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BLの丘
【観潮楼企画】 ~指先が触れた時~ 3
2010-08-09-Mon  CATEGORY: 観潮楼
この作品は、【観潮楼】「夏―心を焦がす恋―」参加作品です。



夏以外にもこの村に来ることはあったが、大概は1泊くらいで帰ってしまった。
いいところ、年末年始の3、4日だろう。
祖母の様子を見に来るだけだったし、陸くらいには挨拶をしても、遊び仲間にわざわざ声をかけに行くことはなかった。
突然睦と親しくするのもおかしいような気がして、距離を保ったまま、安里も睦も他の連中に二人の仲を打ち明けなかった。
それは睦にとっては、『秘めた恋』をしているようで、ちょっぴり大人になったような、背伸びをしている感覚があったようだった。
安里としては逃げていたのかもしれない。
もしもこの先、二人が『遊び仲間』になった時に、他の人に何か言われないようにと。
直接そういった話題に出会ったことがないから、いざという時にどんな反応を示されるのか分からない。
祖母がこの地を離れない限り、安里も安里の家族も来ることになる。
その度に睦だけでなく、村の誰とも気まずい思いをするのは避けたいことだった。
将来が分からないから、安里は睦を守る意味でもしばらくは黙っているのが良いと思った。

その夏は、突然手に入った宝物のように、安里は見つめられ続けていた。
睦は安里が帰るまで何かと傍に寄りたがった。
ほとんどは勉強を教える、という口実をつけて、睦の家に上がっていたか、祖母の家に寄りに来たか…だ。
もちろん、他の人間もいる。
安里はこの歳になって、虫取りに行く気もあまりなかったが、まだ遊びたい盛りの睦は違っている。
そんな光景を見ながら、何度か『やはり憧れの間違いなのではないか』と度々思うことはあったが、様子をみるためにも口に出すことはしなかった。
好かれているという想いを感じられることが単純に嬉しかったのかもしれない。
そして大学での生活に戻ってしまえば、いつしか睦の存在は薄くなっていった。

翌年の夏、陽が高くなる前に祖母の家に辿り着くなり、「スイカ持ってきた~」と早速睦がやってきた。
奥から祖母がのそりと顔を出して玄関に向かって話している。
「むぅちゃん、いつもありがとうね。安里がちょうど来たとこだよ」
「あさちゃん、来たの?」
祖母にでも聞いて知っているのであろうに、わざとらしい口調に思わず苦笑が漏れる。
「あがっておいで」
「うん。あ、陸はおじさんの手伝いするから午後来るって~」
いつもなら真っ先に来る陸が来ないのは、そのためか…と、家の手伝いをする陸に感心な心を抱いた。
安里はこの時期、床の間がある和室を居室として使わせてもらっていた。
荷ほどきの手を止め、そろそろと立ち上がりかけたとき、重いスイカを台所まで運んでやったのだろう、戻ってきた睦が飛び込んできた。

久し振りに見た睦のあまりの変貌ぶりに安里は瞠目した。
去年までの少年っぽさがなくなり、鋭敏さを備えた『年を重ねた』感じが、ありありと見て取れた。
春から夏にかけての日焼けもあるのだろうし、身体はまた一回り以上成長していて、筋肉をつけた逞しさが人目を惹く。
Tシャツの袖を肩まで折り返して、下半身は太腿が丸見えといえる短パン姿だった。
子供とは…成長期の子とは、こんなにも激しい変化を見せるものなのだろうか。
自分も通り過ぎてきた道なのに、比較できるほど安里は成長しなかった。
「あさちゃん、久し振り~っ!!」
再会を喜ぶかのように抱きつかれて、安里の方が年がいもなく慌てふためく。
「ちょっ…っ!!睦っ!!」
すぐそばには祖母もいるのだ。
幼い頃のように、無邪気に飛びつきあう背格好でもなくなっているし、祖母だって違和感を持つだろう。
直接肌に触れる筋肉質な体格に、自分との差を充分なほど知らしめられ、またこの歳になっても滅多に取らないスキンシップにドギマギとした。
「おばあちゃん、今お昼の用意してたから大丈夫」
覗き込んできた睦が声のトーンを落とし、安里の不意をついて掠めるようなキスを落としてきた。
「!!」
このませたガキはこんな早業をどこで覚えているのだろう…。

会っていない間に、どこの誰かとなにかがあってもおかしくない年頃だし、むしろ、そのほうがずっと自然だと思える。
わざわざ問いただすほどのことでもない、と安里は聞くような野暮なことはしなかった。
大人としてのプライドなのか…。
色々な要素を踏まえても安里と睦は釣り合わないという気は常に持っていた。
つい今しがたまで子供のころと変わらない声音をあげていたというのに、二人きりになった途端に大人びた雰囲気を纏わせる。
「会いたかった…」
脳髄に染み込んでくるような低い声で耳元で囁かれ、再びぎゅっと背中に回した腕に力を込められる。
鼻腔に届いた彼の香り。
睦の態度の変わりようにも安里は驚愕した。
それは安里が見たことのない睦の姿だったから…。

睦が積極的に物事を進めようとする性格だからなのか、安里が何の抵抗もせず彼の求愛をただ受け止めてしまったせいか、その年から二人の関係はこれまでとは全く違うものへと変わったのだ。


夏恋

なら様より「夏―心を焦がす恋―」をお借りしてきました。
無断転写はご遠慮ください。

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予想外に長くなってる…(;一_一) 2、3話の予定だったのに…。
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