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BLの丘
真っ赤なトマト 11
2011-04-21-Thu  CATEGORY: 真っ赤なトマト
ファミレスのような後ろ盾がない個人経営の店に、将来に対する危機感は常に併せ持つ。
いや、どんな企業でも『確実』なものなどないのかもしれないが…。
だがそこに夢と希望、憧れを見出す圭吾の話に、孝朗を始め、他の3人も引き寄せられていた。
すでに何年も経営し続けられている実力があるから圭吾が決めた話なのだとも孝朗は聞かされ知っていた。
かつての恩師が築いた価値ある場所に自分が踏み込んでいけることと、そのような場所に真っ先に声をかけてもらえた喜び。
経営者でもある越谷伸治(こしがや のぶはる)はすでに50代になる。圭吾の紹介で孝朗も当然のように何度も話をすることがあった。
さすがに元教師というだけに、コックコートも頭にかぶる帽子もしっかりとしていて、身なりを崩すこともなく、見た目だけでも威圧感を漂わせる人だった。
人を見極める能力を持つ鋭い視線と、見守る優しさを惜しげもなく晒す。
越谷だってやたらな人間を採用などしない。
これまで培ってきた知識や人間としての態度、接客に対する思いこみなどは、越谷に嫌われることはなかった。
全てが自分の将来につながる場所だからこそ、店を存続させようと意識が高まる。

労働の後の酔いはあっという間に訪れてくれる。
ただでさえ、今日が勤務の最後ということで、孝朗は神経を張り詰めていた。
皆への挨拶はもちろん、やり残したことがないかと、勤務時間中店長と共に事務所に籠ってもいた。
上司という存在を常に前に置いた状態は、それだけで気を使うものだった。
圭吾の部屋は落ち着く。圭吾がいるから落ち着くのか…。
酒が入って部屋ではみんなの話は尽きることはない。あちらこちらに話題が飛んでいくなかで眠気を覚える。
頑張って誤魔化していたつもりだったが、かくんっと首が揺れた時、すかさず圭吾の手が孝朗の体を捕らえた。
「タカ?」
「ごめん、ちょっと、眠くなっちゃった…。みんなが来てくれて飲み過ぎちゃったみたい…」
言い訳のようにポツリポツリと呟かれる台詞に、所沢と鳩ケ谷がそれとなく目配せをさせたが、さすがに名残惜しいものがある。
あがってきた時間が遅かったのだから当然かもしれない。
「えー?熊谷さん、もうぅぅぅ???」
到の言葉の意味も分かりはした。
それでも意識が飛びそうになる眠気には勝てず、支えてくれる圭吾の腕に沈んでいく。
「ちょっとだけ横になる…」
まだ帰らないでいるから…と伝えるようでもあった。
こんなことを言う孝朗の姿が意外なものに映った。当然隣の部屋に帰るのだと圭吾以外の誰もが思った。
人前で寝顔を見せるようなことをする孝朗ではなかった。
皆に気をまわしてさりげなく姿を消してしまうのが常だった行動ばかり。
まさかこの場で…とは予想外の出来事だ。
それだけ疲労が溜まっていたのだとも思えることではあったが…。
「タカ、ベッド使っていいよ」
「ん…」
しかし孝朗は圭吾に支えられる肌の温かさに起き上がれなくなっている。
甘えることを知ってから、すっかり居心地の良さを覚えて、本能のままに縋るようになってしまった。

圭吾が殊更孝朗に対してちょっかいを出すのも甘えるのも周知の事実だ。
だが、孝朗が…というのは聞いたことがない。
驚きに声をあげられなくなる他の3人が、微妙な空気の流れに気付いた。
変化を見極められるほど孝朗と圭吾と近かった連中だ。
「…って、えと…」
到が戸惑いがちに声を上げる。
共に退職し、この先協力し合わなければならない存在なだけに、信頼関係が強まっているのだとは理解できる。
いつの間にこんなにも孝朗が気を許せる人間に変化していたのかと、店では感じ取れなかった。
孝朗は圭吾の胡坐をかいた膝の上に頭を乗せてすでに目を閉じていた。
すぐ後ろにあるベッドから掛け布団を引きずり降ろした圭吾が甲斐甲斐しくも孝朗の体にかぶせている。
寝顔を見せたくないという深層心理は当然隠されたまま。
鳩ケ谷がなんの躊躇いもなく言いたいことを口に乗せる。
「びっくり…。熊谷さんでもこんなふうになるんだ…」
どこでも神経質になる孝朗の姿を誰もが見てきていた。
「この1カ月でだいぶ変わったよ。ずっと『副店長』っていう立場に縛られていたから。俺と同じ年でこんな役職になってるんだもんな…。いろいろと張り詰めていたもの、あったみたい」
「もしかして本庄さんが熊谷さんを引き抜いた理由って別の意味もあるんですか?」
所沢が遠まわしに真実を知りたがった。
若い二人が知るよりはるかに詳しく多方面への知識をもっている所沢だった。
「何が?」と首を傾げる到と鳩ケ谷に、圭吾は曖昧に笑いかけるだけだ。
恋愛感情まで明かしたいとはきっと孝朗は思っていない。
本人の許可もなく打ち明けるのは良しとしないだろう。
「タカなりの努力をもっと別の方面で活かしてやりたかっただけ。こいつ、休める時間、ほとんどなかったし…」
規則正しい生活になれば心を休められるときも増えると思う。
そう言いたげに圭吾は所沢の質問には答えなかった。
体に鞭を打つような労働は、時間が決められたアルバイトとは違っている。

結局孝朗は朝まで眠り続け、他の4人は尽きない話を朝までしていた。

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No title
コメントらぅら | URL | 2011-04-22-Fri 00:39 [編集]
あらら・・・孝朗ってば寝ちゃったのね(笑)
せっかくみんなと最後の宴なのにね(~▽~;) アハッ

いままでの緊張感からやっと解放されて、横には圭吾もいたから安心しちゃったのかな( ´艸`)ムププ
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-04-22-Fri 11:13 [編集]
らぅら様
こんにちはー。

> あらら・・・孝朗ってば寝ちゃったのね(笑)
> せっかくみんなと最後の宴なのにね(~▽~;) アハッ
>
> いままでの緊張感からやっと解放されて、横には圭吾もいたから安心しちゃったのかな( ´艸`)ムププ

そうです。色々なことから解放されました~。
みんなももっと語りたかったでしょうが、そこは圭吾に任せて!!!
頼りになるな~圭吾(爆)
コメントありがとうございました。
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