2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
あやつるものよ 20
2011-12-01-Thu  CATEGORY: あやつるものよ
千種の中で改めて気付いたこと。…自惚れなのかもしれない。
「一宮、…吉良…、ぁ、…部長が最初から仕組んでいたって言ったよな…?」
「え?あ、うん。異動の話だろ?」
「俺…、着いてこいなんて一言も言われていないんだ…」
「は?!じゃ、何で?!」
一宮は自分の想像が大きく外れたことを今になって知る。疑問は当然のことだろうと千種は内心で苦笑した。
「そりゃ、『良かったら来い』って言われたのはあるけど。でもそれだけ…」
精神的に追い詰められて…のくだり、その辺りの読みは、外れていなかったことになるのだろうが…。
千種が何を言いたいのかと不思議がりながらも、興味をそそられる内容にしっかりと喰いついてくる。
「だけど安城はついてきたんだろ?」
「そうだけど…。気持ち言われたわけでも何でもなかったし…。あの頃、俺、今みたいに部長のこと特別視していなかったと思う…。ふとさぁ、もし俺が来なかったら、部長、どうしてたんだろう…と思って。あと、ここまで来たとして俺が答えることもなかったら…。いつか本社に戻ってたのかなぁ」
同じ役職でも本社と支社では格段の差があった。
千種がついてこなければ、岡崎にも元の鞘に戻れる道を残していた。本社がごたついていると一宮も言っていた。呼び戻される可能性は大だ。
だが、千種がついてきたことで、岡崎はその道を断ち切ってしまった。
ついてきたことは、正しかったのか、間違いだったのか…。
「はあ?!今更何言ってんの?うまく収まっているんだからいいじゃん」
千種はクッと笑みの声をもらす。
『終わり良ければすべて良し』…。過去に”もし”はない。そんな考え方の一宮だ。彼の考え方を知るから打ち明けられること…。
励ましの声にも聞こえた。岡崎をひたすら信じればいいと…。

そうなると後は経過報告とでも言うべきなのか…。
一応の躊躇いはあるものの、言葉が滑りおちてくる。
「…あのさ…、『返事は出発駅で聞く』状態で、ただ同乗の切符だけ渡されて…。でもその日着いたマンション、3LDKだよ。部長一人だったら、あんなの、持て余してるだけだって…」
一緒に生活しているから、より分かる現実問題だ。岡崎にあれだけの部屋数は管理しきれない。
というより、一般論からして一人暮らしで必要な住居ではない。
「えっ?!何っ?!その無謀な計画っ!!つうか行動ってかっ!!」
「だよなぁ…。俺も一宮に言われるまで、全然気付かなかった…」
今にもテーブルの上のものをなぎ倒しそうな勢いで前かがみに寄ってきた一宮に対して、困った笑みが浮かぶ。
千種が岡崎を追って来たか来ないかで、すぐさま選べる物件ではない。
『最初からそのつもり』とは一宮が言った台詞だ。

「部長…、安城が来ると信じていたとか…?」
「駅で二人して、『もう会えないかもしれないって思いながら来た』って言い合った」
「こえぇぇ。でも、さすが。やってくれるぜ、あの人…」
そこまで話せば一宮も呆然とする。しかしながら岡崎の判断に羨望の眼差しも向けられるところだ。
また千種の台詞の中には、千種にも疑惑があったことを伺わせている。
その部分を感じ取れる一宮も大したものである。
「え?ちょっと待て…。駅で…って、…一緒に来た…って、おまえ、荷物どうしたの?」
「いざ裏切られた時のことを考えたら怖くて連絡なんて取れなかったし。だけど部長のこと、信じたかったのもあったし…。地方に飛ばされて恨みを持たれてるんじゃないかって拭いきれなくて…。その時は自分に与えられた罰だって思おうとしたのかも…。…信じる方に賭けて…、…俺、家財道具全部整理して、スーツケース一個で、駅で待ってた…」
「……………、……おまえら、バカ?」
長い沈黙と、キョトンと目をパチクリさせる一宮の前で、今更ながらに乾いた笑い声が喉奥から流れた。
考えても考えなくても、二人して無謀すぎる行動に出ていた。
だけど今となっては、お互いを信じる気持があったからこそ、それぞれの準備ができたのだとも思える。

「あのさぁ…。今更『赤い糸で結ばれていました』とか言わねぇよなぁ。…結局安城は部長に堕ちたわけだろ?それ、つまり何?惚気?」
最後まで言わずとも、勘の働く男は嫌味を交えた。
改めて言われれば照れくさくもあり、自分が何を口走ったのかとも思う。スッと睫毛を伏せると盛大な溜め息が聞こえる。
「人が真剣に話を聞いてやっているのに~っ」、と頬を膨らませる。色気も何も感じられないムサイ男の仕草は、暗かった過去を吹き飛ばしてくれるものになった。
これも一宮の気遣いの一つである。
ただ一言、一宮は「あの時、おまえを気遣う振りして連絡を取らなかったけど、もっと早く事実を教えてやれば良かったな…」と呟いた。
岡崎の『故意』が分かれば、千種が思い悩んだ日々はまた違っていたものになっただろう…。
千種は心の底から、今日一宮と出会えたことを感謝し、未来への期待をまた胸にする。
一宮が一笑してくれたことで、岡崎にも堂々と言える気がした。
成り行きできてしまったかもしれないけれど、今では本当になくてはならない存在になったのだと…。

