証拠を出せと言った瞬間にも、女性の体は強張った。
当然求められることを予測していなかったわけではないだろうに。
こんなことで動揺されては全ての話が嘘であることを自ら伝えているようなものだ。
あとは何故こんなことになったか…の話だが、いざ一族との関わり合いがないと分かるなら、これ以上の話し合いなど時間の無駄だと思える。
それでも気にかけてしまったのは、無邪気に見つめてくる幼い瞳があったからだろうか…。
一応身分を確認する証明書を出させ、「専門機関で確認をさせる」と一世が告げて、その場は済まされた。
身分証明を出されたところで、きちんと調べるまでは信用もならない存在だ。
ただでさえあらゆる方面から注目を浴びる自分たちに、例え噂でも妙な話が流れれば信用問題に関わる。
千城は特に、英人という『養子』を受け入れているだけに、スキャンダルとして叩かれる要素は充分にあった。
まず守るべきは血の繋がりの濃い『家族』だろう。
この時間では千城に連絡がつかないのは一世が一番良く知る。
もともと、家との繋がりを希薄に感じていた千城は、それこそ野崎を通さなければ話もできないほどだった。
仲介役を務めてくれていた野崎に感謝もしていた。その反面で、どこかで家族としての温かみを感じたかったのかもしれない。
それを変えたのは、紛れもなく英人という存在だろう。
彼もまた、人の愛情に飢えていた人間だったから、千城と共鳴するところがあったのだと思う。
人を大事に思う気持ちが、仕事に賭けてきた自分たち家族の存在意義を変えてくれた。
千城と英人の繋がりの深さを一世は理解している。
その上で、子供…などという存在は生まれることがないことも…。
彼女の存在も疑問だ。どこでどうして千城を知るのか、また何故千城が対象になったのか…。
赤子の姿を見ても、生まれて間もないのだとは、一人の子供を持った親だけに分かることだった。英人との出会いを考慮しても時間的に合うものではない。
一世は翌日早朝に関わらず、一番信用のおける調査会社を手配した。
長年榛名家に仕えてくれている、良いも悪いも全て知ったような連中だが、バックグラウンドの重要性まで充分理解しているおかげで託せるものも多い。
一世の一言で路頭に迷う可能性の方が高いからだった。
連絡を取る為もあって本邸で長々と時間を過ごす羽目になった。昼過ぎにようやく連絡がとれた千城は、一世の対応を批判し、全く納得していなかった。
「馬鹿馬鹿しい話ですね。そんなことで疑われましたか?どういった状況かは分かりませんが、英人の疑いを晴らす為と思えばDNAのサンプルでもなんでも提供しますよ」
疑問を持つならこんな手間暇をかけさせずにかわすことができただろうという嫌味混じりだ。
千城の態度をもっても、彼女が仕掛けた茶番だと理解するのに、諦めきれないものはなんであるのか…。
時を同じくして妻の百合子が自室に乗りこんできた。険しい顔つきに思わず怯む。
「千城の子を連れたという方がいらっしゃったそうですね」
隠したはずでも耳に入ってしまうのは、従業員の口が軽いからなのか、百合子の責めが厳しいせいか…。
バレるのは時間の問題と思っていた一世だが、その早さに閉口すらする。せめて自分が屋敷を出ていくまで掴まれたくない情報だった。これでますます家を出る時間が遅くなるというものだ。
…いや、出られない、というべきか…。
「何故その場で教えてくださらなかったのかしら。千城の母親は誰かしら?」
「いや、…ゆうべはもう遅かったしな…」
「無駄なお気遣いは結構です。相手の方の身元は?」
「今、調べさせている。千城は身に覚えがないと言っているが…」
一言告げるたびに十は返されそうな大魔神のような迫力だった。
これまでも辛辣な発言があったとしても、ここまで怒りを蓄えた姿は見たことがなく、一世の方が動揺した。
それが一世の対応に関してなのか、千城の態度に対してなのかは判断がつきかねた。
何より、百合子の中に『動揺』というものが一切見られなかった。普通の母親なら突然湧いて出た話に、多少の戸惑いや困惑を見せてもいいはずだろう。
実際一世自身が、慌てふためいてもいたのだから…。
「当然でしょう。いえ、そのような息子に育てた覚えはありません。万が一にも非情な結果が出た時には切腹させていただきますわ」
「おいおい…」
物騒な話にこちらも声を失う。
百合子も有言実行の人間だ。息子に信頼を置いている意味もあるのだろうし、一族の恥を自分で受ける覚悟も窺える。
早急に調べ上げさせた結果は3日後に正確なものとして届けられた。
彼女、堤世里奈(つつみ せりな)、25歳。介護医療を学んだ後に就職して、現在は休職中とのこと。
そのような人間と知りあう機会もなかったのではないかと思われる。
だが、一番驚かせてくれたのは、千城との直接的な繋がりはないが、まったくの他人ではないということだった。
「千城様のサンプルしかいただいておりませんが、同じ遺伝子がございます」
検査結果に一世と百合子が目を剥いたのは言うまでもない。
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理数系は無知と言っていいので詳しくは突っ込まないでくださ~い。
当然求められることを予測していなかったわけではないだろうに。
こんなことで動揺されては全ての話が嘘であることを自ら伝えているようなものだ。
あとは何故こんなことになったか…の話だが、いざ一族との関わり合いがないと分かるなら、これ以上の話し合いなど時間の無駄だと思える。
それでも気にかけてしまったのは、無邪気に見つめてくる幼い瞳があったからだろうか…。
一応身分を確認する証明書を出させ、「専門機関で確認をさせる」と一世が告げて、その場は済まされた。
身分証明を出されたところで、きちんと調べるまでは信用もならない存在だ。
ただでさえあらゆる方面から注目を浴びる自分たちに、例え噂でも妙な話が流れれば信用問題に関わる。
