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BLの丘
木漏れ日 42
2013-09-06-Fri  CATEGORY: 木漏れ日
鳥海は帰宅して、いつものように猫じゃらしを両手に持った。
鈴が鳴って近寄ってくることを知らせてくれる。
母親は猫に自宅と作業場は好きに出入りさせたが、道路に出すことはなかった。
ずっと昔、帰ってこなかったペットがいたからだ。。
もしかして車にはねられたのか…。
その真実は八竜にも鳥海にも知らされることはなかった。
ただ、一つの家族が消えた悲しさだけを教えた。
それはまるで、鳥海を見守るよう八竜に教えたことのようだとも感じられた。
その猫と同じように言われたことを思い出す。
『鳥海みたいに、すぐ飛び出すんだから』。
好奇心旺盛なことは喜ばれ、逆に心配の対象でもあった。
行動を制限されることは多々あったが、今となっては危険を遠ざけたものなのだと知ることができる。
バニラとビターに何かあったら悲しいから。
二匹の猫は外の世界を見せてもらえないけれど、その中で幸せを感じてくれたら嬉しい。

微かな音でも反応して、バニラとビターが遊んでもらえると喜んで飛んでくる。
両手で振り回して語りかける。
「バニラ~。今日、藤里、遅いよ」
なんだか物足りなさそうな仔猫に現実を伝えてみた。
白神が教授に呼びだされる回数は増えた。
漠然と知る成績の結果で、鳥海は卑屈になることもなく、邪魔もしない。
それは藤里の努力の賜物なのだから、自分が妬むのは筋違いだろう。

以前、なんとなしに将来を聞いたら、やっぱり院に進むのだと言われた。
「僕、社会的に順応しないみたい。八竜さんももっと学べって言ってくれたし」
人付き合いを重んじる我が家の中に、藤里が馴染めないとは思わないけれど。
たぶん、遠回りな、八竜の知らない分野を学んで力になってほしいということなのだろう。
電子工学なんて、秒針のように変わっていくところがある。
にぃの能力では限界を迎えていると悟っているのだと思う。
専門的な知識が加われば、人の信頼もまた積み重ねていくことができる。
いずれ、藤里はこの家に収まり、八竜の片腕となっていく姿は簡単に想像できることだった。

今日も「帰りは八竜さんが迎えに来てくれるから心配しないで」と言われて。
別に心配なんてしないけれど。
ここに帰ってくるのだとその言葉の裏を読める。
にぃはどんな仕事をしているのだと、訝しむ。
自営業なんて、特に拘束があるわけでもなく、自由になる時間は多いのだろう。
…オレ、将来、どんな仕事につくんだろう…。

これまで考えなかったことがグルグルと脳裏を駈けめぐる。
八竜は当たり前のように、父の後を継いだ。
それを見て、鳥海は自由に生きられると羽を伸ばした。
縛られるものなど何もないのだと。
いつだって兄を踏み台にして、生きてきた。
働く苦労は幼い頃から見せられてきたが…。どこかで他人事だったのだと思わされる。
瀬見はどんな気持ちで、『会社』という組織の中に入ったのだろうか。
詳しく聞いたわけではないが、聞けば隠さずに答えてくれた人が脳裏をよぎる。
鳥海にとって、身近にいた『社会人』で、キビキビと働く姿はきっと憧れていたものに値する。
家でダラダラと仕事をしているのとは違う人。(←間違いなく父と兄に怒られるからね)

その瀬見も、遊園地を後にしてからの連絡はない。
海から帰った時もそうだったが、これといって口実を作らなければ、近づく理由がないのだ。
さらに、黙られていることが余計に、瀬見にとって『八竜の弟』でしかなく、その他と変わらない存在なのだと告げられているような気がした。
気まぐれに遊んでみただけの存在。一時的な出来心。
そんなことを繰り返してきた瀬見なのだろう。
だから平然と振る舞うことができて、引き際もあっさりとしている。
翻弄されて本気になってしまった自分がバカなのだと…。

なんで森吉の時のように、気持ちがリセットできないのかが不思議だった。
そして改めて胸の痛さを感じて、瀬見に向ける想いに特別なものが混じるのだと知る。
「もう、会わない方がいいのかな…」
抱いた期待は自惚れだったのだと実感させられるだけだ。
淋しい気持ちを吐きだすように、猫に語りかければ、ビターが飛びついて来た。
まるで慰められているみたいだ。
構って遊んでと全身で訴えてくる姿に、ふふふと笑みが浮かぶ。
悲しすぎると、落ち込むよりも笑っちゃうのかな。
鳥海もこうやって、八竜に「付いてくるな」と言われながら、一緒に遊びに連れて行けと駄々をこねたっけ…。
「オレってこんなに我が儘じゃなかったぞ」
一応言ってみるのだが、ビターと重ね合わせるのはなんだか簡単だった。
誰かに居てほしい…。

鳥海は自宅が自営業だったため、留守番役の母親が、ほぼ常に出迎えてくれた。
友達に鍵っ子も多かったから、そういった点では恵まれていたのだと思う。
常に誰かがいてくれた状況があるから、人肌が離れていかれることが人一倍悲しく思うのだと思う。
思い出さないようにするのに、少しでも時間があれば隙間風が噴きこんでくるように、瀬見のことを思い出していた。
大きな掌と逞しい体躯で、いつも鳥海を守ってくれた人。
不満のかけらも持たせず、いつだって鳥海の気持ちを優先してくれた。
居心地が良かった…。
その感触が全身をかけぬけると、より一層の淋しさが押し寄せてくる。
八竜と藤里が幸せいっぱいのオーラを撒いている光景がそばにあるから余計なのかもしれない。

