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BLの丘
原色の誘惑 3
2012-08-15-Wed  CATEGORY: 原色の誘惑
意思の疎通の良さは誰にでも言われることだったけれど。由利よりも由良のほうが優れているとは、長年の経験で知れることである。
言おうかどうしようか悩んで、結局ボソボソと由利は口を開く。
「…痴漢、された…」
すぐに理解してくれるのは、同じ容姿を持つおかげだろうか。
眉間に皺を寄せて「どこで?」と尋ねられる。
同僚と飲んでいて、もちろんいくら酔ったからといって、由利に手出しをする人間がいないことは、由良も知っている。
それ以前に、そんな場所で由利は飲み続けないだろう。
さらに一番『安全』とも言える居酒屋のはず…。
詳しい説明などせずとも状況を悟ってくれる由良に、簡単な言葉が漏れる。
「トイレ…。女の子に間違われて、アレ見られて、…お尻まで触られた…」
「うわっ、最低なヤツ。相手、何、どんな酔っ払いだったのっ」
「…そんなに、酔ってるようには見えなかったけれど…」
「だったらもっと悪いよっ。眼科とか精神科行くべきじゃんっ。相手の頭がおかしいんだよっ。ユーリ、そんなヤツのために自分がヤケ酒することになるなんて…。もう忘れちゃって、ゆっくり寝なよ」
一緒になって怒ってくれることにも安堵する。
由利は小さく頷いて眠りに落ちようとした。
どうにか思考が働いてきたのか、ふと気付く。
「…ゆら…、僕、どうやって帰って来たの…?」
由良が相変わらず髪を撫で続けている。その手は、心配しなくていいと言われているようで、またホッとしてしまう。
万事うまく片付けてしまうのもどちらかといえば由良のほうだった。
「高畠さんがタクシーに乗せて送ってきてくれたよ。俺が住所、教えたから。そんでもってここまで運んでくれた」
「え?」
「だって俺、運べないもん」
そりゃ…、体格を思えば、同じ背格好の、また筋肉の付き方も似た由良には、タクシーから引きずり下ろすことが精一杯だろう。
エレベーターがあるとはいえ、部屋は五階のマンションである。
「高畠さんもそのつもりで送ってきてくれたんだよ」
同じ会社にいれば、誰がどこの部署で、どれだけ親しいか…など、普段の会話の中に出てくる機会も多い。
そう多く話したことがなくても、その人の性格まで本人と同じくらい知られているものだ。
当然由良も、高畠の面倒見の良いしっかり者だと把握していた。
だからこそ、由利のことを頼めたのだろう。
「あとでお礼、ちゃんと言っておきなよ」
由良は撫でていた手をポンポンと叩く仕草に変えて、この話はもう終わり…と立ち上がった。
由利にしてみたら、週末の飲み会は、痴漢にあうわ、飲み過ぎるわ、先輩に迷惑はかけるわ…と散々な結果に終わった。
…酔っ払って正体なくしている、一番みっともない大人…って、自分のことじゃん…。
深い自己嫌悪を抱えながら、だけど正直な体は眠りについていった。

由利と由良が勤める会社は、文具メーカーである。由利は企画開発室に在籍し、由良は在庫管理室に所属している。
お互いほとんどデスクワークだったが、勤務階が違うため社内で出会うことは滅多になかった。
それぞれ揃うことがないように意識しているせいもあるかもしれない。
しかし、ふたりが並べば、良く知った同僚ですら見分けがつかない時がある。
その時に役立つのはネックストラップである。
部署と名前を確認してから話しかけられる一瞬の間にも、すっかり慣れた就業生活だった。
それでも敏感な人間は、髪型が違うとか、すぐ親指を口に当てる…とかのクセを見抜いてくれる。
特に今は、”髪を伸ばしっぱなしの弟”で見分けているらしい。

次から次へと新商品が企画される開発室はいつも雑多な雰囲気があった。
山のように積み上がった書類や写真、また他社商品など、一番広いフロアを占拠しているといっても過言ではない。
もちろん関係者以外立入禁止の、セキュリティが一番厳しいところでもある。
最終的な試作品などはまた別の場所で執り行われ、由利はそこには、入社した時の社内案内時に一度入れてもらったことがあるだけだった。
午前中の雑務を終えたところで、高畠と、彼の同期だという湯田川あつみ(ゆだがわ あつみ)が、「昼飯、食いに行こうぜ」と声をかけてきた。
湯田川も高畠と変わらない長身と筋肉の持ち主だ。
ふたりは由利の入社時から、なにかと構ってくれている存在で、たぶん歳が一つしか違わないことがあげられる。
それに、由利の下に新入社員は入ってきていなかった。つまり、一番の下っ端で手がかかる存在という意識があるのか…。
どこか浮いてしまいそうになる雰囲気を、簡単に蹴散らしてくれた。
だから昼食は、他の人間が混じることはあっても、三人の誰かが欠けることはない。

