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BLの丘
木漏れ日 41
2013-09-05-Thu  CATEGORY: 木漏れ日
【瀬見視点です】

どれだけ思いを告げたとしても、八竜は隠し立てすることなく、過去の瀬見の行動を鳥海に暴露するのだろう。
そして現実を見ろと諭すのだろう。
たかが一人の拒絶などやり過ごすことができると思っていても、送り届けた先で鳥海がぎこちなさを浮かべることに気付くのは容易かった。
自分に対して、どんな思いを抱いたのか。
軽はずみな行動だったのかと、今更ながらに一日の流れを振り返った。
八竜はいつもと変わらずに、「サンキュ」と瀬見を見送った。
これからも、この先も続く友情に、ひび割れる兆しは見えない。
それも八竜ならではの、付き合い方。

自分には鳥海に対して、想いを告げることさえ、許されないのか。
悶々とはびこる感情をもてあますようになる。
こんなことは今までもなかったと、自身を振り返った。
偶然の訪れとは、時に残酷なのかもしれない。

勤務先に使う路線が、昼食を共にする後輩と同じだと知ったのは、随分と前だ。
正確には部署が違う後輩だが。
瀬見は双子の残された一人、同僚の恋の行方を気にかけていた。
恋人は同じ社内にいたが部署が違い、たとえ昼時間だけでも共に過ごしたいのだろうに強がる姿勢が見えれば、どうにかしてやりたくなる。
同じく共に過ごしていた同期に提案すれば、同じように親切が働くのか受けてくれた。
普段の付き合いに新たに加えられた、知らない新入社員である後輩。
人懐っこいのか、馴染むのもすぐだった。
いつの間にか、流れから昼食用の弁当を用意され、当たり前のように過ごしてきたのだが。
今更ながらに目の前で何の気なしに触れ合う姿をみれば、苛立ちが湧いた。
こいつも、八竜と同じタイプなのだとは、とうに知れたこと。
同じ職場で、常々見ていて、自分が一番近くにいるのだと思いこんでいるヤツ。
『横から掻っ攫われて気付く』とは瀬見が鳥海に発した言葉で、八竜を揶揄したものだったが、その八竜が枠に収まった今、この男はどう動くのだろう。

その新入社員が痴漢に遭う姿を見たのは、それも偶然だった。
どことなく鳥海に似た雰囲気が醸し出されていて、知らずに彼に気を取られていたのかもしれない。
素直に、思うまま感情を曝け出すところも似ていた。
それが末っ子、下の子の独特なものなのか。
雰囲気を重ね合わせたのは、近寄れない存在があったからなのだと思う。
あれ以降、鳥海から連絡がくることもなかった。
若い子にとっては、火遊びのひとつだったと捉えられてもおかしくなくて、瀬見からも何かを伝えることが憚られていた。
八竜の制止を受けたからだけではなく。
鳥海が何を思っているのか、そこに加える意見とはただの言い訳として繕うようで、自分の立場を今以上に悪くする気がして…。

痴漢からその場を救ってやって、後日改めて彼から話をされて。
勘違いされているのだと悟るのは簡単だった。
憧れが現実になったと思いこんでいるところが、やはり無垢だ。
誰かに守られて過ごしてきた日々があるから、仮定で相手に信頼を置くのだろう。
危害はないのだと…。

鳥海も自分に対して同じように感じていたのだろうか。
後輩に言い寄られて、だけど昔のように簡単には扱えなかった。
気軽に"付き合う"まで持っていく気はない。
「君に本気になることはないよ」
前もって言いおいたセリフに対しても、「分かっています」と神妙な態度だ。
何が欲しいのだろう。
こんなに無垢で純粋な体を晒して…。
その先の危険なんて、これっぽっちも恐れていないところが、返って傷つけてしまいたいものだと思ったのは、彼を思う人間に対しての皮肉だけだ。
"簡単に横から掻っ攫われる"のだと。

…知ればいい…。

自分のものだと信じてあたりまえのごとく過ごす同期に、妬みの感情が混じったのは否めなかった。
いつでも隣にいることに甘んじている。
間違えた"恋人"を演じてやることくらい、どうってことない。
「一度きりだよ」
それでも無垢すぎるから、前もって言いおいておいた。
後からのトラブルは避けたい思いがあったのだろう。

人の気配がないトイレに連れて。
静かに瞼を閉じる姿に、彼がどれほど憧れる世界があるのかと知らされる。
それを傷つける役目か。
どこかでこうして鳥海を手に入れ、自分の痕を残したい、本気にさせたい欲望が渦巻いた。
八竜に拒絶されて、鳥海にも戸惑いが浮かんでいるのが知れているから近づけない…とは意気地のなさか…。
彼と鳥海を重ね合わせたのは、向ける矛先が見えないからで。
まるで鳥海が目の前にいるような錯覚が落ちると、瀬見は貪るように近くの存在をかき抱いた。

