楽しんだ食事が終わって花巻が帰ってしまった後も、海斗は後片付けを終えて鳥羽の部屋に残っていた。
「まだ話相手になって」と鳥羽が甘えてきたからだった。
有馬がいなければ、一人の夜で、つまらないのかな、とも思う。
海斗はずっと一人暮らしだったから一人でいることに慣れてしまっているが、共同生活を送っている鳥羽にしてみれば人の気配がないのは淋しいのだろうか。
新しい缶ビールを手にしながら、少しの距離をとりつつも、二人並んでベッドに寄りかかって座っていた。
慣れたとはいえ、二人きりで部屋の中にいることに、些か緊張感を覚える。
それを誤魔化すために、少し飲み過ぎたようなところもあった。
他愛のない話を進めているうち、ふと鳥羽が確かめるように口を開いた。
「あの人とはさぁ」
鳥羽のいう『あの人』が大希のことなのだとはすぐに判断がついた。
「あの人とは別れたの?」
これまではっきりと伝えてはこなかったことだったが、振ったのか振られたのかという意味でも海斗に気を使って問われなかったことなのだと思う。
もともといい加減な付き合いだったなどとは言いたくないが、鳥羽にしてみれば『きちんと付き合っていた相手』という印象があるのだから、当然の質問だった。
「ん…」
曖昧に言葉を濁してしまったが、鳥羽は分かったように「そっかー」と呟いた。
「なんだかそんな気はしていたけど。前にスーパーで見かけた時も、海斗、あんまり乗り気っていう感じじゃなかったから、ちょっと心配してたんだ。人のことをあれこれ言うのもなんだし…。最近、吹っ切れたような雰囲気だったから改めて聞くのもどうかと思ったけど…。思い出させてごめん」
「べつに、いいよ…」
あの頃から感づいていたとは驚きだった。
鳥羽も有馬もどことなく人の行動や雰囲気を見透かしてしまうところがあるのは仕事(?)柄なんだろうか。
まるで宥めてくれるかのように、伸びてきた手が海斗の髪を撫でた。
「俺としてはうちに寄ってくれるようになってくれたわけだから嬉しい話だけどね」
「二人には迷惑、かけっぱなしだよな…」
「だから~。迷惑なんかじゃないって」
ニコニコと笑う鳥羽の笑顔が少し痛い。
そして感じる、…鳥羽の躊躇い。
海斗にはそれが何なのかはっきりとしたことは理解できなかったが、いつぞやの諍いで発した海斗の言葉から残るしこりなのだと思った。
やつあたり同然の言葉で鳥羽を傷つけたのに、いつも変わらなく接してくれる。
だけど、時々こうして憂いのような影を見せる。
海斗は俯き加減になりながら、そうさせるのは自分だと申し訳なさを募らせていた。
「俺らが勝手に心配しているだけだからって前にも言ったじゃん。海斗が気にすることないから」
髪を撫でていた手はわざとくしゃくしゃとかき回すように動く。
それは海斗を元気づける仕草だった。
「もうっ!ボサボサになっちゃうじゃん」
海斗もわざとらしく声を荒げる。
手を押し戻そうとして、酔いもあったのか、バランスを崩して鳥羽の方へと倒れ込んでしまった。
硬い胸板に受け止められてドキンとする。
ここしばらくの間、こうして肌に触れられることなどなかった。
大希と別れてから『寝る』ことはもちろんなかったし、鳥羽も過度のスキンシップは控えていたようだった。
すぐに起き上がろうとしたのに、背中に回った鳥羽の腕に一瞬力が入る。
「淋しかったら、いつでも言えよ」
静かな、囁くような声が聞こえた。
腕はすぐに離れた。
海斗は、これまで遊び歩いていた”身体”を改めて突き付けられた気分だった。
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大変お待たせいたしました。時間があいてしまって申し訳ございません。
「まだ話相手になって」と鳥羽が甘えてきたからだった。
有馬がいなければ、一人の夜で、つまらないのかな、とも思う。
海斗はずっと一人暮らしだったから一人でいることに慣れてしまっているが、共同生活を送っている鳥羽にしてみれば人の気配がないのは淋しいのだろうか。
新しい缶ビールを手にしながら、少しの距離をとりつつも、二人並んでベッドに寄りかかって座っていた。
慣れたとはいえ、二人きりで部屋の中にいることに、些か緊張感を覚える。
それを誤魔化すために、少し飲み過ぎたようなところもあった。
他愛のない話を進めているうち、ふと鳥羽が確かめるように口を開いた。
