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BLの丘
淋しい夜に泣く声 33
2009-09-28-Mon  CATEGORY: 淋しい夜
部屋のドアの前まで送り届けられ、榛名は廊下で「おやすみ」と英人の髪を撫でただけで立ち去ろうとしていた。
英人はあまりの淋しさに心が千切られそうになっていた。
榛名と一緒に食事に出たことなどたくさんあったし、こうして部屋の前で別れたことも一度や二度ではない。
自分は勝手気ままな自由業で好きな時に思いついたまま絵を描けばいい生活になっていたが、榛名が次ぐ日に仕事に追われることは嫌でも知っている。寝顔を見たのもあの一度だけだった。

負担をかけたくないと思うから、英人も蚊の鳴くような小さな声で「おやすみなさい」と告げながら、榛名の顔を見られずに徐々に俯いていった。
そんな英人の愁いの表情を読み取ることなどたやすいことだと、榛名はすんなりと英人の前から立ち去ってはくれなかった。
「どうした?」
言葉の裏には「欲しいのならそう言えと言っただろう」という意味が込められていることは、さすがの英人でも分かったが、このまま甘えてしまったら何を言い出すのかと不安に襲われた。

神戸が冗談でも『恋人なの?』と口にした言葉が、喉に引っかかった魚の骨のようにちくちくと心を蝕んでいたからだ。
誰が見ても誤解を招くほどの榛名の行動に、ささやかでも期待と言うものが生まれてくる。
持ってはいけない期待だと理解はしていても、確かめたくなってしまう。自分が榛名にとってどんな存在なのか…。
榛名から英人を求めたのは出張から戻った日の一回限りだった。その後は多少けしかけられたところがあったとしても最終的に「抱いて欲しい」と強請ったのは英人で、それが榛名の心の全ての答えなのだと告げられているも同然だった。

英人は静かに首を横に振りながら「疲れただけ」と嘘をついた。
榛名もそれ以上は追及しなかった。
「画廊に絵が出たんだ。とりあえず一段落したから慌てて描くことはない。明日はゆっくり休んでいろ」
労われ、英人は部屋のドアを開けると榛名を見送ることもせずに中に入った。
背中を見たら追いかけて行きそうで怖かった。それくらい追い詰められていた。

身分違いの恋に期待を寄せる心など洗い流してしまおうと、英人はそのままバスルームへと籠った。
自分が割り切って、自分に言い聞かせるしかない。榛名が自分に期待をするのはプロジェクトに必要な『道具』としてであって、英人が願うようなものは一切持ち合わせていないのだと。やがて切り捨てられるのだと…。
…そんなことはもうずっと前から分かっている…!けど、この沸き上がる感情はどうしたらいい?!
自問自答しながら頭から熱いお湯をかぶりながら涙をお湯の流れで誤魔化した。
恋をしたことがなければ失恋も体験したことのない英人にはあまりにも辛すぎる痛みだった。
崩壊しそうになる胸の中で思った。
こんなふうに扱わないでほしい。優しくしないでほしい…。
まるで恋人を相手にするかのようにいたわるような指先で髪や頬を撫でないでくれと、心の底から願った。

『千城ってば保護者なの?恋人なの?』
神戸の言葉が木霊のように頭の中で繰り返されて、英人はとても長い時間バスルームの中で嗚咽を上げ続けた。

泣き過ぎてだるくなった身体を引きずり、水気を拭き取ることもなくバスロープを羽織っただけでベッドの中に潜り込んだ。普段はパジャマに着替えていたのだが、そんな面倒なことはしたくなかった。
あまりにも長いこと、身体を濡らしていたせいか、英人はそのまま高熱にうなされた。
意識はもう、どこに飛んだのかも分からないほど朦朧として、とにかく眠りたかった。

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(ちょっとだけ状況説明? 英人が眠っている間のことです。読まなくても大丈夫です。)

最初、異変に気付いたのはルームキーパーだった。一定の時間が過ぎてもルームサービスも頼まれなければホテル内のレストランに出かけたという話も聞かなかった。
昼前までは寝かせても、昼には必ず叩き起こして規則正しい生活をさせろ、と榛名から厳しく言い渡されていたから部屋にコールを入れたが何の返事もない。機械室に問い合わせれば、部屋のドアが一度も解錠されてもいないとのことだった。(本当にこんなシステムがあるかは知らないです(汗)
マスターキーで部屋に入ってみればシーンと静まり返っていた。
大概なら寝ていても部屋にコールを入れれば起きてくれる。昨夜は外へ食事に出かけたとも聞いていたからもしかしたらまだ熟睡中なのかもしれないとあまり深く考えずに寝室に入った。なんとなく気は咎めたのだが榛名を怒らせる事だけはしたくなかった。
入室して何よりも驚いたのは半裸状態(いや、もう全裸?布団は肌蹴ているしバスローブは閉じられてもいない)で、目のやり場に困ったルームキーパーは、それでも慌てて英人の身体を隠すように布団を掛けた。
その時、英人が普通の状態で寝ているのではないことを即座に理解した。白い肌が上気して赤みを帯びている。呼吸も荒く、大量の汗をかき、明らかに体調が悪いのだと分かった。
それだけでパニックに陥ってしまったルームキーパーは部屋から支配人を呼び出した。自分ではもうどうして良いのか何一つ判断が出来なかったからだ。
支配人は落ち着いてドクターを呼び、それから野崎に連絡を入れた。榛名は何かと忙しく緊急の連絡を入れる場合には野崎が一番早いことを熟知していた。
ドクターはすぐに来てくれたが、榛名が部屋に着いたのは野崎に連絡を入れてから2時間以上も経ってからのことだった。
榛名にこれまでのことを、自分たちから知る範囲で事細かに説明をすると、榛名は「分かった、もういい」と全ての人間を部屋から退出させた。
英人はただの風邪だと診断されたが、翌日の夕方まで目を覚まさなかった。

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