2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
同行 1
2013-11-12-Tue  CATEGORY: 晴れ時々
アンケートを完全に無視したものですみません。
だって、思いついちゃったんだもん…。




 日野尚治(ひの しょうじ)は自分が働くバーで、恋人である神戸長流(かんべ たける)の予定を聞く。この店自体が長流の所有物で、雇われオーナーという形の尚治は、これといって逆らうことなど出来ないのだが。自分勝手な経営状態には、多少なりとも文句が出る。
 そこは"恋人"としての立場があるからだろう。6歳年上だが、怯むこともない。同等な立ち位置を望んだのは、他ではない長流の希望だった。
「撮影があるんだったら、行けばいいじゃん。何で店を閉めなきゃなんないの?」
 疑問は素直に口にされる。
 企業広告を請け負う長流が、様々な場所に撮影に出かけることなど、今に始まったことではない。自分で会社を持つから、スタッフを連れてアチコチに飛び回っているのもいつものことだ。日帰りや宿泊を伴うもの、様々だが、尚治は仕事と思って口を挟むことはしてこなかった。
 自分が自由にやらせてもらっていることもあるだろう。
 それが今年の年末は違った。
「一緒に来て」と言われては戸惑う。
 五日間だ。実質、店は一週間の閉店といっていい。
 そのことを尚治は戸惑った。
 雇っている人間のこともある。第一、自分が長流の現場に付いていって、何ができるというのだろう。
 彼の仕事を邪魔をする気はないし、明らかに自分が時間を持て余すことも想像できた。
 カリブ海を前にして、何をしていろと言うのか…。

 雇っている人間(一葉)の保護者(安住)は、あっさりと、「閉めてくれていいよ」と給料なんて気にしていない返事をくれる。もともと、働かせる気なんてないといった具合だ。
 そこはすでに知っていたことだが…(何せ、セレブの暇つぶしの場でしかない)。

「長流ぅ。仕事だろ? スタッフと一緒に行けばいいじゃん…」
「べつにショウ一人連れていくのなんて雑作もないんだけど。それとも何? 僕がいない間に何かしたいとかあるの?」
 そんな疑いの声もかけていただきたくないが…。独身貴族を、鬼の居ぬ間に楽しもうなんていう気はこれっぽっちも思うところはない。
 なかなか、二人での旅行もないから、"ついで"という気もあるのだろう。
 疑われるのは本意ではないし、ここは大人しく従うべきなのだろうが、長流の仕事関係の人間に関わるのも、正直、抵抗が生まれるところだ。
 なにより、自分がどういうふうに見られるのか…。
「ショウが同行が嫌だって言うのなら、後から来ればいいよ。僕、休暇っていう形で現地で待っているから。今年の冬の旅行、みんなとは別行動になっちゃうけどね」
「俺、一人で飛行機に乗れと?」
「もう、何回か行っているでしょう?」
「全部(千城と添乗員に)連れて行ってもらったものだよっ。一人で移動できるはずがないじゃんっっっ」
 言うなれば、知識も教養もないビンボー人だ。ここ最近の付き合いで色々覚えたことはあるかもしれないが、飛び出す勇気まではない。
 意外と小心者だと思うのは、トラブルを避けた人生経験があるからだろうか。
 何事も自分でこなしてしまう長流とは違う。そんなところで、相手のすごさを感じるところでもあったが。
「だからって、ぜーったいにあの連中は連れてこないでっ。千城には僕から言っておくからっ」
 それこそ、撮影の邪魔はされたくないし、また千城もする気がないのはこれまでの付き合いで知っている。
 この時にも、長流は千城の満足が得られるように、英人の休暇を許していることを知った。つまり、同行することはない。代わりに選ばれたのが自分だったようだ…。スタッフとは違ってご一緒したい"一人の人間"である。喜べるべきことか。
 長流が何故、仕事にかこつけて尚治を呼んだのかもなんとなく悟れてきた。
"隔離"だ。安息なのかもしれない。仕事の合間に宿る精神。
 友人から頼まれたなら千城の答えも知れてくる。
 時と場所をしっかり把握した人は、長流の希望を汲み取ってくれることだろう。
 より良いものを生み出す環境は、絶対的に守られている。それも同じ経営者として分かること。
 千城はそのために手を貸している。
 旅行に同行し、自分が長流のためになるのだと知れるのは、嬉しいが…。

