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BLの丘
同行 2
2013-11-12-Tue  CATEGORY: 晴れ時々
 翌朝、目が覚めると、すでに長流の姿はなかった。朝日の下でのロケがあるとは聞いていた話なので、別に驚くことでもない。時間をかけて製作されたものがどんな姿になるのか、時間をかけたからこそ達成感があるのだろう。
 テーブルの上に、朝食用のチケットが置かれている。レストランを利用するようにとの話も昨夜してあった。一人だからルームサービスでもいいのだが、尚治が注文を正しくできるはずもなく、だったらバイキング形式のレストランのほうが面倒がなくて良いだろうとの配慮だ。
 ホテル内は到着した時に一通り見学しておいたので、レストランの場所も承知している。ホテル内には一応、日本語の話せるスタッフがいる、とは聞いたが、今のところどこでもお目にかかってはいない。



 レストランは一階に位置していた。海に面したテラス席もあり、海風を浴びながら優雅に朝食を摂る人たちであふれている。いずれの会話も、尚治には意味が分からない。こんな時、日本から遠く離れた場所に来たのだな…としみじみ思わされる。
 バイキング料理は結構な品数があった。朝食というから割と軽いものばかりを想像していたのだが、野菜も肉も充実している。見慣れない外国料理は、説明カードが置かれていても理解するのに苦しむ。
 その場で卵料理を作ってくれるコックまで常駐していて、客の列ができていた。尚治もそこに並び、ハムとチーズを入れてもらったオムレツを作ってもらったが、皿に乗せてもらったものは形が不格好で、思わず笑ってしまった。日本では客に出せる品じゃないな…。そこは大らかな人柄が出るのだろう。見た目にこだわるわけではないから、尚治にとって気にするところではなかったが。

 テラス席に座って、フレッシュジュースを飲み、パンにジャムとバターを塗って…としているところに、「Excuse me.」と声をかけられて顔を上げた。
 西洋と東洋の血が混じった顔立ちをしている。白い細面の顔にウェーブのかかった茶色の髪、碧い眼は欧米人なのだが、全体的に醸し出されるものは完璧な"それ"ではない。
 体格の良い男だな…というのが第一印象。Tシャツに浮き出てくるような胸筋と伸びた太い腕。色が白いから強固に見えないが、普段男の中で暮らしていると、自然と出来の違いに目がいってしまう。千城並みだ…。きっと年齢も同じくらいだろう。年上の貫録がある。
「あ、え…?」
 尚治はキョトンと立っている男を見上げた。男は手に持っていた皿を見せて、テーブルの上を指でコンと叩く。相席しても良いかと聞かれているのか…と理解すると、首を縦に振った。
 会話の相手にはならないだろうけれどな…と心の中でブツブツ言いながら。
「Thank you.」
 爽やかな笑顔を浮かべて、男は尚治の斜め前の席に腰を下ろした。てっきり目の前に座るのだと思っていたから驚きもした。
 男の動きを目で追ってしまうと、男と視線が合って、「Japanese? Korean?」と聞かれる。
「あ…、あいあむ、じゃぱにーず…」
 発音も何もあったものではない言葉で返すと、クスッと笑われて、一瞬馬鹿にされたのかと思ったが、柔らかな眼差しに見つめられた。肩からホッと力が抜けるのも見てとれた。
「良かった。日本語なら僕、分かります」
 流暢な日本語まで飛び出したら、あからさまに目を見開いて驚きを表現してしまう。こちらに着いてから初めて耳にした母国語だ。
「へっ? に、日本語? 日本語、分かるんですかっ?」
 男はコーヒーカップを口に運びながら、また口端を上げる。
「父が日本人なんです。母はイギリス人。今はアメリカに住んでいますが」
「へぇ…」
 混血だな、と感じたことが当たっていた、と胸の内でつぶやいて、何から話そうかと頭を巡らせる。接客に慣れた性格がこんなところでも発揮されてしまう。
「お仕事、ですか?」
 連れがいないとは何か事情があるのか…。だが、当たり障りのない会話をすることが常だったから、聞いていいことと悪いことくらいわきまえていた。相手が誤魔化せばそれ以上話をする気はない。
 会話にならないと先程は思っていたが、日本語が理解しあえる間では、むしろ、会話がないほうが失礼になるだろう。
「ええ、まぁ。『出張』というやつですか…。でも昨日で終わったので今日はお休み。明日Los Angelesに帰ります」
「え? どこ?」
 混じった英語は咄嗟に聞き取れず、不躾ながら再度問うてしまった。嫌な顔一つせずに、男は言い直してくれる。
「ロスァンジェルシュ。アメリカの…」
「あぁ、すみません。分かります。西海岸、ですよね?」
「そう、そう言ったな。西海岸…。あなたは? バカンス?」
 口調がゆっくりとなった。時に理解しづらい言葉が混じらないように気にかけてくれているのが分かる。一つの問いかけが気を使わせたようで、申し訳なくなった。逆に自分もしっかりと聞き取るべきだと気が張った。
「バカンス、というか、仕事でこちらに来ている人がいて、一緒に来たんです。彼はもう、仕事に行ってしまいました」
 尚治が答えることに耳を傾けながらも、男はフォークを手にしてレタスサラダを口に入れる。「ふぅん」と言うように眼差しで返事をしてくる。
 尚治もパンを食べる。人前で物を口にすることがない、とふと気付かされた。店で接客している時にそんな動作はない。相手の動きが気になるから、そちらに神経を使ってしまう。
 一拍の間があいて、咀嚼した男が「緊張しないで」と言う。
「失礼だけれど、あなたは客商売の仕事をしているのかな?」
 そう尋ねられた時は、心底驚いた。

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コメント

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コメントたつみきえ | URL | 2013-11-12-Tue 13:17 [編集]
こんにちは~。

> おはようございますm(__)m見知らぬ土地で 母国語を聞くと テンション上がるよね(笑)それが 関西弁だと ちょっと下がるけど…っていう私は バリバリの関西人ですが(;^_^A

おー、関西人さんだったのですね~。
私、方言萌えします(笑)
関西弁、ちょーっ好きですよっ。
海外で日本語を聞くとゲンナリしちゃいましたね。
(テンションは上がりませんでした…)
なんででしょう。せっかくの時間を台無しにされた気分でしたね。
非日常を求めたのに…ってところでしょうか。
でも、落ちつくところはありますよね。
コメントありがとうございました。
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