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BLの丘
待っているよ 42
2012-07-09-Mon  CATEGORY: 待っているよ
福智の引っ越しはトントンと進んだ。
「生活用品は全部揃っているし、超ラクな引っ越し~♪」
と本人は必要なもの以外を処分している。
以前、筑穂が二階で使用していた部屋が、今は物置兼嘉穂の遊び場になっているので、そこを空けても良かったのだが、「寝るしか用がないんだから筑穂の部屋で良い」と堂々と宣言されてしまった。
嘉穂は単純な頭で住人が増えることに違和感を持っていなかったが、相手が大野城でなかったことに少々の不満があるらしい。
もちろん当てにするのは宿題の件である。
穂波といえばさすがに状況は分かっているだろう。
筑穂は照れくささがあったが、福智にいたっては「コソコソするほうが不健康だ」と開き直っていた。
それでも四六時中教師の顔を見なくて済む、しかも卒業しても付き合いがなくならない状況にならなかったことに安堵しているところも窺えた。
そんなに嫌わなくてもいいのに…と筑穂は思ってしまったが、筑穂では分からない葛藤というものがあるのかもしれない。

二週間もするとすっかり生活に馴染んだ。
福智の性格もある。人懐っこい性格は弟たちと同目線で物事を考えたり判断するため、とっつきやすいようだ。
その中でも指示は怠らなく、今まで筑穂が一手に担っていたものを分担制にしてしまった。
大野城が言っていたように、「食った食器くらい洗え」と激を飛ばし、しかし朝の忙しさの中でやらせることを筑穂が良しとしなかったため、夕食後の後片付けを穂波と嘉穂の担当にした。
もっとも、みんなで食事がとれたとき…ではあるけれど。
フレックスタイム制の自分たちとは違って、学生には”時間”が指定されている。
慌ただしい中では、人は余裕をなくす。事件も事故も恐れる筑穂は、その余裕をふたりに持たせてやりたかった。
福智はその意思を汲んでくれた形だ。
夕食後、穂波と嘉穂が並んで台所で洗いものをするのを見るのは、とても新鮮だ。
そして兄らしく、穂波があれこれと嘉穂を促している光景も、ふたりの近さを筑穂に改めて教えるものになった。
自分だけが仲間外れにされたような疎外感のほうが強いのかもしれないが…。

「筑穂さぁ、嘉穂に料理、教えろよ」
座卓でのんびり食後のお茶をすすっている時に、隣の福智が小声で話しかけてくる。
「え…、でも…」
正直、ひとりで道具をいじられて、怪我でもあったら…と、まだ信用がない。
筑穂の心配は福智も充分理解して、での提案である。
「穂波だってこれから忙しくなるだろ。まだ子供、って思っているかもしれないけれど、できそうなことからやらせていかないと、いつまでも”お坊ちゃま”のままだぞ」
「そうだけど…」
「慣れるまで火はさすがに、一人の時は使わせない方がいいだろうけどさ。家が燃えていました…じゃ、シャレになんないし。包丁で指切って、痛い思いしているくらいが成長する上で一番良いんだよ」
確かに、言い分は良く分かるのだが…。筑穂だってこれまで何枚の絆創膏の世話になったかと過去がある。
「火を使わなくったってできるものってあるだろ。今は電子レンジでできる食材も多いし。正しいことを正しく教えていけば、アイツ、飲み込みいいからちゃんと学習すると思うぞ」

短い期間でも、きちんと観察してくれていることに驚かされる。
他人の目から見るから、より冷静な判断が下せるのだろうか。
筑穂の中では、いつまでたっても”成長していない”弟のままだ。
それを福智は見抜いてきた。同時に徐々に自分の手を離していくことを促されている。
穂波が自分で進路を考えたように。

「うん…」
筑穂にとってはひとつの淋しさでもあったのだが…。甘やかし続けてきた最大の理由は、自分が必要なのだと思ってほしかった、自分が必要とされているのだと思いたかったから…。
力なく頷いた筑穂の頭上に福智の掌が乗った。
「今だって、穂波の言うこと聞いて、やってるじゃん。何かの時のために、できないことばかりより、ひとつでもできることがあったほうがいいって」
福智の言うことは正論である。自分の感情だけで制限していい問題でもない。
こうして福智が隣にいてくれることでも、考えは少しずつ変わっているのかもしれない。
弟だけがすべてだった。彼らが離れることが怖かった。でも今は、常に自分を見てくれる福智がいる…。

ふたりを部屋に追いやれば、余程のことがない限り一階に降りてはこなかった。
だからその時間、筑穂と福智は居間で様々な内容の会話をする。
この今までにはなかった空間が、筑穂にとってとても気持ちの良いものだった。
仕事のことであったり、休みはどうする?だとか、もちろん穂波と嘉穂の話題も抜けたりしない。
共通点が多すぎて、会話がいつまでも止まらなく、日付が変わっている時もあった。
あまりにも充実した毎日だった。

ただ、布団の中だけは…。
背中を抱かれて眠ることもあれば、筑穂の方から胸元に額を寄せていくこともある。
一応、別々の寝具があるのだが、いつの間にか、どちらからともなく寄り添っているといった感じだ。
軽く啄ばむようなキスはするものの、それ止まりで先に進むことはなく、一度感じたことのある熱と快感に辿り着くことはなかった。
そのもどかしさを筑穂は口に出せずにいた。自分から強請ることの恥ずかしさと、あとはやはり我を忘れて奔放になってしまった時に、弟たちに知られたなら…という恐れが押し留める。
『弟たちがいるところで何かをしようとは思っていない』と福智は言っていた。
気遣われているのも分かったが、いつまでこのモヤモヤを抱えたらいいのだろう。
燻るものを福智は持っていないのだろうか…。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-07-09-Mon 11:40 [編集]
すんなりと家族に溶け込めるのも フクちゃんの気遣いの出来る人柄ゆえかな?
少しずつ少しずつ 筑穂に将来を見越しての家族の在り方を話しする姿も 高圧的じゃなくて 好感度アップ~♪(o^-^o) ウヒッ