 今年の遠足は、皆が揃うことはないのだろうか。
 それはそれでまた、気にかけるものがなくありがたいことでもあった。
 結局尚治は、神戸の日程に合わせた行動をとることになった。

ベッド

 到着した先、スタッフと同じホテルでないと困るから、と言った長流は、中級クラスのホテルを選んでいたようだ。そこまで経費を使えないことも理解する。
 それでも、お国柄からしたら高級なほうだろう。
 窓の外には青々としたカリブ海が見渡せるオーシャンビューだ。
 ソファセットと家電機器が備え付けられた室内は、見慣れた日本国内の安いシティホテルよりも充実している。
 言葉が通じないのが一番の難関だったけれど。長流がいれば問題もない。

 いつもこうやって仕事をしているのか…。
 見慣れない光景は、また、新鮮だった。

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アンケートリクエスト、本当にありがとうございます。
何のためにアンケートを取っているのか分かりませんの状態ですが。
過去の野崎美琴にも驚きましたが、今回の日野&神戸もまた理解できないでいるダメダメ作者です。
ある意味…書いていないところが多いから、すんなり浮かんでしまうのでしょうかね。
いえ、アンケートを取ったから、改めてそのキャラを見直すことができたのかもしれません。
思い浮かんだ時に書かないと、脳から消えちゃうからね。(←痴呆症?)本当にすみません。
あと、ホテル事情は私個人の意見です。
絶対に鵜呑みにしないでください
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同行 2
2013-11-12-Tue  CATEGORY: 晴れ時々
 翌朝、目が覚めると、すでに長流の姿はなかった。朝日の下でのロケがあるとは聞いていた話なので、別に驚くことでもない。時間をかけて製作されたものがどんな姿になるのか、時間をかけたからこそ達成感があるのだろう。
 テーブルの上に、朝食用のチケットが置かれている。レストランを利用するようにとの話も昨夜してあった。一人だからルームサービスでもいいのだが、尚治が注文を正しくできるはずもなく、だったらバイキング形式のレストランのほうが面倒がなくて良いだろうとの配慮だ。
 ホテル内は到着した時に一通り見学しておいたので、レストランの場所も承知している。ホテル内には一応、日本語の話せるスタッフがいる、とは聞いたが、今のところどこでもお目にかかってはいない。



 レストランは一階に位置していた。海に面したテラス席もあり、海風を浴びながら優雅に朝食を摂る人たちであふれている。いずれの会話も、尚治には意味が分からない。こんな時、日本から遠く離れた場所に来たのだな…としみじみ思わされる。
 バイキング料理は結構な品数があった。朝食というから割と軽いものばかりを想像していたのだが、野菜も肉も充実している。見慣れない外国料理は、説明カードが置かれていても理解するのに苦しむ。
 その場で卵料理を作ってくれるコックまで常駐していて、客の列ができていた。尚治もそこに並び、ハムとチーズを入れてもらったオムレツを作ってもらったが、皿に乗せてもらったものは形が不格好で、思わず笑ってしまった。日本では客に出せる品じゃないな…。そこは大らかな人柄が出るのだろう。見た目にこだわるわけではないから、尚治にとって気にするところではなかったが。

