伊吹は彼の後ろ姿を視線でも追わなかった。彼も再び伊吹を見ることはなかった。
「ごめん。ちょっと出ていいかな…」
伊吹に提案…というより気まずさを浮かべられて話しかけられては旭に逆らうことなどできない。
冷めかけたコーヒーを一気に飲み干して、会計へと向かう。突然の出来事に伊吹は会計票を手放そうとしなかった。
明るい話題で進んでいた会話が一転して暗雲をもたらしてくる。
ここで別れるべきだろうか…。
そう思うのに、旭には何があったのか聞きたい好奇心…、焦燥のようなものが浮かんだ。
「多賀さん…」
旭の反応に気付くのだろう。伊吹は「店を変えよう」とだけ伝えてくる。
それほどまで、同じ空間に居たくない人物だったのだろうか…。
大人しくついていく旭に、伊吹は近くの喫茶店を案内してくれる。会社の近くの場所なだけに、腰掛けられる店は伊吹の方が詳しい。
向かいあって席についてから、状況を伊吹も理解しているのか、いつもの営業スマイルを見せた。
「なんか、変なところ、見られちゃった…」
明るく振舞っているが、陰があるのは、多くの人間を見てきた旭にも容易に気付けることだった。
「さっきの人…」
「あ~。高島くん、信楽(しいら)さんに見惚れてたんだろぅ。あの人、外じゃ三割増しくらいにいい男だからな~」
ここまで連れてきてくれたのは旭のことを思ってなのだとも気付かされる。
「知り合い?」
無駄に明るく話しかける姿が痛々しいとまで思ってしまった。更に旭の好みまで見抜いてしまうこと…。
「知り合い…っていうか、…まぁ…」
「今、”外で”って言ったよね?普段は違うの?」
何もかもに興味が湧く。
見惚れていた、とバレた今、変に隠すこともできなかった。
それに、どことなく伊吹には、旭の一瞬でも湧いた想いを救ってくれそうな雰囲気が漂っている。
しばらくの沈黙のあと、伊吹が観念したように盛大な溜め息を吐いて、「今の家に引っ越す前、あの人の家にいたんだ…」と衝撃の事実を語ってくれた。
束の間、意味が理解できなくて黙ったのは旭のほうだ。
「家…って…?」
「一緒に住んでいた…。…フリーライターの人で、仕事はほとんど家の中でしているし…。あんなふうに出掛けるのは稀かも…。だから外に出ると、印象もだいぶ変わるんだよね」
旭の頭はますますこんがらがっていく。
伊吹が引っ越しを決めたのは遠い昔ではない。
しかも今は一緒に住もうと決めた人間までいる。その相手を知っている。
“一緒に住んでいた”意味が分からない旭でもない。
そんな短い期間に何があったのか…。
伊吹の発言は、旭に”信楽”と呼ばれた人を諦めさせたいからなのか。まさかとは思うが、今でも彼と伊吹に繋がりがあるとは思えない態度だった。
真実が見えなくて旭は動揺し、だが持ち前の原因を曖昧にしない根性で切り込んでいく。
ほんの僅かでも伊吹から醸し出された”救ってくれそう”はどちらに傾くのだろう。
伊吹は今更ながら、旭の性格を理解していた。
伊吹の性格はどことなく読めないところがあったけれど、本音でぶつかって、本心を晒していたのは旭のほうだ。
いつだって宥められるような雰囲気があったのは、やはり年上だったからなのだろうか…。
伊吹はいつものように出来上がった笑顔を旭に向けてきた。
「正直に言うよ。あの人と付き合っていた。一目惚れしたのは…たぶん俺も同じだと思う。だから高島くんの気持ちはなんとなく分かるんだ…。改めて見ても、いい男だよね。うぬぼれかもしれないけど、信楽さんも少なからずそんなところがあったのかもしれなくて…。でも…今は感情が離れちゃったんだ…」
「それで別れたの?」
「ぅん…。…最後、俺の感情のままに突っ走って信楽さんを傷つけたのは俺だけどね…」
そこにあの体格の良い男が関わってくるのは旭でも知れること。
人の想いとは変わることがあるのも理解できること。
きっと悲惨な別れ方をしたから、今でも歩み寄れないでいること。
だけど本当の意味で嫌いになどなっていないこと。
複雑な思いが絡み合う中、自分が目を惹かれたこと…。
まるで勝ち目のないゲームの中に足を踏み入れてしまった錯覚に陥った。
伊吹には新しい人がいる…。
では彼には…?
