2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
淋しい夜に泣く声 89
2009-11-16-Mon  CATEGORY: 淋しい夜
最終的には神戸が手直しをしたものの、当初英人が出した提案がほぼ全面的に採用されることになり、英人の中で大きな自信に繋がった。
企画案は依頼企業からも好評を得ていて、結果としては『成功』の部類だろう。
英人は次から次へとたくさんのことを見て聞いて教えられ、吸収していった。
だがあくまでも「自分の美的センスが問われるものだから」と言って神戸は自分の考えを押し付けたりしてこない。

「たまには飯でも食いに行こう」
仕事を適当なところで切り上げると、塚越が神戸に声をかけていた。
こうやってスタッフ同士で食事を共にすることは良くあることのようで、そんなところもみんなの仲の良さを伺わせる。
特に夜はアルコールも入って気が緩むせいか、良くも悪くも色々なことが飛び出すらしい。
英人も誘われ、榛名のことも気になりどうしようかと迷っていたら、先に神戸に「僕が連絡しておいてあげるから」と言われて一緒に行くことにした。

塚越は10人ほどの人間をあっという間に集めてしまい、いつも利用しているらしい小洒落た居酒屋で待ち合わせしようとみんなに連絡を入れていた。
オフィス内にいた6名が先に入店し、後は都合がついた順に集まってくるという感じだった。
長く繋げてもらった掘り炬燵式の席に奥から英人、神戸、塚越と並んで、前に他の3人が座った。
話題はやはり仕事のことになってしまう。
幾つも抱えた仕事の中から思案しているものや順調にいった企画の経過報告など話はあちこちに飛んで、途中英人のことも話題に出されたり…でドギマギしたりした。
それでも楽しい時間に変わりはなく、アルコールの手伝いも借りて皆が饒舌になっていく。

全員が揃い宴たけなわという頃、突然現れた榛名の姿に誰もが度肝を抜かれていた。
会社帰りの姿は威圧感バリバリで、近づいてきただけで神戸以外の人間が黙りこくる。
「そんなに心配しなくてもちゃんと帰しますってば」
「あたりまえだ」
「何しに来たの。千城が来ると場が白けるからさっさと帰ってよ」
「英人が世話になっているんだ。挨拶くらいするのが当然だろう」
「『挨拶』ねぇ…。それを世間では『偵察』っていうんだよ」
どんな連中と飲んでいるのかを確認しに来た榛名に、神戸はほとほと呆れたと言いたそうに見返しながら、スッと立ち上がると少しだけ座敷を離れた。
皆に気を使ってのことだとは分かるが、二人の会話は小声ながらも少しは耳に入ってくる。
何と言ってもその場で誰一人として声を上げなかったのだから…。

立ち上がるタイミングを逃してしまった英人は、皆と同じく二人を視線で追うしかなかった。
榛名は長方形の茶封筒を神戸に渡していた。
「飲み代にしてくれ」
中身を確認した神戸が一瞬目を剥いた。
「これだけあったら当分英人君を飲みに誘えるな」
「余ったら英人の小遣いにすればいい」
「英人君の為にも、もう少し英人君の生きている世界を知った方がいい」
神戸は榛名を諭していたが、榛名が聞いていないのは英人には分かった。特に金品に関しては榛名はまず人の言うことに耳を貸さない。
神戸もたぶんそれを知っているからそれ以上は何も言おうとしなかったが…。

榛名はスタッフたちを見まわしてから軽く頭を下げただけで、英人に視線を置くと「帰りは迎えにくる」と言い残して帰っていってしまった。

神戸が何と言って榛名に連絡をしたのかは知らないが、特に怒っている様子も見られなかったのはホッとするところでもあった。
「過保護にも限度ってものがあるでしょ」
神戸は戻ってきてテーブルに着くと、預かった茶封筒の中身を上から覗きこませる形で英人に確認させてから「余った分は渡すからね」とそのまま仕舞い込んだ。中には帯が付いたままの札束が入っていて、非常に榛名らしいと思いもしたが、『お小遣い』として渡されるほうも困る。
どうせなら榛名の言うとおり、お世話になっていることのお礼としてみんなに使って貰ったほうがいいような気がして、このまま神戸に預かっていてもらうようお願いすると、「英人君も充分千城の金銭感覚に汚染されているね」と皮肉られてしまった。

「ありゃぁ何者だ?」
塚越が消え去った榛名のことを不思議そうに聞くと、質問に神戸が答えるのを全員が待った。同時に見比べられる英人も小さくなってしまう。
「僕の同級生。英人君にとっては…、なんて答えておこうか。スポンサー?保護者?口うるさいお父さんみたいなものだよ」
神戸は笑いながら誤魔化していたがそんな説明で納得した人間が何人いたことだろう。
だが神戸の雰囲気にそれ以上突っ込んでこられることもなかったが、塚越だけは「一度見たら忘れられない印象だな」と呟いていた。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

関連記事
トラックバック0 コメント2
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
ひーくん、頑張ってるね。
コメント甲斐 | URL | 2009-11-17-Tue 00:59 [編集]
ほーら、やっぱりねぇ。
過保護なパパは心配よね、どんなメンバーで飲んでるのか、いじめられてないか、必要以上に好かれてないかって・・・。
お金だけ置いて、向えに来ると言い残して出て行くなんて、千城さん、頑張りましたね。
大人だな。
自制心に拍手!!
Re: ひーくん、頑張ってるね。
コメントたつみきえ | URL | 2009-11-17-Tue 18:50 [編集]
甲斐様

こんばんは。
最近パソ子がなかなか開けない状況でのんびり文も書いていられません。
レスも遅くなりがちですみません。

> ほーら、やっぱりねぇ。
> 過保護なパパは心配よね、どんなメンバーで飲んでるのか、いじめられてないか、必要以上に好かれてないかって・・・。

突然英人を連れ去るという神戸からのご報告に憤慨していたことと思います。
どんな口実をつけたって現場に向かうパパです。

> お金だけ置いて、向えに来ると言い残して出て行くなんて、千城さん、頑張りましたね。
> 大人だな。
> 自制心に拍手!!

えぇ。だってみんなの前で大人げない行動など取れないでしょっ!
本人、かなりやせ我慢のようです。
きっと野崎さんあたりはまた無茶言われて仕事押し付けられているんだろうな…。
(生きているんだろうか、野崎)

コメントありがとうございます。
トラックバック
TB*URL
<< 2024/05 >>
S M T W T F S
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.