一頻り談笑して、明日も朝から支社に顔を出すのだという一宮は早目にホテルに戻ると言って席を立った。
ホテルまでは歩いて帰れる距離である。
千種はタクシーでも呼ぼうかと思いを巡らせたのだが、一宮に「部長、外で待ってるから」とそっと囁かれた。
「え?」
「悪い。さっきトイレに行った時に呼んだんだ。部長命令だったんで…」
一宮は悪戯が見つかった少年のように笑っては、肩をすくめてみせた。
千種に余計な話はするなウンヌンのやりとりの時に、すでにつけられていた話だったのだろう。
「な…っ。だったら来ればいいのに…」
「ば~か。俺と部長が揃ったら嫌でも仕事の話が混じるだろうが。それに、当てつけられる俺も嫌です」
岡崎は昔から上下関係を抜きにしたような気さくな飲みの席の雰囲気を作ってくれる。
だが集まれば共通の話題は仕事のことであり、多少なり混じってくるのは否めない。
千種と岡崎のプライベートを知ったとはいえ、一宮に釘を刺した岡崎本人がのこのこ現れるはずもなかった。
しかも今は同期の二人でいる空間。
「あ…」
台詞の後半を強調された千種はすぐに頬を染めた。
居心地の悪さを覚えるのは明らかに一宮のほうである。
揃って店を出ると、駐車場に見慣れた車があった。
一度車を降りた岡崎だが、寄ってくることもない。二人に手を挙げて見せただけで、一宮も軽くお辞儀をして、千種にだけ「じゃあな。なんかあったら連絡寄越せよ」と囁くように言い置いてから歩き出す。
千種の前で、岡崎と一宮の態度は親しい間柄を表してはいなかった。
一宮なりの、岡崎に対する誓いと千種に見せる優しさなのだと思った。
いつか、千種が何も気にせず、三人で顔を合わせられる時がきたらいいと、心の底から思う。
一宮は全てを認めて受け入れてくれているのだ。

とりあえず、初めの一歩くらいのネタは掴んだつもりだった。岡崎には言いたいことがある。
岡崎に近づくと黙ってくしゃりと頭を撫でられた。その手の大きさが温かかった。
岡崎は随分とヤキモキしながら待っていた時間だったのだろう。
好きな酒も飲まずに迎えに来るまでとは、いかに千種を気にかけていたのか…。
ポンと岡崎の胸に額を預けた。
それから、「ありがとう…」と小さい声で囁いた。
千種と一宮の会話の中で何があったのか、その一言でたぶん通じてくれるはずだ。
だけど神妙な姿もそこまで。

「一宮に何言ってんのぉっ!!」
預けたはずの胸には、次の瞬間拳が軽く当たっていた。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです。
いつの間にかお客様が17万名様を越えていました。ありがとうございます。
いよいよ12月ですね。忙しくなる方が多いと思いますが、体調にお気を付けください。

人気ブログランキングへ 

関連記事
トラックバック0 コメント2
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
No title
コメント甲斐 | URL | 2011-12-01-Thu 14:50 [編集]
振り返ってみれば
退路を断ってしまったのは岡崎さんより千種クンのほうが先だったんですね
何があるのかわからないと思いつつ
待ち合わせた場所に行くのに
部屋も過去も、戻れる場所を無くしてから行ったんですから
思い切って飛び込んでよかった
と、今なら言えますけど

ぶちょう~
おさえるとこおさえてますよね
かわいい一人娘を一人で夜道帰らせるなんてことしないと思った♪
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-12-01-Thu 21:02 [編集]
甲斐様
こんばんは。

> 振り返ってみれば
> 退路を断ってしまったのは岡崎さんより千種クンのほうが先だったんですね
> 何があるのかわからないと思いつつ
> 待ち合わせた場所に行くのに
> 部屋も過去も、戻れる場所を無くしてから行ったんですから
> 思い切って飛び込んでよかった
> と、今なら言えますけど

千種は何もかもを投げ打っていましたからね。
その覚悟(荷物全て処分する)が持てた潔さは、やはり性格なんでしょうか。
でもでも、本当に出会えてよかったところです。
同じ場所に佇みながら、出会えなければ互いに連絡を取ろうともしなかった意地。
すれ違いは永遠の溝を生むところを引きあわせてくれました。

えぇ、まさに、今となっては良かったと言えますけど…。
苦しんだ心境を岡崎は良く知っていると思います。
それだけ気にかけたと言うか…。

> ぶちょう~
> おさえるとこおさえてますよね
> かわいい一人娘を一人で夜道帰らせるなんてことしないと思った♪

帰らせませんね~。
ましてや過去の同僚と一緒という、地雷がいたるところに埋められているような空間。
戦地に送りだした親心でしょう。
えぇ、可愛い子に夜道なんて歩かせられませんよ。
どこをとってもバレているけど…。どうでもいいらしいです。

コメントありがとうございました。
トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.