妙な照れを纏って思わずぎこちなくなる。
「な、何言ってんだか…。偶然出会ったって、さっきだって、な、中條さんが言っただろう?」
お近づきのしるしに、名前で呼ぼうかと提案したのは誰だったのか…。
今更ながらに恥ずかしさが増し、とても人前で彼の名を呼ぶことはできなかった。
「そうだよ、一葉ちゃん。磯部さんに今の一葉ちゃんを見せてあげようって連れて来ただけであって…。そんなふうに言われたら迷惑に感じちゃうよねぇ?」
そっと目配せをされ、頷いてくれという態度は分かったが、躊躇いのほうが大きかった。
そもそも『偶然』と先に口走ったのは自分で、その言葉に便乗して、中條は話を繋げてくれているのは分かる。
だからといって『迷惑』という言葉に頷くことはできなかった。
鈍感極まりないと思っていた朝比奈が何気に気付くのは安住という恋人ができたせいか…???
「俺としては中條さんを相手に…って言われるのは光栄だけど。むしろ中條さんに迷惑がかかることが心配」
「僕の心配はいいから~ぁ」
茶化したはずの台詞にもきちんと中條は応じてくる。
が、真相が掴めないその返事は何を意味するのだろう…と、逆に巣食うものが生まれたくらいだ。
「え?そうなの…?そうだよね…、びっくりしちゃった…」
くだけた二人の素振りは以前から…と思うのか、朝比奈の返事は、磯部に返すというよりも、馴染んだ中條に語りかける感じで、かつてとは違う親しみを込めていた。
安住だけでなく、中條とも良い関係が作れているのが一目瞭然だった。
そんな些細なことが何となく悔しい。
朝比奈の隣にいた男が、「軽食がほとんどなんですけど、ご注文があれば”がっつり系”作りますから」と柔軟なメニューを差し出してくる。
食後にはもれなく朝比奈の”食後のコーヒー”がついてくるらしい。
それ以外の用途があるのか?というくらいたどたどしい動きをしていた朝比奈だったが、他の客に「おかわり」と注文されて喜々と動く姿を眺めれば、やりがいがあることを見つけたのだな、とホッとした。
それくらい、生き生きと動いている姿に見えた。
あとは、片付けや、時折客の話し相手になったり…と、マスコット的な存在のようだが…。
「一葉ちゃん、可愛いでしょ?」
接客から放っておかれた二人には、静かな会話の時が訪れる。
ハンバーグに大葉と大根おろしがのったサッパリ系を食しながら、小声で中條との話が進んだ。
テーブル席を片す朝比奈はともかく、カウンターの中からあまり動かない男には聞こえているのか、だが何を言ってくるわけでもなかった。
そんなところも居心地の良さを伺わせる。
「意外だったな。うちでも窓口に座らせておけば少しは役にたったかも」
「磯部さん、酷過ぎ」
心底思っての台詞ではないのだろう。笑いながら中條が朝比奈の扱いを一応咎めてくる。
「うちにも『さくらちゃん』っていう子がいてね。あ、一葉ちゃんと同級生だったらしいんだけど。もう、顧客から引っ張られて大変」
「『さくらちゃん』?どこの源氏名?」
「うちの社員~ん。もうっ!今度会わせてあげるよ。『担当外したら取引やめる』とか脅されて、いっぱいいっぱいだよ、僕…。なんか、いいアドバイス、ちょうだい」
「中條さんを無下にする取引先が信じられないけどね。一番は中條さんでしょ。そんなことには巡り合ったことがないな~」
これだけの逸材をさし終えて何をいう?!
