月日があっという間に過ぎて行く。
忙しく店内を走り回り、新しく入ったアルバイトの指導なども任されて、日々は同じことの繰り返し…でありながら、接客という、人との交流の中に毎日の違いを感じる。
従業員との会話も、起こる出来事も同じ日はない。
ある日、2人連れの男性客がやってきた。
30代になったばかりかといういでたちで、二人とも硬質なイメージがあった。
同じくらいの長身と、歩き方や対応の仕方も非常に丁寧で、二人は同僚かな、と思われた。
シャツにパンツを合わせただけの軽装だったが、人を見定めるような視線を感じる。
色々な客がくるし、『客』に見られることはしょっちゅうありはするが、あからさまに追いかけられるようなことは滅多にない。
「店長、あの方達、本部の人、とかじゃないですよね~?」
たまに抜き打ちで店舗見学をされることがある。そうともなれば店長も気を抜いていられるはずがなく、神経を尖らせた。
パントリーの中でぼそっと春日が呟くと、瞬時に客席に視線を走らせる。
さすがに全ての人間を把握しているわけでもない店長だったが、彼らを視界に入れて首を傾げた。
「いや、違うだろう。見に来るのであれば、もう少し年齢層の高い人間だよ」
「そうですか…」
店長が否定をすれば、春日もホッと肩の力が抜けた。
見られている、と感じるのは勝手な思い込みかな、と春日は気にかけないようにしようとした。
だが、どうしても彼らの動きに目がいってしまった。
飲み物を取る為に立ち上がる所作や、ドリンクバーで他の客に対しても気を使う態度。何もかもがスムーズで紳士なのだ。
見た目の年齢でこれほどの立ち振舞いができる人を春日は見たことがなかった。
そして気付くと、一人の男と必ずと言っていいくらいに視線があってしまう。
つまり、『見られている』のだ。
…うぅぅ、やりづらい…。
「所沢君、休憩入って~」
店長からかけられた声が、神の救いの声に聞こえた。
げんなりとしながら休憩室に行くと、深谷がちょうどいた。
「あれ、どうしたんっスか? なんか、疲れてません?」
「うーん。なんだかお客さんに監視されているような気がして…。気のせいなんだろうけど…」
「えー。見初められちゃったとか?」
「ばか言ってないでよ。というより、ここに通ってくれているお客さんじゃないし」
にこにこと笑った深谷を咎める。
よく見かける顔ならすぐに分かる。客とも世間話のような会話もする。話しかけられれば答えるが、あの二人はそういったこともしてこない。
深谷は興味を持ったように立ち上がった。
「どこの客ですか?見てきます」
「おーい、こらこら」
止めはするものの、テーブルナンバーを聞きだした深谷は早速パントリーへと出て行った。
わざとらしくドリンクバーにまで出て行ったのか、両手にソフトドリンクのグラスまで抱えて戻ってきた。
「なんか、大人っぽい人ですね~」
「本部の人かな、と思ったけど、店長、違うって言うし」
「うん、もっと『オヤジ』が来ますよ」
同じことを返されて、ならばこうして与えられる緊張感はなんなのだろう、と春日は首をひねった。
できることなら、この休憩中に帰っててくれれば、と期待する。
しかし、その期待は見事に打ち砕かれた。
仕事に戻って客席を動いていた時に、近くを通りかかった際、ふと呼び止められた。
「所沢君」
名前を呼ばれるとは、明らかに『知った』人間である。
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春日、つかまった~ヽ(゚∀゚)ノ
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忙しく店内を走り回り、新しく入ったアルバイトの指導なども任されて、日々は同じことの繰り返し…でありながら、接客という、人との交流の中に毎日の違いを感じる。
従業員との会話も、起こる出来事も同じ日はない。
ある日、2人連れの男性客がやってきた。
30代になったばかりかといういでたちで、二人とも硬質なイメージがあった。
同じくらいの長身と、歩き方や対応の仕方も非常に丁寧で、二人は同僚かな、と思われた。
シャツにパンツを合わせただけの軽装だったが、人を見定めるような視線を感じる。
色々な客がくるし、『客』に見られることはしょっちゅうありはするが、あからさまに追いかけられるようなことは滅多にない。
「店長、あの方達、本部の人、とかじゃないですよね~?」
たまに抜き打ちで店舗見学をされることがある。そうともなれば店長も気を抜いていられるはずがなく、神経を尖らせた。
パントリーの中でぼそっと春日が呟くと、瞬時に客席に視線を走らせる。
さすがに全ての人間を把握しているわけでもない店長だったが、彼らを視界に入れて首を傾げた。
「いや、違うだろう。見に来るのであれば、もう少し年齢層の高い人間だよ」
「そうですか…」
店長が否定をすれば、春日もホッと肩の力が抜けた。
見られている、と感じるのは勝手な思い込みかな、と春日は気にかけないようにしようとした。
だが、どうしても彼らの動きに目がいってしまった。
飲み物を取る為に立ち上がる所作や、ドリンクバーで他の客に対しても気を使う態度。何もかもがスムーズで紳士なのだ。
見た目の年齢でこれほどの立ち振舞いができる人を春日は見たことがなかった。
そして気付くと、一人の男と必ずと言っていいくらいに視線があってしまう。
つまり、『見られている』のだ。
…うぅぅ、やりづらい…。
「所沢君、休憩入って~」
店長からかけられた声が、神の救いの声に聞こえた。
げんなりとしながら休憩室に行くと、深谷がちょうどいた。
「あれ、どうしたんっスか? なんか、疲れてません?」
「うーん。なんだかお客さんに監視されているような気がして…。気のせいなんだろうけど…」
「えー。見初められちゃったとか?」
「ばか言ってないでよ。というより、ここに通ってくれているお客さんじゃないし」
にこにこと笑った深谷を咎める。
よく見かける顔ならすぐに分かる。客とも世間話のような会話もする。話しかけられれば答えるが、あの二人はそういったこともしてこない。
深谷は興味を持ったように立ち上がった。
「どこの客ですか?見てきます」
「おーい、こらこら」
止めはするものの、テーブルナンバーを聞きだした深谷は早速パントリーへと出て行った。
わざとらしくドリンクバーにまで出て行ったのか、両手にソフトドリンクのグラスまで抱えて戻ってきた。
「なんか、大人っぽい人ですね~」
「本部の人かな、と思ったけど、店長、違うって言うし」
「うん、もっと『オヤジ』が来ますよ」
同じことを返されて、ならばこうして与えられる緊張感はなんなのだろう、と春日は首をひねった。
できることなら、この休憩中に帰っててくれれば、と期待する。
しかし、その期待は見事に打ち砕かれた。
仕事に戻って客席を動いていた時に、近くを通りかかった際、ふと呼び止められた。
「所沢君」
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