社員食堂に入っていこうかとしたところで、「ユーリっ」と遠くから呼ばれる声に振り返った。
周りにいた人間も数人はその方向に視線を向ける。
社内で由利のことを『ユーリ』と呼ぶのは、目の前にいる高畠と湯田川、それと由良だけだった。
勢いよく走ってくる、小柄な青年は、もちろん由利と同じ顔。
こんなところで、何を慌てているのかと不思議になる光景だった。それこそ珍しい。
「ユーリ、ちょっと一緒に来てよ。あのバカ男、勘違いしたままで帰ろうともしないんだ」
「「バカ男?!」」
由利の隣でハモった高畠と湯田川に応えることもなく、由良は由利の腕を掴む。
「『トイレで会った』って言うからすぐ分かったよ。アイツだろ、あの変態男。俺のこと、ユーリだと思い込んでんのっ」
由良が何を言いたいのか、それだけで通じる。
「なんでうちの会社にいるの?」
「端末の調子が悪くてメンテナンス呼んだの。いきなり俺のこと、つかまえるんだよ。『覚えてない?』だって。なんだよ、あの図々しい男っ」
それだけで、由良にも失礼な態度を取ったのだとは判断できることだった。
こういう時に変な連帯感を持つのが由良と由利である。相手から与えられた屈辱は二人がかりで返すのだ。
ニコリと由利の破顔した笑顔は、由良がいてくれるからこそ生み出される。
どこかで”お返し”をしたかった燻りまで感じ取ってくれる。だからこそ”共犯”になれる意味。
人を引き寄せる風貌を持ち、魅惑的な笑みを浮かべ…。無意識に誘う人間に捕らわれた人に、どこか同情の念が生まれた。
あんな表情、誰が見たことがあっただろうか…。
見ていた人、全てがドキリとした。
二人が揃うことの恐ろしさ…。

全く状況が見えなかった高畠たちも面白そうな展開だと勘が働く。
由利が高畠たちを見ると、もちろん目配せで『行け』と促される。
あたりまえだが、その後をついていかない先輩でもない。
そして廊下を進む二人を見かけた人たちは、滅多にないレアな光景に、誰もが目をパチクリとさせ、年に一度の限定品(お正月の福袋)を手に入れたような高揚感をもっていた。
しかもおててつないでいるのである。(正確には引っ張られている)
双子が揃わないことは社員の誰もが承知していること。
何があったかは知らずとも、ふたりで故意的に作られた状況は、あっというまに社内を伝わり、由良が連れた先がどこなのか、陰の連絡網が活発に動いていた。

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コメント

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双子ちゃん!
コメントちー | URL | 2012-08-15-Wed 04:45 [編集]
面白いですね、このお話。

双子かあ。双子ちゃん、良いなあ。
考え事とかシンクロするんですよね。
双子の団結力って半端ないし。

私は、女の子の双子しか周りにいなかったんですが、
由良、由利みたいな可愛い双子ちゃんがいたら、
毎日、楽しいだろうなあ。

双子ちゃんの反撃、会社の人達と楽しみたいと思います。
Re: 双子ちゃん!
コメントたつみきえ | URL | 2012-08-15-Wed 05:45 [編集]
ちー様
おはようございます。

> 面白いですね、このお話。
>
> 双子かあ。双子ちゃん、良いなあ。
> 考え事とかシンクロするんですよね。
> 双子の団結力って半端ないし。

楽しんでいただけているようで嬉しいです。
双子ちゃんて時に怖いですよね。
会話なんかしてないのに、行動が分かってる…。
幽霊みたいに背後にいたりして。

> 私は、女の子の双子しか周りにいなかったんですが、
> 由良、由利みたいな可愛い双子ちゃんがいたら、
> 毎日、楽しいだろうなあ。
>
> 双子ちゃんの反撃、会社の人達と楽しみたいと思います。

昔の職場に男の子の双子ちゃんがいましたよ。
不思議なことに、お財布は一つしか持っていなかった。
お兄ちゃんが持っていたけれど弟、何か買いたい時、どうするんだろう…。
離れないのか…。あ、そうなのか。(←いやいやいや、それもどうなの)
由良由利のように可愛くはなかったけれど楽しかったです。
今後、どうなるのでしょうか。
コメントありがとうございました。
No title
コメントたつみきえ | URL | 2012-08-15-Wed 05:49 [編集]
拍手コメk様
おはようございます。

>うっふっふ・・話の展開が面白そう?美貌の双子の出現にさて『彼』はどうする??次のお話が楽しみ。

まさか双子とは…と思っているのではないでしょうか。
どんな反応を示すんでしょうね。
亀更新ですけれど、待っていてください。
コメントありがとうございました。
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