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BLの丘
淋しい夜に泣く声 90
2009-11-17-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
榛名の宣言通り、帰る頃には自分の車に乗った榛名が英人の迎えに来たが、そこにはすでに私服に着替えすっかり寛いでいる、先程見た威圧感のかけらもない穏やかな表情を浮かべた姿があり、見慣れた英人と神戸を除いては、塚越以外に同一人物と分かる人間はいなかったくらいだ。
珍しく割り勘制を取らなかった飲みの席(出資があったことは皆了解済み)はかなり盛り上がる結果となって、酔いの回った連中だったからということもあるが、榛名を確認するよりもあっという間に散り散りになった。
だが塚越だけは英人と榛名のことに興味が湧いたようにまだ残っていた。
特に改めて榛名との関係を説明する気もなかった神戸はその場でいつものように嫌味とも取れる応酬を榛名と繰り返していた。

少し離れたところで冷や冷やと二人を見守る英人に塚越が近づく。
「また随分な変身の仕方だな。ぱっと見ただけじゃ普通の奴は気付かないだろう」
この男には見抜く力がある。
煙草のフィルターを軽く噛みながら感心したように英人を見下ろした。
意味深に尋ねてくる塚越に、英人と榛名の関係を朧げながらも知られてしまったと気付きどう答えようか迷うが、塚越は嫌悪も何も示さなかった。
「神戸が心配する気持ちが分かる気がするよ。ヒデトさぁ、あの男に甘え過ぎると必ず潰れるぞ」
警告とも取れない言葉を投げかけられれば英人の酔いも冷めそうだった。
「えっ?」と見上げると何かを感じ取ったような塚越が渋い表情を浮かべた。
「悪い意味で言ってるんじゃないさ。独り立ちできなくなることを懸念してるんだよ」
「独り立ち…」
「そう。いつか自分でちゃんとした仕事をしたいって思うなら甘え過ぎないことだな。この前も『失敗したって挫折したって這い上がる気力と根性を持て』って言ったけどあの男は『そんな苦労はしなくていい』って言いそうだから神戸が心配するんだろう。それじゃあ人間は成長しないからさ」

前々から神戸には何度も言われていたが、塚越にまで見抜かれるとは思ってもいなかった。
それでも以前に比べれば榛名との関係は少しずつ良い方向に向かっていると思う。
榛名も英人の意思を尊重するようになったし、英人も榛名に対してフランスに飛ぶ前のように流されるままという状態ではなくなった。
だが自己主張を貫き通せるかと言えばまた別問題で、榛名は色々な手を使って英人を丸めこんでしまう。
そして最終的には「これでいい」と思い込んでいる自分がいるのも確かだった。

「主体性を持たないから『潰れる』って言うんだ」
「英人、帰るぞ」
まだ何かを言いたそうな塚越の言葉を押し留めるように、榛名が英人を呼んだ。
こうして声をかけられればそれに従ってしまう意志の弱さを咎めたいのだろうか。塚越が僅かに笑いながら肩をすくめて見せた。
これ以上塚越とは話などさせないといった雰囲気の榛名の態度に、英人は逆らいようもなく後ろ髪を引かれる思いで塚越から離れざるを得なかった。
なんだか気まずさが残ってしまったものの、英人は塚越と神戸に別れのあいさつを済ませて車に乗り込んだ。


酔いもあってベッドに転がればあっという間にまどろみの世界に誘われた。
榛名の腕を枕代わりにして丸まるように寄り添えば、子供を寝かしつけるように背中を撫でられる。

榛名は車の中でも普段とは違って英人を問い詰めたりしなかった。
神戸に何かを言われたのだろうか。それとも英人の人付き合いに気を使ってくれているのだろうか。
いつもなら必要以上に何があったのかやどんな会話が繰り広げられたのかと聞かれる内容ですら、今夜は押し黙ったままだった。
車の中に流れる曲と揺れる振動で、英人は車内ですでにうとうととしていた。
榛名が黙っていることにいささかの緊張感と心配が生まれたが、こうして優しい腕に抱かれてしまえば全てが安心感へと変貌を遂げる。
…この腕が好きだ。この香りに包まれていたい…。

