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BLの丘
真っ赤なトマト 6
2011-04-16-Sat  CATEGORY: 真っ赤なトマト
言葉の真意を語らず、すました顔で圭吾はフッと息を吐きながら笑うだけだった。
突っ込んで聞くのは大人げのないことなのだろうか。
さらりと受け流すのが良いのか、確かめた方がいいのか、こんな状況になったことのない孝朗はどうしたものかと悩む。
言われたことで改めて意識することとなってしまった。

…『好き』…。

どのようにも捉えられる言葉だった。
付き合う性格として。友情とも、同僚とも…。
それとも意識した『相手』としても…。
だが自分一人意識しているのだと思わせるのもなんだか悔しい気がした。
それらしい態度が、圭吾から見られなかったせいだ。
焦るのは自分だけ…。

結局、それ以上何も仕掛けてこない圭吾を見て、孝朗は友愛と受け止めて気にしないことに決めてしまった。
いたずらされただけで、何もなかったことにすればいい、と。
そうやってからかいあう人間など五万といるのだろう。
世間知らずな自分が悪いのだと泣き寝入りする気分でもある。
先程までの動きを見なかったことにした。
職場ではセクハラに近いことが繰り返されていた。もちろん同意の上での絡み合いだった。
女性なのに平気で尻を触られる学生もいる。
本気で嫌がられればもちろん注意するが、ほとんどが合意の上での接触になっていた。
おかしい世界だとは分かっていても、慣れてしまうとそれが普通になる。
気にするようなことではないのかもしれない。
そんな世界を垣間見ているだけに、圭吾と共に寝てしまったことも、口を荒げて問うことではないと思ってしまう。

いちいちあげたらきりがない。
スキンシップの一つと言われるようなものばかりの事例をいくつもみていた。
「何言って…。…俺、帰るよ。圭吾、まだ寝るだろ?」
邪魔した、と言わんばかりに孝朗が圭吾を跨ぐ。
そうしなければベッドから降りられなかった。
何も言わずに圭吾は孝朗の動きを見送る。
「ん…。タカ、眠れた?」
投げかけられた質問に、それはこちらの台詞だと言いたくなった。
今から休める孝朗と、働きに行かなければならない圭吾の違いがある。
さらに酔いに任せて、しっかりと睡眠をとってしまった自分がいて、心配されるのが筋違いのようだった。
「寝た…。ごめんな、圭吾、休めなかっただろ…」
「なにが?俺もちゃんと寝てるから気ぃ使うなって」
気遣ってくれているのが端々から伝って染み込んでくるようだった。
それすら自己満足の世界だからと、孝朗を楽にさせてくれる。
押し付けるわけでもなく、自然と接してくれる雰囲気。
食べるものも、安堵させてくれる空間も…。
ふと思う。
ここに溺れてしまうのが怖い。
異動ばかりを繰り返して、休める場所はなかなか手に入れにくい。
挟まれた人間関係の中で、気を許せる懐…。
近い間に離れるものだと分かるだけに、全てを委ねたくはなかった。
誰かに支えてもらえなければならない、弱い男でいたくない。『立場』というものが造り出す虚勢なのだろうが…。
だが反対に縋りたい何かがある。
圭吾は引きとめることもしなかった。そのことが酷く淋しく感じる。
横になる圭吾を置いて部屋を出る。いつもよりずっと、なんだか、その空間が離れ難かった。
いつもかまってくる姿なのに、呼び止められないことが何かを失ったように後ろ髪を引かれる。
一度知った温もり…。
何を得たいのだろう…。自問自答しながら閉めた玄関扉。

昼と夜の交互した勤務を繰り返すこと数日。
圭吾と共に夜の時間を過ごすこともなかった。
顔を合わせても昼の時間や、引き継ぎの時で、周りに人が多いせいか、話もほとんどしない。
二人きりの時とは全く態度がかわってしまう圭吾に、孝朗はこれといって疑問も不満も打ち明けなかった。
一線をおくことで、いつ離れても淋しがらない心を育てているようだった。
深夜のリーダーが存在するホールと、圭吾と到が交代で入る夜中ではすれ違いだけが続く。
たまに他店舗からヘルプという形で社員を借りることもある。
珍しく他店の料理長が自ら昼の時間を請け負ってくれた時があった。
圭吾と到、そして料理長の休みの関係上、他店舗とも連携を組むのはよくある話だった。
孝朗も、違う店に一時的に赴くことはあるから不思議とも思わない。
久々に夜中勤務だという日、出社すると他店舗の料理長、大宮が上がる為の着替えたスーツ姿で裏方をウロウロとしていた。
まだ30歳になったばかりの、恰幅の良い男だった。
優男の孝朗とは対照的なワイルドな雰囲気を全身に纏わせている。
年齢以上に貫禄を持って、培ってきたものが違うとひと目で告げるような威厳を漂わせていた。
アルバイト時代に一緒に働いたことがあったから、初対面でもない。
顔を合わせれば自然と話が始まるくらいの仲だった。
気を使ったのか、夜を任された圭吾は普段よりもずっと早い時間の出社だ。