柔らかな感触は、彼とは違う。
分かっても止められない欲求不満のようなものが身体の奥底から吹き出した。

微かな物音が耳に響く。
そして現実に戻された。
視界に映るのは鳥海ではない。
肩を上下させ、荒く息遣いを繰り返し…。
汚したのだと思うといたたまれなかった。

…俺、なにやってんだ…。

後悔とは、つい先日も感じたことだろうと。

もうこれ以上の付き合いはできない、と幕を下ろした。
同僚である双子の片割れに救いを求めたのは、自分勝手な言い分だ。
自分の分の配給を見たら、確実に欲しがるのだとは、今までの生活で知れるものでもある。
それは無事に事を治めるエサだったのかもしれない。

あまりにもいいタイミングで携帯が鳴った。
藤里からで、『鳥海が…』と言葉を濁されたら、出向くにきまっている。
すぐ隣のカフェを選んだのは、少しでも移動時間を少なくして、時間が許す限り情報を引き出したかったからだった。
学業は大丈夫なのかと問えば、自信に充ち溢れた姿が、彼の充実感を如実に伝えてきた。
待ち合わせた場所で、まだあどけなさの漂う黒髪の青年はすぐに見つかった。
「待たせた?」
「ううん。ここ、混むんだね。早く来られて良かった」
席を確保できたことを純粋に喜んでくれる。

鳥海が最近、元気がないのだと相談された。
何事にも覇気がないと。
自分が八竜とうまくいって、それが鳥海の気を悪くしているのかと懸念する。
鳥海だって、八竜や藤里の幸せを願っていたのだとは、触れた彼処から知れたから、彼を安堵させるためだけではなく、「鳥海はそんなに心の狭い人間ではないよ」と告げた。
「うん、知ってる」と藤里はニコリと笑う。
でも影になる思いははびこっているようだ。

「瀬見さん…」
この後、何を告げられるのかはなんとなく知れてきた。
こんな年下の人間にまで、咎められるのかと脳裏を横切る。
「僕がこんなこと言うのは間違いだと分かってる。でも、鳥海、淋しいんだよ。瀬見さんが何をしたのかは知らないけど、鳥海、森吉君と…、あ、海で言い寄られた人ね。同じだと思っているから…」

頭をハンマーで叩かれた気分だった。
一時的な彼と同等に扱われた存在なのだと改めて知らされては、いかに自分の行動が軽率だったのかと振り返させられる。
それでも八竜の一番身近にいる人だと理解するから、又聞きでもいい。伝えてほしいと本音が漏れた。
「鳥海は…。鳥海のことは誰よりも大事にしたいと思うよ」
その答えに藤里は安心したように笑ってくれた。
この子は見た目によらず、かなり敏いのだな、と思うことができる。
鳥海が気を許すのも、八竜が心を寄せるのも納得させられる。

その後は何を話したのだろう。
食事を終えて、雑談に花を咲かせている時。
藤里の視線が入口を見た。
「あ…」
なんだろうと、同じように瀬見も振り返る。
会社の同僚が数人、視界に映った。
途端に、逃げ出すように踵を返した存在も見てとれた。
…あぁ、あいつも、ようやく気付いたんだ…。
自分の手中にあると胡坐をかいていた人間は、トンビの存在を知って、慌てだしたのだろう。
気付いてもらえたこと、それは、安堵だったのかもしれない。
自分が仕掛けておきながら、今更だが…。

藤里が思い出したように口を開く。
「あの人、前に見た。双子だった気がするけど」
記憶力の良さに感心しつつ、瀬見も頷いた。
「そう、同僚。片割れは、退社しちゃったけどね」
自分の思うままに生きられる人を羨ましいと思う。
大事に見守った"弟"は、自分の意思で、兄から離れた。
「ふぅん。いつも一緒にいられることが、あたりまえじゃないんだね」
どこか達観したような言葉に気を取られるものの、「新庄さん」と響いた声に思考が途切れさせられた。
無理矢理押し付けたような昼食時間を振り返っても、無碍にはできない。

これは勝手な言い分なのだろう。
食事に満足した同僚が見えるからこそ。
何もかもを投げ出した。
同僚の恋人は、同僚に酷く甘い。
「高畠、悪いけど、湯田川に、明日から弁当いらないって伝えて」
「新庄さんっ、もらっていいのっ?!」
同僚の喜んだ顔は予想通りで苦笑すら浮かんだ。
恋人からは一瞬戸惑ったような表情が見えたが、目の前にいる藤里に視線を向けると、納得したように頷いてくれた。
「OK」
人を気遣える彼の人格とは、こんなところでも表される。
もちろん、彼の思考は、間違っているのだけれど。
すぐに、ここにきた目的のものを求めて、自分たちから遠ざかる。

