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BLの丘
新しい家族 3
2012-01-09-Mon  CATEGORY: 新しい家族
「事情があるって言ったな。なんだ、その事情ってぇのは」
三隅の声が低く響く。聞いたところで状況は想像できる。
この展開になると分かっていただけに、真庭は言いたくないと頭を抱えながら首を振る。白を切り通してこのまま大人しく帰ってほしかった。
事業主としては、子供が世間を何も知らない今のままで堕としていくのが一番簡単でいい。
三隅が尋ねてくれた内容は、年相応の能力を持たない、無知さを露呈してくれた。
今となっては日生は大事な金づるなのだ。三隅の知らないところで処分してしまいたい。
だが、三隅が聞いてしまった以上、…いや、聞かなくてもこの状況から簡単に引き下がる性格の人間ではないのを知り過ぎていた。
三隅の死んだ妻は施設育ちだった。それ故か家族愛に恵まれなかった人間を誰よりも気にかける。
今現在も、妻が育った施設に寄付金を送っているような人物。
子供には甘い顔を見せても、捨てた親にはヤクザ以上の制裁でも加えているのではないかと思うくらい冷酷な部分を持ち合わせていたが…。
『子供に何の罪がある』…と…。
ヤクザが金を追うなら、三隅は精神を追った。どこの伝手を使うのか、二度と甘い汁は吸わせないといった感じで、束の間の喜びさえ奪った。
だからこうして、真庭とも真正面から向き合える神経を持っているのだろうか…。

双方の意思は黙っていても通じている。
三隅とて、真庭の家業を知るだけに、この子が無事で済むはずがない背景は見えていた。だからこそ、出会ってしまった今、抱いたこの手を離す気にはなれなかった。
真庭が答えないのを都合よく解釈する。黙って首を振られたことは、事情はない…と。
「ならば俺がこの子を連れて帰っても問題ないな?」
もちろんそのことに驚いたのは真庭である。トンビに油揚げをやる気はさすがにない。
「ふ、ざけんなっ!!」
「いくらだ?」
怒声のあとには酷く落ち着いた声が響く。
一瞬何のことだと真庭の動きが止まった。
見据えた先には、同じく自分を見据えている強い眼差しがあった。
これ以上回りくどいやりとりをしたくない思いがふつふつと三隅の中に湧いてきた。
どなり声がするたびに腕の中の日生がビクビクと震えている。彼がこういった声に弱いのはすでに知れた。
「周防、おまえ、何言って…」
「この子はいくらでここに来たんだ?俺が払う」
あまりにも淡々と話されることに真庭のほうが目を剥いた。
人の借金を肩代わりした上に、子育てまでするというのか?!
仮に施設に預けることになったとしても、どうしてそんな大金をこんな子供のために使うのか理解できない。
「おまえ、馬鹿かっ?!三千万だぞっ。何でおまえが…っ!!」
「この子がたったの三千万?!…ふざけんのもいい加減にしろっっ!!!」
真庭の言葉を遮る形で、三隅がテーブルを蹴りあげたおかげで、テーブルの上にあったガラスの灰皿がもれなく真庭の元へと吹っ飛んで行った。
周りを囲んでいた男たちが慌てるものの、普段から三隅は特別視されていたため、どうしたらいいのかと挙動不審に陥る。
肝心の真庭が何も言わないのだから手の出しようがない。

三隅に抱かれた日生は激しい物音に脅えた声をあげて震えながら泣き出した。
危害が絶対に自分に来ると思っていた。どなり声の後には必ず自分が痛い目に合うのが日常だった。
日生を宥めるように、三隅はポンポンと頭と背中を軽く叩いてあやした。こんな子供が親の犠牲で傷つくのはどうにも我慢ならず、居た堪れなかった。
温かく包まれることのなかった日生はそのことにびっくりして顔を上げる。殴られないのかと…。
怒った声を上げた人と同一人物とは思えないほど優しい眼差しで日生を見ていた。指先が絡まった髪を撫でてくれた。
「こんな怖いところにはもういたくないよな。おじちゃんと一緒に行こう」
周りを見渡す中で、一番温かな表情をしているのが、目の前の男だった。
日生は迷うことなくまたぎゅっと首にしがみついた。
三隅は真庭に再び確認をとる。
「父親の名前は?元住所でも何でもいい。奈義が知っていることを全部教えろ。借用書は後で取りに来てやる」
真剣な口調で詰められた時、真庭は何を言っても無駄だということを痛感していた。
そこには呆れと羨望が合い混じっていた。
まっすぐな心は、時に人を傷つける自分たちを無言で貶す。自由に守るものを選べるのは、生きる世界が違う人間だからなのか…。
出会わなければ良かった…と思ったのは、何度目だろうか…。
しかしなにがあろうが正攻法で三隅は切り崩していった。
そう、今のように。
無言の圧力。…『金が入ればこのガキに用はないんだろう』と…。
…そのとおりでございます…と答えるのも、もう癪だ。
「テメェっ、きっちり払えよっ!」
親に関する書類を叩きつけながら嫌味で告げたら、「明日小切手を送らせる」と、もっと嫌味な答えが返ってきた。
三千万の金は一晩で用意できるらしい…。
おまけで付いてきた言葉は、「これ以上利息を取られたくないからな」というものだった。

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