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BLの丘
ふたり 39
2012-05-21-Mon  CATEGORY: ふたり
当日はあまり眠れなかった旭だ。
明け方にようやく睡魔に襲われたと思ったら、すぐに信楽に起こされてしまった。
しょぼしょぼとした目をこする旭に、信楽は「移動中は寝ていていいから」と微笑んでくる。
朝早くの出発は移動距離の長さと時間の無さを表していた。
もともとは信楽一人で仕事をするはずだったところに、旭との観光を組み込んでしまっているのだ。
旭の生活を心配するからなのか、他の予定を入れていなかったが、旭が同行するのであれば、気持ちにゆとりも生まれる。
今までも一人暮らしをしていた旭は、ご飯くらい一人でも食べられる…と少し拗ねたが、そこまで思ってくれる信楽には感動しかない。
最短で帰ってくる予定だったらしい。
結局は一緒に行けることになったのだから信楽の心配ごとも一つ減ったというところだろうか。

畏まった服装でなくていいと言われて、旭はカットソーにジャケットを羽織り、信楽もシャツにテーラードジャケットを合わせた格好だった。
軽装過ぎないだろうかと不安に思う旭だったが、「移動をする時はこんなものだよ」とあっさりと答えられた。
信楽の運転する車に乗り込み、高速道を駆け抜けていく。
途中のサービスエリアで名物を教えてくれたり、地元にまつわる伝説話なども聞かせてくれて、寝る間などなかったくらい夢中になった。

信楽の行き先は工場であったりショップであったりと、実際どんな内容を取材しているのか、そばにいても旭にはあまり良く理解できていない。
メモを取る場面があったり、ICレコーダーやデジタルカメラなども登場し、大人しくついてまわっていた旭は、「ちょっと持っていて」などと、本当の”アシスタント”として使われていた。
後々聞いた話で、一人だと手は二つしかないから、旭がいてくれたことで効率良く進めたと喜ばれては、旭の気持ちも舞い上がっていく。
有名な観光場所ではなくても、現地の人に聞いてくれたちょっとしたスポットなど、ところどころに旭でも楽しめる時間を作ってくれた。
返って人が少ないぶん、信楽と密着できて旭は喜んだくらいだったのだが…。
ガイドブックにも載らない、テレビでも放送されるようなことのない所は新鮮な気持ちを運んできてくれる。
『営業』という表面的な人付き合いをする旭とは違って、あまり外に出ない仕事である信楽かもしれないが、潜む対人関係は濃密なものであるのだと感じさせられた。

夕刻前に”仕事”を終えた信楽は、「どこか見たいところがあれば連れていってあげるけれど。…チェックインして温泉街でもプラプラしてみる?」と旭に尋ねてきた。
これといって思い浮かばない旭は信楽の提案を受け入れる。
どちらにせよ、今からの時間では大した移動もできないだろう。
仕事を終えた信楽も、旅館でゆっくりしたいのではないかと思いが巡った。
考えてみれば、家事全般をこなす信楽にとって、上げ膳据え膳の環境は十二分に寛げる状態のはずだ。
ずっと運転させてしまっていることもあったし、散策をするのは悪い話ではない。
「うんっ。…信楽さん、疲れてない?」
「それは体力の心配をされているのかな。確かに旭と比べたら自信はないけれど」
ハンドルを切りながらフッと笑った信楽のチラリとした視線が旭に流れてくる。
暗に年寄り扱いしたと捉えられたらしい発言に、慌てて訂正の台詞が続いた。
「そんなんじゃなくてっ。今日、朝早かったし、仕事しながら俺の相手もしてくれたし。運転だってさせっぱなしで…」
「仕事だけって思ったら気が休まらないところだけれど、旭がそばにいてくれたからね。気分転換にもなったし、疲れるどころか、癒されていましたって感じかな」
「ほんとにっ?」
そんなふうに言われて喜ばないはずがない。
弾んだ声で問い返す旭にふわりとした笑みが届く。
その笑顔は、嘘も偽りもないと、信楽の本心を見せてくれるものだった。

