ほんのちょっとの甘えだった。
営業活動に出ていて、帰宅が遅くなる日などたくさんある。
信楽はいつも待っていてくれたし、ある程度の時間までなら許してくれる。
「遅くなりそうだから先に休んでいて」と、先手を打っておけば疑われることもないだろうと。
夜中の内に帰ればいい…。夜中の帰宅でも、帰ってきたのだと信楽が分かれば何も言われないはずだ。
これまでだって…、今までも同じことは何回もあった。信楽がどんな態度に出るかは、すでに知ることでもある。
「会社が終わった後に話を聞きたいっていうお客さんがいてさ~」と今夜の予定を電話口で告げれば、案の定信楽は「契約、とれるといいね」と激励の言葉で見送ってくれた。
その瞬間にも、伊吹は”甲賀に抱いてもらえる”という期待で膨らんだ。
ここのところ、ずっと避け続けた甲賀が何と言ってくるのか、その心配ももちろんありはしたけれど。
甲賀にはセフレという存在が、あと何人存在するのだろうか。
その一番になれなくても、伊吹が知る中で最高の肉体と快感をくれる人。
『夜中のうちに帰れば…』
固く胸に刻み込む。
夕方の五時前に甲賀から電話が入った。
こんなに早く?と一瞬驚いてしまった伊吹だ。
どこかで待ち合わせ、ホテルに入り込むのでもいい、と考えていた伊吹だったが、最初言われたように「自宅に来い」と告げられる。
早くに快感を味わえば、早くに帰れるという思いも過る。
初めて行く場所は、会社からあまり離れていない単身者用のマンションで、他の顧客と話をするために、以前にも訪れたことがある所だった。
すでに帰宅していた甲賀は、昼間の作業着とは違い、また外で逢っていた時に着ている服よりもずっと寛いだ様相でいる。
風呂に入った後だと分かる、濡れた髪もしていた。
2DKの部屋の中には、仕事道具でもある工具などが玄関先に置かれていた。
どんな仕事をしているのか、その詳しい話など聞いたことがなかったが、何を見ても重量がありそうで、これらが甲賀の逞しい筋肉を育てているのか…と微笑みたくなったくらいだった。
「こんばんは~」
伊吹からはいつもの明るい声が発される。
軽い関係を思わせる雰囲気を、どこまでも継続していきたい思いがあるからだろうか。
「お待ちしておりました。…って、伊吹、家帰ってないの?」
「こんな早く…なんて思っていなかったもん。会社から直行」
「ふ~ん。それって何?早く逢いたかったってこと?」
伊吹の格好を見て、伊吹の返事を聞いて、あながち間違っていない問いかけに言葉が詰まる。
もう少しうまく立ち回らなければ…と思うのに、堂々と発される全ては、伊吹の調子を崩してくれるものだった。
「営業ですから…」
「まさか本気で保険の話をしに来たわけじゃないだろ?」
家の中に招き入れながら、その間も会話が続く。
求めているものはやはり体なのか、と安心したような、悲しくなるような気持ちが湧いた。
入ってすぐに見えるキッチンと、並んでいる扉がバスルームだったりトイレだったりするのだろう。
その奥、十畳ほどの部屋に小さなテーブルや家電製品が揃っている。
ベッドがない、とはもう一部屋に収められているのだろうと推測した。
招き入れられた場所に疑問も浮かんでいたが…。
「あのさ。先にシャワー使わせてくれない?」
「いきなり、かよ。まぁいいけど。寛いでいってください。着替え、貸そうか?」
「あー…、うん。何か簡単に着られるものがあれば…」
下着はコンビニで購入してきたが、それ以外のものがあるわけでもない。
甲賀の申し出を有り難く思い、部屋の隅にカバンを置いて立つ伊吹は、隣の部屋から衣類を取りだそうと動く甲賀の背中を見送った。
一時的に体が隠れるものがあればいい…。
甲賀のサイズの、大きなTシャツだけを借り、バスルームへと案内される。
自宅に呼んで、気兼ねなく接してくれる態度もいいな…と伊吹は安堵感を覚えた。
気を使わない関係…。
甲賀との関係は、こんなにも慣れ親しんだ気持ちを持てるものだっただろうか。
あまりにも余裕をもっている自分が、返って怖かったくらいだ。
信楽に対して、何かを返さなければならないと思う焦燥が、ここにはない。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
営業活動に出ていて、帰宅が遅くなる日などたくさんある。
信楽はいつも待っていてくれたし、ある程度の時間までなら許してくれる。
「遅くなりそうだから先に休んでいて」と、先手を打っておけば疑われることもないだろうと。
夜中の内に帰ればいい…。夜中の帰宅でも、帰ってきたのだと信楽が分かれば何も言われないはずだ。
これまでだって…、今までも同じことは何回もあった。信楽がどんな態度に出るかは、すでに知ることでもある。
「会社が終わった後に話を聞きたいっていうお客さんがいてさ~」と今夜の予定を電話口で告げれば、案の定信楽は「契約、とれるといいね」と激励の言葉で見送ってくれた。
その瞬間にも、伊吹は”甲賀に抱いてもらえる”という期待で膨らんだ。
ここのところ、ずっと避け続けた甲賀が何と言ってくるのか、その心配ももちろんありはしたけれど。
甲賀にはセフレという存在が、あと何人存在するのだろうか。
その一番になれなくても、伊吹が知る中で最高の肉体と快感をくれる人。
『夜中のうちに帰れば…』
固く胸に刻み込む。
夕方の五時前に甲賀から電話が入った。
こんなに早く?と一瞬驚いてしまった伊吹だ。
