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BLの丘
あやつるものよ 22
2011-12-03-Sat  CATEGORY: あやつるものよ
酔って気がゆるんでいることも、だからこそ胸の内が流れていることも岡崎は見逃さない。
千種にとっては今だからこそ伝えられること…。
束の間の沈黙の後、口を開いたのは岡崎だった。
「期待と、不安と…。全てを用意したのは自己満足でしかない。それを無謀と思うかどうかは個人の考えで変わるかな。前にも言ったと思うけど、俺から千種を呼ぶことなんて簡単だろう。千種の意思を無視するという形でさ。そうにはしたくなかったから…。…これは俺自身のけじめだったんだよ。離れればいつか忘れるだろう、新しい何かが待っているだろうって…。だから千種の判断に運命を委ねた。それだけ…」
騒ぎ立てていた空気が一転して重いものに変わるのは、千種の内心を感じ取ったからなのか、岡崎の答えは至極真面目なものだった。
以前にも聞いたことのある決断。
岡崎が会社の話題を持ち出すのを嫌がるのは、当時の事を思い出させて千種の傷を深めると危惧するからであって、だが千種は単に意思を確認したいだけのことだった。
じんわりと響いてくる言葉に、馬鹿なことを聞いてしまったような後悔が生まれた。
岡崎の気持ちは充分なほど感じ取れていたのに…。
「俺…、そこまで真剣に考えていなかった…。もし、俺が来なかったら部長はどうしたんだろうって…」
今になって気付いたことが漏れだす。本当に言いたいことはなんだったのか、少し落ち着いた頭が千種の口を動かした。
「千種が自分を責めることじゃないだろう?俺は『恨みを晴らす為でもいい』って言ったはずだ。それでもそばにいて顔を見せてほしいと望んでいた」
「そ、そんな、はっきり…」
隠すことのない告白には千種の方が照れて俯く。そこまでして欲しかった存在…。
充分なくらい感じられる想い。喜びも憎しみも自分のものにしようとする岡崎の大きさをまた感じた。
「異動願いを出したのは千種への償いもあったんだ。自分だけがのうのうと同じ環境で暮らしていていいはずがないだろう、とね」
全ては勝手な自己満足なのだから気にかける必要はないと、岡崎はチラッと千種を見て微笑んでくる。
そして話を終わりにしてしまおうとする岡崎を感じて千種は思っていたものを打ち明けた。

「俺…、俺、ここに来る時、居場所が見当たらなくて部長に甘えただけだった…。この先どうしようか何も見えなくて、そんな時に声をかけてもらって…。すごく嬉しくて、部長のためになるんだったら何でもしようとか、そんなことも思っていたかもしれない。…気持ちは…、そう思うのは今も変わらないけど…、でもあの、なんて言うか…」
岡崎のようにストレートに声に乗せられない。
躊躇って噤んでしまう間も、岡崎は慌てさせないように静かに時を待ってくれる。
逸る鼓動をどうにか抑えて噛みしめるように言葉を紡ぎだした。
「あの時とは違う。俺は部長がいてくれて頼って、今でも甘えてるけど、それは気が許せているからで…。部長が異動してまで俺のこと求めてくれたのかと知ったら、やっぱり嬉しいし、今は部長のこと好きだし…。本当にそうだったのか知りたかっただけなんだ…。無茶な質問して…スミマセン…。今、…いてくれて本当に良かったって、心の底から感謝している…、います…」
尻すぼみになる声はちゃんと届いただろうか…。気持ちは伝わっただろうか…。
顔を合わせづらく、視線を伏せてしまい、過ぎる街の明りが膝の上を通り過ぎて行った。
何か言ってくれればいいのに…と思う沈黙の間はとても長く感じるもので…。
車はウィンカーを点滅させて道路の端へと寄って行く。そして、停まった。
「え?」
「千種…、ここでそれを言ってくれるかな…」
シートベルトを外した岡崎の体が千種の上へと覆いかぶさってくる。あっという間に唇が塞がれ、熱い舌が潜り込んできた。
「…っ?!」
突然仕掛けられたことに大きな動揺が走る。
いくら人通りが少なかろうがなんだろうが、道端でこのような行為はいかがなものなのだろうか。
突っぱねようとした掌も岡崎の力には敵わず、好き放題に動きまわる岡崎の舌に翻弄された。
酔いのせいか、与えられる熱情か…。頭がぼうっとしてくるこの感触と雰囲気がとても心地良い。
狭い車内には絡み合う唾液の濡れた音が響いた。
家まで待てない思いの丈が伝わる。
「は…、…っふ…」
ようやく放してもらえたのは飲みきれずに溢れた唾液が顎へと流れたころだった。
すっかり息のあがった千種の体を抱きしめてくる。
「どんな理由だっていいよ。俺のそばにいてくれて、今があることが俺にとってどれだけ幸せなことか…。たくさん傷つけてしまった千種を、どんな手を使っても守ってやろうと、あの日に誓った。駅で今にも消えてしまいそうな顔を見て、二度とこんな顔はさせない、と…」
「ぶちょ…」
身を上げた岡崎が、人差し指で千種の唇を押さえる。
怒っているようで、でも嬉しそうで。はにかんだ笑みを浮かべながらボソっと呟く。
「まだ呼ぶか…」
もう一度触れるだけのくちづけを落とした。
何が不満なのかはよく分かる。
「吉良…」
愛しい名を呼べば満足してくれて、「早く帰ろう」と岡崎は体勢を戻した。
小さな照れ隠しを、なんとなく感じた。千種がこんなに感情を晒すことなどなかったから、なのだろう。
思えば、最初の頃、名前を呼ばせようとしつこかったわりに、人前で呼べばはにかんだ笑みを浮かべたような人である。
千種からの突然の行動は意外性を含んで岡崎を刺激するようだ。

