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BLの丘
新しい家族 2
2012-01-08-Sun  CATEGORY: 新しい家族
ドアの外から聞こえた『三隅』という名前に、咄嗟に真庭は「入れるなっ」と怒鳴ったが、ほぼ同時に勝手にドアが開かれた。入ってきた男の意思で開けられたものらしい。
真庭と同じくらいの歳の頃、四十代の半ばと思われる大柄の男は、これまで見ていた黒い服の男たちとは雰囲気が違っていた。
ダークブラウンのスーツをきちっと着こなし、白いものが混じる髪も撫でつけられている。
強面の者たちと比べるとふんわりとした優しさが滲み出ている。
日生は相変わらず状況が分からず、呆然と成り行きを見守るしかなかった。
彼の後ろで慌てた、彼より小柄な男が言葉だけで引き止めようとしているのが見えたが、全く聞いていない様子だった。
「『入れるな』だと?随分なお出迎えだな。―――おい、なんだ、この子は?!」
事務所内に入れば嫌でも目につく異質な子供の存在。
驚愕の視線を子供に向け、直後に真庭を睨みつけてくる。
思わず額に手を押し当てたのは真庭だった。

真庭と三隅周防(みすみ すおう)は小学校からの腐れ縁、悪友と言える存在だった。
片や極道、片や真っ当な貿易会社の社長である。
世間に知られればあれこれと陰口を叩かれそうな三隅であるのに、付き合いはあくまでも個人的なものと分けており、事業に関わることはない。
とはいえ、さすがに世間体があるため、顔を合わせるのは年に数度くらいだ。
誰にでも睨みをきかせる真庭だが、唯一というくらい頭が上がらないのが三隅だった。
学生時代から真庭は友人ができにくかった。家庭事情が大きな原因である。
敷かれたレールの上を歩かざるを得なかった真庭の行く末は知れており、関わり合いになりたくない人間がほとんど。
また三隅は、父の経営する会社を継ぐのだと漠然と思うものがあったからなのか、気軽に付き合えないと一線を引かれていた。
将来が早くから決まっていたような二人は、他の人間とは感覚が少々違っており、何事においても冷めた目で見ていた。
人との付き合いにあまりこだわりのなかった三隅がいつも一人でいる真庭に声をかけたのがきっかけだったか…。
若気の至りか、いつも護衛のつく真庭が隙をみて、三隅を連れて夜遊びに出た時、どこからつけられていたのか、繁華街のど真ん中で真庭を狙った殺傷事件が起きた。
その時、先に気付いた三隅が庇って犠牲になった。
直後追いかけてきた護衛の集団がいたのだが、相手はその存在を知って場所を選ばなかったらしい。何が何でもと命令されていたのだろう。
慌てていて狙いを定められなかったのが幸いしたが、三隅は腕をざっくりと切られた。当時から体格の良かった三隅に助けられた形だった。
実はそんなことが幾度かあったりする。
精神的な面でも三隅は落ち着きがあり、自然と緊張感を解かせる。
初めて声をかけられた時、素直に三隅の言葉を受け入れられたのも、彼が纏うオーラが見えたからだったのかもしれない。
普段の威厳が全く通じない相手、というより、気を許せる相手…だろうか。
もちろんそんなことを認めたくない真庭ではあるのだが…。
命の恩人、と勝手に位置付けてそばにいてもらっているのは真庭のほうだった。

日生は大股で近づいてくる男を見上げた。今まで見た男たちの中では一番背が高いだろうなと何となしに思う。
「どうしてこんな事務所に子供がいるんだ?」
疑問はもちろん真庭に向けられたものだ。真庭は見られたものは仕方ないと自棄になりながら口を開く。
三隅が子供に対して口うるさいのは、誰よりも真庭が知ることだった。
特にこういった、一人ぼっちの子に…。
「事情があって預かったんだよっ」
「事情?おまえんとこの事情なんてろくでもない内容だろう」
「うるせー。関係ねぇだろ」
「どこの子だよ?」
「親戚の子」
「親戚~?おまえの親戚にこんな仕度をさせる子供はいないだろう」
苦々しい頭上のやり取りをキョトンと見上げていると、三隅が腰を曲げていきなり日生の脇の下に手を入れてきた。
日生が恐怖に脅える暇もない勢いで、三隅は徐に抱き上げた。尻の下に腕を回されて支えられる。
突然のことに日生は驚いて、また今まで抱きあげられたことなどなかったからいきなり視界が高く変わったことと、このまま叩き落とされるのではないのかという恐怖で咄嗟に三隅の首にしがみついた。両足も腰にしっかり巻きつく。
そのことを三隅は、こんなところに連れてこられて…という意味にとった。
「あぁ、怖かったよな~。こんなオヤジ共に囲まれて」
「おいっ」
「ボク、名前は?」
真庭が止めるのも聞かず、三隅は真庭に対するものとは全く違う優しい声をかけた。
声の柔らかさを感じて日生は顔をあげて正面から三隅を見つめる。
「ひなせ…」
「ひなせ。名字は?」
真庭は「チッ」と大きな舌打ちをした。日生の身元が割れれば売り飛ばすことなんか到底無理な話になる。
他の人間相手だったら強引に事が運べても、三隅相手に弱腰になってしまうのは、自分の弱さでもあった。
だが『三千万円』だ…。
日生は男の話す意味が分からず首を傾げた。
「みょうじ?」
おっとりと問い返されたことに、三隅と真庭の二人が同時に眉間に皺を寄せた。
三隅がすぐに真庭を見下ろす。だがそこでは声をかけず、再び日生に問いかけた。
「何歳?」
「七、…八歳…」
日生は言いかけた言葉を飲み込む。確か父親が『八歳』と言ったのを思い出した。間違えた事を言って、あとで殴られたり蹴られるのは嫌だ…。
ためらいがちに話す舌足らずな口調に、三隅の眉間の皺はますます濃くなった。世間の子供から完全に離れていることを即座に感じ取る。
例え七歳であろうが八歳であろうが、自分のフルネームくらい言えるものだろう。日生の反応は、三、四歳児となんら変わらないものだった。
三隅は日生を抱いたまま、真庭の正面のソファに腰を下ろした。

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コメント | | 2012-01-08-Sun 00:38 [編集]
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No title
コメントしろ | URL | 2012-01-08-Sun 23:26 [編集]
日生けなげですなぁ(>_<)

楽しく読んでますよー(^◇^)
今年もよろしくお願いします。
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