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BLの丘
チョキチョキ 8
2011-06-08-Wed  CATEGORY: チョキチョキ
次の春日の休みの日に羽生がこちらに来てくれることになった。
本来であれば、羽生にとって勤務日であるはずなのに、春日の為に赴いてくれることに些かの抵抗が生まれる。
少人数で回している店にとって、一人でも抜けるのが痛手になるのだとは、同じ職種にいる以上、まわりへの迷惑が良く知れた。
昼過ぎの休憩時間があるのだから、その時にこちらから伺う、と話をしても、羽生は譲らなかった。
『そんな短時間で話せる内容ではない』…と。
更に、熊谷と本庄が入る前は、ホールもキッチンも共に1人少ない状態で営業していたのだから問題ない、と言われては断る言葉も浮かばない。
今では元『副店長』という過去を活かした熊谷が、充分なほど羽生の代わりを務められるほどになっているそうだ。
当時の働き方を知るだけに納得もできる。

春日が勤めるファミレスから少し離れた場所にある、他社のレストランで待ち合わせをしたのは、昼のピークタイムを迎える前の時間だった。
話は実に明瞭に告げられた。隠し事を一切しない羽生に、人の良さを感じる。対人面での触れてくる温かさもあった。
羽生の店では、すでに退社を予定しているホールのスタッフがいるのだという。だが、そのことはまだ誰にも話されていない。熊谷が状況を把握できなかったのも理解できることだった。
突然春日から入った連絡に驚いたのは熊谷の方だったのだろう。
羽生も春日と熊谷の繋がりを知っていたから、自分の目で確かめるまでは全てを伏せていた、と説明された。
羽生の登場を知れば、あたりまえのように熊谷に連絡を入れる行動をすでに見破られている。
自分の目に狂いがあれば、何の声も掛けずに、ただの客として立ち去っていた…と。

先日、深谷と鳩ケ谷を伴ってレストランを訪れた時に見せた春日の、店内を伺う視線の走らせ方を羽生は忘れていなかった。
3人がどのような立場にあるのかは、その時に熊谷たちに聞いたらしい。
アルバイトと変わらないような『契約社員』という、不安定な位置付で働いていることは過去の話から、羽生は承知していた。
その立場を変えてやりたい思いもあったようだ。
客として訪れていた時に、じっくりと観察されていたのは、実際の普段の動きを見極められていたことになる。
今更そんなことを告げられては、どんな失態をしたのかと不安になりはしたが、予想以上に羽生の評価は良かったらしい。
そして今に至る…というわけだった。

これが自分にとって転機になる話なのか…と春日は束の間悩んだ。
元々、気軽に始められるアルバイトとして入っただけであり、熊谷のように心底接客が好き、というわけでもない。
色々と教えられて、抵抗はないものの、接客業を『本業』にできる自信がなかった。
それに以前、人間関係の揉め事で正社員としての立場を追われた経歴があり、ましてや少人数で営業するレストラン内で何かあれば必然的に出て行く形になる。
今まで褒め称えてくれた熊谷の信用をなくすようでもあるし、声をかけてくれた羽生に迷惑をかけることにならないだろうか…。
もし上手くいかなかった際に、今のファミレスに戻れる可能性はありはするものの、人間が多く流動する店でこれまでと同じ地位を与えてもらえる保証もない。
だからといって、四捨五入したら30歳になるという今の歳になり、このままの生活でいいはずもないとは常々思っていた。
いつまでも続けられる生活ではないと、春日自身が一番強く感じていて、そこに来たのが、今回のこの話だった。

