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BLの丘
新しい家族 5
2012-01-11-Wed  CATEGORY: 新しい家族
和紀はソファの前、ラグの上に膝を下ろして日生と視線を合わせた。
日生がビクビクしながら和紀を見返してくる。
「日生…くん?」
和紀が確認するよう名前を呼ぶと、こくりと小さく頷いた。
施設には何度も連れて行ってもらっていたから、子供と触れあったこともある。大したことをしたわけではないが…。
「よし。じゃあお兄ちゃんとお出かけしよっかー」
努めて明るく話しかけたつもりだった。慣れない場所に連れてこられて緊張しているだけなのだと思った。
頭の一つでも撫でてやろうと手を伸ばすと同時に、ビクンっと大きく日生の体が跳ねた。
「え?」
和紀の手が触れる前に離れる。脅えた目があまりにも衝撃的で、何故に脅えられるのかが理解できなかった。
確かに『見知らぬ人に付いていってはいけません』的な教えがあったとしても…だ。
「日生。お兄ちゃん、何もしないよ。今は車に乗って買い物に行こう。で、またここに帰ってくるんだよ」
できるだけ優しく語りかける。父親が連れてきた子供は何人か見た。すぐに施設に引き取られたが、一緒に住むと語られたのは初めてのことだ。
それだけ深い事情があったのだろうか。
また違うところに連れて行かれるのではないかという不安を拭うように、うちに帰ってくることを強調してみたのだが。
少しぐらいは子供に慣れたところもあるかと思っていたが、自惚れだったのだろうか。
知らない人の前でいきなり人懐っこくもならないだろう。こちらから歩み寄らなければ心は解れないのではないかと和紀は考える。
日生は分かっているのか分かっていないのか、ただ、うん、とだけ頷いた。
和紀が立ち上がるとソファを下りて後を付いてこようとする。
座っていた時には特に気にならなかったが、身につけているものは誰かのおさがりか、ダボダボとしていてみっともない気がした。
失礼ながら連れて歩くにも少々憚られるような気がして、まずは衣料品店かなと頭を巡らせる。
当然ながら子供服など買ったことはない。見かけたことがある店…。
さらに日用品までまとめて購入できる場所…。郊外にある大型のスーパーに行くことにした。

こんなところには来たこともないのか、日生は建物を前にひたすらキョロキョロとしている。
すぐにでも迷子になりそうな気がして、車から降りてすぐに和紀は日生の前で腰を折った。
「迷子になったら困っちゃうから、お兄ちゃんと手をつないでもいい?」
迂闊に触れられることを嫌がるのかと、一応断りを入れると、また無言でうなずいて、差し出した掌に小さな手を乗せてきた。
そのあまりの小ささに分かっていながら和紀の方が驚いたくらいだった。
か弱いものの象徴である気がした。
真っ先に向かった衣料品コーナーで女性店員をつかまえて、日生に合いそうなサイズのものを探してもらう。
今着ている服があまりにも大きすぎて、「一度サイズを計りましょう」と店員と日生のふたりは試着室に入った。
和紀はその間外で待つことにしたのだが、その時ですら日生は脅えた視線を和紀に向けてきた。女性になら甘えるかとも思ったが違っていたようだ。どうしたのかと訝るが、「大丈夫だよ」と頭を撫でて見送った。
だがすぐに中から「お客様――っ!!」と奇声を上げる店員の声が響いた。
何事だろうと和紀は胸騒ぎを覚える。
「え?!あの、なにか、どうか…?」
日生と一緒に試着室に入っていた店員が青ざめながらそっと少しだけ扉を開けた。
中を見てもいいものだろうか、悩む間もなく店員に「これは…っ?!」と詰問される。
顔一つ分、扉を開けて覗きこんだ先、パンツ一枚にされた日生がガタガタと両の拳を唇の前で重ねて震えながら立っていた。そして目に映った背中の、丸く焼け焦げた痕がいくつか…。
それが煙草の火を押し付けられた痕だと判断できるまで時間を要さなかった。
「な…っ?!」
和紀もあまりのことに目を見開いて凝視してしまう。この場で、これ以上何をされるのかと完全に脅えた目があまりにも痛々しかった。
「こんな…っ、ひどい…っ!!」
この時和紀は、頭の中で点が線になったと思った。
何もかも合点がいく。触れようとするたびにビクッと反応したことも大人に対して恐怖心を抱いていることも。何かを言っても意思表示なくただ頷いて従ってくることも…。
彼は常に『虐待』の中にいたのだ…。見知らぬ人間は全て恐怖の対象…。

和紀の声のほうが震えた。
「あ、とで確認してみます。…っ、すみませんが、あの、なんでもいいです。何点か見繕ってもらえますか?」
和紀の反応に店員も原因が違うところにあるのだと分かったのだろう。あとは余計な問題に巻き込まれたくないか…。
試着室を出て行った店員の代わりに、その場で膝をついた和紀は、震える日生を腕に抱きしめて指の腹に引っ掛かる背中を撫でた。
「大丈夫だよ。もう心配しなくていいから…。…守ってあげるから…。お兄ちゃんが守ってあげるから…っ」
淡々と過ごしてきた日々の中に突然吹いた風。初めて抱いた憎悪と慈愛だった。

