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BLの丘
新しい家族 7
2012-01-13-Fri  CATEGORY: 新しい家族
家に帰ってから、まず風呂に入れた。日生が着ていた服を振り返ってもそうだが、衛生的な生活を送っていたとは思えなかった。
「ひな。先にお風呂に入っちゃおう」
風呂を沸かす準備をしてから、購入してきた新品の下着とパジャマを取り出してくる。
『風呂』と言っただけで、また日生の動きが固まった。和紀はここでも虐待があったのかと即座に悟ってしまった。
日生の前に膝をついて「お兄ちゃんと一緒に入ろう。綺麗になったらご飯にするからね」と促す。
とにかく一度、どんなものなのかを体験させて脅えることはないのだと意識をすり替えなければならない。
脱衣所まで連れて行き、先にさっさと裸になると、日生が脅えつつ、また不思議そうに和紀を見上げた。
「おにぃちゃんも一緒?」
「そうだよ」
日生にも脱ぐよう促すが、着慣れない服のせいか、自分でやった方が早いと、「ばんざーい」と声をかけた。手早く脱がし湯気の沸くバスルームに抱き入れた。
シャワーヘッドを手にすると、それに脅えを表してくる。
…水が原因か…。まぁそれ以外のものはここにはないのだけれど…。話にだけ聞いたことのある世界をそっと思い浮かべた。
湯が日生に当たらない位置で手に湯をかけて温度を確かめる。
「ひな。その椅子に座って」
「え?」
「何か怖い?ひなの体を洗うだけだよ」
和紀はここでも床に膝をつく。子供と視線を合わせることは誰に聞いた話だったか…。

ビクビクしながらそれでも日生は大人しく椅子に腰かけた。
日生の今までの『お風呂』とは、裸にされて立たされて、頭からぬるま湯のシャワーをかけられる程度のものだった。
たまにタオルでゴシゴシと擦られて、白い肌が赤くなったりした。
寒くて痛くて、喚くと近所迷惑だと殴られる。週に一度か二度、あるかないかの『お風呂』は避けて通りたいことだった。
目の前に立つ男は、父親よりもずっと体格が良い。服を脱いだら余計にはっきりと分かる。
ひょろひょろとしていた父親と違って、身長もあり、しっかりとした筋肉が胸にも腕にもついていて屈強なのが一目瞭然だ。
こんな人に押さえつけられたらひとたまりもない。もともと逆らう気はなかったけど…。
ただ唯一、出会ってからの一連の動作が日生の恐怖心を薄れさせる。

足元から湯を当ててやると少しは落ち着いてきたのかホッと息がもれた。
「頭…、頭ってどうやって洗ってやりゃあいいんだ?」
頭上からいきなりお湯をかけるのも可哀想だし…と思案するが名案は浮かばない。
とりあえず顔にかからないように髪を濡らしはするが、日生が俯いてしまうのでお湯が垂れてしまう。
これで泡立てたら目に入ってしまう…。
と、ふと、仰向けに寝転がせればいいと思いついた。
椅子に自分が座って膝の上に横向きに日生を座らせる。胸の上から包むように背中を抱いて寝そべらせ、もう片方の手で後ろから洗った。片手で洗うのが辛かったが頭部自体が小さいのでできなくはない。
不安そうに日生が見上げてくるのを笑顔でやり過ごす。顔が見えるから寧ろ安心かもしれない。
「俺って天才じゃーん」
機嫌良く和紀が呟くのを日生も感じ取ったのか、意味が分かっているのか、ふふふと口元をほころばせた。
泡立ちが悪くシャンプーは三度になってしまったが、洗い流す時にうっとりと瞼を閉じる日生を見て、安堵の息をついた。
同時に子育ての素質があるのではないかと変に感心していたりしたが…。