誰にでも親切に、優しそうな印象を与える彼を、どうして伊吹は振ることになったのか…。
旭の瞼に焼きついた”第一印象”は全く色あせることなく、消えていかない…。
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ブログ1300話目、切りよく『ふたり』から始まりました~♪
…つか、そんなに何書いているんだろう…。
「ごめん。ちょっと出ていいかな…」
伊吹に提案…というより気まずさを浮かべられて話しかけられては旭に逆らうことなどできない。
冷めかけたコーヒーを一気に飲み干して、会計へと向かう。突然の出来事に伊吹は会計票を手放そうとしなかった。
明るい話題で進んでいた会話が一転して暗雲をもたらしてくる。
ここで別れるべきだろうか…。
そう思うのに、旭には何があったのか聞きたい好奇心…、焦燥のようなものが浮かんだ。
「多賀さん…」
旭の反応に気付くのだろう。伊吹は「店を変えよう」とだけ伝えてくる。
それほどまで、同じ空間に居たくない人物だったのだろうか…。
大人しくついていく旭に、伊吹は近くの喫茶店を案内してくれる。会社の近くの場所なだけに、腰掛けられる店は伊吹の方が詳しい。
向かいあって席についてから、状況を伊吹も理解しているのか、いつもの営業スマイルを見せた。
「なんか、変なところ、見られちゃった…」
明るく振舞っているが、陰があるのは、多くの人間を見てきた旭にも容易に気付けることだった。
「さっきの人…」
「あ~。高島くん、信楽(しいら)さんに見惚れてたんだろぅ。あの人、外じゃ三割増しくらいにいい男だからな~」
ここまで連れてきてくれたのは旭のことを思ってなのだとも気付かされる。
「知り合い?」
無駄に明るく話しかける姿が痛々しいとまで思ってしまった。更に旭の好みまで見抜いてしまうこと…。
「知り合い…っていうか、…まぁ…」
「今、”外で”って言ったよね?普段は違うの?」
何もかもに興味が湧く。
見惚れていた、とバレた今、変に隠すこともできなかった。
それに、どことなく伊吹には、旭の一瞬でも湧いた想いを救ってくれそうな雰囲気が漂っている。
しばらくの沈黙のあと、伊吹が観念したように盛大な溜め息を吐いて、「今の家に引っ越す前、あの人の家にいたんだ…」と衝撃の事実を語ってくれた。
束の間、意味が理解できなくて黙ったのは旭のほうだ。
「家…って…?」
「一緒に住んでいた…。…フリーライターの人で、仕事はほとんど家の中でしているし…。あんなふうに出掛けるのは稀かも…。だから外に出ると、印象もだいぶ変わるんだよね」
旭の頭はますますこんがらがっていく。
伊吹が引っ越しを決めたのは遠い昔ではない。
しかも今は一緒に住もうと決めた人間までいる。その相手を知っている。
“一緒に住んでいた”意味が分からない旭でもない。
そんな短い期間に何があったのか…。
伊吹の発言は、旭に”信楽”と呼ばれた人を諦めさせたいからなのか。まさかとは思うが、今でも彼と伊吹に繋がりがあるとは思えない態度だった。
真実が見えなくて旭は動揺し、だが持ち前の原因を曖昧にしない根性で切り込んでいく。
ほんの僅かでも伊吹から醸し出された”救ってくれそう”はどちらに傾くのだろう。
伊吹は今更ながら、旭の性格を理解していた。
伊吹の性格はどことなく読めないところがあったけれど、本音でぶつかって、本心を晒していたのは旭のほうだ。
いつだって宥められるような雰囲気があったのは、やはり年上だったからなのだろうか…。
伊吹はいつものように出来上がった笑顔を旭に向けてきた。
「正直に言うよ。あの人と付き合っていた。一目惚れしたのは…たぶん俺も同じだと思う。だから高島くんの気持ちはなんとなく分かるんだ…。改めて見ても、いい男だよね。うぬぼれかもしれないけど、信楽さんも少なからずそんなところがあったのかもしれなくて…。でも…今は感情が離れちゃったんだ…」
「それで別れたの?」
「ぅん…。…最後、俺の感情のままに突っ走って信楽さんを傷つけたのは俺だけどね…」
そこにあの体格の良い男が関わってくるのは旭でも知れること。
人の想いとは変わることがあるのも理解できること。
きっと悲惨な別れ方をしたから、今でも歩み寄れないでいること。
だけど本当の意味で嫌いになどなっていないこと。
複雑な思いが絡み合う中、自分が目を惹かれたこと…。
まるで勝ち目のないゲームの中に足を踏み入れてしまった錯覚に陥った。
伊吹には新しい人がいる…。
では彼には…?
