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BLの丘
現実の吐息 1
2010-05-06-Thu  CATEGORY: 吐息
部屋の中央で宮原瑛佑(みやはらえいすけ)は立ち尽くしていた。
引っ越したばかりの真新しい1LDKのマンション。
以前住んでいた場所から比べれば狭さは感じても、作りつけられている収納設備が豊富にあることを思えば窮屈になるとも思えない。
大型の家具はすでに大半を処分していたし、届いているのは段ボール箱の山だった。
玄関を入って左右に分かれる水回り。
その先にカウンター式のキッチンを備えたLDKがあり、隣には寝室として使える洋室、ウォークインクローゼットまで完備されている。
野崎美琴(のざきみこと)が選んだだけあって、生活していくのに申し分のない空間ではあったが、はっきり言ってその設備の良さは以前住んでいた所を上回っていた。
契約を決める前に見学したときとも様子が多少変わっている。

「美琴さんってば、どんな手を加えたわけ…」
疑問というよりも呆れに近い呟きが虚しく空気中に響いた。

賃貸物件ともなれば全てが希望通りになどいくわけがなく、どこかで妥協する部分が出てくる。
ほんの少し、ポロリとこぼしたことを聞き逃していなかったのだと今更ながらに知った。
使う必要もないのに、ダイニングテーブルを置くのも面倒で『カウンター式だったらリビングとして広く使えるかな…』(どうせリビングでしかご飯を食べないというのに)とか、ウォークインクローゼットの『両脇に棚があったら便利なのに』とか、挙句の果てには、背の高い自分には邪魔だというキッチンのシンク上のつり戸棚もなくなっており、代わりに背面に家電収納までできるクローゼットが備えられている。
なにもかも『作り変えられて』いたのだ…。

「おいおい、もしかしてこれ、買い取り?!…まぁいっかー。定年までローン組んで覚悟決めるとかも…」
無駄に家賃を払い続けるよりは良さそうな気すらしてくる。
もちろん、支えてくれる人間がいてくれれば…の話である。
ここまでされれば逆に脅しとして使えそうだ…とも思っていたりするが…。
いざとなれば、ここを賃貸物件として貸し出し、自分は美琴の家(一軒家)に転がり込もう…という収支(人生)計画もなきしもあらず。
お互い”数字”には強かったから一番良い方法は簡単に導き出せるだろう。

ピンポーン♪と、高らかな呼び出し音が部屋に響いた。
キッチン脇のモニターで確認をすれば待ち焦がれていた人間だと分かる。

梅雨はどこへ飛び、夏日が続く昨今(予定では関東の6月上旬から下旬くらいですかね~)、相変わらず肌を隠すようにブルーの長袖のシャツを着込んだ美琴がいささか気の毒に思えたが、本人は四六時中スーツを身に纏っているような職種で、特に気にしていないようである。
休日こそ、上着は脱いでいたから、それだけでも涼しげだった。

美琴は部屋に入ってくるなり眉間を寄せた。
最近、表情は特に柔らかくなって、思いが直に表れてくる。
チラリと腕時計で時間を確認しながら、「荷物が届いて2時間は経過しているはずですが…」と、ひとつも開けられた形跡のない段ボール箱を冷たい目で見下ろしていた。

…えぇ、分かっていますよ…。以前見た時と同じ部屋の状態だったら俺だって素直に荷ほどきをしてます…。

内心の声が聞こえた、と言うように、美琴は小さく溜め息を零した。
「勝手に手を入れたのは申し訳ないと思いますが…。こちらは我が社の物件でもあるので、入居者が決定する前であれば多少の手直しは可能なんです(仮想です。突っ込まないでください)」
「契約日、変更したってこと…?」
「すみません。昨日になっています」

やってはいけないと分かっていながら書類の偽装など美琴にとっては簡単なことなのだろう。
もちろん、反論する気も自分にはなかったが。
一つを聞けば百を知るようなこの男に自分の人生を委ねていると言っても過言ではなかった。
それが嬉しさを纏って自分へと返ってくるのだから不思議だ。
咄嗟に抱きついた腕の中で慌てふためいて、とても年上とは思えない初心な反応を示すこの人が愛おしかった。

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リクエストを頂いたものが、何故かサクサク進む…
『淋しい~』を離れたい、とか言っていたのに、こんな結果ですみませんm(__)m
一葉が3時間かかってもすすまないのに、これは20分で完成した…。(1話がですが)
あえて『美琴』と称したこと、違和感があるかもしれませんが、宮原(瑛佑)視点っていうことでどうかお許しを…。
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コメント | | 2010-05-06-Thu 00:31 [編集]
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Re: タイトルなし
コメントきえ | URL | 2010-05-06-Thu 09:09 [編集]
A様
おはようございます。
またお越しいただきありがとうございます。

> 不躾リクエストに応えていただき本当にありがとうございます!!
> あ~、うれし過ぎて変なテンションですみませんっ

こんなもので喜んで頂いて…恐縮です。
すぐに思い浮かんですぐに書けてしまうところが、このシリーズの恐ろしいところです。
甘々になるかなぁ。
そして懲りもせず、また『SS』と言い続けるあたり図々しい私ですね。
今度こそはさくっと手短に………(冷汗)
コメントありがとうございました。
コメントきえ | URL | 2010-05-06-Thu 09:29 [編集]
K様
こんにちは。

>こちらでは 初コメになります。『淋しい~』シリーズ大好き!おまけに宮原視点だと みこっちゃんの可愛さが際立って… またまた楽しみが増えてしまいました三 (/ ^^)/

応援頂きましてありがとうございます。
『淋しい~』シリーズも増えすぎてしまって…。
そろそろ整理でもしないとかな…と考えているんですけど、書きっぱなしの状態ですね。
宮原から見たみこっちゃんはどんな感じなんでしょうか。
楽しんでいただけているようで嬉しいです。
コメントありがとうございました。
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