 テラス席に座って、フレッシュジュースを飲み、パンにジャムとバターを塗って…としているところに、「Excuse me.」と声をかけられて顔を上げた。
 西洋と東洋の血が混じった顔立ちをしている。白い細面の顔にウェーブのかかった茶色の髪、碧い眼は欧米人なのだが、全体的に醸し出されるものは完璧な"それ"ではない。
 体格の良い男だな…というのが第一印象。Tシャツに浮き出てくるような胸筋と伸びた太い腕。色が白いから強固に見えないが、普段男の中で暮らしていると、自然と出来の違いに目がいってしまう。千城並みだ…。きっと年齢も同じくらいだろう。年上の貫録がある。
「あ、え…?」
 尚治はキョトンと立っている男を見上げた。男は手に持っていた皿を見せて、テーブルの上を指でコンと叩く。相席しても良いかと聞かれているのか…と理解すると、首を縦に振った。
 会話の相手にはならないだろうけれどな…と心の中でブツブツ言いながら。
「Thank you.」
 爽やかな笑顔を浮かべて、男は尚治の斜め前の席に腰を下ろした。てっきり目の前に座るのだと思っていたから驚きもした。
 男の動きを目で追ってしまうと、男と視線が合って、「Japanese? Korean?」と聞かれる。
「あ…、あいあむ、じゃぱにーず…」
 発音も何もあったものではない言葉で返すと、クスッと笑われて、一瞬馬鹿にされたのかと思ったが、柔らかな眼差しに見つめられた。肩からホッと力が抜けるのも見てとれた。
「良かった。日本語なら僕、分かります」
 流暢な日本語まで飛び出したら、あからさまに目を見開いて驚きを表現してしまう。こちらに着いてから初めて耳にした母国語だ。
「へっ? に、日本語? 日本語、分かるんですかっ?」
 男はコーヒーカップを口に運びながら、また口端を上げる。
「父が日本人なんです。母はイギリス人。今はアメリカに住んでいますが」
「へぇ…」
 混血だな、と感じたことが当たっていた、と胸の内でつぶやいて、何から話そうかと頭を巡らせる。接客に慣れた性格がこんなところでも発揮されてしまう。
「お仕事、ですか?」
 連れがいないとは何か事情があるのか…。だが、当たり障りのない会話をすることが常だったから、聞いていいことと悪いことくらいわきまえていた。相手が誤魔化せばそれ以上話をする気はない。
 会話にならないと先程は思っていたが、日本語が理解しあえる間では、むしろ、会話がないほうが失礼になるだろう。
「ええ、まぁ。『出張』というやつですか…。でも昨日で終わったので今日はお休み。明日Los Angelesに帰ります」
「え? どこ?」
 混じった英語は咄嗟に聞き取れず、不躾ながら再度問うてしまった。嫌な顔一つせずに、男は言い直してくれる。
「ロスァンジェルシュ。アメリカの…」
「あぁ、すみません。分かります。西海岸、ですよね?」
「そう、そう言ったな。西海岸…。あなたは? バカンス?」
 口調がゆっくりとなった。時に理解しづらい言葉が混じらないように気にかけてくれているのが分かる。一つの問いかけが気を使わせたようで、申し訳なくなった。逆に自分もしっかりと聞き取るべきだと気が張った。
「バカンス、というか、仕事でこちらに来ている人がいて、一緒に来たんです。彼はもう、仕事に行ってしまいました」
 尚治が答えることに耳を傾けながらも、男はフォークを手にしてレタスサラダを口に入れる。「ふぅん」と言うように眼差しで返事をしてくる。
 尚治もパンを食べる。人前で物を口にすることがない、とふと気付かされた。店で接客している時にそんな動作はない。相手の動きが気になるから、そちらに神経を使ってしまう。
 一拍の間があいて、咀嚼した男が「緊張しないで」と言う。
「失礼だけれど、あなたは客商売の仕事をしているのかな?」
 そう尋ねられた時は、心底驚いた。