「まったくもうっ」
おだてているととるのか、しかし、笑顔には嬉しさがあったし、磯部も間違ったことは言っていないと心底思う。
顔で売っている営業と、窓口に置いておくマスコットと、どっちが酷いんだ?!と心の中で呟いた。
とはいえ、口上であって中條なりのジョークの一つなのだろう。
『枕営業』などしていないことははっきりと分かる。
そんなことは、この男は絶対に許しはしないだろう。
それとなく滲み出る雰囲気で感じ取った。
「もしかして中條さんの一番のお気に入り、とか?」
「気に入ってはいるけど、仕事上、ね。ま、彼には優秀なボディガードがいるし。そのボディガードから『営業用の携帯、GPS付きに代えてくれ』って言われたときは僕の方が驚いちゃった」
「え?部外者が?!」
さすがに仕事内容にまで口を出されては黙っていられないだろう。
どこまで踏み込んでくる気だ?と言いたくもなる。
クスリと笑った中條が「分かる気はするけどね…」と小さく呟いた。
「痴話喧嘩してはプライベート用の携帯の電源、落とされるみたいで。仕事用は絶対に切れないの、分かっているから」
「けどねぇ…」
反論しようとした磯部に、中條が「もうおなかいっぱいになっちゃった。はい、あーん」とフォークに刺したハンバーグを口元に持ってきた。
あまりにも自然な流れに思わず口を開いてしまう。
昔付き合った数々の人間とも、こんなことをしたことはなかった…。
そこに照れはあるのに、曝け出すことがぶざまなように感じる。
平然とした仕草をつき通し、嚥下するのを待つように、見つめていた中條がそっと名刺入れを出してきた。
「ねぇ、これって『まさひこ(雅彦)』さんって読んでいいんでしょ?」
さり気なく取り出されたのは、随分前に中條に渡した名刺だった。
にほんブログ村
お待ちいただいている順番もなにも関係なく…な進みで本当にすみません。
こんな進み具合でもいいよっておっしゃってくださる方。
ぽちぱちってしてくれたらありがたいです。
「な、何言ってんだか…。偶然出会ったって、さっきだって、な、中條さんが言っただろう?」
お近づきのしるしに、名前で呼ぼうかと提案したのは誰だったのか…。
今更ながらに恥ずかしさが増し、とても人前で彼の名を呼ぶことはできなかった。
「そうだよ、一葉ちゃん。磯部さんに今の一葉ちゃんを見せてあげようって連れて来ただけであって…。そんなふうに言われたら迷惑に感じちゃうよねぇ?」
そっと目配せをされ、頷いてくれという態度は分かったが、躊躇いのほうが大きかった。
そもそも『偶然』と先に口走ったのは自分で、その言葉に便乗して、中條は話を繋げてくれているのは分かる。
だからといって『迷惑』という言葉に頷くことはできなかった。
鈍感極まりないと思っていた朝比奈が何気に気付くのは安住という恋人ができたせいか…???
「俺としては中條さんを相手に…って言われるのは光栄だけど。むしろ中條さんに迷惑がかかることが心配」
「僕の心配はいいから~ぁ」
茶化したはずの台詞にもきちんと中條は応じてくる。
が、真相が掴めないその返事は何を意味するのだろう…と、逆に巣食うものが生まれたくらいだ。
「え?そうなの…?そうだよね…、びっくりしちゃった…」
くだけた二人の素振りは以前から…と思うのか、朝比奈の返事は、磯部に返すというよりも、馴染んだ中條に語りかける感じで、かつてとは違う親しみを込めていた。
安住だけでなく、中條とも良い関係が作れているのが一目瞭然だった。
そんな些細なことが何となく悔しい。
朝比奈の隣にいた男が、「軽食がほとんどなんですけど、ご注文があれば”がっつり系”作りますから」と柔軟なメニューを差し出してくる。
食後にはもれなく朝比奈の”食後のコーヒー”がついてくるらしい。
それ以外の用途があるのか?というくらいたどたどしい動きをしていた朝比奈だったが、他の客に「おかわり」と注文されて喜々と動く姿を眺めれば、やりがいがあることを見つけたのだな、とホッとした。
それくらい、生き生きと動いている姿に見えた。
あとは、片付けや、時折客の話し相手になったり…と、マスコット的な存在のようだが…。
「一葉ちゃん、可愛いでしょ?」
接客から放っておかれた二人には、静かな会話の時が訪れる。
ハンバーグに大葉と大根おろしがのったサッパリ系を食しながら、小声で中條との話が進んだ。
テーブル席を片す朝比奈はともかく、カウンターの中からあまり動かない男には聞こえているのか、だが何を言ってくるわけでもなかった。
そんなところも居心地の良さを伺わせる。
「意外だったな。うちでも窓口に座らせておけば少しは役にたったかも」
「磯部さん、酷過ぎ」
心底思っての台詞ではないのだろう。笑いながら中條が朝比奈の扱いを一応咎めてくる。
「うちにも『さくらちゃん』っていう子がいてね。あ、一葉ちゃんと同級生だったらしいんだけど。もう、顧客から引っ張られて大変」
「『さくらちゃん』?どこの源氏名?」
「うちの社員~ん。もうっ!今度会わせてあげるよ。『担当外したら取引やめる』とか脅されて、いっぱいいっぱいだよ、僕…。なんか、いいアドバイス、ちょうだい」
「中條さんを無下にする取引先が信じられないけどね。一番は中條さんでしょ。そんなことには巡り合ったことがないな~」
これだけの逸材をさし終えて何をいう?!
