夜の逢瀬を約束してしまったようだ。
ランチはライアンが用意してくれた、同じホテルで済ませる。
絶対に尚治では支払えない金額が頭を巡っていったが、「僕のおごり」と微笑まれて、予約まで済まされていては断ることが失礼だと思われた。スパに入る前に準備はあったのだろう。
奢らせることも相手にとってひとつの満足感があるのは知っていたことだ。その立場になる自分もどうなのかと思っても今は口にすべきではないと空気を読む。
…男とは、へんなところに見栄をはるよな…。内心でぼやき、また、エスコートの仕方に関心もする。
すべてにおいて、育ちの違いを感じる。
覚えることが多い、と思ってしまうのは、やはり年齢の差だろうか。
ライアンは39歳だと言った。
東洋人は年齢のわりに、幼く見られることは承知していたが、彼もまた、年齢不詳の部類に入る。改めて言われて驚きはしたが、納得もできた。その価値がある。
このあと、ショッピングモールに、買い物に行く、と言われて、それくらいなら付き合えると同意した。
ライアンは明日の朝、早くにここを発つので、形ながらも"土産"はほしいようだ。
同じように、尚治もあれこれと視線を流す。躊躇しそうな品でも、ライアンが説明してくれれば、納得もできた。
…とはいえ、尚治は購入することはなく、眺めただけに終わったのだが。
夕方も早い時間に、ホテルのロビーで別れた。
「楽しい思い出をありがとう」と尚治が伝えれば、にこやかな笑顔で「僕もだよ」と応えてくれる。
彼がいなければ、ただのぼうっとした一日で終わったことだろう。
「ショウっ」
突然響いた声には、尚治もライアンも顔を向けた。
今、帰ってきたのだろう。機材を抱えたスタッフの姿も見えた。
「あー、長流、お帰り」
出迎えるのはいつものことだったから、自然と言葉は流れる。
何を思うのか、この場でくちづけられるとは思わなかった。勢いでぶつかった…とは言えない仕草だろう。
動揺する尚治を押しのけて、長流は英語でライアンに何かを問うていた。その早口は到底ついていけるものではい。
幾つかの会話を見送って、何を言ったのかと脇から突けば、「ショウのカクテルが飲みたいんだって」とふてくされ気味に言われた。
機嫌が悪くても褒められて嫌な気がしないのは同じようだ。
だからといって、それを披露する場はないだろう…と思うのに、長流はバーの撮影許可をとりつけてしまう。ホテルの一角を「営業」にしてしまうお互いもどうなのだろうか…。
…客、どうするの…?
心配しても、『一杯だから』と言われたことで頷いてしまうものだ。短時間の撮影に、ホテル側は何も異論はないらしい。それより、放映してくれることでアピールできると期待するのか。全てを委ねていた。
接客精神とは、こんなところでも出てしまうのだろうかと尚治は思う。見られることに抵抗はない。
尚治はTシャツ一枚の姿で、並べられた液体を吟味した。
ホテルの一階にあるバーは、外からの月あかりも眺められる。こちらもテラス席はあった。星空を下に堪能する恋人同士が浮かんでしまったのはなぜだろうか。
一日、放っておかれた淋しさが、自然と表れるのかもしれない。もちろん、声には出さないが。
知っているもの、知らないもの。流れゆく時が、ホテルのバーらしく、数多くあるように漂う。一つのグラスとその席に…。想像は勝手だ。
出会いもそこに含まれるだろう。やりとりされる人たちは、尚治が見てきた世界だ。
憂いまでも興味津々なのは、撮影に協力した皆から伝わってくるものがあった。撮りたい何か…。
…興奮する…。腕がなる…。
見慣れた場所から離れたからか、新鮮な匂いがした。余計に血を沸かすのだろうか。
作った碧い液体は、明ける夜を表現したのだろうか。
…ライアン、俺は、堕ちないよ…。
なぜか、知ってしまった時。
尚治は男に興味がないから、彼からのアプローチにも気付かなかった。会った時に危機感を覚えたのは長流だろう。何故、この席まで用意したのかは分からないが…。
ライアンを見つめた時、分かったような彼の細められた眼差しが印象深かった。
『ブルームーン』
青い月は、紅く熱く燃え上がらない。
しかし、静かに宿る炎は、一番力強いのかもしれない。
長流の目がある。
男に惹かれることはない。だから心配することはないと長流に伝えることであったのかもしれない。
諦められないのか、ライアンの"誘い"は、去り際にハグとくちづけを贈られたことで気付く。
「今夜、くればいい…」
「行かせないよっ」
叫んだのは長流だったけど。
ライアンのクスッと笑った笑みは、やっぱり千城を彷彿させる狡猾さがあるように見えて仕方がなかった。
長流が張り合うのは、そんな雰囲気もあるのだろうか…。
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ランチはライアンが用意してくれた、同じホテルで済ませる。