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同行 3
2013-11-13-Wed  CATEGORY: 晴れ時々
 尚治の動揺を感じとるのか、男は穏やかな笑みを見せる。そして止まった手に「食べて」と促してくる。同時に尚治が驚いたことで、自分の質問の答えを導き出したのだろう。再び問うことはせず、何故にそう思ったのかの説明をしだした。
「接客業なのかな。客人に対するような堅苦しいものに態度が変わったから。自然と出てしまうのは、そういった職業の人なのかな…と」
 首を傾げられては、最終的な答えを求められていた。
 初対面の人間に、また、この場限りだと思えば、特別隠すものでもないと正直に頷く。洞察力の良い人間は周りにもいる。慣れたつもりでも、さすがにこの短時間での判断には舌を巻く。
 また、この男もどんな仕事に携わっているのだろうかと疑問が浮かんだ。
「はい。店で店員をしています。いつもお客様はいらっしゃるから…」
 尚治が答えればクスクスと笑いながら、片手を振って見せた。
「そんなに緊張しないで。お休みの日に、仕事をするような態度はやめたほうがいいよ。君のくつろぐ時間を台無しにしているみたいだ」
 男の口調も変わっている。その発言は、彼自身が緊張を解きたいのだろう。
 初対面の時はどうしたって相手の顔色を伺う。尚治も他愛のない話で今のこの時間を過ごそうと思った。俄かに気付いた言葉遣いから、彼の休日気分まで取り上げたと言葉に棘として含まれているようだ。
 年下だと分かるから余計に丁寧な対応に出たことが、気に障ったらしい。そこは感情を取り繕う日本人と違うところなのか…。

「すみません…」
 つい謝罪の言葉が出れば、「こちらこそ」と軽くかわされた。
…あぁ、こんな人間がどこかにもいたよ…。
 そう思って頭を巡らせれば、一番身近にいる長流だ。ビジネスとプライベートを混ぜることを酷く嫌う。そして、年上と年下の壁も。
 不思議と肩肘張った自分から力が抜けていった。
 尚治は喉を潤すためもあって、またジュースの入ったグラスに口をつけた。客ではないと知らされるから、動きに気を使うこともなくなる。
 彼は会話を途絶えさせる気はないらしい。
「君は? 今日は? 友達は仕事なんだろう? 何か予定はあるの?」
 その質問は、先程休みだと伝えたことに繋がるのだろうか。
 実際尚治は予定など何もなく、日本を発つ前から危惧されていた『暇』にあたる。どこかに出かけてもいいが、何せ言葉の障害があって、実行する気になれない。かといって、ホテル内に留まっても、やることがない。
 のんびり昼寝でも…と考えていたところがないわけでもなく、しかし、この時間帯から部屋に籠るのもどうかと思われる天気の良さだ。
 目の前の男は、どんな過ごし方をするのだろうか。また、それを聞いてもいいのだろうか。言葉が通じる甘えが出た。
「いえ…。これといっては…。俺、英語も全然分からないんです。だからホテルから出るのも憚られていて…」
「『ハバカ』…? ごめん。難しい言葉は僕も分からないんだ」
 正直に肩を竦められては、いかに簡単な、普段通りの言葉遣いをしたほうが、相手に伝わりやすいのかと気付かされる。流暢な日本語を話すとはいえ、意味の分からない単語が多いのは確かだろう。そう思うと、尚治も堅苦しい敬語は避けるべきだと判断できた。伝わらなければ、違う言い回しがある。
「困っている…かな。何をしていいのか、分からない」
「あぁ。予定はないの?」
「ないです」
 即答すると、男は口をすぼめるようにして、何かを逡巡した様子をとった。
 長流が帰ってくるのは遅くになる。夕食は一緒に、と言われていたが、それもスタッフ一同を交えてのことだった。昨日のうちに顔合わせは済ませているので、長流がプライベートで呼んだ人間がいることは知れ渡っているが、その場でもきっと仕事の話になる。
 自分の職業もあるから、口が堅いのも承知の上だろう。きっと尚治が口を挟めない話題で埋め尽くされるに違いない。もちろん、聞いていることが嫌なわけではない。ただ、相手に気を使わさせることが嫌なだけだ。企業秘密など、山とある。

