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BLの丘
新しい家族 10
2012-01-15-Sun  CATEGORY: 新しい家族
父親の三隅はとっくに出勤してしまっている。
遅れて起きてきた和紀と日生は廊下を挟んである洗面室で顔を洗ったりしていた。
この家はバスルーム、ランドリースペース、洗面室がそれぞれ独立している。おまけにトイレは二か所あり、洗面室が塞がっていればトイレで代用できる広さを兼ね備えていた。
日生が一人で立てる踏み台が必要だな…などと、抱っこして顔を洗わせながら思った和紀である。
こうやって一緒にいればいるほど、どんどんと必要なものが浮かんできた。

リビングに入り、日生は昨日は見受けられなかった年配の女性を目にして驚きのあまり固まった。
てっきりこの家には三隅と和紀しかいないと思っていたのに、突然現れた存在はまた恐怖の対象になってしまう。
ビクッと怯んだ日生を感じて、和紀が微笑む。
「ひな。我が家のことをやってくれる清音さんだよ」
「日生さん。初めまして。お話は三隅さんから聞いていますよ。私のことはお母さんだとでも思ってくださればいいですから」
ニコニコと微笑んだ女性は腰を曲げて、やはり日生と視線を合わせてくれる。
人の良さそうな笑みについ引き込まれた。
『お母さん』がいなかった日生には、どんなものなのか分かりはしなかったが、ここでも頷くしかできなかった。

「今日、午前で講義終わるし。帰ってきてお昼ご飯食べたら、また買い物に行こうと思うんだ。清音さん、付き合ってくれるとありがたいんだけど」
ダイニングテーブルに座りながら和紀が早速話しかける。
昨日買い物に出たのはいいが、何を購入したらいいのか全く分からなかった。その辺りの話は三隅からも聞いているのか、快く引き受けてくれる。
「車、俺出すからさ~」
「なんだか随分と張り切っていますね」
ふふふと笑われてなんとなく照れるものの、抑えることのできない気持ちは次々と湧いてくる。
自分にこんなふうに興奮する感情があったことが、和紀自身不思議だった。
清音が即席で作ってくれた、不要な段ボール箱の上にクッションを置いただけの『お子様いす』に腰かけた日生が、胸元をぴったりとテーブルにつけ、小さく切られたハムサンドを両手に握っていた。
こういった機転のきき方も年の功というのか、女性ならではというのか、さすがだな、と思わされる。
隣で和紀はホットミルクの注がれたカップを差し出したり、玉子焼きをカットしてやったりと甲斐甲斐しく動く。

…親父から話を聞いたってことは、年齢のことも知っているんだよな…。
八歳と言いながら日生の言動は未就学児と変わらない。
清音にとってありえないとは思うものの、苛立った矛先が向かわないことを祈った。
和紀はサッと朝食を済ませると、キッチン奥の扉をくぐって清音を廊下に出す。キッチンからはリビング側にも廊下にも抜けることができた。
「あの…ひなのことだけど…」
「どうかされました?」
言い淀んだ和紀を、心配ないと宥めるように見つめながら、一応確認の返事をくれる。
全てを知って、でも思っていることを改めて聞こうとする姿勢は本当の意味での『確認』だ。
「ずっと暴力を振るわれてきたみたい。注意しようとして呼ぶことでも、いつ手をあげられるのかって不安になる子だから…。あまり声は荒げないでほしいんだ…。その…勝手にさせろって言うんじゃなくてね…」
どう説明して良いのかと、今更ながらに言葉を選んでしまう。だが清音はそれすらも分かったように、「えぇ。三隅さんにも家事はいいから日生さんのそばにいてやってくれって頼まれていましたの。何ができるのか、どんなふうに居るのかを見ていてほしいと…」と笑った。
日生に対して知らないことは多すぎる。
清音にも頼んだ父はさすがに一人の子供を育てただけあると、妙に感心した。そして父なりに日生を気遣っていること…。

食事を終えてリビングに移動した日生に、身支度を整えた和紀が近寄る。
「ひな~。お兄ちゃん、学校に行ってくるからね。今日はすぐに戻るから。いい子で待っているんだよ」
ぐりぐりと頭を撫でられて、離れていく存在を知った。
女性と二人きりにされることに脅え、思わず引き止めたくなるが、『いい子で』と言われたことに、うんうんと何度も頷く。
和紀に嫌われるような存在になってはいけない。日生がいい子でいれば、また和紀はそばに居てくれるし、ポップコーンもプリンも食べさせてくれると思った。
騒々しいくらいに日生を構った和紀が出ていってしまうと、とても静かな空間に出迎えられる。
どこかでカタカタと物音がするのは、清音という女性が家の中を移動しているからなのだろう。
ここで、何をしていいのかも分からず、日生はソファに座って足をプランプランと動かした。
あまり時間をおかずに、清音が戻ってきた。手には丸めた紙がある。
「大きな紙が見つかりましたよ。一昨年の企業カレンダーが物置にはあったのね」
なんだか嬉しそうに清音はリビングテーブルの上に、白い紙を広げた。リビングテーブルからはみ出す大きさだ。
「文字書きかお絵描きか、何かできるかしら。この上に好きなものを描いてちょうだい」
何色もある色鉛筆のセットは、日生が見たこともないものだった。色々な色がグラデーションのように並んでいる。
過去、何か紙の裏に落書きをして怒られた記憶のある日生にとって、『描いていい』というのは驚きだった。
汚した…と怒られないだろうか…。
見上げた先では清音が楽しそうに色鉛筆を紙の上に取りだしている。
「何色がいいかしらね。青?赤?」
言いながら清音はくるくると鉛筆で円を描いて見せた。
同じように日生にもやって見せろと言われているようだ。
日生は興味を惹かれたように、ソファから下りてラグの上に膝をついた。膝立ちになって、渡された色鉛筆で円を描いてみる。
こんなふうに、色がついた線を描きだしてくれる鉛筆があることを、日生はこれまで知らなかった。
清音に対しての緊張感はすっかり消え去った。清音が言う言葉を繰り返し、日生は『色』を覚えた。

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まだ続くのか…子育て日記…。いや、そろそろ動き出さないと…。
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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-01-16-Mon 00:22 [編集]
清音さんもだね♪
皆が、日生の虜になっちゃてるv(`ゝω・´)キャピィ☆

子育て日記は まだ続けて欲しいです。
だって~だって~ひなが、可愛いだもんね~
(*≧∀≦)(≧∀≦*)ネー...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-01-16-Mon 06:56 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 清音さんもだね♪
> 皆が、日生の虜になっちゃてるv(`ゝω・´)キャピィ☆
>
> 子育て日記は まだ続けて欲しいです。
> だって~だって~ひなが、可愛いだもんね~
> (*≧∀≦)(≧∀≦*)ネー...byebye☆

みんなが子育てを始めてしまいました~。
ひな、どんだけ可愛いんだ?!
虜にしてくれるお子様なんでしょうね。
コメントありがとうございました。
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