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BLの丘
新しい家族 9
2012-01-15-Sun  CATEGORY: 新しい家族
「戸籍がないってどういうこと?」
唐突に告げられた日生の出生に、和紀は疑問だらけで真向かいの父親に尋ねた。
二人はダイニングテーブルでビールを流しこみながらピーナッツとさきいかという乾きものを口に含んでいた。
父子二人のためか、三隅家の親子関係はとても仲がいいものだった。気軽に何でも話し合う。それこそ兄弟のいなかった和紀にしてみたら、父でありながら兄だった。
そう思わせる雰囲気作りを三隅もしていたことになるが…。世間の『父親』より気が若い人だとは和紀が感じることで、隠した自慢でもあった。
和紀が虐待の件を知っていたのかと持ち出そうとする前に告げられたのがソレで、どこから反応していいのか分からなくなる。
「たぶん母親ってやつが産み落としてそのままにしたんだろうな。届け出を出さなければ戸籍に上らないし」
「どっかの国じゃあるまいし、日本でそんなことがあるの?!」
「現実にあったわけだ…」
「そういや、さっき親父、ひなの歳を…」
「今となっちゃ、疑問だな…」
八歳と聞いた。見た目はとてもそんなふうに見えないが、子供の成長には個人差があるので何とも言えない。
日生はただでさえ、まともな栄養を摂らずに育っているのだろう。
言動が幼稚なままでいるので余計に幼く見せる。教える人間もいなかった。何もかもが見よう見真似なのだ。
戸籍がなければ学校に通うこともない。保険証もない。世間から隠してきた存在…。
たぶん、住んでいたというアパートからも、ほとんど出たことがないのだと思われる。父親は存在がバレて通報されるようなことを避けていたのではないか。
弁護士と話した内容を振り返りながら、三隅は溜め息と焦燥にかられる。戸籍は父親のもとで作ってもらうことで話がついた。親の確認など取ってはいないが、その辺は弁護士がうまくことを運んでくれるだろう。籍さえあればあとはどうにでもいじることができる。

和紀は考え込みながら理解できたことを口にした。
「父親にとっては邪魔な存在でしかなかったんだ…。殺さないだけマシってやつか…。だからあんなに辛く当ったんだ…。ひな、さぁ…。手を伸ばすとぶたれるんじゃないかってビクつくし、背中にいくつも煙草を押し付けられた火傷、持ってたんだよ…」
「なんだとっ?!」
さすがにその事実は知らなかったのか、三隅の激昂ぶりに和紀も後ろに引いてしまった。
殴る蹴るの暴行だけでも許せないのに、肉体に残る傷…。確かに酷過ぎる。
三隅の拳がテーブルの上に落ちた。
「くそがぁぁっっ!!」
日生などまだ氷山の一角なのだろう。こうして全てが手元にやってくるわけでもないし、育ててやれるわけでもない。
でもせめて…。今、ここにいるか弱き者だけは、自分の手でどうにかしてやりたかった。
握った小さな手を二度と震わせないように。
その思いは二人とも変わらない…。


日生は安心しているのか、朝になって和紀が目覚めても安らかな寝息を立てていた。
そのことは和紀にとってもホッとできるものだった。こうして自分たちに信頼をおき、甘えてほしいと願う。
縋るのは自分たちだけにして欲しいと思う、独占欲的なものが湧いてもいた。それは和紀にしてみたら不思議な感情だった。手に入れられた守るべき存在のような気がして、手放したくないと強く感じる。ずっと、何かを守りたいと思っていたのかもしれない。弱かった母に何もしてあげられなかった悔しさだろうか…。
日生を抱え直しながら、まだ時間が早いと和紀は二度寝に入る。
今日は昼前に一つの講義があるだけだった。日生とお昼を一緒に食べて、午後はゆっくりとショッピングセンターに行けばいい。
ワクワクする気持ちを持つのは、久し振りの気がする。