「えーと、君が良ければ、ランチも一緒にしていい、ということかな?」
 首を傾げながら、男は尋ねてきた。
 きっと一人身が淋しいのだろうと、自分と重ね合わせてしまう。今、こうして食事をしていても思うことだ。黙って食べていたらものの数分で片付いてしまう。誰かと話をするから、一分二分と延長されていく。時間つぶしになっている。
「俺はいいですよ。どうせ一人だし」
「僕、この後、スパに予約を入れてしまったんだ」
「スパ?」
 分からないまま曖昧にするのも良くないだろうと、尋ね返すと、「リフレッシュ? エステ?」と男も分かる限りの単語を並べてくる。
 それは日本でも良く耳にする言葉だったから、すぐに繋がった。
 男でも美容面に金と時間をかける人間はいる。男の風貌を目にしても、理解に苦しむことはない。それどころか、モデルでもしていそうな風格は納得できるほうだった。
「ああ…。マッサージ?」
 尚治がジェスチャーを交えて、腕と胸を擦る振りを見せたら「Yes.」と笑い返してきた。
…なんだか、おもしろい…。
 そう思ったのは、意味が通じているとはっきりしたからだろうか。国民性が出るのかどうしても『言葉』で物事を伝えようとする。ボディランゲージが有効であることを身を持って知った瞬間だった。
「5(ファイブ)ブロック先にあるホテルがとても良いんだよ。二時間、かかっちゃうけれどね」
「へぇ…。良く来るんですか?」
 それは、この地に来るのか、そのホテルに向かうのかの曖昧なところだったのだが、この男はしっかりと質問を汲み取っていた。
「こちらで仕事をすることは多い。疲れた後はのんびりする。決まったコースなんだ」
 これにも尚治は理解した、と頷き返した。単純に思ったことを並べたのかもしれないが、説明としては充分だ。背後事情は存分に知れてくる。
 どんな仕事に従事しているかまで聞くのは失礼だと承知しているから、聞き流すことも簡単にできた。
 決して客に深入りしてはいけない…。それも培った人生経験かもしれない。

「暇なら、一緒に行かないか? 君もリフレッシュしたいだろう?」
 重ねて誘われたことには、どう答えたらいいのか、考えてしまう。
 口約束だけで姿をくらまされると思われたのか…。言葉遊びで終わってしまう関係はこれまでも幾らでも見てきたことだった。そして、それらと同等に扱われたくない反発のようなもの…。
 言葉が通じない現在に、力強く感じられるのは、不安がはびこっていたせいもあるかもしれない。
 なにか、逃したらいけないような危機感…。
 そしてまた、一日限りの人とのやりとりも数多く見てきた。それらも、していけないことだとは思っていない。
 この地に来て、リフレッシュ…。確かに納得できる内容だ。目の前の海を見ても開放感で満たされる。
「いいけど…。金額は? 高いのは無理」
 相場を知らないから後々、トラブルになるのはごめんだった。揉め事を避けるための事前確認ももちろん忘れていない。
 尚治が同意と不安を漏らせば、男はハーフパンツのポケットからカードケースを取り出す。一枚の紙を開き、「スパのクーポンだよ。これ以上は希望しないと追加されない。僕の信用がないなら、直接問い合わせればいい」と、自己判断に委ねてきた。
 直接問い合わせれば…と言われても、その語学力があれば、何も困っていないだろうに…。
 それが分かるのか、またクスッと笑った男は「日本人はいるよ。『Japanese please.』と言えば分かる人が応えてくれる」と言い放ってくれた。
 日本人、と聞くだけで信用性が高まるのは何故だろう…。
 それとあとは、表示されているホテル名だ。良く聞く有名ホテルで、トラブルを避けたいのは、先方も同じではないかという気にさせてくれる。
 今の世の中、訴え事は決して良い印象を、次の客に植え付けない。世界各国に向けて晒される場は用意されている。
「あと、僕の名前は、ライアン」
 名乗られたのなら、こちらも告げるべきだろう。
「日野 尚治」
「ヒノ?」
 こういった場合、ファーストネームを強調するところなのかとも過ったが、呼びやすいのであればなんだって良かった。
 どうせ、今日限りだ。
「そう。ヒノ」
 もう一度告げると、ニコリと笑った男、ライアンが、巧みな話術で会話を引っ張り出してきた。人と話せることは時間を忘れさせる。
 早く終えてしまうだろうと思われた朝食の時間は、思った以上に時間がかかっていたが、その時間は決して居辛いものではなかった。
 ライアンとは、雰囲気までも読みとってしまう凄腕のような気がした。

