まるでサウナの中にいるような感じで、英人は意識を取り戻した。
身体が熱くて仕方ない。喉はカラカラに乾き、このまま水分も取れずに干乾びてしまうのではないかと思ったくらいだった。
体中が重くて、コンクリートで固められたかのように全く動かせなかった。
このまま自分は死んでしまうのだろうと弱気な心が英人を支配した。死んでしまえたら楽になれるのに…という思いすら浮かび上がった。
最初に浮かんだのは榛名の顔だった。穏やかに笑い、英人を大事に扱う優しい仕草。傲慢な態度でいつも英人を従わせていたけど、そうやってあるべき方向へ導いてくれる榛名が大好きだった。
それから母親の顔だ。自分の名前をまともに呼んでもくれなかった母も記憶もない父も嫌いだったが、榛名と出会うためにこの世に生を吐き出してくれたことに何故か感謝した。
どんなに苦しくても『夢』という希望を与えてくれて、『夢は見るものではない』と教えてくれた榛名に出会うことが出来たのは、自分の命があったからだ。
双方の求める『愛』には出会えなかったけど…。
最後に榛名の顔が見たかったな…と、ふと脳裏を横切った。
またしても涙に濡れて張り付いてしまったのか、瞼も重く開けない。身体は言いようもなく乾いているというのに、一筋の涙が零れた。
逢いたい…。榛名に逢いたい…。何を伝えられなくても、何を告げてもらわれなくてもいい。
最後に榛名に逢って、その肌に触れて匂いを嗅ぎ、そしてこの世を去りたい…。
熱された首筋に触れられる冷たい感触がとても気持ち良かった。それはすぐに離れて飛び越えたように今度は手首をつかんだ。
まともに開かない瞼が、先程の涙の水気を借りてなんとか薄く開いてみると、自分の傍らに座る大きなシルエットがあった。
漠然とそれが誰なのか…、もうこれは『願い』でしかなかった。
「……し……」
呼びたかった名前の一つしか音にならなかった。
乾ききった喉は声というものになりもせず、かろうじて漏れた音が空気を揺らしただけだった。
何かに驚いたかのように、漠然としたシルエットが大きな動きを示した。冷たい肌の感触が英人の熱い額に触れられる。
「気が付いたのか?」
幾度も聞いて決して忘れることのできない声だった…。
頷いたつもりだったけど、鉛のように重たい身体が本当に動いたのかは英人には分からなかった。
「英人?英人っ?!」
その声を聞いただけで、もう満足だと思った。
これはきっと神様が持たせてくれた『安らぎ』なのだろう。
眠りに着く前に幾度も願った。…榛名の恋人に、せめて愛人でもいい。傍に置いてくれる存在でいさせてくれと…。
だってもう、自分は榛名からは離れたら生きていけないくらいに彼の『所有物』となっていたのだから…。
英人は離れて行く前に、声の主に少しでも触れたいと思った。
だけど、重たい身体は少しも動かなくて、瞳も満足に開けなくて、その姿すら捕らえることができない。
僅かに動いた指先に榛名が気付くと、まるで恋人同士が愛を確かめるかのように、指を絡ませて手を握り返してくれた。
もう片方の手は幾度も優しく英人の髪を梳き、頬を撫で、唇の上を掠めた。
英人はこれが夢の中の出来事なのだと思った。
榛名から、自分と同じように思う感情の『愛』が、みすぼらしい自分に向けられることはないと知っていたから…。
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身体が熱くて仕方ない。喉はカラカラに乾き、このまま水分も取れずに干乾びてしまうのではないかと思ったくらいだった。
体中が重くて、コンクリートで固められたかのように全く動かせなかった。
このまま自分は死んでしまうのだろうと弱気な心が英人を支配した。死んでしまえたら楽になれるのに…という思いすら浮かび上がった。
最初に浮かんだのは榛名の顔だった。穏やかに笑い、英人を大事に扱う優しい仕草。傲慢な態度でいつも英人を従わせていたけど、そうやってあるべき方向へ導いてくれる榛名が大好きだった。
それから母親の顔だ。自分の名前をまともに呼んでもくれなかった母も記憶もない父も嫌いだったが、榛名と出会うためにこの世に生を吐き出してくれたことに何故か感謝した。
どんなに苦しくても『夢』という希望を与えてくれて、『夢は見るものではない』と教えてくれた榛名に出会うことが出来たのは、自分の命があったからだ。
双方の求める『愛』には出会えなかったけど…。
最後に榛名の顔が見たかったな…と、ふと脳裏を横切った。
またしても涙に濡れて張り付いてしまったのか、瞼も重く開けない。身体は言いようもなく乾いているというのに、一筋の涙が零れた。
逢いたい…。榛名に逢いたい…。何を伝えられなくても、何を告げてもらわれなくてもいい。
最後に榛名に逢って、その肌に触れて匂いを嗅ぎ、そしてこの世を去りたい…。
熱された首筋に触れられる冷たい感触がとても気持ち良かった。それはすぐに離れて飛び越えたように今度は手首をつかんだ。
まともに開かない瞼が、先程の涙の水気を借りてなんとか薄く開いてみると、自分の傍らに座る大きなシルエットがあった。
漠然とそれが誰なのか…、もうこれは『願い』でしかなかった。
「……し……」
呼びたかった名前の一つしか音にならなかった。
乾ききった喉は声というものになりもせず、かろうじて漏れた音が空気を揺らしただけだった。
何かに驚いたかのように、漠然としたシルエットが大きな動きを示した。冷たい肌の感触が英人の熱い額に触れられる。
「気が付いたのか?」
幾度も聞いて決して忘れることのできない声だった…。
頷いたつもりだったけど、鉛のように重たい身体が本当に動いたのかは英人には分からなかった。
「英人?英人っ?!」
その声を聞いただけで、もう満足だと思った。
これはきっと神様が持たせてくれた『安らぎ』なのだろう。
眠りに着く前に幾度も願った。…榛名の恋人に、せめて愛人でもいい。傍に置いてくれる存在でいさせてくれと…。
だってもう、自分は榛名からは離れたら生きていけないくらいに彼の『所有物』となっていたのだから…。
英人は離れて行く前に、声の主に少しでも触れたいと思った。
だけど、重たい身体は少しも動かなくて、瞳も満足に開けなくて、その姿すら捕らえることができない。
僅かに動いた指先に榛名が気付くと、まるで恋人同士が愛を確かめるかのように、指を絡ませて手を握り返してくれた。
もう片方の手は幾度も優しく英人の髪を梳き、頬を撫で、唇の上を掠めた。
英人はこれが夢の中の出来事なのだと思った。
榛名から、自分と同じように思う感情の『愛』が、みすぼらしい自分に向けられることはないと知っていたから…。
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拍手コメね様
こちらにもコメントを残してくださり嬉しいです。
>胸が痛い><… でも、ココがあるから、ハッピーエンドの美味しさが寄り一っそうの美味となるんですよね…
ハイ、色々あったからこそ、得られた幸せ。
"美味"とはとても素晴らしい表現ですね。
そんなふうに言ってもらえて舞い上がっていきます。
コメントありがとうございました。
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>胸が痛い><… でも、ココがあるから、ハッピーエンドの美味しさが寄り一っそうの美味となるんですよね…
ハイ、色々あったからこそ、得られた幸せ。
"美味"とはとても素晴らしい表現ですね。
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コメントありがとうございました。
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