「千種、何回『部長』って呼んだか覚えてる?」
「そ、そんなの…分かるわけ…」
「二、三十回は呼んでたな」
「嘘だ―っ。そんなにあるわけないっ」
「お仕置き、しっかりさせてもらうから、覚悟していなさい」
「えぇぇ――っ?!」
神妙な雰囲気の後には楽しげな岡崎の姿。ニヤリと笑われて下半身に熱いものと背中に寒いものが流れ込む。
千種が過去の痛みを克服したと理解できれば、徹底的に避けることなく、多少思い出すような話(この場合、かつての上下関係らしい)をしても問題ないのだろうが、名前だけは譲らなかったようだ。
とはいえ、今後も岡崎の口から会社の話が出ることはないだろう。
今は真実を語る為に仕方がなかったとはいえ、やはり岡崎の中で『あの件』は、千種にとって痛い過去でしかない。
岡崎なりの気遣いを肌で感じるから、千種もこれ以上口にするのはやめにする。
二人で生きていくためのきっかけになったことは、双方で承知していることなのだからあえて話すことでもない。
こうして暮らせる日々があること。喜びが伝わればいい。例え謀られたことであっても…。
進みだした車の中で互いに思うことは一つだ。
『一緒に歩んでいけばいい…』

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25話くらいで終わるかなぁ。
文字数の割に話数は少なかったですね…。
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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-12-03-Sat 12:32 [編集]
岡崎さんがどれほど千種くんのことを大事に思っているのかよーくわかります
どんなことからも守ってあげたいし、たくさん甘やかしたいってことも
この勢いでますます甘々な日々が続くんだろうなーと思います

そしてーー
お仕置き~( ̄`v´ ̄)
吉良「そんなに『部長』を連呼するということはたくさんお仕置きしてほしいってことなんだね」
千種「ち、違います、ぶちょ!」
吉良「明日はおきなくてもいいよ。朝ごはんもつくてあげるから…』
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-12-03-Sat 14:47 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 岡崎さんがどれほど千種くんのことを大事に思っているのかよーくわかります
> どんなことからも守ってあげたいし、たくさん甘やかしたいってことも
> この勢いでますます甘々な日々が続くんだろうなーと思います

もう、めっちゃ愛しているんでしょうね。
何が起ころうが自分の腕の中でくつろいでいればいい…と思っている岡崎です。
甘々のためには努力も惜しまない旦那ですね…。

> そしてーー
> お仕置き~( ̄`v´ ̄)
> 吉良「そんなに『部長』を連呼するということはたくさんお仕置きしてほしいってことなんだね」
> 千種「ち、違います、ぶちょ!」
> 吉良「明日はおきなくてもいいよ。朝ごはんもつくてあげるから…』

お仕置き…。(甲斐様、喜んでいませんか?!)
千種「部長が作る朝ご飯て…(ボソ)」
吉良「今、なんか言ったよね」
千種「いえっ、何もっ、別にっ!!」
吉良「動けない千種のためにとっておきのご飯を用意するからねぇ」
千種「…『動けない』って…、なんだろう…」←考えたくない
吉良「(一日中、動けなくて寝転んでいればいいさ)フフフ」

コメントありがとうございました。

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