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日野っちがなんだかすごーく、ウブに見えますけれど…。
放りだされたらこんなもんだって???
そして、アンケートコメ様!!!!
鋭すぎてビビりました。
『神戸&日野でも』………てんてんてんてんですよ。
…さ、さぁ、どうなることでしょうか…。
(私の考えるものはそれほど単純なのだろうか… 汗汗汗汗)

たまにはいつてみようか。あっち
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同行 4
2013-11-14-Thu  CATEGORY: 晴れ時々
 10時にタクシー乗り場で、と別れた。部屋番号まで知らないライアンは尚治をしつこく追いかけてくることもなかった。それこそが、『後腐れない』の間柄だろう。誘うことに慣れた人間なのかもしれない。
 尚治は一度部屋に戻って、万が一のためにメモを残す。『スパに行ってくる』という他に、もらった紙片の名前や電話番号も記述した。
 きっと、長流よりも早く帰ってくるだろう。自分が、同じ形で見たなら、処分すればいい、メモ書きだった。

 初めて体験する『スパ』は、とてもゆったりとできた。ライアンと一緒に向かって、カーテンで仕切られた個室に案内されて、衣類を剥がされる。もちろん強引ではないから、自ら裸になったというほうだろう。
 布一枚ない状況は抵抗があったが、背中を見せるのは、施術師が男だったから尚治にとっては受け入れられるものだった。
 うつ伏せに寝て、顔に柔らかな枕が当たった。
 両手を体に沿わせて寝そべる。腕枕ができないから、この枕の高さがあるのだろうか。
 尚治は顔を横に向けて、目を閉じた。
 何やらヌルッとしたものが背中に落とされる。
「…っ?」
 驚いた尚治の息遣いを感じたのか、カーテンの向こうから、「はちみつだよ」と声が響いてくる。
 姿が見えなくても、同じ施術を受けている様子がうかがえて、また、分かる言葉に安堵してしまう。
 ライアンは、もう幾度も訪れているから、知っていることも多いのだろう。
 緊張した体も、塗られた液体と体をこすられる掌の温かさ、適度に強められる指圧に尚治もうっとりとしてくる。
 強張った体はあっという間に解れていった。
 硬くなった筋肉が、さすられて緩められて、温められていく…。
 施術のために閉じた瞼は、気持ち良さに開かれることはなかった。

 鼻孔をくすぐる甘い匂い…。
 いつの間にか、眠ってしまったようだ。
 腰に痛みを感じて目が覚めた。刺されるような痛みはすぐに消える。
 ヌルヌルとした肌の上のものがない。目を開けると、ガウンを着たライアンが隣に立っていた。慌てて、尚治も身を起こす。
 どれくらいの時間が経ったのか、まったく分からない。
「あ…」
 思わず照れた声を上げたら、宥められるような笑みで見下ろされた。
「ゆっくりできた? 良かった…」
 尚治は体を起しかけて、毛布をかけられただけの裸体を知る。
 いわゆる、すっぽんぽんの状態で、前を晒してはいけないと本能的に毛布を手繰り寄せた。
 それすらもライアンは気にしていないようだ。その落ちつきぶりに安堵したのも確か…。
「ジャグジーがあるから行こう」
 そう誘われて、右も左も分からない尚治は従っていく。

…気持ちが良かった…。
 それだけは確かだ。固まった筋肉も張り詰めたものがなくなったように軽い。
 これを味わいたいから訪れる客がいるのも、充分なほど理解できた。まさに、味わなければ知らない世界だ。
 個室スペースにあるジャグジーに、当然ながらライアンは裸で浸かっていった。そこで初めて状況を見た。
 たぶん、本来であれば、ここは『一人』のためのスペースだ。尚治が同行することで、丁寧に二台のベッドが用意され、区切られたカーテンがあったのだろう。
 それをライアンに聞いてもいいものだろうか…。
 しかし"配慮"と分かれば、わざとらしく口にすべきではないことも承知している。黙って感謝すれば、相手も気分が良いに違いない。さりげないことがより、相手の人格を押し上げる。
 