どこかで待ち合わせ、ホテルに入り込むのでもいい、と考えていた伊吹だったが、最初言われたように「自宅に来い」と告げられる。
早くに快感を味わえば、早くに帰れるという思いも過る。
初めて行く場所は、会社からあまり離れていない単身者用のマンションで、他の顧客と話をするために、以前にも訪れたことがある所だった。
すでに帰宅していた甲賀は、昼間の作業着とは違い、また外で逢っていた時に着ている服よりもずっと寛いだ様相でいる。
風呂に入った後だと分かる、濡れた髪もしていた。
2DKの部屋の中には、仕事道具でもある工具などが玄関先に置かれていた。
どんな仕事をしているのか、その詳しい話など聞いたことがなかったが、何を見ても重量がありそうで、これらが甲賀の逞しい筋肉を育てているのか…と微笑みたくなったくらいだった。
「こんばんは~」
伊吹からはいつもの明るい声が発される。
軽い関係を思わせる雰囲気を、どこまでも継続していきたい思いがあるからだろうか。
「お待ちしておりました。…って、伊吹、家帰ってないの?」
「こんな早く…なんて思っていなかったもん。会社から直行」
「ふ~ん。それって何?早く逢いたかったってこと?」
伊吹の格好を見て、伊吹の返事を聞いて、あながち間違っていない問いかけに言葉が詰まる。
もう少しうまく立ち回らなければ…と思うのに、堂々と発される全ては、伊吹の調子を崩してくれるものだった。
「営業ですから…」
「まさか本気で保険の話をしに来たわけじゃないだろ?」
家の中に招き入れながら、その間も会話が続く。
求めているものはやはり体なのか、と安心したような、悲しくなるような気持ちが湧いた。
入ってすぐに見えるキッチンと、並んでいる扉がバスルームだったりトイレだったりするのだろう。
その奥、十畳ほどの部屋に小さなテーブルや家電製品が揃っている。
ベッドがない、とはもう一部屋に収められているのだろうと推測した。
招き入れられた場所に疑問も浮かんでいたが…。
「あのさ。先にシャワー使わせてくれない?」
「いきなり、かよ。まぁいいけど。寛いでいってください。着替え、貸そうか?」
「あー…、うん。何か簡単に着られるものがあれば…」
下着はコンビニで購入してきたが、それ以外のものがあるわけでもない。
甲賀の申し出を有り難く思い、部屋の隅にカバンを置いて立つ伊吹は、隣の部屋から衣類を取りだそうと動く甲賀の背中を見送った。
一時的に体が隠れるものがあればいい…。
甲賀のサイズの、大きなTシャツだけを借り、バスルームへと案内される。
自宅に呼んで、気兼ねなく接してくれる態度もいいな…と伊吹は安堵感を覚えた。
気を使わない関係…。
甲賀との関係は、こんなにも慣れ親しんだ気持ちを持てるものだっただろうか。
あまりにも余裕をもっている自分が、返って怖かったくらいだ。
信楽に対して、何かを返さなければならないと思う焦燥が、ここにはない。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(〃▽〃)
甲賀が伊吹を ホテルではなく家に誘ったのは、結構 深い意味を持ってるのでは?
あのね きえ様、
信楽を 極悪非道な最低野郎で描写して下さってたら 私は、なんの気兼ねなく 伊吹と甲賀を応援できたんだよ~~!
ムゥ 応援しづらいわっ!(TεT;)ゞ...byebye☆
あのね きえ様、
信楽を 極悪非道な最低野郎で描写して下さってたら 私は、なんの気兼ねなく 伊吹と甲賀を応援できたんだよ~~!
ムゥ 応援しづらいわっ!(TεT;)ゞ...byebye☆
けいったん様
こんにちは~。
> 甲賀が伊吹を ホテルではなく家に誘ったのは、結構 深い意味を持ってるのでは?
ふふふ(o´艸`o)
またここも何も言わないでおきます。
ほんと、うちの読者さんは怖い~っ。
(ってか、バレるような話しか書いていない私かっΣ( ̄□ ̄;))
> あのね きえ様、
> 信楽を 極悪非道な最低野郎で描写して下さってたら 私は、なんの気兼ねなく 伊吹と甲賀を応援できたんだよ~~!
> ムゥ 応援しづらいわっ!(TεT;)ゞ...byebye☆
すみませ~んっ。
悪役にできない私です。
どれでも誰でも良い人、になるように持って行きたくなってしまう…。
(そこは何? 自分で産んだ息子だから?!)
でもでもこのままではいけない。
一念発起して動きをみせなければ~~~。
いつも言っていますが、伊吹、甲賀、どうするんでしょう。
乞うご期待(←?)
コメントありがとうございました。
こんにちは~。
> 甲賀が伊吹を ホテルではなく家に誘ったのは、結構 深い意味を持ってるのでは?
ふふふ(o´艸`o)
またここも何も言わないでおきます。
ほんと、うちの読者さんは怖い~っ。
(ってか、バレるような話しか書いていない私かっΣ( ̄□ ̄;))
> あのね きえ様、
> 信楽を 極悪非道な最低野郎で描写して下さってたら 私は、なんの気兼ねなく 伊吹と甲賀を応援できたんだよ~~!
> ムゥ 応援しづらいわっ!(TεT;)ゞ...byebye☆
すみませ~んっ。
悪役にできない私です。
どれでも誰でも良い人、になるように持って行きたくなってしまう…。
(そこは何? 自分で産んだ息子だから?!)
でもでもこのままではいけない。
一念発起して動きをみせなければ~~~。
いつも言っていますが、伊吹、甲賀、どうするんでしょう。
乞うご期待(←?)
コメントありがとうございました。
| ホーム |