「ビター、バニラ。今日は美味しいもの、食べよっかぁ」
人は美味しいものを食べられるだけで、なんだか幸せになれる。
それはきっと動物も変わらないだろう。
嬉しそうに食してくれる姿を見たら、鳥海だって幸福感をお裾分けされた気分になれるだろう。
渦巻いた落ち込む心を払拭したかったから。
鳥海の言葉の意味を理解するのか、二匹は一緒になって鳥海の顔へとよじ登ろうとした。
「ちょーっと待って、待って~。ご飯の時間はまだだよ~っっっ」
床の上に倒れ込みながら、爪に「痛いっ」と叫び、脇の下に潜り込まれては「くすぐったいっ」と笑った。

じゃれていると鳥海の携帯電話が鳴る。
見れば森吉からだ。
こんな時間にどうしたのだろうと首を傾げながら出ると、「あ、五城目?今から出て来られない?おまえを紹介しろっていうやつがいるんだけどさ…」と、夜のパーティーへのお誘いだった。
そう言えば森吉たち、夏が終われば秋から冬へのイベントに向けてなにやら作戦を立てている雰囲気を隠してもいなかったと振り返る。
週末の今日、その一弾が開催されているようだ。
にぃも藤里もまだ帰ってこない。
いたところで当てつけられるだけだと思うと、すぐに「いいよ」と言葉がこぼれた。
鬱々としていても埒があかないとは自分が良く分かっている。

鳥海は立ち上がると、『プレミアムねこまんま』を取り出してきた。
「オレ、出かけるから。残したらお母さんに片付けてもらって」
忙しなく飛びついて来ようとする。
大好物のこれが残されるようなことはないだろうけれど。

後の世話を母親に頼んで、鳥海は家を出た。

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コメント

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危険な香り
コメントちー | URL | 2013-09-06-Fri 03:38 [編集]
うー、何だか危険な香りがプンプン。
あのねー、仔猫は好奇心旺盛だけどね?
危険察知能力も長けてるんだけど。
今の鳥海くん、投げやりな感じがする。
こんなとき、にぃはどこにいるのだ!
藤里くんと仲良しは良いけど、あんたに甘やかされて育った可愛い可愛い弟がピンチかも。

いや、上手いこと瀬見ちゃんが来るんだな。
瀬見ちゃん、早く~!早く来てね。


ち「佳史さん、こっちこっち」
よ「うわ、また酷い傷だね。でも、大丈夫。傷は残らないよ」
ni 「 あわあわあわ」
ち「ありがとうございますって」
ni 「 うにゃうにゃうにゃー」
ち「にっかたん、あんまり喜んじゃダメ」
ni 「 ?何でですかぁ?」

来る、きっと来る~。

の「佳史~(けっ。僕の方がずっと可愛いもん)」
よ「望?もう少しだから待ってて」
の「うん、成俊くんと一緒にいるよ」

ちょっと心配で見にきた望さん。
でも、何故だか安心して戻って行きました←失礼な!

涼しくなってきた(多分ね)今日この頃。
腐レンジャーの皆さま。
女子力アップして、丘の可愛い子ちゃん達に負けないようにしなくては!
何か違う(笑)
Re: 危険な香り
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-06-Fri 13:21 [編集]
ちーさま こんにちは~。

> うー、何だか危険な香りがプンプン。
> あのねー、仔猫は好奇心旺盛だけどね?
> 危険察知能力も長けてるんだけど。

ここの鳥海はとても察知能力があるとは思えませんが…。
自ら火の中に飛び込んでいく学習能力のない子???
それこそ色々学ぶのはいいことなんですけどねぇ。
その危険度はどんなものかは分かりません。

> いや、上手いこと瀬見ちゃんが来るんだな。
> 瀬見ちゃん、早く~!早く来てね。

にぃは藤里にぞっこんで…。
そしたら弟のことは、今まで以上に気にかけなくなって…。
拘束がなくなったと、喜んで仔猫は遊びに出るのでしょうか。
にぃに守られて育った弟は、海原の危険度を知らないのは確かでしょうね。

> 来る、きっと来る~。

(爆)
えぇ、来るよね~。
来てもらわないと話が進まないの~。
あ、べつに佳史はどうでもいいけど(←)
お化け屋敷はきっと、怪我人続出だったのね。
踏みつけられたにっちんは声も発せないほど衰弱していたのか…。
> ni 「 ?何でですかぁ?」
でも正気に戻る。(笑)

望をはじめ、腐レンジャーも自分磨き☆
しかし望は安心して戻るほどの腐レンジャーだったんだぁ(←それも失礼な…)

本当、気温は過ごしやすくなりましたね。
でもあちこちで異常気象を聞いて心配にもなります。
明日は我が身、かと思うと準備しようと心構えが生まれますね。

千城さんあたりは、地下に核シェルターでも作っていそうです。
「空調完備、非常食三年分、衛星通信で宇宙まで交信可能」
是非、その整備士に鳥海を雇ってほしいです。
(でも手の届かないところにいかれては困るんですけどねぇ)
コメントありがとうございました。
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