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BLの丘
一番近いもの 49
2010-09-21-Tue  CATEGORY: 一番近いもの
海斗を可愛がってくれた人間は何人もいた。
短い時間を過ごした父たちも、体ばかりを求めた人間も。
だけど、はっきりと言葉で聞いたのは初めてと言っていい。
それとなく『次も…』と誘われる、ささやかな睦言の一つとしてくらいにしか、耳にしたことがなかった。

「愛してる…」
短くてシンプルな言葉なのに、優しさと温かさを纏って脳髄に染み込んでくる。
ぎゅっと抱きしめてくれる力強い腕。
「気持ちの整理がつくまで待ってやるから。でも俺からは離れないで」
今目の前で知らされた奇異な環境を知った上で、これほどまで言ってもらえるとは思ったこともない。
それも影ながら思い続けた相手に…。

離れていってしまった父のことを心の片隅に置きながら、広い胸にそっと両手をあてた。
「今は泣けばいい」
二人の人間に心を揺らがせる自分を浅ましいと思いはするものの、堪えられない悲しさと嬉しさが交差する。
「……」
言葉を継げないでいる海斗の髪に、額に、瞼に、と鳥羽の唇が降りた。
「愛してる」

父の思いを無駄にしないよう、鳥羽の気持ちを素直に受け入れようと、海斗はそっと目を閉じた。
自分を守ってくれる腕は、どれも安らかだ…。


どれほど鳥羽の腕の中にいただろう。
夕食になっても戻ってこないと有馬が呼びに来て、現実に戻されたような気分だった。
鳥羽は早速「海斗と付き合うことにしたから蓮とはもう寝かせない」と告白してしまった。
有馬はなんとなく気付いていたらしい。
特に激しく驚くこともなく、「まぁ、時間の問題かなとは思っていたけど」とあっさり言われたくらいだ。
「海斗の気持ち、知ってたんなら先に言えよ」
「俺が言うことじゃないだろう」
「さっきまで修羅場踏んでたっていうのに」
「『修羅場』?!」
「い、言わなくていいっ!!」
海斗が慌てて止めには入ったが、二人の仲を考えればいずれ話されてしまう内容なのか…。
もともと、有馬に相談する気でいた海斗だったのだが…。

「まぁいいや。夕飯にしよう。海斗さんが戻ってきたから花巻さんも呼ぼうかと思ったけど、出掛けちゃっているみたい」
「そうなの?昼間少し会ったけど」
有馬と鳥羽の会話を聞きながら昼間のことを思い出した。
あの時すでに泣き顔を見せてしまって花巻にはまた心配をかけたかもしれない、と海斗は心の中で後悔した。
花巻には嫌なところばかりを見られているような気がした。

鳥羽と付き合う…とはいっても、生活が大きく変わるわけではなかった。
食事は3人で一緒に食べたし、会話がぎこちなくなることもない。
海斗と有馬が親しく話す態度に鳥羽が憮然とすることがあっても、所詮ただの世間話で逆に有馬にからかわれるだけだった。
だが精神状態はひどく安定した。
これまで悶々としていたことが嘘のようだ。
何かあれば鳥羽がすぐに気付くし、たまに添い寝もしてくれる。
鳥羽がまだ過去を気にしているからなのか、抱きしめられることはあっても、抱かれることはなかった。
唯一それが、海斗に暗い影を落としていた。

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コメント

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コメントかや | URL | 2010-09-21-Tue 11:26 [編集]
あら。何だか大団円?
抱いてくれないのは、「気持ちの整理がつくまで待ってくれてる」だけなんでしょうに。
暗がっていないで、強請ればいいような(笑)ま、それが出来れば海斗くんじゃありませんね(;^_^A

どっちも鈍そうなカプですよねー。
鳥羽くんは鳥羽くんで、いつまで待ったらいいんだろう。まだかな、まだかな、って必死に我慢していそう。(ぷぷぷ)
↑確かに 鈍そう・・・
コメントけいったん | URL | 2010-09-21-Tue 12:06 [編集]
この二人の <R>への道は 遠い気がしますねー。

淋しがり屋で 臆病者の海斗と 猪突猛進 で空回り気味の鳥羽には 今 大人の時間を 堪能してるであろう 中條と磯部を 見習って 欲しいものです。
あぁ それだと 初々しさが すっ飛んで しまいますね。

二人とも それなりに 頑張って(・人・)...健闘を祈る...byebye☆
Re: タイトルなし
コメントきえ | URL | 2010-09-21-Tue 13:03 [編集]
かや様
こんにちは。

> あら。何だか大団円?

収まるところに収まれば次の悩みが…。

> 抱いてくれないのは、「気持ちの整理がつくまで待ってくれてる」だけなんでしょうに。
> 暗がっていないで、強請ればいいような(笑)ま、それが出来れば海斗くんじゃありませんね(;^_^A

今までの相手なら海斗も奔放に過ごせたんでしょうけどね。
鳥羽相手はさすがに躊躇する羞恥心を持ったようです。

> どっちも鈍そうなカプですよねー。
> 鳥羽くんは鳥羽くんで、いつまで待ったらいいんだろう。まだかな、まだかな、って必死に我慢していそう。(ぷぷぷ)

鳥羽が一声かければ済む話のような気もしなくもありませんが…。
お互いを気遣いすぎてニブちんに…。
以前のほうが突っ走ってましたね。
コメントありがとうございました。
Re: ↑確かに 鈍そう・・・
コメントきえ | URL | 2010-09-21-Tue 13:07 [編集]
けいったん様
こんにちは。
アッチに関してはまだ壁が残ったままのようです。

> この二人の <R>への道は 遠い気がしますねー。

遠いですかね。意外と結構早い展開も考えてはいたんですけど。(端折って)

> 淋しがり屋で 臆病者の海斗と 猪突猛進 で空回り気味の鳥羽には 今 大人の時間を 堪能してるであろう 中條と磯部を 見習って 欲しいものです。
> あぁ それだと 初々しさが すっ飛んで しまいますね。

空回り鳥羽(爆)
大人の時間を堪能しているあの二人のようにサクサクっとはいかないでしょう。
海斗もいろいろなことをやっていた割に、ここにきて純情派みたくなっちゃって…。
頑張るよう伝えます。
コメントありがとうございました。
コメント甲斐 | URL | 2010-09-21-Tue 18:13 [編集]
あーやっと、まとめるべき二人がきっちりとくっついて
めでたしめでたし・・・
だけど、海斗の心配を解消してくれないとね
大切にしたい鳥羽の気持ちもわかるけど
不安に思う海斗のこともわかってあげてほしいな
Re: タイトルなし
コメントきえ | URL | 2010-09-21-Tue 18:47 [編集]
甲斐様
こんばんは。

> あーやっと、まとめるべき二人がきっちりとくっついて
> めでたしめでたし・・・

パパの協力があってこその恋愛成就なんですけど…。

> だけど、海斗の心配を解消してくれないとね
> 大切にしたい鳥羽の気持ちもわかるけど
> 不安に思う海斗のこともわかってあげてほしいな

海斗の過去は重すぎるんだと思います。
だから余計に慎重になりすぎるのか…。
ある意味、知らずに海斗の気持ちだけをしった方がうまくいったようにも感じます。
(それはそれで踏み込んでいないんでしょうが…)
コメントありがとうございました。
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