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BLの丘
真っ赤なトマト 4
2011-04-14-Thu  CATEGORY: 真っ赤なトマト
アパートの隣り合った3部屋がレストランの本社が借り上げていた物件だった。
孝朗と圭吾、もう一人の厨房社員深谷到(ふかや いたる)22歳が現在入居している。
8畳のワンルームにユニットバスが備え付けられただけの狭い場所は単身者用でこれと言った設備もない。
度重なる異動でそれほど荷物も多くなく、忙しい日々に、寝に帰るだけの場所だった。
店までも徒歩15分という好立地であり、高い家賃を払わなくて済んでいるので、それぞれに違う物件を探そうという考えは持ち合わせていなかった。
現在の店長と料理長はすでに家庭をもっている為に、寮(アパート)に入ることなく、持ち家を持っている。
遠くても片道、車や電車で1時間の通勤圏内にある店舗に必ずといっていいほど配属されるのは社の配慮なのだろう。
だから何年かして戻ってくるというケースも多々あった。
それは孝朗や圭吾も似たようなところがあって、基本的にエリアマネージャーが仕切る一定のエリアから出ることはないが、幾つもの都県を跨ぐ。

そばに住まない上司はある意味気を使わなくてよかった。
孝朗と圭吾が揃って勤務時間を終了し、並んで帰宅するとちょうど到がドアを開けて出てきた。
到もバイトからそのまま社員になってしまった人間だった。
とはいえ、高校生の時から働き、卒業と同時に就職してしまった為に孝朗と同期という皮肉な面がついて回っている。
到は高校時代から調理科という専門分野を学んでいたから、知識は豊富にあった。
専門学校を出た圭吾もそうだが、身につけた料理に関するものは、孝朗の知識では追いつかない。
それなのに到は年齢からなのか、孝朗を小馬鹿にするようなことはなかった。
料理長がけちょんけちょんに貶し、圭吾がからかいながら孝朗をたしなめるのに、到は実に温かい雰囲気で見守ってくれている。
年下なのかと分からなくなるくらい、見た目も精神もしっかりしていた。

到はジーパンにボーダー柄のシャツを着こんだラフな格好だった。店内ではユニフォームもあったし、特に通勤服が決められているわけでもない。
孝朗は意識的にスーツを着用していたが、それは客と同じ出入り口を利用するからという見た目のことと立場を考えてであり、厨房に入ってしまえば特に客と対面することのない到や圭吾は堅苦しい服装をしなかった。
「あ、おはようございます」
「おはよう。え?おまえ、今日11時からじゃねぇ?こんな早く行くの?」
厨房内のシフトを把握する圭吾が驚いたように声を上げた。圭吾の引き継ぎで料理長が入り、そのサブとして到が昼からの出勤のようだ。今日の夜にまた圭吾が出勤する。
「そうなんですけど、たぶん、料理長、仕込み全然やらないと思うんで…」
パート社員で全てまかない切れるかと言われれば本日の人の少なさから無理なのだろう。ピークタイム中に煽られるのは自分だとでも言いたげに到は苦笑いを浮かべる。
そんな料理長の性格は孝朗も圭吾も知れるところがあった。思えば圭吾もピークタイムを控えた時の出勤は早い。
時間どおりの出勤など、昨夜のように余裕が見える時くらいだ。
アルバイトのように時給制ではない現在、タダ働きも多くある。
それでも嫌がらないのは、人の良さと好きな仕事につけているから…なのだろうか。

