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BLの丘
待っているよ 35
2012-07-02-Mon  CATEGORY: 待っているよ
その日は一緒に退社できるということもあって、福智はまた筑穂の家へと向かおうとする。
自分の家は大丈夫なのかと心配する筑穂に、「一人暮らしの家なんか、二、三日空けたってどうってことねぇよ」とあっさりと返されてしまう。
「それにさ、改めて弟たちに報告もしなくちゃだろ?」
どんなスピードで引っ越そうとしているのか…。
福智には昔から溜め込んだ思いがあったから、ここで一気に攻め込みたい心境も分からなくはないが…。
大野城の時ではないが、こんな風に寄ってきてくれた人にそのまま感情を押し付けてしまっても良いのだろうかと少々悩む。
もちろん福智は、明らかに大野城の存在を快く思っていなかったからこそ、既成事実を作りたいのだろう。
それでも福智に信頼を置くのは、長年の同僚としての付き合いがあったから。

二人揃って帰ると、家に明りがなかった。
「誰も帰ってねぇの?」
すでに夜の7時を回っていた。
そのことに筑穂の頭の中で普段の生活が咄嗟に浮かぶ。
「この時間だと穂波は寄り道。早くに帰ってくると嘉穂に何か食べられるものを要求されるから、ギリギリまで遅らせようとするんだよ。嘉穂は寝てるんじゃないかな」
「兄ちゃん、頼られすぎだろ…」
今までの生活が垣間見えては、福智から溜め息が吐き出された。
嘉穂が一人で留守番ができると分かってからは、穂波もやりたいことができて当然なのかもしれない。
夕食の前に宿題を片付けておけと言っても実行されたことはほとんどない。
この二日、大野城がやってきたせいで、絶対に気が緩んでいるはずだった。
だが玄関扉を開けた途端に鳴った携帯電話と、玄関にあるはずの靴がないことで、思わず頭を抱えた。
呼びだしている人間が誰なのか、名前を見なくても分かってしまった。
「はい…」
『あ、ちくちゃん。今日嘉穂くん、うちでご飯食べるから、お仕事してきていいわよ』
明るい香春の母親の声が、キンキンに響いてくる。
筑穂を気遣ってか、仕事に集中していいと、時々こんな連絡をくれるが、今日は些か遅かった。
「あ、いえ…。今、もう家に着いたんですけど…」
『あら、早かったのね。ごめんなさいね。もっと早くに電話できれば良かったんだけど』
こんなことは滅多にあることではなく、何かあったのでは…と思わず勘繰りが入った。
津屋崎家の生活時間は、香春の母親も良く知るところであり、連絡だけはいつも先にしてくるのに…。
「あの、何か…?」
筑穂の不安を感じ取ったかのように、すぐケラケラと笑う声が電話口から聞こえた。
『違うのよ~。私がケーキ作りをしていたら、一緒にやりたいって言い出してね。そのまま夕食も三人でドタバタしながら作っちゃったの。ほら、包丁も持ったことのないような子だから、目が離せなくて~ぇ。しかもふたりいるでしょ~』
嘉穂の視線までもが食べ物関係に向くとは驚きだった。まさか自ら作りたいと言い出すとは…。
一人でいる時間のこともあって、嘉穂にはまだ一人での火と刃物を使うことは許可していなかった。
家に誰かいれば頼るのが常で、自分でやろうという気を持っているとも思っていなかった。
香春がどれほどの腕前かは知らないが、母親の話ぶりを聞けば、ほとんど皆無だろう。
そんなのを同時に二人も見ていたのか…と思うと、奮闘ぶりが想像できてしまう。
「すみませんでした…」
「いいのよ。香春も楽しそうだったし。やっぱり嘉穂くんがいてくれると、兄弟ができたみたいで嬉しいのよね」
香春の家の夕食時間はもっと早いはずだ。この時間になってしまった原因も判れば、申し訳なさも募る。
明るく笑ってくれる声には、逆に感謝されているような嬉しさが湧いた。弟の存在が役に立っていること。
今、猛烈な勢いで食べているから、筑穂たちの食事が終わるまで預かる、という言葉には、さすがに「迎えに行く」と伝えた。
多少、現在の家庭事情も嘉穂から聞いているのか、母親の言葉には、兄弟ふたりでゆっくり話す時間を作った方がいい、と促されているようだった。
その心遣いに、本当に頭が下がる思いである。…とはいえ、今日も来客はあるのだが…。