「ダーリン、吐きそう!」
『えっ、洗面器を!』
「ダーリン、お腹がーー!」
『ひゃ、トイレに~!』
「ダーリン、熱が39度超えたわーー!!」
『ギョェー、アイスノンと冷えピタを~~!』

...ほんと隊長さんって 優しいのね。
ダウンしてる私に気づかない(信じられます!?)ダンナと変わって欲しいわ。・・・

と、寝込む事も出来ない 家族が一日中いる土日曜日を過ごした私。
やっと 根性で峠を越え 今は微熱と頭痛のみです。

夏風邪、恐るべし~~!
きえ様も ちーさんも 気をつけてね♪ヾ(* ̄▽ ̄*)Byeヾ(* ̄▽ ̄*)Bye
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-07-09-Mon 12:41 [編集]
けいったん様
こんにちは~♪

> すんなりと家族に溶け込めるのも フクちゃんの気遣いの出来る人柄ゆえかな?
> 少しずつ少しずつ 筑穂に将来を見越しての家族の在り方を話しする姿も 高圧的じゃなくて 好感度アップ~♪(o^-^o) ウヒッ

フクちゃんならではですね。
更に兄の信頼があることを感じとれるから、弟たちも認められるのでしょう。
筑穂も教えられることはたくさんあるね。

> 「ダーリン、吐きそう!」
> 『えっ、洗面器を!』
> 「ダーリン、お腹がーー!」
> 『ひゃ、トイレに~!』
> 「ダーリン、熱が39度超えたわーー!!」
> 『ギョェー、アイスノンと冷えピタを~~!』
>
> ...ほんと隊長さんって 優しいのね。
> ダウンしてる私に気づかない(信じられます!?)ダンナと変わって欲しいわ。・・・
>
> と、寝込む事も出来ない 家族が一日中いる土日曜日を過ごした私。
> やっと 根性で峠を越え 今は微熱と頭痛のみです。

なんと~~~っ!!!!
でも家族の手前、がんばっちゃう、けいったん様だったのですね。
筑穂みたいです~。
すばらしい~っ。
私は速攻投げ出してベッドから出ません(←)
誰もいなくなった(いなくなったのかなぁ…)平日、もっとゆっくり休んでね~。

> 夏風邪、恐るべし~~!
> きえ様も ちーさんも 気をつけてね♪ヾ(* ̄▽ ̄*)Byeヾ(* ̄▽ ̄*)Bye

夏バテも入ってくる季節ですからね。
体調管理、皆様お気を付けて~。
全国の方、輪番停電、免れるといいですね。
去年、うちのほうは、突然ブチッて電気が切れて大変でしたよ。
信号も消えて死者が出たって聞いた時は、出かけるのを控えましたね…。
コメントありがとうございました。
No title
コメントちー | URL | 2012-07-09-Mon 13:14 [編集]
フクちゃんは、良い買い物だよね。
末っ子ちゃん、宿題くらい兄ちゃんとフクちゃんが見てくれるわよ。

それより、兄ちゃんが欲求不満ですがな。
フクちゃん、気付けるかな?
その手の場所に行ったら良いんじゃない?
兄ちゃんは言えないね。


「もしもし?優しい隊長ですか?ちーです。ちー、二三日お休みしますね。え?どこに行くって?愛しの可愛い子ちゃんの母国に行ってきます!
掃除腐さん、淋しかったよ~。復帰おめでとうございます!ゆとり隊員がちゃんとするように見張って下さいね♪」

Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-07-09-Mon 13:51 [編集]
ちー様
こんにちは。

> フクちゃんは、良い買い物だよね。
> 末っ子ちゃん、宿題くらい兄ちゃんとフクちゃんが見てくれるわよ。

そうですよ。今までもきっと筑穂が丁寧に教えていたことでしょうし。
筑穂まで懐柔される大野城より、まるごと見てくれるフクちゃんは、本当に良いお買い物だと思います。

> それより、兄ちゃんが欲求不満ですがな。
> フクちゃん、気付けるかな?
> その手の場所に行ったら良いんじゃない?
> 兄ちゃんは言えないね。

一度は感じちゃった欲望ってか、欲求ってか、快感ってか、心地よさっていうものが、はびこっているのでしょう。
でもでも、家の中だしねぇ…と悩んでおります。
フクちゃんもいっぱいいっぱい我慢しているんじゃないんですかね。
だってず――――――――っと想っていた人と同棲はじめられたんだもん。
その手の場所…。(ホント読者様の思考って私の先を読んでいますよね~)
ハイ、子育てだけじゃなくて、自分たちも楽しまないとね~。

> 「もしもし?優しい隊長ですか?ちーです。ちー、二三日お休みしますね。え?どこに行くって?愛しの可愛い子ちゃんの母国に行ってきます!
> 掃除腐さん、淋しかったよ~。復帰おめでとうございます!ゆとり隊員がちゃんとするように見張って下さいね♪」

隊長が掃除腐さんとイチャイチャしている間に、ちー隊員から休暇願がΣ (゚Д゚;)
愛しの可愛い子ちゃんの母国…ってもしかして…お隣ですか?
当てはめた一家を追い掛けて(?!)
いーなーぁ。
うちは夏の旅行、また何か考えろって言われて、
暑いからシベリアか南極にでも行こうって言って、速攻睨まれました。
(パスポート、持ってないもんなぁ、あやつ…。それより興味がない…。つか、国内?!)
コメントありがとうございました。


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