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BLの丘
春が来てくれるなら 23
2013-05-11-Sat  CATEGORY: 春が来てくれるなら
チャイムが鳴ることもない。
勝手に入ってくる韮崎の存在に、勝沼は逃げ場もなく固まっていた。
訪れるまでの時間があっという間だったのは、準備して待っていたのではないかと思えるくらいだ。
シャワーを浴びたあとだと分かる姿を見ては、何か言いたそうだが、声には出さなかった。
酔っ払って眠ってしまった大月を、襲うようなことはしない人間だとは思われているらしい。
それは、ご丁寧にも送り届けた態度で示されたのだろう。

「ベーグルサンドがあったから、それでいいだろう。おまえはこれでも着ていろ」
ビニール袋に入った、どこかで買ってきたのだと分かるベーグルと、紙袋に収められた衣類を、大月と勝沼にそれぞれ手渡す。
もしかしたら、このベーグルは、明野たちのブランチ用だったのだろうかと頭を過るが、口に出せば勝沼がより気にしてしまうだろうと、黙って受け取っていた。
勝沼といえば、紙袋の中身を確かめて、またしても恐縮している。
「ちょっ、こ、これ、新品・・・っ?!」
「まさか。一、二度は着ているだろう。もう随分前のものだから、デザイン的にどうかと思うが、いらないからそのまま持って帰っていい」
「一、二度・・・って・・・」
明らかなブランド物の服を放りだされて、「はい、ありがとうございます」とは言えないだろう。
とにかく、着てこいと勝沼をリビングから追い出す。
後ろめたさはまた別の問題だ。

勝沼の姿が消えたところで、改めて韮崎と向き合った。
「良く、泊めたじゃん」
これまでの人間だったら、エントランスで追い返されて終わりだった。
もっとも、こんなに酔い潰れるほど飲むこと自体がなかったのだが。
社会人になってから、その視線は厳しくなった気がする。
いつまでもハメをはずしている付き合い方をしているな、と説教も混じっている。
自分の事を棚に上げている時点で、おかしな話ではないかと、昨日また知らされたものだ。
「おまえとのことを話したのか?まだ疑問形だったから、何も言わずにおいたが」
「言わなくても分かっちゃった、ってトコロじゃない?ま、双葉、俺の行動もなんとなく勘づいてたみたいだし」
「遊び歩いていたことか。それは周知の事実だしな。今から訂正できることでもないだろう」
「つか、アンタさぁ。昨日のこと、どうにかしとけよ。上野原さん、相当恨み持ってるよ」
「あぁ、あいつはな。大月が気にかけることではない」
こちらは被害者だというのに、さりげなく反らされてしまう。
面倒事がこちらに降りかからなければ、それはそれでいい、という考えの大月は、韮崎のすることに口をはさみたくなかった。
どうにか解決してくれるだろう。
事を荒げたくない、という心理も働いている。
もちろん明野の立場を悪くしたくないからだ。
大月は、腰掛の状態でいるのだと自分で良く分かっている。
「人に説教しているときじゃないだろ」
「大月とはあしらい方が違っている」
「あっ、そう。兄貴がよく、我慢してると思うよ」
嫌味を交えても、フッと笑われただけで反らされてしまった。
ふたりにはふたりの思うところがあって、こちらも口を出すことではないのだろうか。

そうこうするうちに勝沼が戻ってきた。
私服姿を見ることもなかったのだが、韮崎の服だと分かっていてもあまりにもしっくりしていることに驚かされる。
そこは、韮崎なりに、勝沼のために選んできたのだろうとも思われた。
口では"タンスの肥し"と言っていたが、韮崎なりのプライドが見えて笑えてくる。
やたらなものを見せるわけにはいかなかったというか。

そんな姿を見ては、また韮崎も、大月の好みを再認識したかもしれない。
こんなところは、本人同士の意思であって、誰が止められるものではないことを充分なほど知っている。
社内関係を懸念して軽はずみな行動は控えろと示唆してきたが、相手の人格が分かれば妥協せざるをえないのか。
お互い、浅はかな考えで踏みこんでは来ないだろうと。
韮崎が委ねた第一歩だったのだろうか。

