のような吐息 13
2010-04-23-Fri  CATEGORY: 吐息
人の生死についてはこれまでにもあれこれと耳にはしている。
世の中には人間の力ではどうにもならない自然災害や人為的な策略によって絶たれるものもいる。
宮原が語るように、病に侵されるものもいるだろう。
だが、宮原自身が原因となって…と聞けば関心を向けないわけにいかなかった。
野崎が隣の宮原の顔を伺い見れば、宮原も野崎に顔を向けた。
僅かに笑みを浮かべてはいたが無理をしているようでもあった。

「ごめんね。こんな暗い話、しちゃって…」
「構いませんよ」
宮原を変えた全ての原因がそこにあると思えば野崎は知りたかった。
話したいことの全てを聞くから続きをどうぞと促せば、宮原はまた遠くを見つめた。
少しだけ安らいだ雰囲気が見えたのは気のせいだろうか。
「渚さんが残した日記の中はほとんどが俺のことだった。その世界で海は俺に恋をしたと言ってた。俺は渚さんと離れたとき、初めて彼を愛していたことを知った。…馬鹿だろ…。渚さんは、もうずっと前から気付いてたっていうのに…」
宮原は一度言葉を切った。
彼の中でそれが深い後悔になっているのだとは野崎も理解できた。
離れて初めて分かる恋心。
気付いた時、どれほどの苦しみと悔しさが彼の中に渦巻いていたのだろうか。
想いを伝えたくてもその相手はもう世に存在していなかったのだ…。

「海と出会った時、彼の生まれ変わりかと思ったくらい驚いて…、でも嬉しかったんだ。だから海の言葉に甘えた。傍にいてと言われて、渚さんを愛せなかった分を…と海にしてやりたかったから俺からも望んだ。…けど、海は渚さんほど気丈ではなかったんだ。俺と一緒にいることで日々興奮し、精神に安定が保てなくなった。彼にすれば、夢だった世界が現実になったんだからな…。それが死への追い風になった…」
『出会ったことで寿命を縮めた』とはこういうことだったのか…と野崎は納得する。
だが、それは仕方がないことだったような気もする。
きっと海という人物は宮原に出会えたことを後悔していないように思えてならない。

「海が亡くなってからしばらく悶々としてたよ。何で出会ったんだろうとか、何でもっとそばに居てやれなかったんだろうとか。俺も仕事してたから会えたのは夜や休日だけだったし、生活があったから…って言い訳でしかないけど、別にやりたくもない仕事でただ数字を眺めるばっかり。他界した後は余計に腐れ切ってた。酒に溺れて喧嘩して、警察の世話になったことも度々。そんな時に、砂原の両親が二人が残した日記を読ませてくれたんだ。二人とも後悔なんか一つもしていなかった。『生きたい人生を送れて良かった』って綴ってあって、それを読んだ時、俺、何やってんだろう…って…。毎日日常に文句を言うだけで何がやりたいとかどんな人生を送りたいとか自分で考えてもいなかったんだ…って。情けなくなった」
「それで退社を?」
「そ。書類見つめているより、人と触れ合っているほうが癒されるような気がした…」
ここまで話せて宮原はどこか吹っ切れているようにも感じられた。というより強気だろうか。
話し始めの部分はきっとまだ辛いものが思い出されるからあまり言葉にしたくなかったのだろう。
かといって弱さを責める気はない。
全ては『過去』があって『今』がある。

宮原が異業種に就いた理由は理解できた。
だがもう一つ謎なことがある。
何故自分を誘ったかである。
野崎はこの話題をどのタイミングで切り出そうかと悩んだ。
こんな話の後で続けるのはさすがに憚れる。

野崎が「そうでしたか…」とこれまでの宮原を労えば、宮原の悲壮な面持ちが逆に野崎を捕らえた。
「人生なんてあっという間なんだ…って俺は思っているからさ。美琴さんもさぁ…。誰も仕事をするなっていうわけじゃなくて、ただやり過ぎは毒だよ。どうしたって無理しているようにしか見えないじゃん。ストレス溜めて身体壊したら意味ないって分かってんでしょ。しかも捌け口がオーナーってさぁ」
突然振られた話題に野崎が瞠目する。
「いえ、ですから、それは誤解で…」
「本人は自覚がない、そんなもんだよな。けどオーナーに癒してもらったことがあるのは確かだろ?たぶん気持ちよりも身体のほうが覚えているんじゃない?だからまた次を求めるんだよ。『今だけでいいから…』って。虚しくない?そんなの」
すでに知られていたとはいえ、真相まで言い当てられ、更に自分では思いもしなかったことを暴かれたようで益々動悸が激しくなった。
この男はどこまで見極めるというのか…。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
関連記事
トラックバック0 コメント2
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
『生きたい人生を送れて良かった』
コメント甲斐 | URL | 2010-04-23-Fri 15:37 [編集]
みこっちゃんにしたら、宮原さんの過去の恋話や哀しい結末、限られた中で精一杯生きて最後『よかった』と思える人生を送った人たちの話は同情はしても、だから何で自分を誘うのかはさっぱり分りませんよね。
仕事で疲れようが、誰かに癒してもらおうと発散しようと関係ないだろうと思うと頭の中が???な感じかな。
Re: 『生きたい人生を送れて良かった』
コメントきえ | URL | 2010-04-23-Fri 16:27 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> みこっちゃんにしたら、宮原さんの過去の恋話や哀しい結末、限られた中で精一杯生きて最後『よかった』と思える人生を送った人たちの話は同情はしても、だから何で自分を誘うのかはさっぱり分りませんよね。
> 仕事で疲れようが、誰かに癒してもらおうと発散しようと関係ないだろうと思うと頭の中が???な感じかな。

みこっちゃんの頭の中では整理がついていそうなのに、でも全然整理できていませんって状態です。
言い当てられたことにもびっくり。
そんな気がなかったから余計に「自分よりも知っている」宮原に衝撃!って感じでしょうか。
仕事で疲れて誰かに癒してもらう環境を知ったために、複雑な乙女心(?)だと思います。
クエスチョンマークもいっぱい頭の中に開いているんですけど…。
たぶん恐怖が先にたっていますよね。
コメントありがとうございました。
トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.