絶対に尚治では支払えない金額が頭を巡っていったが、「僕のおごり」と微笑まれて、予約まで済まされていては断ることが失礼だと思われた。スパに入る前に準備はあったのだろう。
奢らせることも相手にとってひとつの満足感があるのは知っていたことだ。その立場になる自分もどうなのかと思っても今は口にすべきではないと空気を読む。
…男とは、へんなところに見栄をはるよな…。内心でぼやき、また、エスコートの仕方に関心もする。
すべてにおいて、育ちの違いを感じる。
覚えることが多い、と思ってしまうのは、やはり年齢の差だろうか。
ライアンは39歳だと言った。
東洋人は年齢のわりに、幼く見られることは承知していたが、彼もまた、年齢不詳の部類に入る。改めて言われて驚きはしたが、納得もできた。その価値がある。
このあと、ショッピングモールに、買い物に行く、と言われて、それくらいなら付き合えると同意した。
ライアンは明日の朝、早くにここを発つので、形ながらも"土産"はほしいようだ。
同じように、尚治もあれこれと視線を流す。躊躇しそうな品でも、ライアンが説明してくれれば、納得もできた。
…とはいえ、尚治は購入することはなく、眺めただけに終わったのだが。
夕方も早い時間に、ホテルのロビーで別れた。
「楽しい思い出をありがとう」と尚治が伝えれば、にこやかな笑顔で「僕もだよ」と応えてくれる。
彼がいなければ、ただのぼうっとした一日で終わったことだろう。
「ショウっ」
突然響いた声には、尚治もライアンも顔を向けた。
今、帰ってきたのだろう。機材を抱えたスタッフの姿も見えた。
「あー、長流、お帰り」
出迎えるのはいつものことだったから、自然と言葉は流れる。
何を思うのか、この場でくちづけられるとは思わなかった。勢いでぶつかった…とは言えない仕草だろう。
動揺する尚治を押しのけて、長流は英語でライアンに何かを問うていた。その早口は到底ついていけるものではい。
幾つかの会話を見送って、何を言ったのかと脇から突けば、「ショウのカクテルが飲みたいんだって」とふてくされ気味に言われた。
機嫌が悪くても褒められて嫌な気がしないのは同じようだ。
だからといって、それを披露する場はないだろう…と思うのに、長流はバーの撮影許可をとりつけてしまう。ホテルの一角を「営業」にしてしまうお互いもどうなのだろうか…。
…客、どうするの…?
心配しても、『一杯だから』と言われたことで頷いてしまうものだ。短時間の撮影に、ホテル側は何も異論はないらしい。それより、放映してくれることでアピールできると期待するのか。全てを委ねていた。
接客精神とは、こんなところでも出てしまうのだろうかと尚治は思う。見られることに抵抗はない。
尚治はTシャツ一枚の姿で、並べられた液体を吟味した。
ホテルの一階にあるバーは、外からの月あかりも眺められる。こちらもテラス席はあった。星空を下に堪能する恋人同士が浮かんでしまったのはなぜだろうか。
一日、放っておかれた淋しさが、自然と表れるのかもしれない。もちろん、声には出さないが。
知っているもの、知らないもの。流れゆく時が、ホテルのバーらしく、数多くあるように漂う。一つのグラスとその席に…。想像は勝手だ。
出会いもそこに含まれるだろう。やりとりされる人たちは、尚治が見てきた世界だ。
憂いまでも興味津々なのは、撮影に協力した皆から伝わってくるものがあった。撮りたい何か…。
…興奮する…。腕がなる…。
見慣れた場所から離れたからか、新鮮な匂いがした。余計に血を沸かすのだろうか。
作った碧い液体は、明ける夜を表現したのだろうか。
…ライアン、俺は、堕ちないよ…。
なぜか、知ってしまった時。
尚治は男に興味がないから、彼からのアプローチにも気付かなかった。会った時に危機感を覚えたのは長流だろう。何故、この席まで用意したのかは分からないが…。
ライアンを見つめた時、分かったような彼の細められた眼差しが印象深かった。
『ブルームーン』
青い月は、紅く熱く燃え上がらない。
しかし、静かに宿る炎は、一番力強いのかもしれない。
長流の目がある。
男に惹かれることはない。だから心配することはないと長流に伝えることであったのかもしれない。
諦められないのか、ライアンの"誘い"は、去り際にハグとくちづけを贈られたことで気付く。
「今夜、くればいい…」
「行かせないよっ」
叫んだのは長流だったけど。
ライアンのクスッと笑った笑みは、やっぱり千城を彷彿させる狡猾さがあるように見えて仕方がなかった。
長流が張り合うのは、そんな雰囲気もあるのだろうか…。
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