電話に出ていた筑穂の動きは遅く、すでに我が家のように動きまわる福智の図々しさ…というか、堂々とした態度に感心してしまう。
まぁ、男所帯、気にされるようなものもなかったが…。
こちらも気を使うことなく許せてしまうのは、やはり長年の付き合いで知れた性格だろう。
「どしたの?」
脱いだ上着とネクタイを座布団の上に放り投げながら、通話を終えた筑穂に福智の声がかかる。
「んー。嘉穂、友達の家でご飯もらってるって。あとは穂波か…」
再び携帯電話を操作し、穂波の居場所を確かめた。
少し戸惑う声音だったが、『ちょっと遅くなるかも…』の返事の後ろに、ガタガタと物を動かすような音と、ボソボソと会話している別のふたりの人間の存在があるのを感じ取れる。
それがどこなのかは、やはりすぐに脳裏に浮かぶ筑穂だった。
「浮羽さん?」と問えば、一瞬の躊躇のあと、「あー、…うん…」と何とも歯切れの悪い答えだ。
先日、すったもんだした件はあったけれど、店主もいるようだし、悪いようにはならないだろうと、溜め息をついて電話を切った。
同じく夕食はいらない、とのことだ。

「ということは、何?俺と筑穂だけなの?おーっ。いきなり新婚生活、味わえるなんて、デキた弟たちだね~」
“新婚生活”…って、何やら意味が違っていないか?と首を傾げる筑穂の前で、福智は喜々として弾んだ声を上げた。
「ササッとメシにして、のんびりしよ。嘉穂くん、少しくらい待たせても大丈夫だろ。つか、勝手に帰ってくるんじゃね?」
「そんなこと言って…。お母さんにお礼も言わなくちゃだし…」
「それもそうか。…あ、その時、俺も一緒に行って、引っ越してきますって伝えとかなきゃ。やっぱこういうのは『顔』を見せておかないとな~。不審者扱いされたら嫌だし」
生活圏の中にどんどんと踏み込んでくる福智に、それより弟の許可を得ていないだろう…とようやく気付いた筑穂であった。

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コメント

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フクちゃん!
コメントちー | URL | 2012-07-02-Mon 00:24 [編集]
あんたも進めすぎじゃないの?
仕方ないけど~。
(フクちゃん押しだったハズ・・・)

まあ、兄ちゃんが良いなら良いのよねぇ。フクちゃん、頑張った。
それにしても、兄ちゃん。
弟の許可、いる?
一応、世帯主だよね?まあ、いるのか。
兄ちゃん、フクちゃん、許可貰えるかなあ←意地悪



「チューゥ チュチュチュっナッツのお嬢っさん♪ビキニが・・・ビキニなんて着れねーよ。あ、先輩からだ♪もしもし?先輩?兄ちゃんねー。え?隊長が・・・自宅療養?ヤバくないすか?私?隊長の家まで行きませんよ~。伊吹?伊吹ならここに。いねーし!隊長~。」
Re: フクちゃん!
コメントたつみきえ | URL | 2012-07-02-Mon 07:29 [編集]
ちー様
おはようございます。

> あんたも進めすぎじゃないの?
> 仕方ないけど~。
> (フクちゃん押しだったハズ・・・)