「韮崎さん、やっぱ、金、払いますよ・・・」
着心地の良さは勝沼も気に入ったようだ。
応じる韮崎ではなかったけれど。
「ゴミ捨て場から拾ってきたものだと思えばいいだろう。それで?洗濯物があるなら、明野が一緒に引き受けると言っていたが」
「はぁっ?!それこそとんでもない話です。いえっ、もう充分ですっ」
「で、なに?なんで兄貴、来なかったの?」
次々と変わっていく話の展開。
勝沼にはまだ疑問点が多いようだった。
黙って大月と韮崎の会話に耳を傾けてくれてはいるけれど。
ベーグルを持ち、キッチンに入り、コーヒーメーカーに豆をセットする。
これくらいは自分でもできる・・・とは決して自慢にもならない出来事を意気揚々とこなした。

「平日にたまったことをやりたいんだろう。俺はいてもいなくてもどっちでもいいからな」
韮崎の回答にまたもや驚いていたのは勝沼だ。
大月の身辺を、詳しくしらないのだから、当たり前と言えばそれまで。
「・・・え?韮崎さんて・・・?」
口の堅さは営業から知るのか、今度ばかりは、韮崎も誤魔化さなかった。
「明野と一緒に住んでいるけれど?公表はしていないし、おまえが言いまわるならそれも否定しない。噂なんてどこからだってこぼれて、隠すことに無駄な労力を使うだけだ」
それなら公表する覚悟もできていると。
潔い姿には絶句という言葉が良く似合う。
また、明野との暮らしぶりを明かすことで、どことなく大月との関係も否定していたのかもしれない。
"誤魔化した"とは韮崎から聞いた言葉だ。
勝沼の"想像"であるうちは、いくらだって、言い訳の言葉が吐ける。

「可愛い"弟"だからな」
どこまで本気か。
韮崎のセリフに勝沼は改めて、複雑なまでの『御坂一家』の現実を知らされていた。

さらに響いたチャイムの音。
分かっていたと言わんばかりの韮崎に、やっぱりな・・・と諦めもあった大月、今度は何だと動揺しまくりの勝沼の前に表れたのは、言わずと知れた、兄、明野だった。
「ちょっとだけ、作ってきてあげたよ」

滅多に友人を家に呼び込むことなどなかった大月を知り、またそれが自社社員だとわかれば顔を出したくもあるのか。
少なくとも"もてなしの心"がここにあった。

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コメント

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けいったんさま こんにちは
コメントたつみきえ | URL | 2013-05-11-Sat 09:15 [編集]
金持ちとの差ねぇ。。。
私の友達は、やっぱりシャネルの服とかぐっちのばっぐとか、
あきると私に譲ってくれました。
「もうデザイン遅れだし~」が理由のようでした。
服や雑貨にあまり頓着しない私は、ロゴが入っているだけでうれしかったなぁ(←)

さぁ、そんな生活感の違いを見せられた双葉ですが。
どうなるんでしょう。

お待ちかねの明野、そろそろ徐々に飛び出してくると思います。
また、もう少しの御辛抱を。

つかっ、終わるのか、今月中にっ。
いろいろ焦って書いているのですが、相変わらず進みが遅いきえちんでしたね・・・

アンケートもどうにか・・・と思いながら。ぜんぜん手が進まないですm(__)m

でもがんばるむきえちん(`・ω・´)ノオウエンヨロシク
コメント甲斐 | URL | 2013-05-11-Sat 16:31 [編集]
なんだかますますわからない展開になってきて
混迷しています

韮崎さんたら本命の明野と教育的指導中の大月
そのうえつまみ食いして上野原。。。と社内で節操なさすぎ

お兄ちゃんはそんな旦那のこと知ってて許せる懐深い人なのか
何にも知らない鈍い人なのかよくわからん人です
ん~でも目的のためには
弟に手を出すのもOKっていうのは深すぎのような…
朝からご飯つくってくれるなんていいお兄ちゃん
(なのか??あるいは裏があるのか)

大月くん
淋しいからって身体だけ慰めてもらっても
ますます淋しくなるだけだよ
そんなこと十分知っていいながらやめられない彼に愛の手を・・・

勝沼にそんな度量があるかな~

先が楽しみです
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