2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
新しい家族 6
2012-01-12-Thu  CATEGORY: 新しい家族
近くのベンチに並んで座ってからポップコーンのカップを渡した。座った太腿の間にカップを挟んでおけば落とすこともない。
不安げだった態度も和紀が変わらずにいることで軟化してくる。
待ち焦がれていたはずなのに、本当にいいのか?と伺うような見上げる瞳に笑顔で答えてやる。
急いたように小さな指がカップの中に潜り込んでいった。改めて口に含めば、味が広がったのかふわっと笑みが見えた。
日生はこんなに甘くておいしいお菓子は食べたことがないと心が躍った。いや、お菓子自体、口にしたことがないと言っていい。夢中で次を掴み上げる。
一度は落としてしまったのに、殴られもしなかったのが不思議だった。それどころかまた新しく買ってくれた。
胸の奥がじんわりと温かくなる。三隅と和紀は、今まで日生が出会ってきた『大人』とは違うのだと感じることができた。

慌てて口に入れてはむせている。そんな光景が嬉しいのに心が締めつけられた。
「ひな。誰もとって食べないから。ゆっくりでいいんだよ」
和紀は少し離れた場所にあった自動販売機から、自分の缶コーヒーとキャラクターのイラストが描かれたオレンジジュースのペットボトルを買った。
日生はポップコーンに夢中になり過ぎていて、和紀が立ったことにも気付かない様子だった。
キャップを外し、目の前に見せてやると、水分が欲しかったのか手に取ろうとするのを止めて、飲ませてやった。
さすがにこれを落とされるのは困る。
ペットボトルの口が離れると、日生の小さな手はまたカップと口を往復し始めた。
幾度も日生の柔らかくて絡まった茶色の髪を撫でた。まだ先程出会ったばかりなのに、とても愛しい存在へと変化を遂げている。
今のこの一瞬、ただの同情だから、と思いたくない。この先も自分で守るのだと、不思議と心で感じた。
施設で『みんなと一緒』ではなくて、『一人』として見守りたかった。
父が『施設は無理』と言ったのも、なんとなく理解できてくる。集団の中に入れたら自己主張できない日生は確実に埋もれてしまうだろう。
こんなに可愛い子がどうしてあんな傷を負わなければならなかったのだろうかと怒りは鎮まることがない。
これまでの苦労を思うと言葉を失う。何をしてあげられるのか、どうしたらいいのか…。

そういえば、家に帰ったところで日生が口にできるような食べ物があっただろうか…と和紀は頭を巡らせた。
必要になる日用品ももちろん分からなかったが、まずは食べ物を手に入れないと…と思った。
自分たちの食事は清音にまかせっきりだ。それらが食べられないこともないだろうが、味付けはどうしたって大人好みに仕上がっている。
それに今日は三隅が夕食を必要としない予定だったから、あり合わせで一人前、和紀の分だけを用意してもらっていた。
手にしたペットボトルを見下ろしても、だ。自分たちが飲むアルコールはあっても子供用のジュースなどあるわけがない。
かといって何を揃えたらいいのやら…。また壁にぶつかる。

日生はカップの底が見えた時、もう終わりなんだ…という物悲しさに覆われた。
だけど一人で一つ、丸ごと食べられたのは満足できることでもあった。生まれて初めてのこと。しかもこんなに美味しいお菓子を…。
カップについたカスも指になすりつけて舐める。カップを逆さまにしたらパラパラとくずが落ちてきた。
まだ残っていないかと何度か振ってみた。

気付くと日生は買ったばかりの服の上にボロボロと零し、手は舐めたのかドロドロになっていた。
そして、もうないのかとカップを逆さまに振っていた。
打ち出の小槌じゃあるまいし、それ以上出てくるわけがない。思わず苦笑いを浮かべてカップを取り上げた。
「もう終わりだね。またここに来たら買ってあげるから」
日生は一瞬悲しそうな表情を見せたが、分かっているのか、また頷くにとどまった。でも『また買ってあげる』の言葉に笑顔をのぞかせる。
立たせてパンパンと軽く汚れを落とす。カップをゴミ箱に捨て、近くに備えられた手洗い台へと連れて行って手を洗わせた。だけど日生は指の間など上手に洗いきれなくて、結局和紀も一緒になって洗っていた。
この歳になっても日生はできないことが多いと漠然と感じる。