目にするのがおぞましく、まず下着を着せて隠してから、日生に似合いそうな服を選んできてくれた。
「色が白いから明るい服が映えますね」
傷のことさえなければコーディネイトを楽しむ『親』となった女性店員に感心しつつ、購入した服に着替えて、これまで着てきた服の処分を頼んだ。
数点の洋服と下着を紙袋に入れてもらい、和紀と日生は売り場を後にした。
きちんとした服に身を包んだ時、和紀は日生の見栄えの良さを感じ取ることができた。ボロボロな姿だったが、きちんと着飾れば贔屓目でなくても『可愛い』部類に入るはずだ。

「必要なもの…って…、あと何が要るんだろう…」
あたりまえだが、身近に子育てに勤しむ友人はいない。おかげで全く分からない。
意味もなく歩きだし、どこに向かおうかと悩む和紀の手が、少しだけ後ろに引かれた。
日生とは手をつないでいたから、自分の歩みが早かったのかと振り返ると、テナントの一つに視線を向け、不思議そうにポップコーンが回っている機械を見ていた。
周囲にはキャラメルの香りが漂っている。
人差し指を口に入れてしまうあたり、もしかして欲しいのかと日生を覗きこんだ。
「ひな、食べたいの?」
問えばビクッとしたが、『食べる』ということに反応する。
「食べられるの?」
たどたどしい答え方は初めて見たものだと伝えてくる。くるくる回る物体は香りこそいいものの、食べ物とは思えなかったのだろう。
「もちろん。ポップコーン。知らない?」
極力目線を合わせるようにして話しかけると、小さく首を縦に動かす。
初めてのものなら興味を惹かれて当然のことだった。
「食べる?」
和紀がもう一度確認すると、何故か慌てたようにブンブンと首を横に振った。欲しい、ということがまるで悪いことだと言わんばかりに…。
子供が欲求を口にすることの何がいけないことなのか…。そう思わせてしまうことがまた悲しさを誘う。
和紀はそれ以上日生の意見を求めず、ポップコーンを一つ購入した。店員が円筒状のカップに掬い入れてくれる。
一瞬驚いた日生だったが、両手の間に握らされてようやく自分にもらえたのだと嬉しさが湧く。
しかし、日生が片手で持つには大きすぎるカップだった。
早速中身を掴もうと片手を離した途端、カップは地面に落下したのだ。
「あ―――っ!!!」
悲鳴のような声をあげて、日生は床にしゃがみこんで膝をついた。それから落ちたポップコーンを慌ててつかんで口に入れた。
その光景に驚いたのは和紀のほうで、「ひなっ!」と背後から抱き上げる。
和紀の声に我に返ったのか、それともまた怒られると思ったのか、頭を抱えるように身を竦ませた。
肌を通して彼を震撼させたのが嫌でも伝わった和紀だった。和紀が上げた制止の声は、暴力を振るわれることにしかつながっていない。
…この子は、どれほど食に飢えて、かつ、脅えていたのだろう…。
「ひな、怒らないから。でも落ちたものを食べちゃダメだ」
すぐにでも泣き出しそうな日生を腕の中へと抱きあげ宥めて言い聞かせる。和紀はもう一つ購入すると、掃除もお願いしてきた。
首に巻きついてくる腕が激しく許しを乞うているようで、それもまた悲しい。

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ずっとコメント放ったらかしですみませんでした。
ぼちぼちレス書いていこうと思います。
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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-01-11-Wed 01:30 [編集]
今日から オープンコメですね~♪アリ*:・(*-ω人)・:*ガト

日生が幼気(いたいけ)で 三隅親子の慈愛の情が沸々と湧き上がる気持ちは、読者も一緒だからね!

三隅親子のいっぱいの愛情で 可愛い”ひな”が、どんな風に育って行くのかな。
すっごく すっごく楽しみ♪(⌒▽⌒)b

ところで きえ様、私の大好きな三隅周防の活躍は 今後もあり?
あの凛々しくて毅然とした姿が・・・(〃∇〃).。oO...byebye☆ 
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-11-Wed 07:04 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 今日から オープンコメですね~♪アリ*:・(*-ω人)・:*ガト

いつもありがたいです。

> 日生が幼気(いたいけ)で 三隅親子の慈愛の情が沸々と湧き上がる気持ちは、読者も一緒だからね!
>
> 三隅親子のいっぱいの愛情で 可愛い”ひな”が、どんな風に育って行くのかな。
> すっごく すっごく楽しみ♪(⌒▽⌒)b

こんな偶然がΣ( ̄□ ̄;)
日生=ひな=雛
言われて気付いた!
三隅親子からみたら確かに"ひな"ですね…。
どんな白鳥になるんでしょう。

> ところで きえ様、私の大好きな三隅周防の活躍は 今後もあり?
> あの凛々しくて毅然とした姿が・・・(〃∇〃).。oO...byebye☆ 

周防パパはこの後も一応(←)出てきます。
活躍は…あるのかなぁ。
ま、家族ですからね(?!)
コメントありがとうございました。
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