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BLの丘
契りをかわして 9
2012-03-14-Wed  CATEGORY: 契り
部屋から出てきた男は、特に伊吹に近寄ってくるようなことはしなかった。
ドアにもたれかかるようにして立ち、全身を確認するように見回される。
甲賀ほどではないが、信楽も充分背は高いほうだろう。180センチの背丈と、整った顔立ち。家の中では変わることのない、どこかボサっとした姿は深夜のものである。
額に流れてくるサラサラの髪は、伊吹のものにも似ていた。
昼になれば…、外に出れば、この姿は一変する。誰もが引きつけられるような男前。
そこに惹かれたのは伊吹自身だったのだが…。
営業の一端で出会った男だった。最初の夜、誘ったのはどちらだったか…。

自室まで進みかけた足が止まった。
咄嗟に営業用のスマイルを浮かべられるのは、本当に”賜物”としか言いようがない。
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
こんな朝方まで仕事をしていることも多々ある信楽だ。あえて、起こしたのかと強調したのは、寝ていてほしかった伊吹の願いでもある。
「いや…。詰まっていた原稿があったから…」
待たせたと思われるのは、どこかで苦痛を生みだす。
それが分かるのか、信楽も”仕事”と言い張った。
自分のため…。そう思われ、負わされるものを感じるのは嫌だった。
仕事、と言い訳をつける男に、素直に頷いてみせる。
「そう…」
「伊吹、昨夜、顧客と食事とは聞いていたけど、朝帰りとまでは聞いていないぞ」
「ごめん…。ちょっと飲み過ぎちゃって…。あ、会社の人とかいっぱい集まっちゃってさぁ」
『合コン』に出るなどとはもちろん言えず、食事の用意はしなくていいと伝える時に、伊吹は取引先との食事、と言い訳を口にした。
“営業”として、反故にできない環境は信楽も知るところだ。
肌艶良い状態に保たれているのは、信楽の恩恵でもある。
信楽は週の半分ほどを自宅で過ごした。時に出版社などに出向くことはあっても、基本的に職場は”自宅”だ。
伊吹を”待つ”人なのである。
食事のほとんどは信楽が用意してくれたし、清掃までも請け負ってくれている。
営業という、他人に翻弄されがちな伊吹を影ながら支えてくれた人といって過言ではない。
「飲み会になっちゃったわけ?」
「あー、まぁ、そんなとこ。…ごめん、ちょっと、眠いんだ…」
「…、だろうね」
何かを言いたそうな信楽が口を閉じた。
それは伊吹の体調を思ってのことなのか、現実を知りたくないからなのか…。
信楽は過去の伊吹を知る。
『体で営業成績をとる』…。そこまで蔑まれてはいないが、見栄えの良さがどんなふうに働いたか、伊吹が何を求めて、過去の男たちと体を重ねたか…。
その一人である信楽。
今伊吹がここにいるのは、信楽の努力の結果ともいえる。
職を失ったと聞いた時に、真っ先に動いたのが信楽で、生活に必要なもの全てを、整えた。

だるい体を抱えていたこともあった。
むやみに近付かれて、これ以上の不信を仰ぐのも嫌で、とにかく個室に入りたかった伊吹は、逃げ出す口上を述べる。
どこまで信じられているかは、甚だ疑問だ。
大人しく見送ってくれる信楽の態度に感謝し、また不安も抱え、短い廊下を歩いて伊吹は自室に入り込んだ。
このマンションには、仕事部屋としている信楽の部屋と、伊吹のために用意してくれた個室、他に20畳を越すリビングダイニングがあった。
もともと両の二部屋は信楽が仕事用とプライベート用に分けて使っていたのに、伊吹を呼ぶために空けてくれたものだった。
あの頃は惚れていた。
“あの頃”…。
甘えるだけだと分かっていても、収入の途絶えた伊吹には行くあてがなかった。
会社は倒産。当月の給料もあてにならなくて…。
優しい言葉と、包んでくれる体が好きで…。

だけど、甲賀の逞しさを知ってしまった今…。

まるで丸裸になるように衣類を脱ぎすて、ベッドの中に横になると、先程まで感じていた温度を思い出す。
何もかもが初めてで…。思い出すだけで興奮する自分を知ってしまう。
一瞬のやすらぎを求めるために差し出す体だと思っていたのに…。
与えられたものは深く伊吹の精神と体を犯してくれた。
自分を見失うことが怖いはずなのに、我を忘れられる時は味わったことのない、”本当の姿”。

「こ…ぅ…が…」

そっと呟いた名前。二度と口にすることはないだろうと思われた名前。

あんなに疲れたはずなのに、指を這わせるだけで思い出してしまう自分が浅ましくて嫌だった。
同時に生まれた、縋りたい感情。
自分を包んでくれる、守ってくれる”かもしれない”肉体が好き…。
そこに心が伴う日、そんな相手が訪れてくれるのだろうか…。

信楽は親切で年上で頼りになるけれど。
伊吹が安堵できるものを持ち合わせていなかった。
伊吹よりはずっと逞しいし、出会った頃は容貌に惹かれたところもある。
だけど…。甲賀に抱かれてしまった今、はっきりとした肉体の違いを思い浮かべることができた。
どうしたって伊吹は逞しい男が好きだった。比べることが悪くても…。

それでも、甲賀は自分のものにならない…。

あまりにも早すぎた体の繋がりは、軽薄なものとしか印象として残さなかった。
自分と同じように幾人の者に声をかけ、繋がる逢瀬を繰り返している人だと思うから…。

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モンモン(いれずみじゃないですっ)…があちこちに~。
つか、どして私が書く話はこんなに暗いのでしょう…。
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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-03-14-Wed 11:02 [編集]
信楽って ワイルド系な甲賀とは真逆のタイプの理知系なのね!
全く違うタイプで それで両方共が魅力的で 甲乙つけがたい人が身近に居るなんて 羨まし過ぎる~~

そんな私の羨望を受けながら 伊吹の心は もう既に甲賀に囚われているのね!
それって やっぱり・・・
か・体かぁー! きん・筋肉かぁーー!? それとも ”アノアノ”声かぁーー!?

興奮しすぎて 息切れするわっ~ε=ε=(´Д`;)/ヽァ/ヽァ...byebye☆ 

Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-03-14-Wed 14:49 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> 信楽って ワイルド系な甲賀とは真逆のタイプの理知系なのね!
> 全く違うタイプで それで両方共が魅力的で 甲乙つけがたい人が身近に居るなんて 羨まし過ぎる~~

いい男が揃ってる~っ。
タイプがちがうからこそ、揺れるんでしょうか。

> そんな私の羨望を受けながら 伊吹の心は もう既に甲賀に囚われているのね!
> それって やっぱり・・・
> か・体かぁー! きん・筋肉かぁーー!? それとも ”アノアノ”声かぁーー!?
>
> 興奮しすぎて 息切れするわっ~ε=ε=(´Д`;)/ヽァ/ヽァ...byebye☆ 

伊吹が求めるものは体~?!
守ってくれると思えるものが欲しいんでしょうね。
耳に響く声もその一つ。
ズクンッズクンって体の中に染み込んだようです。
興奮…。息切れしないうちに話を終わりに…(← 明らかに無理な…)
囚われた男はどう動くんでしょう。
先は長いですが、お付き合いいただければと思います。
コメントありがとうございました。

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