引っ越した荷物はあまりにも旭がぞんざいに扱うために、最終的には信楽が整理してくれたくらいだった。
その日はほとんど投げ出し、仕事の忙しさを言い訳に出したことは、後に信楽に迷惑をかけたとしか言いようがない。
その場では苦笑いで一日の疲れを労ってくれた。
仕事を終え、帰宅して片付いた部屋を見ては、絶句して、ひたすら信楽の手際の良さに感心し、そして申し訳なさが浮かんだ。
旭の荷物だというのに、引っ越しの時から手伝ってくれたせいか、手を差し伸べることの抵抗はなかったようだ。
旭が他人に弄られて気にしない性格なのだともすでに知られている。
それくらい旭に馴染んでくれているとは、勝手な嬉しさでしかないのだが。
夕食の用意をしていた信楽が、「旭のちゃんとした茶碗なども買おうか」と口にした。
これまで使っていたものは『客用』のものである。
どれほどの客が来たのかは知らないが、専用のものを用意してくれるとは、また旭がこの家にいていいと言われる嬉しさに繋がる。
「お揃いがいいっ」
すぐさまの返事に、相変わらず信楽はふわりと笑うだけだ。
「一緒に見るのがいいよね」
その提案に飛びつかないわけがない。
堂々と、信楽は旭のものなのだと見せびらかせるように歩ける空間は憧れだった。
かつて、初めてカフェで一緒に過ごした時の、信楽に向けられる視線に、返せる自慢がある。
あの時は向けられる全てが妬ましさでしかなかったが…。
「お店とかは旭のほうが詳しいのかな」
「そんなこと…。俺、安いものしか持っていなかったし…」
旭の引っ越しを手伝った信楽は、なんとなくではあっても価値観は分かっているのだろうと思う。
あえてそれに触れず、情報量を追ってくれるとは、旭の好みを探っているところなのだろうか。
一度信楽が言葉を区切った。
言いづらそうな雰囲気はなんとなく窺えた。
「来週末、家をあけることになるんだ…」
「え?…あ、前に言っていた『取材』?」
「そんなところだね」
時々家を留守にするとはすでに聞いた話で、それらを直に見て信楽の記事ができあがる。
仕事と思えば止めることもできず、送りだすしかない。
たとえ、何泊でも…。
最近の忙しさで言いそびれていたのだろうか。
だけど突然決まることも多いとも聞いていた。
『不規則な生活』とは、こんなところにも表れてくる。
すぐそばの『明日』と言われないだけ、良かれと思うべきなのだと旭は言い聞かせた。
「旭、都合つかないかな…。無理強いする気はないけれど、一日は旭の休みだよね?一泊だからもう一日、どうにかなれたら一緒に行きたいんだけれど…。そちら、焼き物も有名でね…お茶碗…」
「行きますっ!!!行くっ!有給あまってるからなんとかするっ」
信楽の言葉は遮られた。
意外だった信楽の発言に旭は即座に返事をした。
別に信楽の浮気を疑っているわけではない。
だが、どんな仕事をするのか、何をして過ごすのか、あまりにも興味深いことだらけだった。
誘われて断る理由がみつからない、といった感じだ。
どうしてもダメだと言われたら『病欠』でもいいや、と、一番信楽に怒られそうな言い訳が頭の中に浮かんでいた。
「そんな、すぐに…」
「大丈夫。うちの所長、何かと物分かりが良くて、社員の相談とか、すぐ乗ってくれるし」
過去の自分の経験なのだが、感情任せに動く旭に手を焼いた結果…とは当然本人は知らないことだった。
突発的な旭の返事にも信楽は冷静だった。
「ちゃんと会社の許可がとれたらね。まだ時間はあるから、はっきりしたら宿泊地をビジネスホテルじゃなくて温泉にでも変えるよ」
信楽は忘れずに釘を刺してくる。
ただの取材…より、兼ねた観光を信楽も楽しみたいのだろうか。
「うんうんっ、温泉♪」
滅多に行くことのない土地に心も弾む。
そこでお揃いの食器を買えば、余計に思い出となるだろう。
…来週末かぁ…。
ほわんと笑顔で未来を思い浮かべた旭は、一つのことにぶち当たった。
…アソコの毛は、確実に生えそろっていない…。
そんな状態で、温泉に入れと…?
