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BLの丘
晴れ時々雨、また土砂降り 8
2012-07-30-Mon  CATEGORY: 晴れ時々
大和とはその場で別れた。
「尚治、ずっと、いろいろとありがとうね…」
最後に呟かれた言葉は、淋しさはあっても、考え直した結果のことだと思う。
尚治が言うことも、千城が語ったことも、充分理解できる思考力は持っているはずだと期待を寄せた。
それはまた、千城が「死体で見つかった時の日野の気持ちを考えるんだな」なんて余計な一言を付け足してくれたおかげかもしれないけれど…。
恋愛感情はなくても、気にかけてくれる人がいるのだと、千城は言葉の中に隠していた。

長流を真ん中に三人で並んで歩くというのも奇妙な光景だな…と思ってしまった。
「あの子さぁ。たぶんショウの気を引きたくて、色々な男に付いていったんじゃない?あっ、ショウが働いていたお店でね。紹介…とまではいかなくても、『この人なら平気』みたいに頷かれたら、そこはショウを安心させるために、相手は誰でも良かったんだと思うよ」
「そんなこと言われたって、あの店の中じゃノンケで通ってたんだよ。どんな色目使われたって分かるわけないじゃん。つか、そんな人間いなかったし」
「そこがさぁ。単にショウが気付いていなかっただけじゃない」
膨れる尚治に、呆れる長流に…。小さな言い争いをしていれば千城がさり気なく口を挟んでくる。
「客への気遣いと恋愛感情は別物だからな。無言で見られていれば、注文するタイミングが取れないでいるのか、と思うのが普通だし。ノンケと豪語する人間に対してアプローチする人などいないと思っていたのが当時の日野だろう?」
「そうそう、千城さん、やっぱり良く分かってるよ」
「千城っ、もう帰っていいよっ」
「自分から泣きついてきて、その言い草はなんだ」
手放しで千城を褒める尚治を見ては、不機嫌な感情丸出しで長流が腕を叩いていた。
溜め息と見下す視線を浴びせながら千城が逆に長流の手を、甲で払いのけた。
でもそれも二人の和やかなスキンシップの一つでしかないことを尚治は知っている。
付き合いが長い二人は、文句も嫌味も皮肉も、何でも口に乗せる。
素直に褒めることなど滅多になく、だけど心の底ではお互いを認め合い、しっかりと意思の疎通ができているのだから…。
これもある意味、嫉妬の対象だ、と長流は気付いているのだろうか…などと尚治は苦笑を浮かべた。
そうそう、堂々と恋人ゴッコまでやってくれる人たち。

そこでふと思い出した尚治は、本当にこのまま帰りかねない千城を慌てて呼び止める。
「ちょーっと待ってっ。まだ真相、聞いてないし」
「「真相?」」
二人してハモって問い返されては、誤魔化されないっ、と尚治は前のめりになりながら二人の顔を覗き込んだ。
「トイレで、だよっ。なんで長流、シャツ脱いでたの?」
個室から出てきた時の長流の衣類は少々(?)乱れていた。
束の間ふたりとも黙ってしまい、それから千城がフッと小馬鹿にしたように笑みを浮かべる。
長流は「あー…」と明後日の方向に視線を流した。
「…というかね、僕、脱いでないから」
「脱ぎかけた…が正解だろう」
「何でっ?!」
この様子では明らかに戸惑っているのは長流のほうだった。
絶対に誤魔化そうとするだろう長流を感じては、尚治の視線は千城に向けられる。
こういう時、どこまでも長流をからかうのが千城の性格で、止めようとする長流の意思は無視されることが多い。
今はその性格に拍手を送ってやりたい気分だった。
「日野からの嫉妬を買いたかったんだよ。おまえもどこか飄々と流すところがあるからな。それを感じることで神戸は満足を得たかったんだ」
「はぁ?」
「ちしろ~っっ!!」
「ひとりだけモンモンとさせられて、同じ気分を味あわせてやろうっていうのが神戸の単純な考え。言っておくが俺は指一本触れてないからな。気色悪い」
…それを恋人の前で堂々と言うか…?
…は、さておき。
大人の余裕を振りかざしていた長流にも、言葉以上の焦りに見舞われることがあるのかと、今回の件で知ってしまった。
“気になって追いかけてきた”程度ではなく、こちらにも一泡吹かせてやろうという考え方がまた…。
もちろん嬉しい出来事ではあったが、与えられたショックはどうしたって尚治の方が上だろう…と振り返ってしまう。
長流は状況を理解していたが、尚治は大和の気持ちすら気付いていなかったのだから…。