「おうっ!俺、行った時に仕事残しとくなよ」
けしかける言葉に聞こえるが、圭吾の台詞には親しみも浮かんでくる。
残された仕事があっても、圭吾は文句もなくやり遂げてしまうと思う。手際の良さは常々仕事を共にしていた孝朗には容易に知れることだった。経験値と実力の差でもある。
部下を可愛がるところは、孝朗が見ていても清々しく格好良かった。
自分も人を指導することは多い。人の教え方などを見ては参考にさせられる。
「じゃあ、シャワー浴びたらそっち行くよ」
孝朗がこの後の行動を圭吾に告げると、圭吾も頷いた。
途中のコンビニで買ってきたビールの入った袋を預ける。
圭吾の手にはすでに厨房で作った『酒の肴』がテイクアウト用のパックに入れられて、袋の中に収まっている。
到と朝の挨拶を終えて、孝朗と圭吾が別れようとするのを訝しそうに見られる。
「え?熊谷さんっ、今から『飲み』ですか?」
生活習慣は何となく知られていた。そういった話は仕事中の世間話の一つとしていつも繰り広げられていることだ。
家事と言えるようなものは大してしていないのも、お互いの生活から感じ取れる。
それは3人とも変わらないから、パート社員などとも何かと話題に上っている。
「あぁ、まぁ、そうだけど…」
「ずるいです!!俺言っても全然受けてくれないのにっ!!!何で本庄さんときばっかっ」
あっさりと答えた言葉に納得いかないと文句に似た返事が零れた。
確かに「たまには飲みましょう」と誘われた事は何度かありながら、シフトの時間や疲れでなかなか都合が付けられなかったのは事実だ。こうまで言われると申し訳なさが募る。
孝朗は明日の昼まで休みだから少しはゆっくりできるが、圭吾は今夜の出勤が待っている。
あまり長居できるものではないが、寝酒として何かを飲むのは互いに知ったことで、だったら一緒に過ごした方が楽しい。
「タカと飲み交わそうなんて100年早い」
圭吾がいつものごとく、からかうように到を遠ざけようとする。
その台詞を聞いてあからさまに頬を膨らませた到がいた。
こんな仕草はまだ幼さを含んでいて可愛らしくも思える。
「もぅ!!今度絶対俺とも付き合ってくださいよ~」
「はいはい」
「いいから、おまえはもう行けよ」
まだ絡みたそうな到を、圭吾は足で蹴る真似をして追い払った。
ニヤニヤと笑っているのだから悪気もないのだろう。
こういった会話はほぼ常に店内でもされていて、店全体がアットホームな雰囲気になるのは人間関係を持つ場所だけに心地よく働ける。
到は「絶対ですよ」と念を押した後、むくれたまま寮を後にしていった。

もう昼を迎えるという時間だが、深夜勤務を終えた自分たちにはこれからが就寝時間だった。
圭吾の部屋のカーテンは閉じられていて、昼間なのに薄暗かった。まぁ、今から寝ようというのに太陽の光を浴びたいものでもない。
差し出された缶ビールをそのまま口に含みながら、一日の労働の終わりを感じた。
時にはこの数時間後、睡眠をとる間もなく呼び出される時がある。
あまり安心はできなかったが、今の店長は極力自分でなんとかしようとする性格が伺えたからそれほど心配もしていない。
今の店はパートもアルバイトもしっかりしているおかげで、不用意な呼び出しは特になく済んでいる。
景気の悪さもあるのだろうか。従業員の意識も高い。

圭吾が作った数々の品は胃に優しくすんなりと入っていく。ファミレスにある濃い味付けのものとは異なる。
話題はもっぱら店のことばかりが続いた。
人間関係の愚痴から多店舗の噂話まで多種多様におよぶが、共通点がそこなのでどうしても続いてしまう。
そして充実している自分も感じる。
辛いこともいっぱいあるけれど、やりがいを感じていることは確かだった。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2011-04-14-Thu 16:21 [編集]
仕事が終わった時間を...
気心が知れた仲のいい職場の同僚と お酒と美味しい食事かぁ~

ほっと 気が抜ける 寛ぐ時間ですね。ε-(´ω`●)ホゥ・・

後は 寝る・・・だけ・・・?・・・添寝|【(o-ω-)-ω-o)】| ...byebye☆
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-04-14-Thu 17:03 [編集]
けいったん様
こんにちは~。
いつもながら前置きが長くてすみません…m(__)m

> 仕事が終わった時間を...
> 気心が知れた仲のいい職場の同僚と お酒と美味しい食事かぁ~
>
> ほっと 気が抜ける 寛ぐ時間ですね。ε-(´ω`●)ホゥ・・

すぐ隣にいる同僚なんです。
気遣い、かなりしてくれてるし…。
はい、くつろぐぜ…。
寛ぐぞ…。

> 後は 寝る・・・だけ・・・?・・・添寝|【(o-ω-)-ω-o)】| ...byebye☆

寝る…うん、寝る…
添い寝?????とはなんでしょう????(←オイ)
この先をどうしましょーっっっっっ??????
コメントありがとうございました。
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