トントンと進めていきますね~。
いろいろと抱えている気持ちがあるのでしょう。
筑穂が受け入れる姿勢を見せちゃったから、余計に気分も良いのでしょうし。

> まあ、兄ちゃんが良いなら良いのよねぇ。フクちゃん、頑張った。
> それにしても、兄ちゃん。
> 弟の許可、いる?
> 一応、世帯主だよね?まあ、いるのか。
> 兄ちゃん、フクちゃん、許可貰えるかなあ←意地悪

世帯主なんだけど、一番に考えるのは弟の事なんだもん、お兄ちゃんは。
自分の幸せより、弟の成長を考えていたお兄ちゃんなんだもん。
その考えは急には変わらないんでしょう。
でも筑穂が自分の考えもちゃんと言って理解を求めた時、聞きわけのないことを言う弟でもないでしょう。


> 「チューゥ チュチュチュっナッツのお嬢っさん♪ビキニが・・・ビキニなんて着れねーよ。あ、先輩からだ♪もしもし?先輩?兄ちゃんねー。え?隊長が・・・自宅療養?ヤバくないすか?私?隊長の家まで行きませんよ~。伊吹?伊吹ならここに。いねーし!隊長~。」

ちー様、押しかけることは諦めましたね。
隊長、元気になってくれるといいですけど。
伊吹は相変わらずウロウロしているのでしょうか(笑)
コメントありがとうございました。
No title
コメントけいったん | URL | 2012-07-02-Mon 09:22 [編集]
筑穂兄が、夕食を作って 一人で待っている。
と、思えば 穂波も嘉穂も ウロウロせずに帰って来るでしょうけど!
今は 筑穂の側には しっかり立場を勝ち取ったフクちゃんが居るもんね~♪
自分たちも 好きな人と一緒にいたいよね゚.+:。LOVE゚・*:★⌒ヾ(-ω・*)

「もう俺、大野城の担当を外れて いいよな?」
「馬鹿言え!あの大野城だぞ!」
「そうっすよ!まだ 何か仕掛けてくるか!」
「ゲッ!」

『やっぱ家は、いいよなぁ~マイ・ハニー♪』
[まぁ あなたったら~ヾ(  ̄▽)ゞオホホホホホ♪]
『マイ・・・ハニー??』
(o ̄∇ ̄o)ヘヘッ♪...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-07-02-Mon 12:58 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> 筑穂兄が、夕食を作って 一人で待っている。
> と、思えば 穂波も嘉穂も ウロウロせずに帰って来るでしょうけど!
> 今は 筑穂の側には しっかり立場を勝ち取ったフクちゃんが居るもんね~♪
> 自分たちも 好きな人と一緒にいたいよね゚.+:。LOVE゚・*:★⌒ヾ(-ω・*)

書き忘れましたが…(汗)弟は、フクちゃんがついてきているって知りません…(冷汗)
だからただの偶然…?!
だけど朝の雰囲気だけで感じとってしまって、淋しくなったんでしょう。
同じく台所に並んで立つ姿を見比べてしまった穂波は特に…。
違いの差を見せつけられたら、そりゃぁ、自分だって見せてやりたくなる(?)よね~(/ー\*)

> 「もう俺、大野城の担当を外れて いいよな?」
> 「馬鹿言え!あの大野城だぞ!」
> 「そうっすよ!まだ 何か仕掛けてくるか!」
> 「ゲッ!」
>
> 『やっぱ家は、いいよなぁ~マイ・ハニー♪』
> [まぁ あなたったら~ヾ(  ̄▽)ゞオホホホホホ♪]
> 『マイ・・・ハニー??』
> (o ̄∇ ̄o)ヘヘッ♪...byebye☆

まだ残しておりますね~、大野城の存在は。
隊員さん、がんばって~っ♪
隊長は自宅療養で…。

いつの間にか "マイ。ハニー" の座まで潜り込んだ…さすが特殊部隊…。
やっぱり最強…( ̄ー ̄; ヒヤリ
コメントありがとうございました。
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