着替えて更衣室から出てきた孝朗は早速のように大宮に捕まえられた。
厨房全体が見渡せるような場所で、大宮と孝朗の会話は周りの誰にでも聞かれる。
「熊谷~。ネクタイまがってるぞ」
「あ、すみませんっ」
意識するほど捩れていないと思っていたものに手を伸ばされて弾き飛ばすわけにもいかない。
されるがまま、直立不動の体勢を取っていたら、その手がスッと腰と尻を撫でた。
「あっ」
「あいっかわらず、痩せてんなぁ。こんなんじゃ抱き心地がわるいだろ?」
「なにっ、言って…っ(////)」
こんな会話も日常茶飯事だった。
仕事中に堂々とセックスの内容を話す学生すらいる。
経験がない孝朗はいつも顔を赤らめながら、口を閉ざすよう注意する存在でしかない。
振り返り逃げ腰になる細腰を捕まえられ背後から抱きすくめられた。
厨房内の誰もが見ている目の前でだ。
「でも、おまえは締まり、良さそうだよな」
「大宮さんっっ!!!!!」
逃げようともがく孝朗を、誰もがなれたように笑いながら見守っている。
それがこのチェーン店内で”常識”のことだった。おかしいと思わないところが普通じゃない。
ただ一人、圭吾だけが睨みつけるように孝朗を見据えていた。もちろん、誰ひとりとしてそんな圭吾の態度に気付くものはいなかったが…。
大宮の手が離れ、真っ赤になりながら帰っていく後姿を見送る。
恥ずかしいことをされても、この店に来てもらったことの感謝はあった。

「熊谷さん、大宮さんにいたずらされてましたね」
パントリー内に出ると大学生のアルバイトの男がニヤニヤと笑いかけてきた。
「うるさいよっ」
大人げなく口を膨らませてしまう。されたことの恥ずかしさは本人が一番良く知っていた。
それを気にとめない社風はやっぱりどこかおかしい。似たものが集まるとはこういうことを言うのか…。
そんな会話から逃げるように、補充品を求めて保存室へと向かった。
盗品などされないようにと開放された倉庫のようなところだ。
厨房が使うものも多く、厨房の裏手、すぐ脇に作られた空間だった。
孝朗が保存室に足を踏み入れると、後を追ったように圭吾が入ってきた。
何か欲しいものがあったのだろう…。そう思った孝朗に近付かれる。
「何、触らせてんだよっ?!」
低い声が耳元を掠めた。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2011-04-16-Sat 11:34 [編集]
初心な孝朗に ちょっとした 悪戯ですか!
大宮さん、からかってますね(笑) 
もうパワハラじゃぁないですか(ii▽ii)

セクハラが蔓延の職場って 聞いたことがないわっ
そんな職場で 孝朗は、よく 汚染されずに 育ってくれたね~
(*・・*)ヾ(・ω・ )イイコイイコ...byebye☆
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-04-16-Sat 22:42 [編集]
けいったん様
こんばんはー。

> 初心な孝朗に ちょっとした 悪戯ですか!
> 大宮さん、からかってますね(笑) 
> もうパワハラじゃぁないですか(ii▽ii)

完全にセクハラです。パワハラともいいますねー。
こんなのが許される世界…(←どうなんだ、おいこらっ)
いえ、あってはいけない世界です、きっと。

> セクハラが蔓延の職場って 聞いたことがないわっ
> そんな職場で 孝朗は、よく 汚染されずに 育ってくれたね~
> (*・・*)ヾ(・ω・ )イイコイイコ...byebye☆

聞いたことないwwww
ありました、これ…。(リアル内緒で…)
孝朗、よく無事だった~っ。
汚染されなかった孝朗、この先汚染されそうな…(え?Σ( ̄□ ̄;))
コメントありがとうございました。
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