 ガウンを脱いだら、想像していた以上に筋肉質な肉体がある。胸も腹も綺麗に割れた筋肉は顔の印象とは別格のものだ。穏やかな印象を与える表情も良いが、見る人間にとって、肉体美は価値があるものではないか…。
 やはり、モデルの仕事でもしているのではないかと過ったが、そこは口を出すものではない。
 あまり目を向けてはいけないと顔を俯けて、尚治もジャグジーに浸かった。

 吹き出されるお湯のおかげで、隠す意識が薄れる。
 おぼろげながら見えている茂みはあるのだろうが、男同士で今更隠す必要はないだろう。温泉国で育った環境もあるのかもしれないが。
 ゆったりと手足を伸ばして目を閉じる。
 本当に心地が良い時間だった。
 その感謝だけは伝えようと口が開く。
「ありがとうございます。とっても気分が良いです」
「ヒノが喜んでくれたなら、僕も嬉しい。付き合わせてしまっていないかな?」
 強引に連れてきたと思うところがあるのか、伺われてすぐに首を横に振る。
 きっと彼がいなかったら、体験できない一つではなかったのではないか…。
「そんな…。初めてで分からないことばかりだったけれど、寝てて終わっちゃいましたね」
 笑みを浮かべたら、同感するところがあったのか、「僕はいつも寝ちゃうよ」と言ってくる。
 それからしみじみと体を見られた(気がする視線の動き方だった)。
「ヒノは…、…綺麗な体だね。無駄な贅肉がない。特に上半身は…。なにか、スポーツをしているの?」
 突然の問いかけは驚いていても、裸でいる今、想像するものがあるのはお互い様だろう。また『綺麗』と言われて照れと、嬉しさは同時に襲ってきた。褒められて嫌な人間なんていない。こんな素直な感情がこぼれるのも、取り繕う必要性がない、開放感からくるものなのだろうか。
「俺、バーテンなんです。肉体労働?」
 スポーツを心がけているわけではないが、日々の動きで、自然と鍛えられるものはあるかもしれない。接客業とすでに知られた話は、気の緩みで、もっと自分の世界を見せた。
 ライアンは目を見開いて驚きを表したが、すぐに目を眇めて「おいしそうだな」と口にしてくる。
 飲ませてあげられる環境があるのなら、このお礼に一杯もおごりたいところだ。ライアンから見せられたクーポン券は、尚治が思っていたよりもはるかに安かった。

 そんなことを何気なく口にしてしまったら、ライアンは「是非」と目を輝かせて言う。
「I would like to be together with you not only till lunch but till night. (ランチどころか夜まで付き合ってほしいよ)」(翻訳コピーなので突っ込まないでください)
 早口の英語は理解ができなくて、思わず頷いてしまった。
「OK!」
 何を理解したのか、ライアンは突然ジャグジーから上がった。
 目の前に見えた男のシンボルに、『へぇ…、外国人ってアソコの毛まで金色なんだ…』と観察してしまったことは、もちろん言わない。

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でもアソコは人種によって違うようです。見たことがないので想像でしかありません。
知る方がいたら、情報お待ちしております(←なにに役立てるの???)
ロシア人の女性は確か輝いていた…。
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同行 5
2013-11-15-Fri  CATEGORY: 晴れ時々
 夜の逢瀬を約束してしまったようだ。
 ランチはライアンが用意してくれた、同じホテルで済ませる。
 絶対に尚治では支払えない金額が頭を巡っていったが、「僕のおごり」と微笑まれて、予約まで済まされていては断ることが失礼だと思われた。スパに入る前に準備はあったのだろう。
 奢らせることも相手にとってひとつの満足感があるのは知っていたことだ。その立場になる自分もどうなのかと思っても今は口にすべきではないと空気を読む。
…男とは、へんなところに見栄をはるよな…。内心でぼやき、また、エスコートの仕方に関心もする。
 すべてにおいて、育ちの違いを感じる。
 覚えることが多い、と思ってしまうのは、やはり年齢の差だろうか。
 ライアンは39歳だと言った。