昨夜の話で三隅は、日生を養子として迎えようかと考えていることを打ち明けた。
ただ、親族等の相続問題など、突かれることは増える。もちろん和紀にも降りかかることであり、今の段階で簡単に決められることではなかった。
「戸籍の件は弁護士にどうにか頼んだ。まだ『阿武』を名乗らせるが、判断がつく頃になったら…。そうだな、二十歳ごろか。日生に選ばせようかと思う」
「二十歳?ひなの性格だったら自分から『三隅』になるなんて言い出さないだろう」
控え目な性格であるのは今でも充分知ることができる。
さらに育てた恩…などというものを感じたら、日生が財産分与まで絡んでくる『三隅』に自分から飛び込んでくることはあり得ない。
三隅も判り切ったように溜め息をつく。
「あぁ。だからこそ、日生の意思に任せたいんだよ」
自分たちでただ与えるだけではない生活をさせたいと…、日生が判断を下せる時を待ちたいと語る。
迂闊に日生を巻きこまないように…。自分の意思なくして籍を入れ、後から周りに責められる状況を先に用意したくはない。

清音は肩ほどまで伸びた髪をきちっと後頭部で一つに束ねている。薄化粧を施し、派手な格好はしない控え目な人だ。もう五十歳になるというのに、きびきびと動く姿は若々しさを見せた。動きやすいように、しかし、突然の来客があっても失礼がないようにと服装に乱れもない。
「エプロンをかけて誤魔化しているんですよ~」といつか、屈託なく笑ってくれたが。
和紀と日生が起きる前、朝やってきた清音は、さすがに施設育ちだけあって、三隅が話し出したいきなりの状況に少々の驚きは見せたものの、すんなりと受け入れてくれた。
三隅の性格も充分把握できており、いつかこんな展開も想像できていたのだろうか。
普段は三隅の朝食だけを用意し、新聞片手に食べている姿に清音は話しかけることもない。それが忙しい中で語りかければ重要な件なのだと、全ての動きを止めて聞きいってくれる。
子供を預かった、こちらで育てようと考えていることを伝える。簡単に生い立ちを告げると悲しそうに目を細められた。
「子供は親を選べませんからね…」
かく言う清音も似たような立場だ。暴力こそなかったものの、親は育児を放棄してしまった。
専門の人間を呼んで見させようかと思っていたが、清音は自分で見ることで構わないと言ってくれた。
家事と育児は異なる。負担が増えることを懸念したのだが清音は気にしていない。
「和紀さんのお世話をさせていただき始めたのも、同じようなお年頃でしたからね。思い出せるかしら」
清音はふわっと微笑んでくれた。あれからもう十数年…。
彼女は結婚もせず、ずっと我が家に尽くしてくれていた。そうさせてしまったのは、住み込みという形で働かせてしまった自分の責任だろうか。
幾度かお見合い話を振ったことはあったが、綺麗さっぱりと断ってくれるので安心していた部分もあったのだが。
逆に三隅の再婚を心配されたっけ…。
その上日生の世話まで見させたら…と彼女の行く末を心配してしまう。しかし、全く苦労を見せない彼女の笑みに三隅も支えられた。
「日生のことは和紀のほうが詳しいくらいだと思うんだ。すっかり『お兄ちゃん』気取りだよ」
「人に対して愛情を持てるとは良いことですよ」
昨日の出来事を振り返る。和紀は日生を離そうとしなかった。自分で教えるということに喜びも感じているようだった。
食後に淹れてもらった番茶をすすりながら、息子か孫か、などというくだらない話題で盛り上がった。
「お互い、そんな歳になったんですね~」と笑い声が漏れる。
自然と会話ができる、この空間に既婚も未婚も関係ないのだろうか。
たぶん、和紀にしても、悪い傾向にはならないだろう。
何かを大事にする気持ちを持ってもらえることは、親として嬉しい限りだった。

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