信楽に温泉に誘われて断ることは、まずない旭だけれど…。
誰に見られてもおかしくない公衆浴場は信楽にとって許せる場所なのだろうか。
それとも、人の視線に旭がどう反応するか、羞恥にもだえる旭を見たいのだろうか。
今のこの時期に誘ってきたのは故意なのか偶然なのか。
羞恥心を煽ることでより昂っていく旭の体を、すでに信楽は知ってしまっていた。
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その日はほとんど投げ出し、仕事の忙しさを言い訳に出したことは、後に信楽に迷惑をかけたとしか言いようがない。
その場では苦笑いで一日の疲れを労ってくれた。
仕事を終え、帰宅して片付いた部屋を見ては、絶句して、ひたすら信楽の手際の良さに感心し、そして申し訳なさが浮かんだ。
旭の荷物だというのに、引っ越しの時から手伝ってくれたせいか、手を差し伸べることの抵抗はなかったようだ。
旭が他人に弄られて気にしない性格なのだともすでに知られている。
それくらい旭に馴染んでくれているとは、勝手な嬉しさでしかないのだが。
夕食の用意をしていた信楽が、「旭のちゃんとした茶碗なども買おうか」と口にした。
これまで使っていたものは『客用』のものである。
どれほどの客が来たのかは知らないが、専用のものを用意してくれるとは、また旭がこの家にいていいと言われる嬉しさに繋がる。
「お揃いがいいっ」
すぐさまの返事に、相変わらず信楽はふわりと笑うだけだ。
「一緒に見るのがいいよね」
その提案に飛びつかないわけがない。
堂々と、信楽は旭のものなのだと見せびらかせるように歩ける空間は憧れだった。
かつて、初めてカフェで一緒に過ごした時の、信楽に向けられる視線に、返せる自慢がある。
あの時は向けられる全てが妬ましさでしかなかったが…。
「お店とかは旭のほうが詳しいのかな」
「そんなこと…。俺、安いものしか持っていなかったし…」
旭の引っ越しを手伝った信楽は、なんとなくではあっても価値観は分かっているのだろうと思う。
あえてそれに触れず、情報量を追ってくれるとは、旭の好みを探っているところなのだろうか。
一度信楽が言葉を区切った。
言いづらそうな雰囲気はなんとなく窺えた。
「来週末、家をあけることになるんだ…」
「え?…あ、前に言っていた『取材』?」
「そんなところだね」
時々家を留守にするとはすでに聞いた話で、それらを直に見て信楽の記事ができあがる。
仕事と思えば止めることもできず、送りだすしかない。
たとえ、何泊でも…。
最近の忙しさで言いそびれていたのだろうか。
だけど突然決まることも多いとも聞いていた。
『不規則な生活』とは、こんなところにも表れてくる。
すぐそばの『明日』と言われないだけ、良かれと思うべきなのだと旭は言い聞かせた。
「旭、都合つかないかな…。無理強いする気はないけれど、一日は旭の休みだよね?一泊だからもう一日、どうにかなれたら一緒に行きたいんだけれど…。そちら、焼き物も有名でね…お茶碗…」
「行きますっ!!!行くっ!有給あまってるからなんとかするっ」
信楽の言葉は遮られた。
意外だった信楽の発言に旭は即座に返事をした。
別に信楽の浮気を疑っているわけではない。
だが、どんな仕事をするのか、何をして過ごすのか、あまりにも興味深いことだらけだった。
誘われて断る理由がみつからない、といった感じだ。
どうしてもダメだと言われたら『病欠』でもいいや、と、一番信楽に怒られそうな言い訳が頭の中に浮かんでいた。
「そんな、すぐに…」
「大丈夫。うちの所長、何かと物分かりが良くて、社員の相談とか、すぐ乗ってくれるし」
過去の自分の経験なのだが、感情任せに動く旭に手を焼いた結果…とは当然本人は知らないことだった。
突発的な旭の返事にも信楽は冷静だった。
「ちゃんと会社の許可がとれたらね。まだ時間はあるから、はっきりしたら宿泊地をビジネスホテルじゃなくて温泉にでも変えるよ」
信楽は忘れずに釘を刺してくる。
ただの取材…より、兼ねた観光を信楽も楽しみたいのだろうか。
「うんうんっ、温泉♪」
滅多に行くことのない土地に心も弾む。
そこでお揃いの食器を買えば、余計に思い出となるだろう。
…来週末かぁ…。
ほわんと笑顔で未来を思い浮かべた旭は、一つのことにぶち当たった。
…アソコの毛は、確実に生えそろっていない…。
そんな状態で、温泉に入れと…?
信楽に温泉に誘われて断ることは、まずない旭だけれど…。
誰に見られてもおかしくない公衆浴場は信楽にとって許せる場所なのだろうか。
それとも、人の視線に旭がどう反応するか、羞恥にもだえる旭を見たいのだろうか。
今のこの時期に誘ってきたのは故意なのか偶然なのか。
羞恥心を煽ることでより昂っていく旭の体を、すでに信楽は知ってしまっていた。
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