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BLの丘
真っ赤なトマト 10
2011-04-20-Wed  CATEGORY: 真っ赤なトマト
二人が再び夜の時間に一緒になる日、かなり早い時間に出社して、ほぼ同時に退職願を出した。当然、誰からも不審な目を向けられた。
近くの店舗にいたというエリアマネージャーは店長から連絡をもらうなりすっ飛んできて、店長も料理長も帰れなくなっている。
そのことは申し訳なかったが、話をするのは二人一緒のほうがスムーズだった。何より、店の主である人物と引き継ぎのできる時。
客席の一席を占領して5人で繰り広げられる会話に、誰もが興味津々だったが、雰囲気から近付けないでいた。
圭吾は二人の想いはともかく、一緒に働くことを隠さずに伝えた。すでに仕事の話があったことも。
過酷な労働時間や自分が希望する創作料理の世界に異論を唱える者もいない。
そうやって何人もの人間の出入りを見てきた人間たちばかりだ。
孝朗も異動と深夜勤務の多さを口実としてあげて、圭吾の話に乗った、ということになった。

店長、料理長、エリアマネージャーを送り出し、アルバイトなどから質問攻めにあう。
それらを適当にかわしながら、それぞれの仕事に入った。
他店舗に話が伝わるのはあっという間で、1時間もしないうちに店の電話や自分の携帯電話が鳴りまくった。
こういう話は連絡網でもあるのかというくらいに、親しい社員同士でそれぞれにやりあってしまう。
突然入ってきた退社の話題に食らいついてくる人間は、人との繋がりが多い世界だけに膨大だ。
結局一晩中誰かの話相手になってしまったような一夜だった。

こうしてまたどこかの社員の異動が繰り返されていく。

「やっと熊谷さんと飲めると思ったら、これが最後ってなんですかーっっっ」
圭吾の部屋に孝朗と到が入り込んだ。
個人的な『飲み』の会はそれぞれに良く行われているが、アルバイトたちを連れて寮に来ることは滅多にない。
勤務時間もあるからみんなが揃うこともなくて、必ずといっていいほど誰かが参加できなかった。
今日、圭吾の部屋に来たのは、ごく親しい人間しか呼ばなかったからだった。
孝朗と圭吾が揃って最後の労働を済ませたあとの夜。
他の店からヘルプを借りたことで厨房は圭吾と到の深夜勤務ではなかった。
このあと、勤務を終えたホールの契約社員である所沢と、厨房でアルバイトをする大学生の鳩ケ谷が合流する。
圭吾の部屋ではいつもの席、といった感じで、四角いテーブルを囲んで、孝朗の斜め前に圭吾が座り、正面に到がいた。
すでに買いそろえた品々が所狭しとテーブルの上を飾っている。
ブーブーと頬を膨らませる到を、圭吾が笑いながらなだめる。
「いーじゃん。一回も飲めなかったより~」
「本庄さんばっかり~」
「深谷くんには悪いことしちゃったね」
今更ながら、少しの罪悪感が生まれた。隣り合って住んでいるのだから、少しくらい話に付き合ってやるべきだったとも思う。
「俺、ずーっと待ってたのに~」
「だから100年はぇーって言っただろ」
さすがに厨房でアレコレと会話を続けてきた二人の会話のテンポは良い。
目の前で繰り広げられる雑談を微笑ましげに聞いていると、玄関チャイムが鳴る。
「おっ、来たな―」
圭吾が出迎えに席を立った。同じ時間に上がった二人が元気な声を上げながら入ってくる。
孝朗の一つ年下の所沢は、孝朗と似たような華奢なタイプだった。少し控え目なのだが、人懐っこい笑顔が客にも好評だ。
一方の鳩ケ谷は非常に明るく活発な性格をしている。厨房内でもちょこまかと良く動くために圭吾にこき使われていた(可愛がられていた)。
狭い部屋は、入ればすぐに全体が見渡せる。
一番奥に置かれたベッドを前に座った孝朗を目にするなり、鳩ケ谷が目を輝かせた。
「熊谷さんの私服姿、初めて見た―っ」
いつも制服かスーツ姿でいるからなのか、すっかり寛いだ綿のシャツ一枚だけの格好が珍しく見えるらしい。
改めて言われると、それだけのことがなんだか気恥ずかしく思えた。
こうして『壁』を作り続けていたのだということも知らされる。
圭吾が言っていた『他人の前で気を遣いすぎる』ことだったのか…。
所沢が手にしていたコンビニの袋を圭吾に手渡している。
「差し入れです。最後にご一緒できて良かったです」
「今度はうちの店で会おうぜ」
今生の別れではないと圭吾が笑顔を向ける。
圭吾は自分で使っていたグラス類を孝朗の横へと寄せた。対面になるように二人を促す。
「おまえたち、ここ、座れよ」
「俺たちが並んで座りますよ」
鳩ケ谷が狭い位置に追いやるようだと圭吾の申し出を断ってくる。
「いいから。こっち、上座だし~」
適当な理由を並べ立てて、孝朗の隣に座りたがった心が見えて、なんだかそれが嬉しかった。
こんなふうに誰かに身を寄せられる安心感を感じる。

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なんだかアヤシイ夜が…。

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コメント

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No title
コメントmiki | URL | 2011-04-20-Wed 14:38 [編集]
なんだか楽しそうですね~。ただ、このまま楽しいまま終わるのでしょうか?それとも何かハプニングがヽ(^。^)ノ
No title
コメントらぅら | URL | 2011-04-20-Wed 23:16 [編集]
いっぱい出てきた(笑)
楽しそうでいいけど、アヤシイ夜になるの?Σヽ(゚Д゚○)ノ

なんだかんだで圭吾は孝朗のお隣がいいらしぃ。。。( ´艸`)ムププ
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-04-21-Thu 08:43 [編集]
miki様
おはようございます。

> なんだか楽しそうですね~。ただ、このまま楽しいまま終わるのでしょうか?それとも何かハプニングがヽ(^。^)ノ

これといってハプニングなどもないんですけど…。
楽しい仲間に囲まれて働いていましたよーということで…(汗)
お見送りもないんじゃ可哀想かな、と思って書いてみました。
コメントありがとうございました。
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-04-21-Thu 08:45 [編集]
らぅら様
おはようございます。

> いっぱい出てきた(笑)
> 楽しそうでいいけど、アヤシイ夜になるの?Σヽ(゚Д゚○)ノ

いっぱい出てきた(゚∀゚)
でもあまり絡まない人物に名前は付けていません(笑)
アヤシイ…怪しくないかも…(汗)

> なんだかんだで圭吾は孝朗のお隣がいいらしぃ。。。( ´艸`)ムププ

そうなんですー。口実作ってます―。
可愛い行動をとる圭吾~。
コメントありがとうございました。
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