旅館、とは聞いていたが、旭が想像していたような、客室が幾つもある近代的な建物とは違っていた。
純和風の建物は二階建てである。そして庭園と呼べるような広々とした庭が広がっている。
宿泊客がいるのか、と思うくらいにひっそりとした趣のある旅館だった。
温泉街から続いていたはずなのに、外の喧騒が全く聞こえない空間に迎えられた。
車で入ってきてしまったからあまり気にならなかったのだが、意外と通りまで距離があるようだ。その距離が、適度な静けさを作り上げているのだろう。
客室係に案内をされ、一階の長い廊下を歩いて連れられた部屋に、旭は目と口を同時に開けてしまった。
「な…っ、っんぁっ?!」
二間続きの部屋、手前には木の温もりを残した座卓、奥は掘りごたつ式のテーブルがある。その先に大きな窓があり、庭が一望できた。
更に視線を横にずらすと、楕円形の石でできた露天風呂があった。すぐ隣には裸のまま寛ぐためなのか、木製の背もたれつきの椅子まで用意されている。
バタバタと部屋の中を走り回る旭を横目に、信楽は手前の和室で仲居がお茶を淹れてくれる会話に付き合っている。
「ごゆっくりお寛ぎください」
にっこりとした笑顔を振りまいて、仲居がいなくなってから、ようやくといった感じで旭は声を出した。

「信楽さんっ」
「なぁに?」
“なぁに”じゃないよっ、と心の中で叫び声を上げる旭に対して、信楽はいたって落ち着いたものだ。
自分でチョイスしているのだから旭のように驚くこともないのは当然のことなのだが…。
部屋にお風呂があると分かっていれば、これまで大浴場の件で悩んでいた時間はなんだったのだろう。
いたずらがバレたような少年っぽさを残す笑みで旭を見返してきた。
「お風呂っ、お風呂が部屋にあるっ」
もちろん、豪華な部屋の造りにも絶句していた。
旅館に関しての平均価格など知りはしないが、部屋に露天風呂がついている時点で”高級”なのだとは判断ができる。
様々な物件を扱っているだけに、部屋の良さも旭は気付くことができた。
「うん、そうだね。でも大浴場もあるから、伸び伸びと手足を伸ばして入れるよ」
そちらにも入りに行く気満々の雰囲気を感じ取っては、一度は落ち着いた旭の体がまた熱くなる。

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40話ではとても終わらない…。
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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-05-21-Mon 12:51 [編集]
きえ様、お帰り~♪ヽ(*^ω^*)ノ
別宅ブログで見たけど 一泊目の旅館が、すこぶる豪華で羨ましい!
しかも タダだなんて ラッキーでしたね!

信楽と旭も きえ夫婦の様に 色々あっても ラブラブで過ごすのでしょうね♪
[♨]*ノ∇ノ)キャッ♪...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-05-21-Mon 15:00 [編集]
けいったん様
こんにちは~♪

> きえ様、お帰り~♪ヽ(*^ω^*)ノ
> 別宅ブログで見たけど 一泊目の旅館が、すこぶる豪華で羨ましい!
> しかも タダだなんて ラッキーでしたね!

豪華でしたよ~。
トイレも洗面台も二つずつありました。
粗大ごみのお小遣いでパチスロに行かせて(本人が楽しんでいるのでいいのです)、そこでたまったポイントを宿泊券に変えるのです~。
今回は偶然が重なってグレードアップ~~~ヽ(゚∀゚)ノ

> 信楽と旭も きえ夫婦の様に 色々あっても ラブラブで過ごすのでしょうね♪
> [♨]*ノ∇ノ)キャッ♪...byebye☆

このふたりはどんな時間を過ごすのでしょうかね。
アシスタント業も無事こなせた旭だし。
信楽からご褒美をいただいてもいいでしょうよ。
体力の心配をされちゃった信楽、まだまだ頑張るでしょう。
つか、証明する?!
コメントありがとうございました。

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