誰にでも親切に、優しそうな印象を与える彼を、どうして伊吹は振ることになったのか…。
旭の瞼に焼きついた”第一印象”は全く色あせることなく、消えていかない…。
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…つか、そんなに何書いているんだろう…。
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旭、もっと突っ込みたまえ!
伊吹は、新しい人がいるから大丈夫だから。
信楽さんは、良い人だよー。
何か、こっちまでハラハラしますね。
旭の気持ちが恋になると良いな。
伊吹は、新しい人がいるから大丈夫だから。
信楽さんは、良い人だよー。
何か、こっちまでハラハラしますね。
旭の気持ちが恋になると良いな。
1300話ですか!?
きえちゃん凄いです\(◎o◎)/
伊吹くんまた信楽さんに出会っちゃいましたね。甲賀拗ねちゃうよ~。
旭と信楽さんはくっつくのかな~?
きえちゃん凄いです\(◎o◎)/
伊吹くんまた信楽さんに出会っちゃいましたね。甲賀拗ねちゃうよ~。
旭と信楽さんはくっつくのかな~?
ちー様
おはようございます。
> 旭、もっと突っ込みたまえ!
> 伊吹は、新しい人がいるから大丈夫だから。
> 信楽さんは、良い人だよー。
>
> 何か、こっちまでハラハラしますね。
> 旭の気持ちが恋になると良いな。
ハラハラしますか~?
そんな文がかけたらいいです。
旭視点でいくと思いますので。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 旭、もっと突っ込みたまえ!
> 伊吹は、新しい人がいるから大丈夫だから。
> 信楽さんは、良い人だよー。
>
> 何か、こっちまでハラハラしますね。
> 旭の気持ちが恋になると良いな。
ハラハラしますか~?
そんな文がかけたらいいです。
旭視点でいくと思いますので。
コメントありがとうございました。
さえ様
おはようございます。
> 1300話ですか!?
> きえちゃん凄いです\(◎o◎)/
> 伊吹くんまた信楽さんに出会っちゃいましたね。甲賀拗ねちゃうよ~。
> 旭と信楽さんはくっつくのかな~?
そうなんですよ~。
まぁ、他のコメントとかも入っているから一概には言えませんが。
さえちゃんたちが読んでくれるからここまでこられました~。
この出来事を甲賀に言うんですかね。
信楽はまだ伊吹ラブだもんね~。
さあ、どうなるのでしょうか。
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 1300話ですか!?
> きえちゃん凄いです\(◎o◎)/
> 伊吹くんまた信楽さんに出会っちゃいましたね。甲賀拗ねちゃうよ~。
> 旭と信楽さんはくっつくのかな~?
そうなんですよ~。
まぁ、他のコメントとかも入っているから一概には言えませんが。
さえちゃんたちが読んでくれるからここまでこられました~。
この出来事を甲賀に言うんですかね。
信楽はまだ伊吹ラブだもんね~。
さあ、どうなるのでしょうか。
コメントありがとうございました。
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