 東洋人は年齢のわりに、幼く見られることは承知していたが、彼もまた、年齢不詳の部類に入る。改めて言われて驚きはしたが、納得もできた。その価値がある。
 このあと、ショッピングモールに、買い物に行く、と言われて、それくらいなら付き合えると同意した。
 ライアンは明日の朝、早くにここを発つので、形ながらも"土産"はほしいようだ。
 同じように、尚治もあれこれと視線を流す。躊躇しそうな品でも、ライアンが説明してくれれば、納得もできた。
…とはいえ、尚治は購入することはなく、眺めただけに終わったのだが。

 夕方も早い時間に、ホテルのロビーで別れた。
「楽しい思い出をありがとう」と尚治が伝えれば、にこやかな笑顔で「僕もだよ」と応えてくれる。
 彼がいなければ、ただのぼうっとした一日で終わったことだろう。
「ショウっ」
 突然響いた声には、尚治もライアンも顔を向けた。
 今、帰ってきたのだろう。機材を抱えたスタッフの姿も見えた。
「あー、長流、お帰り」
 出迎えるのはいつものことだったから、自然と言葉は流れる。
 何を思うのか、この場でくちづけられるとは思わなかった。勢いでぶつかった…とは言えない仕草だろう。

 動揺する尚治を押しのけて、長流は英語でライアンに何かを問うていた。その早口は到底ついていけるものではい。
 幾つかの会話を見送って、何を言ったのかと脇から突けば、「ショウのカクテルが飲みたいんだって」とふてくされ気味に言われた。
 機嫌が悪くても褒められて嫌な気がしないのは同じようだ。
 だからといって、それを披露する場はないだろう…と思うのに、長流はバーの撮影許可をとりつけてしまう。ホテルの一角を「営業」にしてしまうお互いもどうなのだろうか…。
…客、どうするの…?
 心配しても、『一杯だから』と言われたことで頷いてしまうものだ。短時間の撮影に、ホテル側は何も異論はないらしい。それより、放映してくれることでアピールできると期待するのか。全てを委ねていた。
 接客精神とは、こんなところでも出てしまうのだろうかと尚治は思う。見られることに抵抗はない。
 
 尚治はTシャツ一枚の姿で、並べられた液体を吟味した。
 ホテルの一階にあるバーは、外からの月あかりも眺められる。こちらもテラス席はあった。星空を下に堪能する恋人同士が浮かんでしまったのはなぜだろうか。
 一日、放っておかれた淋しさが、自然と表れるのかもしれない。もちろん、声には出さないが。

 知っているもの、知らないもの。流れゆく時が、ホテルのバーらしく、数多くあるように漂う。一つのグラスとその席に…。想像は勝手だ。
 出会いもそこに含まれるだろう。やりとりされる人たちは、尚治が見てきた世界だ。
 憂いまでも興味津々なのは、撮影に協力した皆から伝わってくるものがあった。撮りたい何か…。
…興奮する…。腕がなる…。
 見慣れた場所から離れたからか、新鮮な匂いがした。余計に血を沸かすのだろうか。

 作った碧い液体は、明ける夜を表現したのだろうか。
…ライアン、俺は、堕ちないよ…。
 なぜか、知ってしまった時。
 尚治は男に興味がないから、彼からのアプローチにも気付かなかった。会った時に危機感を覚えたのは長流だろう。何故、この席まで用意したのかは分からないが…。
 ライアンを見つめた時、分かったような彼の細められた眼差しが印象深かった。

『ブルームーン』
 青い月は、紅く熱く燃え上がらない。
 しかし、静かに宿る炎は、一番力強いのかもしれない。
 長流の目がある。

 男に惹かれることはない。だから心配することはないと長流に伝えることであったのかもしれない。
 諦められないのか、ライアンの"誘い"は、去り際にハグとくちづけを贈られたことで気付く。
「今夜、くればいい…」
「行かせないよっ」
 叫んだのは長流だったけど。
 ライアンのクスッと笑った笑みは、やっぱり千城を彷彿させる狡猾さがあるように見えて仕方がなかった。
 長流が張り合うのは、そんな雰囲気もあるのだろうか…。

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