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コメント

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あぁ~あの場面…(´・_・`)。oO
コメントけいったん | URL | 2013-09-05-Thu 10:07 [編集]
あの時に会ってたのは 瀬見の恋人じゃなくて 藤里だったのかー(o-∀-)b))ソッカァーソッカァー

人が 当たり前だと思っているモノは、案外 容易く 崩れたり離れたりする。
でも その時に その場面に ならないと 気づかないんだよね。

瀬見… 拗ねてる場合じゃないでしょ!
想いを抱く存在が 悲しんでいるんだから しっかりしなきゃね♪

さて これから 瀬見は どんな行動を取るのか?…
仕方ないから お邪魔しないで 見守ってやるよ~!
と、何故か 上から目線のけいったんでした♪( ̄∇ ̄*)ゞエヘヘ♪ 
真黒・クロスケの niったん…( ゚ω゚;)
コメントけいったん | URL | 2013-09-05-Thu 10:20 [編集]
niったん、黒塗りで 目立って無かったと 思ってたの?

ねぇ、鏡で 背中を よ~く見て 御覧なさいな!
その 真黒な背中に 汗と鼻水とヨダレ(←?)で 半分溶けかけた白塗で 真っ赤な口の私の顔が ギョタク顔タクされていたんだから~~!

と、言う事で niったんも お化け屋敷の暗闇の中で 
その背中の 不気味な顔タクが浮かび上がらせて お客様を 十分 怖がらせていたんだよ♪

所で 今回のバイト代は いくらかしら?(*≧∀≦)(≧∀≦*)ネー
Re: あぁ~あの場面…(´・_・`)。oO
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-05-Thu 11:24 [編集]
けいったんさま こんにちは~。

> あの時に会ってたのは 瀬見の恋人じゃなくて 藤里だったのかー(o-∀-)b))ソッカァーソッカァー

どうにかこじつけました。
もう、ここまで設定できた自分を褒めてあげたいです。
当初 ただの間男も、裏設定が作られると まともに感じられるのだから不思議。
え、まともじゃない?!

> 瀬見… 拗ねてる場合じゃないでしょ!
> 想いを抱く存在が 悲しんでいるんだから しっかりしなきゃね♪

そうだよ。
教えてくれた人がいるんだから、そのことにも感謝しなくちゃね。
気付かないのは瀬見も一緒でしょ。

> さて これから 瀬見は どんな行動を取るのか?…
> 仕方ないから お邪魔しないで 見守ってやるよ~!
> と、何故か 上から目線のけいったんでした♪( ̄∇ ̄*)ゞエヘヘ♪ 

おー、オジャマムシは引退?!
是非上から目線で、あーじゃねーこーじゃねーと言ってやってください。

オジャマムシはしなくても、他人(にっちん)にはきちんと痕跡残すんだね(笑)
真っ黒に真っ白なお顔は、はっきりと残ることでしょう。
それが一番怖いかもしれないよ。
コメントありがとうございました。
ふふふっ。
コメントちー | URL | 2013-09-05-Thu 14:12 [編集]
はい!想像通り~。イェイ←古い
瀬見ちゃん、キスだけで我慢した事に拍手。
マムちゃんもお兄ちゃんに大事にされてきた子だから。
鳥海くん、そりゃ寂しいよね。
そんな鳥海くんが見ていられなくて、瀬見ちゃんとこに来た藤里くん。
にぃはきっとかかあ天下にさせとくけど、大事な所はちゃんとするんだろうね。
藤里くんはにぃのお使いでもあったのかもね。
さて、さて。
瀬見ちゃんから鳥海くんに言わなきゃねえ。
仔猫は、臆病なものだからね

Re: ふふふっ。
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-05-Thu 20:16 [編集]
ちーさま こんばんは。

> はい!想像通り~。イェイ←古い
> 瀬見ちゃん、キスだけで我慢した事に拍手。
> マムちゃんもお兄ちゃんに大事にされてきた子だから。

予想通りでしたか~。
そうだとは思いましたけれど(笑)
どっちの子も兄のしたで、大事にされてきましたね。

> にぃはきっとかかあ天下にさせとくけど、大事な所はちゃんとするんだろうね。
> 藤里くんはにぃのお使いでもあったのかもね。

Σ (゚Д゚;)
そ、そうか…。にぃもさすがに後ろめたさがあって、でも自分からはいえなくて、藤里をお使いに出したのね。
今更『許す』とは言いづらかった八竜なのかしら。
「はじめてのお使い」(←)
無事、役目ははたしたと思います。
瀬見も与えられたチャンスと思って誠実さを表してください。

> さて、さて。
> 瀬見ちゃんから鳥海くんに言わなきゃねえ。
> 仔猫は、臆病なものだからね

瀬見、どんな行動にでるのでしょうかね。
瀬見から言わせないと。
男らしくないっと自分のことは棚に上げて八竜は怒りそうです。

そろそろ動きがあるかなぁ。

コメントありがとうございました。

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