体の方もなかなか泡立たなかった。力を入れずに洗ったつもりだったのだが、二度三度と繰り返すうちに白い肌が赤くなり始めて、擦り過ぎかと焦った。
血行が良くなっての赤みが増すのであればいいのだが、日生に「痛い?」と聞いても首を横に振られるだけだ。
我慢をさせているのであれば悪いことこの上ない。
全てを洗いあげ、先に浴槽に入っているよう抱き上げて入れると突っ立ったままでいる。
「ひな?沈まないの?温まらないとだめだよ」
この時になって子供用のおもちゃを買ってきてあげれば良かったかと思ったのはさておき。
確かにそのままぺたんと腰をつけば溺れてしまうが、膝を曲げるくらいはできるだろう。
動かない日生を半身浴用の段差に座らせて、和紀は手早く体だけを洗った。自分はまた後で入ればいい。
バスタブに落ち着いて日生を膝の上に引き寄せる。
一瞬抵抗があったようだが、「肩まで温まらないと」と自分の膝の上で背を預けさせれば、特に危険はないと判断してくれたのか大人しくちょこんと座った。膝の上で、ちょうど日生の肩が浸かることを知った。

自分は一体幾つまで親と一緒に風呂に入っていただろう…と振り返る。
父親と一緒に入浴した記憶はほとんどない。
母親は先が短いことを知っていたからなのか、なんでも和紀に一人で出来るようにとやらせた。入浴もその一つだと思う。
先程日生が『お兄ちゃんも一緒?』と聞いたのは、日生一人で入れた…ということになるのだろうか。
とてもそうは思えないが…。
「ひな。自分で体洗えるの?」
濡れた髪を指先で梳いてやりながら尋ねると、首を横に振られた。
やっぱりな…と内心で呟いて、ならば何故疑問を持たれたのかと考える。誰かと一緒に入るのが普通だろう。
虐待の件があったとしても不思議がることはないと思うのだが…。

まぁいいや、と和紀は考えることを放棄した。日生が飽きないかなと気遣う。
「ひな、湯加減どう?熱くない?いつもこれくらいのお湯だった?」
温度を聞くと日生は首を傾げてから少し俯いた。
「……ない…」
「ん?」
小さく発される声が聞きとれず、覗きこむように顔を寄せると、「はいったことない…」と驚愕の答えが返ってきた。
「え?ないって…?お風呂どうしてたの…?」
「シャワー…」
「ずっと?」
「…うん…」
和紀から盛大な溜め息が零れる。
シャワーのみであれば一緒に入った人間に(一緒に入ったかも怪しいが)ところ構わず浴びせられてもおかしくない。その様子が目に浮かんでくるようだった。日生がシャワーヘッドに脅えを表したのも理解できる。
心が休まる場所なんて、この子にはなかったんだろう…。
「お風呂はこうやってちゃんと温まるんだよ。明日またおもちゃを買いに行こう。今日は…そうだな。水鉄砲~」
落ち込みたくなる気分を払拭する。安らげる場所に変わってくれたらいい。
和紀は日生が飽きずに沈んでいられる方法を模索した。日生の目の前で両手を組み合わせて指の間から水を飛ばして見せた。
ぴゅっと飛んでいく様子に驚いたのか、大きな目をぱちくりさせている。
振り返って仰ぎ見る仕草が実に可愛いと思った。どうなっているのかと瞳だけで疑問を運んでくる。
「ほら、もう一回」
それから右だ左だと狙いをつける和紀に、初めて日生のはしゃぐ声が響いた。

日生の髪の毛は茶色くてとても柔らかかった。今が伸ばしっぱなしの状態で、癖がかかっているのが跳ね具合で分かる。
ドライヤーの熱を当てながら、指の間をするりと抜けていく細さに、自分の真っ黒な剛毛な髪質と比較してしまう。
ふと、TVCMを思い出した。
『お子様にも使えるナントカ…』…。
それがボディソープのCMだったのかなんだったのか今は定かでない。
だが、これまで付き合った彼女たちが、『髪質がドウノコウノ…』と言っていたのを思い出すと、自分たちの備品を日生に宛がってはいけなかったのではないかと疑問が湧く。
和紀と三隅はそういったものに全く頓着しないので、家政婦の清音が用意してくれるものを使っているだけだった。
もちろん、父親が使う『育毛剤』とやらには手出ししないが…。

子供には子供用というものがあったのだろうか…。
今となってはどうすることもできず、とにかくさっぱりして日生もご満悦の様子なのだから良しとしよう、と、和紀は内心で締めくくった。


あひる
我が家にある計量カップですが…。ひなが遊べそうな玩具になりそうです。
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