「まったくもうっ」
おだてているととるのか、しかし、笑顔には嬉しさがあったし、磯部も間違ったことは言っていないと心底思う。
顔で売っている営業と、窓口に置いておくマスコットと、どっちが酷いんだ?!と心の中で呟いた。
とはいえ、口上であって中條なりのジョークの一つなのだろう。
『枕営業』などしていないことははっきりと分かる。
そんなことは、この男は絶対に許しはしないだろう。
それとなく滲み出る雰囲気で感じ取った。
「もしかして中條さんの一番のお気に入り、とか?」
「気に入ってはいるけど、仕事上、ね。ま、彼には優秀なボディガードがいるし。そのボディガードから『営業用の携帯、GPS付きに代えてくれ』って言われたときは僕の方が驚いちゃった」
「え?部外者が?!」
さすがに仕事内容にまで口を出されては黙っていられないだろう。
どこまで踏み込んでくる気だ?と言いたくもなる。
クスリと笑った中條が「分かる気はするけどね…」と小さく呟いた。
「痴話喧嘩してはプライベート用の携帯の電源、落とされるみたいで。仕事用は絶対に切れないの、分かっているから」
「けどねぇ…」
反論しようとした磯部に、中條が「もうおなかいっぱいになっちゃった。はい、あーん」とフォークに刺したハンバーグを口元に持ってきた。
あまりにも自然な流れに思わず口を開いてしまう。
昔付き合った数々の人間とも、こんなことをしたことはなかった…。
そこに照れはあるのに、曝け出すことがぶざまなように感じる。
平然とした仕草をつき通し、嚥下するのを待つように、見つめていた中條がそっと名刺入れを出してきた。
「ねぇ、これって『まさひこ(雅彦)』さんって読んでいいんでしょ?」
さり気なく取り出されたのは、随分前に中條に渡した名刺だった。
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お待ちいただいている順番もなにも関係なく…な進みで本当にすみません。
こんな進み具合でもいいよっておっしゃってくださる方。
ぽちぱちってしてくれたらありがたいです。
”あの”一葉ちゃんですから
「お付き合い」がそういった付き合いという意味で言ったつもりじゃないのではと思ったのですが・・・
男同士がちょっと一緒にいたからって、、、
いつの間にやら一葉ちゃんも腐男子の仲間でしたか
っていうか、当事者でしたね ハハ
一葉ちゃんここでは、おいしいコーヒーを入れてくれるマスコットなんですね
さくらちゃんのカレ氏と上司のそれぞれのご苦労がしのばれます
「お付き合い」がそういった付き合いという意味で言ったつもりじゃないのではと思ったのですが・・・
男同士がちょっと一緒にいたからって、、、
いつの間にやら一葉ちゃんも腐男子の仲間でしたか
っていうか、当事者でしたね ハハ
一葉ちゃんここでは、おいしいコーヒーを入れてくれるマスコットなんですね
さくらちゃんのカレ氏と上司のそれぞれのご苦労がしのばれます
磯部を 優しく甚振ってますねー。 もう 磯部城も 陥落が 近いでしょ!
磯部が 「朝比奈」と言う度に 誰だっけと 考える程 「一葉」と言う名前で 脳に インプットされてますね。
その 一葉の「いつから・・・」の言葉は 二人が 漂わす雰囲気から 何かを感じ取ったから?
きえ様が 書きたくなった作品から 更新して下さ~い
(^o^)/それで 全然 OKだよ~ん...byebye☆
磯部が 「朝比奈」と言う度に 誰だっけと 考える程 「一葉」と言う名前で 脳に インプットされてますね。
その 一葉の「いつから・・・」の言葉は 二人が 漂わす雰囲気から 何かを感じ取ったから?
きえ様が 書きたくなった作品から 更新して下さ~い
(^o^)/それで 全然 OKだよ~ん...byebye☆
きえ | URL | 2010-09-08-Wed 09:02 [編集]
ら様
おはようございます…っていう時間でもないかな?