「急いで決断を出してくれと言っているわけじゃない。君があえて他店に飛び込みたくないというのであればその意思を尊重するし、無理強いはしないよ。だけど、君の動きと配慮をファミレスなんか…なんて言ったら失礼だな…、うちのような店で発揮してくれたらいいな、と思っているんだ」
誘い文句は非常にありがたい。しかも自分などに価値を見出してくれたことも嬉しいことこの上ない。
ファミレスのように異動が付きまとう場所で正社員にはなりたくないし、似た職種でも正社員として雇ってくれるところは少ないとも思う。
特に何がやりたいと、希望があるわけではない春日にとって、目標を与えられたらそちらに転がっていけた。
「突然のことで戸惑っているのは分かる。このことについては帰ってから孝朗君にも話をするよ。たぶん俺よりも彼らのほうが相談しやすい相手だろう?今のところ、彼らには店の状況を何一つ伝えてはいないから、一人のスタッフが辞めると話しただけでも相当驚かれるだろうけれど」
羽生は肩を竦めるようにして少しの笑みを浮かべた。
その人物の後に入れたい人間として春日の名前が上がっていることを知れば、熊谷とこれまでに培ってきた絆と働きぶりを熟知する熊谷が春日に対してどう思うのか、更なる不安が宿る。
熊谷は羽生以上に春日を知り過ぎている。
もしも熊谷が春日を必要としていなかったら、羽生との間で板挟みになる可能性が高い。
春日には熊谷ともう一度共に働きたいという願望はあったが…、熊谷もそう思ってくれているかどうかは怪しい。
熊谷の気遣いの良さは、今まで知りあってきた社員とは全く異なった。だから熊谷に寄せる信頼は高いし、『退社する』と聞いた時のショックは一際大きかった。
その熊谷に嫌われているとは到底思えなかったが、自分のテリトリーとなった場所に飛び込んで来られることをどう感じるかは疑問だ。
事実、熊谷は、傍目に分かるほど、見事な人格の変貌を遂げていた。

羽生にさりげなく春日の思いを探られると、先日の慣れ合いから見て、熊谷に嫌悪する気持ちはないと断言される。人を見定める目を持つ羽生に言われれば、もちろん、それは嬉しいことだった。
雑談を交えながら、食事をし、店のコンセプトや待遇などを堅苦しくならない程度に話される。
共感するものはもちろん多く、熊谷と本庄が惹かれていった理由を改めて感じた。
かなり長い時間をその店で過ごした。
会計を「経費で落とせるから」と羽生が全てを支払い、店の外に出た別れ際に、ふと呟かれる。
「今日、ここで所沢君がどれほど店員の動きを気にしていたか自分で気付いた?」
「え?」
何のことかと首を傾げた春日に、微笑んだ羽生が面接(というのだろうか…)中、逐一、春日の視線を追っていたことを明かす。
店内を動く店員の動きは確かに目に付いたし気になった。些細な仕草一つ、悪い見本と良い見本として見極めていた。
羽生が自分の店で話をしたがらなかったのは、こういった視線を投げかける春日を見たかったからなのか…と気付かされる。どこまでもチェックされていたのだ。
「他人の動きを気に掛けられる、そういった人物を、うちは欲しいんだよ」
羽生が口にした言葉は、完全な褒め言葉だった。

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ぽちっとしていただけると嬉しいです。
『チョキチョキ』の意味、どちら様かおわかりでしょうか…。ファミレス、人員流出です。

粗大ゴミが3日間もゴミ置き場(出張)に行ってくれるんだって~ヽ(゚∀゚)ノ 早く出ていかないかな~ ←と朝書いてる。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-06-08-Wed 23:58 [編集]
『チョキチョキ』の意味?
何でしょう
みんなわかっちゃてます?
え?
分からないのって私だけかな。。。
ん~ちょっと待って、言っちゃだめよ・・・考えます
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-06-09-Thu 09:00 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 『チョキチョキ』の意味?
> 何でしょう
> みんなわかっちゃてます?
> え?
> 分からないのって私だけかな。。。
> ん~ちょっと待って、言っちゃだめよ・・・考えます

いつも回りくどい書き方をするから分からないですかね~。
『チョキチョキ』…。さて。
考えてくれるのですか~。さすがです。
ようやく、このあたりで意味を出したんですけど…。(タイトル適当に付けてるから…)
はい、お口チャックして回答を待ってますヽ(゚∀゚)ノ
コメントありがとうございました。
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