千城は特に、英人という『養子』を受け入れているだけに、スキャンダルとして叩かれる要素は充分にあった。
まず守るべきは血の繋がりの濃い『家族』だろう。
この時間では千城に連絡がつかないのは一世が一番良く知る。
もともと、家との繋がりを希薄に感じていた千城は、それこそ野崎を通さなければ話もできないほどだった。
仲介役を務めてくれていた野崎に感謝もしていた。その反面で、どこかで家族としての温かみを感じたかったのかもしれない。
それを変えたのは、紛れもなく英人という存在だろう。
彼もまた、人の愛情に飢えていた人間だったから、千城と共鳴するところがあったのだと思う。
人を大事に思う気持ちが、仕事に賭けてきた自分たち家族の存在意義を変えてくれた。
千城と英人の繋がりの深さを一世は理解している。
その上で、子供…などという存在は生まれることがないことも…。
彼女の存在も疑問だ。どこでどうして千城を知るのか、また何故千城が対象になったのか…。
赤子の姿を見ても、生まれて間もないのだとは、一人の子供を持った親だけに分かることだった。英人との出会いを考慮しても時間的に合うものではない。
一世は翌日早朝に関わらず、一番信用のおける調査会社を手配した。
長年榛名家に仕えてくれている、良いも悪いも全て知ったような連中だが、バックグラウンドの重要性まで充分理解しているおかげで託せるものも多い。
一世の一言で路頭に迷う可能性の方が高いからだった。
連絡を取る為もあって本邸で長々と時間を過ごす羽目になった。昼過ぎにようやく連絡がとれた千城は、一世の対応を批判し、全く納得していなかった。
「馬鹿馬鹿しい話ですね。そんなことで疑われましたか?どういった状況かは分かりませんが、英人の疑いを晴らす為と思えばDNAのサンプルでもなんでも提供しますよ」
疑問を持つならこんな手間暇をかけさせずにかわすことができただろうという嫌味混じりだ。
千城の態度をもっても、彼女が仕掛けた茶番だと理解するのに、諦めきれないものはなんであるのか…。
時を同じくして妻の百合子が自室に乗りこんできた。険しい顔つきに思わず怯む。
「千城の子を連れたという方がいらっしゃったそうですね」
隠したはずでも耳に入ってしまうのは、従業員の口が軽いからなのか、百合子の責めが厳しいせいか…。
バレるのは時間の問題と思っていた一世だが、その早さに閉口すらする。せめて自分が屋敷を出ていくまで掴まれたくない情報だった。これでますます家を出る時間が遅くなるというものだ。
…いや、出られない、というべきか…。
「何故その場で教えてくださらなかったのかしら。千城の母親は誰かしら?」
「いや、…ゆうべはもう遅かったしな…」
「無駄なお気遣いは結構です。相手の方の身元は?」
「今、調べさせている。千城は身に覚えがないと言っているが…」
一言告げるたびに十は返されそうな大魔神のような迫力だった。
これまでも辛辣な発言があったとしても、ここまで怒りを蓄えた姿は見たことがなく、一世の方が動揺した。
それが一世の対応に関してなのか、千城の態度に対してなのかは判断がつきかねた。
何より、百合子の中に『動揺』というものが一切見られなかった。普通の母親なら突然湧いて出た話に、多少の戸惑いや困惑を見せてもいいはずだろう。
実際一世自身が、慌てふためいてもいたのだから…。
「当然でしょう。いえ、そのような息子に育てた覚えはありません。万が一にも非情な結果が出た時には切腹させていただきますわ」
「おいおい…」
物騒な話にこちらも声を失う。
百合子も有言実行の人間だ。息子に信頼を置いている意味もあるのだろうし、一族の恥を自分で受ける覚悟も窺える。
早急に調べ上げさせた結果は3日後に正確なものとして届けられた。
彼女、堤世里奈(つつみ せりな)、25歳。介護医療を学んだ後に就職して、現在は休職中とのこと。
そのような人間と知りあう機会もなかったのではないかと思われる。
だが、一番驚かせてくれたのは、千城との直接的な繋がりはないが、まったくの他人ではないということだった。
「千城様のサンプルしかいただいておりませんが、同じ遺伝子がございます」
検査結果に一世と百合子が目を剥いたのは言うまでもない。
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理数系は無知と言っていいので詳しくは突っ込まないでくださ~い。
ちーちゃんどこでそんなことに?!
でもちーちゃんはひーちゃんにぞっこんだし~。ん~どこで?
そして百合子ママ切腹って怖いよ~。
一世パパがんばれ~!
でもちーちゃんはひーちゃんにぞっこんだし~。ん~どこで?
そして百合子ママ切腹って怖いよ~。
一世パパがんばれ~!
さえ様
おはようございます。
レス遅れてすみません。
> ちーちゃんどこでそんなことに?!
> でもちーちゃんはひーちゃんにぞっこんだし~。ん~どこで?
> そして百合子ママ切腹って怖いよ~。
> 一世パパがんばれ~!
ちーちゃん、疑いかけられましたけどね。
英人が一番なので動じません。
百合子ママも親の面子があります~(笑)
まぁ、何事もなく片付きましたので…。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
レス遅れてすみません。
> ちーちゃんどこでそんなことに?!
> でもちーちゃんはひーちゃんにぞっこんだし~。ん~どこで?
> そして百合子ママ切腹って怖いよ~。
> 一世パパがんばれ~!
ちーちゃん、疑いかけられましたけどね。
英人が一番なので動じません。
百合子ママも親の面子があります~(笑)
まぁ、何事もなく片付きましたので…。
コメントありがとうございました。
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