>(*´ェ`*)キャァ あ~んて(〃▽〃) 一葉の一言で刺激されちゃったのかな?名前の確認もしちゃってるし( ´艸`)ムププ
あ~んだって。
天然一葉ぶりも出してあげないと。
何気なく二人を弄る存在です。煽ってる。
子供に負けていられないんだよ、大人は…って中條も食らいついているんでしょうか。
コメントありがとうございました。
おはようございます…っていう時間でもないかな?
>(*´ェ`*)キャァ あ~んて(〃▽〃) 一葉の一言で刺激されちゃったのかな?名前の確認もしちゃってるし( ´艸`)ムププ
あ~んだって。
天然一葉ぶりも出してあげないと。
何気なく二人を弄る存在です。煽ってる。
子供に負けていられないんだよ、大人は…って中條も食らいついているんでしょうか。
コメントありがとうございました。
甲斐様
こんにちは。
> ”あの”一葉ちゃんですから
> 「お付き合い」がそういった付き合いという意味で言ったつもりじゃないのではと思ったのですが・・・
> 男同士がちょっと一緒にいたからって、、、
> いつの間にやら一葉ちゃんも腐男子の仲間でしたか
> っていうか、当事者でしたね ハハ
まわりがこんなのばっかりですしね~。
なんとなーく感づいちゃうんでしょうが、あっさり(?)否定されて、「そうだよね」と言っている子です。
> 一葉ちゃんここでは、おいしいコーヒーを入れてくれるマスコットなんですね
人気商品になってくれればいいんですけど…。
(売り物じゃないって安住に怒られそうですが…)
> さくらちゃんのカレ氏と上司のそれぞれのご苦労がしのばれます
さくらちゃん、結構気の強いところがありますからね…。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> ”あの”一葉ちゃんですから
> 「お付き合い」がそういった付き合いという意味で言ったつもりじゃないのではと思ったのですが・・・
> 男同士がちょっと一緒にいたからって、、、
> いつの間にやら一葉ちゃんも腐男子の仲間でしたか
> っていうか、当事者でしたね ハハ
まわりがこんなのばっかりですしね~。
なんとなーく感づいちゃうんでしょうが、あっさり(?)否定されて、「そうだよね」と言っている子です。
> 一葉ちゃんここでは、おいしいコーヒーを入れてくれるマスコットなんですね
人気商品になってくれればいいんですけど…。
(売り物じゃないって安住に怒られそうですが…)
> さくらちゃんのカレ氏と上司のそれぞれのご苦労がしのばれます
さくらちゃん、結構気の強いところがありますからね…。
コメントありがとうございました。
けいったん様
こんにちは~。
> 磯部を 優しく甚振ってますねー。 もう 磯部城も 陥落が 近いでしょ!
弄ってますね~、仕掛けてますね~、の中條らしい。
積極性があるところはお互いなんでしょうが、一歩先を行く。
磯部の方が喰われそうな勢いかも。(かも、じゃなくて、きっと…)
> 磯部が 「朝比奈」と言う度に 誰だっけと 考える程 「一葉」と言う名前で 脳に インプットされてますね。
> その 一葉の「いつから・・・」の言葉は 二人が 漂わす雰囲気から 何かを感じ取ったから?
私も探してきました。
所長は部下をなんと呼んでいたっけ…?と。(それでも母か?!って感じです…汗)
初めて二人が会った時から、を見ている一葉なので、二人の仲は知っていたのでしょうが、それとはまた違った『何か』があったのでしょう。
ドンクサ一葉でも気づくくらいの…。
『隣の男』は確実に気づいていると思います。
コメントありがとうございました。
こんにちは~。
> 磯部を 優しく甚振ってますねー。 もう 磯部城も 陥落が 近いでしょ!
弄ってますね~、仕掛けてますね~、の中條らしい。
積極性があるところはお互いなんでしょうが、一歩先を行く。
磯部の方が喰われそうな勢いかも。(かも、じゃなくて、きっと…)
> 磯部が 「朝比奈」と言う度に 誰だっけと 考える程 「一葉」と言う名前で 脳に インプットされてますね。
> その 一葉の「いつから・・・」の言葉は 二人が 漂わす雰囲気から 何かを感じ取ったから?
私も探してきました。
所長は部下をなんと呼んでいたっけ…?と。(それでも母か?!って感じです…汗)
初めて二人が会った時から、を見ている一葉なので、二人の仲は知っていたのでしょうが、それとはまた違った『何か』があったのでしょう。
ドンクサ一葉でも気づくくらいの…。
『隣の男』は確実に気づいていると思います。
コメントありがとうございました。
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