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BLの丘
【観潮楼企画】 ~指先が触れた時~ 1
2010-08-06-Fri  CATEGORY: 観潮楼
今頃になって、観潮楼「夏の企画」に参加です。
どっちをみても素晴らしい作家様ばかりで…オロオロ…(大丈夫かなぁ…)



この作品は、【観潮楼】「夏―心を焦がす恋―」参加作品です。



男子高校の教員という仕事に就いて1年と数カ月が過ぎた。
生徒になめられることは多いが、うまくカバーしてくれる年配の先生のおかげでなんとかやっている。
幼い頃からずっと夏には父方の祖母の家で夏を過ごしていた。
祖父は僕が幼少のころに亡くなっていて、祖母に両親と共に住まないかと誘っても、田舎の近所づきあいのあるこの場所が良いから…と祖母はその土地を離れなかった。
両親も年に何度か泊まりで訪れることはあっても、せいぜい一泊二泊程度で去ってしまう。
共働きの両親だったから、夏休みの間、僕が家に居られても困ったのかな…と思うこともあった。
就職してからは、丸1カ月というような月日を祖母宅で過ごすことはできなかったけれど、久し振りに訪れ、彼女の具合を確かめられたのは一種の嬉しさだった。

田園風景が広がる山奥。
農業、林業、と一次産業で生産を立てているような小さな村。
久し振りの再会に地元民が公民館を貸し切ってくれた。
たとえ一時的でも心を許して遊んでくれたみんなには感謝の気持ちしかない。
年齢はバラバラでも繋がった絆は今でも心に染み込んでいた。
なんだろう。級友たちとは明らかにちがう、もっと深い、何か…。

まだ昼間の2時である。
「そんな盛大な飲み会、いらないって~ぇ」
縁側で思わず悲鳴じみた声があがってしまう。
一番親しくしていた、隣(とはいえ100メートルも先の家だが)の一つ年上の陸(りく)が、僕、安里(あさと)を呼びに来た。
彼の誘いに反応してのことだった。
「もう、みんな、はじまってるしー。あさ、連れて行かないと、俺、困る」
「いっといで」
腰も曲がった祖母が『昼間から飲んでおいで』と顎をしゃくった。
仕事柄…というわけではないが、飲酒とは無縁な生活だった。
嫌いなわけではないが、問題を起こすことの多い生徒を抱えていると、すぐに対応できないと困る、と常に頭が働いていた。
何もかもを忘れてどんちゃん騒ぎをしたのは、どれくらい昔なのだろう。
それを祖母は気付いていたのか…。

縁側から引っ張られるようにしておろされ、その先にあったサンダルを引っかける。
「ちょっとまって、おれ、こんな格好…」
着替えもせず、半袖のシャツとチノパンを来た普段着に抵抗を見せれば、「どこが?!」と返された。
「充分っ!!一番まともな格好だって。俺ら、下着とかわんねぇし」
言われてみれば、改めて見て、陸はタンクトップにハーフパンツだ。
あちこちから見える筋肉は陽に焼けていて黒く、逞しさを余計に際立たせていた。
「こんな田舎で格好なんか気にすることねェって。それよか、あさが顔を見せること、みんなまってるんだ」

一年に一度か二度しか来ない人間なのに、こうやって温かく迎えてくれることがとても嬉しかった。
年上の”兄”からは色々な遊びを教えてもらって、年下の”弟”には勉強を教えた。
安里は一人っ子だったから、夏のこの時間がとても好きだった。
格好なんてどうだっていいから、とサンダルのまま引きずられるようにして数百メートル先の公民館に連れ込まれる。
一番広い会場に、長テーブルが幾つも並べられて、座布団が敷かれ、持ち寄ったと分かる家庭の味が所狭しと並んでいた。
同年代どころか、その両親までいるような、総勢50名ほどの、まさに”宴会会場”に安里は瞠目した。
「な、なに、これ…????」
「安里、去年、来なかったじゃん。就職祝い?俺らの中でさ、『教員』なんてなれるやつ、いないし」
陸がそっと耳打ちするものの、全ての人間に聞こえていると言って良かった。
「そうだよ。あさちゃんがいなかったらうちの馬鹿息子が国立大になんか行けなかったって」
「馬鹿息子…ってうるせぇよ、オヤジッ」
クスクスと笑いが漏れる中でまだ大学生なのだと分かる浅黒い男が父親を睨んでいた。
…あぁ、こいつも大学生になれたのか…。
夏期講習を開いたわけではないが、教えたことはある。
なんだかしみじみしたものが心に生まれてくる。

「それにしてもあさちゃん、全然変わんないね~。どっちが生徒か先生か分からないだろう」
並んでいた酒屋のお父さんが「座って一杯やりなよ」と促してくる。
陸と共に長テーブルの前に座って、懐かしい話に華を咲かせた。
寄ってくる面々は懐かしいのに時間を感じさせない温かさがあった。

そして、端のほうからそっと視線だけを送ってくる男…。
人を射るような瞳を持ちながら、普段、人にそんな態度を見せることはない。
狙った獲物を追うような凶暴さはたぶん、安里しか見たことがないだろう。
年下とは思えなかった。
まだ21歳のはずだ。
浅黒く焼けた肌、鍛えられた上腕の筋肉、すらっと伸びた脚。
鼻の奥がツンとする。
夏だけの恋だった…。
捨てたのは…そう、たぶん僕…。
2年、3年とここに滞在する間だけ”恋”をした。


夏恋

なら様より「夏―心を焦がす恋―」をお借りしてきました。
無断転写はご遠慮ください。

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コメント

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心を焦がす恋
コメント甲斐 | URL | 2010-08-07-Sat 01:24 [編集]
BL観潮楼の企画に参加するのですね
待ってました!!
今までの企画参加作品がとっても好きでみんな読んでます
イラストもとても素敵で、それぞれが物語性のある作品だと思います
ならさまのこのイラストもいいですよね
シルエットのひまわりと夕暮に近づいているあかねに染まり始めた空を背景に
口づけるふたりがいいなあと思います
きえさんもいつか参加してくれたらいいのにとずっと思ってたので興奮しちゃいました

夏だけの恋なのね
多分秘めた恋?
続きが楽しみです
Re: 心を焦がす恋
コメントきえ | URL | 2010-08-07-Sat 07:55 [編集]
甲斐様
こちらにもありがとうございます。

> BL観潮楼の企画に参加するのですね
> 待ってました!!

もう、皆様の作品があまりにも素晴らしすぎてずっと足踏みしていました。
こんな素敵絵に駄文を貼りつけるようで申し訳なくて…。

> きえさんもいつか参加してくれたらいいのにとずっと思ってたので興奮しちゃいました

待っていてくれたのですね。
ありがとうございます。
どんなものに仕上がるのか…。

> 夏だけの恋なのね
> 多分秘めた恋?
> 続きが楽しみです

秘めた恋です。
村の誰も知らない、…(明かすな?!)
こ、ここで、おくちチャック。
コメントありがとうございました。
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