「千城さん、ごめん…。ホント、迷惑かけたね…」
長流は千城と英人のことを『台風』と言ったが、こちらも変わらないように思えてきた。
順調に進んでいる付き合いも、時々土砂降りの雨に襲われる。そしてまた晴れていく。
「おまえは理解力が逞しいからな。神戸のこと、良く見ておいてやれ」
最後は友人としての願いであり、依頼されたことなのだと取れた。
長流の性格をたぶん、尚治以上に知るからこそ…。
自惚れだが、長流の相手が尚治でなかったなら、本当の意味で付き合うことを許したのだろうか…。
友人を大事に思っているのは、言葉にしない分、伝わってくるものがある。

明らかに年下の人間に”預けられる”ような発言をされて、長流の不機嫌さは増していった。
「もうっ、千城ってばっ!!」
長流の叫びを、口角を上げて受け止め、千城はそこから車を拾うと二人の前から姿を消した。
改めてふたりだけになってしまうと、少しだけ気まずさが漂う。
お互いの瞳を見つめながら、無言の時が流れ…。
ふと俯いた長流が、手を伸ばしてきて、尚治の手を握った。
「今度っから、ちゃんと言うよ…」
それが自分たちの店で長流が感情を隠してしまったことに行きつくものだとは悟ることができた。
照れ隠しに手を握る…なんていう行動に出たことも、なんだか可愛い仕草だな…と内心で苦笑したのは内緒の話。
「うん。そうして…。俺、分かんないことばっかりだから…」
尚治も答えながらそっと肩を抱えた。
そして耳元で「早く帰ろう」と囁いた。

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キリ良く8話(←どこが?!)で終わらせようかと思ったのですが…。
きっと納得されないでしょうから、あと2話くらい続くかな…。
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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2012-07-30-Mon 09:58 [編集]
いやぁ~何気に 一番カッコ良くて美味しい所は、千城が全部浚っていった様な・・・(笑)

いつも尚治を翻弄してる長流の焦り具合が、面白かった!
しかも 長流は計算ありの言動だけど、尚治は無いだけにね~d(゚ω^* )♪

きえ様のメルフォさんへの返事を読んで...
私も 作品をいっぱい書かれてるサイト様宅に 初めて訪問した時に どれから読んでいいか分からない時が、多々あります。
だから 私も よく作者さまに聞いちゃうので メルフォさんの気持ちが よく分かる!

きえ様のように 素早い丁寧な対応で 作品の時系列を教えて下さる作者のファンになっちゃうんですよね~
(⌒_⌒)ノ はーい先生、質問!...byebye☆
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-07-30-Mon 15:39 [編集]
けいったん様
こんにちは。

> いやぁ~何気に 一番カッコ良くて美味しい所は、千城が全部浚っていった様な・・・(笑)

はい。脇役のくせに、一番美味しいところを取っていきます。
さすが千城!(←)

> いつも尚治を翻弄してる長流の焦り具合が、面白かった!
> しかも 長流は計算ありの言動だけど、尚治は無いだけにね~d(゚ω^* )♪

けいったん様にも伝わっていただけたでしょうか。
リク主様からのご希望通り書けたかが、唯一の不安でありますが、
それぞれ、楽しまれてくださった方がいてくださると知れると、嬉しく思います。
時にはこんなこともあるんですよね、きっと。


> きえ様のメルフォさんへの返事を読んで...
> 私も 作品をいっぱい書かれてるサイト様宅に 初めて訪問した時に どれから読んでいいか分からない時が、多々あります。
> だから 私も よく作者さまに聞いちゃうので メルフォさんの気持ちが よく分かる!
>
> きえ様のように 素早い丁寧な対応で 作品の時系列を教えて下さる作者のファンになっちゃうんですよね~
> (⌒_⌒)ノ はーい先生、質問!...byebye☆

私も言われて気付きました。
うちも話数が増えてしまって、私の勝手な判断でシリーズ化してしまったけれど…。
その中に登場してくる背景までは…(汗)
しかも『上から下へ読んでください~』みたいな添え書きまでしてあったという…(冷汗)
もう、どうしようもない作者だと、後悔の嵐です。
でも今になって読んでくださる方がいてくださって、とても嬉しいです。
'`ィ (゚д゚)/ 質問はいつでも受け付けますよ~ 
コメントありがとうございました。

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