「あの人とはさぁ」
鳥羽のいう『あの人』が大希のことなのだとはすぐに判断がついた。
「あの人とは別れたの?」
これまではっきりと伝えてはこなかったことだったが、振ったのか振られたのかという意味でも海斗に気を使って問われなかったことなのだと思う。
もともといい加減な付き合いだったなどとは言いたくないが、鳥羽にしてみれば『きちんと付き合っていた相手』という印象があるのだから、当然の質問だった。
「ん…」
曖昧に言葉を濁してしまったが、鳥羽は分かったように「そっかー」と呟いた。
「なんだかそんな気はしていたけど。前にスーパーで見かけた時も、海斗、あんまり乗り気っていう感じじゃなかったから、ちょっと心配してたんだ。人のことをあれこれ言うのもなんだし…。最近、吹っ切れたような雰囲気だったから改めて聞くのもどうかと思ったけど…。思い出させてごめん」
「べつに、いいよ…」
あの頃から感づいていたとは驚きだった。
鳥羽も有馬もどことなく人の行動や雰囲気を見透かしてしまうところがあるのは仕事(?)柄なんだろうか。
まるで宥めてくれるかのように、伸びてきた手が海斗の髪を撫でた。
「俺としてはうちに寄ってくれるようになってくれたわけだから嬉しい話だけどね」
「二人には迷惑、かけっぱなしだよな…」
「だから~。迷惑なんかじゃないって」
ニコニコと笑う鳥羽の笑顔が少し痛い。
そして感じる、…鳥羽の躊躇い。
海斗にはそれが何なのかはっきりとしたことは理解できなかったが、いつぞやの諍いで発した海斗の言葉から残るしこりなのだと思った。
やつあたり同然の言葉で鳥羽を傷つけたのに、いつも変わらなく接してくれる。
だけど、時々こうして憂いのような影を見せる。
海斗は俯き加減になりながら、そうさせるのは自分だと申し訳なさを募らせていた。
「俺らが勝手に心配しているだけだからって前にも言ったじゃん。海斗が気にすることないから」
髪を撫でていた手はわざとくしゃくしゃとかき回すように動く。
それは海斗を元気づける仕草だった。
「もうっ!ボサボサになっちゃうじゃん」
海斗もわざとらしく声を荒げる。
手を押し戻そうとして、酔いもあったのか、バランスを崩して鳥羽の方へと倒れ込んでしまった。
硬い胸板に受け止められてドキンとする。
ここしばらくの間、こうして肌に触れられることなどなかった。
大希と別れてから『寝る』ことはもちろんなかったし、鳥羽も過度のスキンシップは控えていたようだった。
すぐに起き上がろうとしたのに、背中に回った鳥羽の腕に一瞬力が入る。
「淋しかったら、いつでも言えよ」
静かな、囁くような声が聞こえた。
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大変お待たせいたしました。時間があいてしまって申し訳ございません。
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親切なお隣さんのスキンシップも
違うふうに取ってしまいそうになるなんて
自分がすごーく汚いみたいに感じてしまいそう
甲斐様
こんにちは。
> 海斗くんこんな時はどうしていいかわからないって感じです
> 心も淋しいけど身体も淋しい
> 親切なお隣さんのスキンシップも
> 違うふうに取ってしまいそうになるなんて
> 自分がすごーく汚いみたいに感じてしまいそう
鳥羽との関係をちょっと悩んでいます。
心も身体も淋しい、けど、肝心の鳥羽はただ海斗をあやしてくるだけですし。
これまでもまともな『お付き合い』関係をしてきた海斗ではないですしね。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 海斗くんこんな時はどうしていいかわからないって感じです
> 心も淋しいけど身体も淋しい
> 親切なお隣さんのスキンシップも
> 違うふうに取ってしまいそうになるなんて
> 自分がすごーく汚いみたいに感じてしまいそう
鳥羽との関係をちょっと悩んでいます。
心も身体も淋しい、けど、肝心の鳥羽はただ海斗をあやしてくるだけですし。
これまでもまともな『お付き合い』関係をしてきた海斗ではないですしね。
コメントありがとうございました。
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