スーパーで、子連れの親が選んでいるものを盗み見ながら、日生が食せそうなものを探した。レトルトのカレーとキャラクターのパッケージのパン、ジュース、お菓子を数品カゴに入れた。
明日になれば清音が来てくれるから、それまでのつなぎでいい。
「ひな。何か食べたいもの、ある?」
ここでも日生は興味を惹かれてキョロキョロし、時折すれ違う人にぶつかっていた。
珍しいものが多いのか見たいのだろうが、むやみに手を出してはいけないと思っているのか躾けられたのか、眺めるだけにとどまっている。
和紀がお菓子を選んでいる最中も、大人しく隣に立って首を動かしているだけだった。
普通の子供ならあれこれと掴んで、最悪カゴに忍ばせているものだ。
問いかけたことに対して、モジモジとするのは答えてもいいのかと思案しているからなのか…。
なかなか言葉が零れてこない。
和紀はまた日生の前にしゃがんだ。
「ひな。欲しいものがあるの?」
欲求の一つも口にできないなんて不憫過ぎる…。常日頃我が儘を言って、その辺で叱られている子供とは違う。
寧ろ、それくらいまで自己主張してほしいとすら願った。ずっと耐えるだけの生活は忘れてほしい。
「…ぷりん…」
蚊の鳴くような小さな声だった。雑踏に消えてしまうのではないかと思うくらいに…。
「プリン?」
尋ね返すと、またこくりと頷く。
たったそれだけの一言を口にするために、どれだけの勇気を必要としたのかと思わせるくらい上目遣いの伺う態度で、また言い終わればすぐに床へと視線を落とした。
和紀はくしゃくしゃと頭を撫でて笑顔で答えた。
「よし。じゃあプリンを買って帰ろう。でもプリンは家に帰ってからだよ」
元気な声で告げると、パァッと華が開いたように笑顔を浮かべた日生がいた。
その無邪気な笑顔に、驚かされたのは和紀の方だった。ずっと俯いていたその表情が、ようやく自分に気を許してくれた証拠のような気がして…。
瞼の奥が熱くなりかけてどうにか踏みとどまる。
…プリン一個でこの笑顔が見られるのか…。
何故か和紀はそんなことを思っていた。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
人気ブログランキングへ 
ポチっていただけると嬉しいです。
まだ当分育児日誌が続きます…(汗)
関連記事
トラックバック0 コメント2
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
No title
コメントけいったん | URL | 2012-01-12-Thu 10:24 [編集]
”ひな”が、とにかく可愛い~(*^▽^*)b

時々見せる笑顔に 胸がキュンと締め付けられる!
もっともっと 笑って♪
三隅親子の許で過ごせば 屈託なく大きな声で笑う”ひな”が、見れる日も そう遠く無いでしょうね。

☆⌒v⌒v⌒ヾ(((o^Θ^o)))ノ"彡~~~チュンチュン♪...byebye☆  
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-12-Thu 21:48 [編集]
けいったん様
こんばんは~。

> ”ひな”が、とにかく可愛い~(*^▽^*)b

ひな、可愛いですか?!
世間知らずなガキンチョ様です。
何も知らないから余計に無垢なところが~~~。

> 時々見せる笑顔に 胸がキュンと締め付けられる!
> もっともっと 笑って♪
> 三隅親子の許で過ごせば 屈託なく大きな声で笑う”ひな”が、見れる日も そう遠く無いでしょうね。
>
> ☆⌒v⌒v⌒ヾ(((o^Θ^o)))ノ"彡~~~チュンチュン♪...byebye☆  

チュンチュンなんだかピヨピヨなんだか…。(←鳴き声?!)
もっともっとって三隅親子は願うんでしょうね。
いつか、大声で笑う”ひな”…。
天真爛漫っていうか、無邪気っていうか…。可愛いんだろうなぁ(byお兄ちゃん)
そんな未来を想像しましょう。
コメントありがとうございました。

トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.