「今日はありがとう…」
英人が掠れるような声で飲みに出してくれたことや迎えに来てくれたことの礼を述べれば、一瞬背中をさすっていた手の動きが止まった。
それから小さな吐息が漏れる。
「おまえの為ならなんでもしてやると言っただろう。英人はちゃんと帰ってくる。充分だ」
囁くような声は英人の子守唄のように何度も脳裏に響いた。

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コメント

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飴と鞭その2
コメント甲斐 | URL | 2009-11-17-Tue 20:44 [編集]
ここにもいましたね。ひーくんに厳しい保護者が(鞭2号)。
確かに甘々な超過保護パパに対抗できるのは神戸一人じゃ足りないかも!?
今まで恵まれなかった愛情を、これまでの分も与えてあげたいとか辛かった過去を消し去るくらい甘やかしたいって言う千城さんの気持ちのよーくわかりますけど。
だって、お姉さんも甘やかせたい派だからね。。。
独り立ちさせるべきなんでしょうけど、させたいようなさせたくないような、あらゆる苦難から守ってあげたい千城さんには微妙な彼らの言い分だな。
管理人のみ閲覧できます
コメント | | 2009-11-18-Wed 00:59 [編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: 飴と鞭その2
コメントたつみきえ | URL | 2009-11-18-Wed 07:15 [編集]
甲斐様

おはようございます。

> ここにもいましたね。ひーくんに厳しい保護者が(鞭2号)。

鞭2号!!
(↑爆笑し続けました…)

> 確かに甘々な超過保護パパに対抗できるのは神戸一人じゃ足りないかも!?

他人の言うことなんか耳に入らない千城パパですからね。
洗脳するのは英人のほうなのでしょうか。
英人から「あーしたい、こーしたい」って言われたらパパは「ハイハイ」って言うからね。

> だって、お姉さんも甘やかせたい派だからね。。。

甲斐様にまで可愛がってもらってヒーくんは幸せ者です。
可愛い子には旅を、と私自身思うのですが、私も甘やかす派ですから…。

> 独り立ちさせるべきなんでしょうけど、させたいようなさせたくないような、あらゆる苦難から守ってあげたい千城さんには微妙な彼らの言い分だな。

そうですね。英人のやりたいことは叶えてあげたいけど、苦労させるのは嫌…って思っています。
きっと千城も神戸たちの言い分は理解できているんでしょうけど、気持ちの整理に時間がかかっている状態ですね。

コメントありがとうございました。
Re: 初めまして、お邪魔します
コメントたつみきえ | URL | 2009-11-18-Wed 07:26 [編集]
S様

おはようございます。初コメありがとうございます。

こんな駄文にお付き合いくださいましてとても感謝しております。

> きっちりと硬質に書かれた文章がとても好きで…(私には決して真似できないのでとても憧れます)個人的には千城さんFANです。二人には幸せになってもらいたいと思いつつ、いつもはらはらしながらひっそり読んでおります。

いえ…、もう恐縮するばかりです。
稚拙な文章にいつも「あ~」と悲鳴を上げながら書いています。
(日本語、むずかしいな~…とか思っていたり…)

千城と英人のお話もあともうちょっとで終わる予定なのですが…。
すんなりといかずに何故か伸びている始末で困っています。

> いきなりで恐縮ですが、当方のブログにLINKを貼らせて頂いてもよろしいでしょうか?コメントでお願いするのも失礼かとは思いましたが…
> 是非よろしくお願いします!

こちらこそありがとうございます!!とお礼を申し上げたいです。
ええ、もう!お好きなだけお持ち帰りください(って一つしかないですが)

ぜひまたいらしてください。
コメントありがとうございました。
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