金曜日の夜は、店内はそれなりに混雑していた。
高く区切る仕切りなどない、座敷のテーブルが幾つか並ぶ程度の広くない店内で、高柳の存在は充分なくらいに目立っていた。
周りに座る女性陣が色めき立って二人の座るテーブルをチラチラ見ているのが、店を入った途端に分かった。
那智はかつて、これほどまでに人を惹きつける男を他に見たことがない。
高柳のシャープな顔立ちから放たれる二重の鋭い眼光。高い鼻を中央に、形良いものばかりがその周辺を飾っている。体育会系で鍛えられた厚みのある胸板、スラリと伸びた身長。一見、鋭角的な印象を持たせているのに、近づいてみれば圧倒感などなく、いたわる仕草があちこちに見られる。
高柳と高校生の時から同級生だったという岩村は、大学時代では見られなかった眼鏡をかけていた。遊び心を加えたブルーベリー色のセルフレームが、彼の知的な印象を和らげている。決して見劣りする顔立ちではないのに、高柳の前になれば全てが霞んでしまう気がした。
ある意味、可哀想にも思える。
二人のテーブルに近づいた那智は、高柳に言われるがまま隣に腰を下ろした。
「なっちーぃ、久しぶりだね」
正面に座っている岩村がニコニコと人の良い笑みを浮かべた。高柳とは違って、優しさを全面に見せる彼はとても気さくで、初対面でも違和感なく話せてしまう。
高柳とはまた違った意味で人から慕われるタイプだった。
「よう! もう、どれくらい会っていなかったんだっけ?…1年振り? 岩村も仕事大変そうだな」
「そういう、なっちもね。とうとう大手との取引開始だって?」
「え?なんでそんな話を…」
知っているのか…?なんていう疑問も、隣の色男を見れば、全てが解決しそうだった。
これまでにも、詳細こそ述べていないが、高柳とは電話やメールで色々とやりとりをしていた。その中には上司からいずれ預けられる気の重い仕事がある、などといった内容もあったりする。当然、口外するなという念を押した上で話した愚痴だった。
チラリと隣を見上げれば、我関せずといった雰囲気を作り上げた高柳が呑気にビールを呷っていた。
思わず口をすぼめて頬をぷくっと膨らませれば、岩村から宥めるような声が飛んだ。
「まあまあ、お互い、企業秘密はたくさんある身なんだし。時にはポロリと漏れるよね」
そんな岩村も大手銀行に勤め、来春からは海外転勤が決まっているという話だった。
岩村の信頼度の高さは、その口の堅さにも表れている。だから時折とても人には話せないような相談事も受けていたと聞く。
那智がこぼしてしまったことも、聞いた高柳が岩村に話してしまったことも、咎める雰囲気は微塵もないあやす言い方。
高柳にとっても、何を話しても安全と言われる領域だったからこそ、那智の話をしたのだと思えば、あまり怒れる気分にもなれなかった。
那智もそんな岩村に安心して、気心の知れた間柄に戻り、会っていなかった年月を埋めるかのように、話は色々な方向へ飛んだ。
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す、進んでいません…(汗
以前の告知が水の泡。
高く区切る仕切りなどない、座敷のテーブルが幾つか並ぶ程度の広くない店内で、高柳の存在は充分なくらいに目立っていた。
周りに座る女性陣が色めき立って二人の座るテーブルをチラチラ見ているのが、店を入った途端に分かった。
那智はかつて、これほどまでに人を惹きつける男を他に見たことがない。
高柳のシャープな顔立ちから放たれる二重の鋭い眼光。高い鼻を中央に、形良いものばかりがその周辺を飾っている。体育会系で鍛えられた厚みのある胸板、スラリと伸びた身長。一見、鋭角的な印象を持たせているのに、近づいてみれば圧倒感などなく、いたわる仕草があちこちに見られる。
高柳と高校生の時から同級生だったという岩村は、大学時代では見られなかった眼鏡をかけていた。遊び心を加えたブルーベリー色のセルフレームが、彼の知的な印象を和らげている。決して見劣りする顔立ちではないのに、高柳の前になれば全てが霞んでしまう気がした。
ある意味、可哀想にも思える。
二人のテーブルに近づいた那智は、高柳に言われるがまま隣に腰を下ろした。
「なっちーぃ、久しぶりだね」
正面に座っている岩村がニコニコと人の良い笑みを浮かべた。高柳とは違って、優しさを全面に見せる彼はとても気さくで、初対面でも違和感なく話せてしまう。
高柳とはまた違った意味で人から慕われるタイプだった。
「よう! もう、どれくらい会っていなかったんだっけ?…1年振り? 岩村も仕事大変そうだな」
「そういう、なっちもね。とうとう大手との取引開始だって?」
「え?なんでそんな話を…」
知っているのか…?なんていう疑問も、隣の色男を見れば、全てが解決しそうだった。
これまでにも、詳細こそ述べていないが、高柳とは電話やメールで色々とやりとりをしていた。その中には上司からいずれ預けられる気の重い仕事がある、などといった内容もあったりする。当然、口外するなという念を押した上で話した愚痴だった。
チラリと隣を見上げれば、我関せずといった雰囲気を作り上げた高柳が呑気にビールを呷っていた。
思わず口をすぼめて頬をぷくっと膨らませれば、岩村から宥めるような声が飛んだ。
「まあまあ、お互い、企業秘密はたくさんある身なんだし。時にはポロリと漏れるよね」
そんな岩村も大手銀行に勤め、来春からは海外転勤が決まっているという話だった。
岩村の信頼度の高さは、その口の堅さにも表れている。だから時折とても人には話せないような相談事も受けていたと聞く。
那智がこぼしてしまったことも、聞いた高柳が岩村に話してしまったことも、咎める雰囲気は微塵もないあやす言い方。
高柳にとっても、何を話しても安全と言われる領域だったからこそ、那智の話をしたのだと思えば、あまり怒れる気分にもなれなかった。
那智もそんな岩村に安心して、気心の知れた間柄に戻り、会っていなかった年月を埋めるかのように、話は色々な方向へ飛んだ。
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