黙りこんでしまった英人に、「話は家で聞く」と、アトリエからはあっという間に連れ去られた。
榛名は人から情報を得られるのであれば英人を問い詰めたりしないが、英人自身のことに関しては容赦なく踏み込んでくる。
それだけ心配されているのだと思えたが、いつまで経っても頼りなく親離れできない子供のようで不甲斐なさも感じた。
それに、アトリエとしての建物を与えてもらったのに、絵をやめて仕事をしたいと言い出すのも憚られた。
夕食もまだだというのに、身ぐるみ剥がされてバスタブの中に押し込まれる。
「それで。何か物足りないのか?」
背中を榛名に預けて、話の続きをされる。感じやすい英人の肌の上を撫でながら、うなじに唇が落ちれば黙っていることなど英人には不可能に近かった。
最近、何かの話をするときはこうやってバスタブの中かベッドの中ばかりだ。それも榛名が英人を煽り立てて逃げ場を失わせるやり方ばかりで、結局泣くのは英人である。
「物足りないとかじゃない。個展は嬉しいんだよ。だけど…なんていうか…」
後々攻め立てられることを思えばここで吐露してしまうのが一番だと学習していた。
満たされない何かをどう伝えればいいのかと、口籠る英人に榛名は色々と思考を巡らせているようだ。
人の行動や心情を読むのは得意な榛名でも、きっかけがなければ詮索のしようがない。
「思っていることを全部言え」
どれほど脈略がなくてもいいといつも言われる。うまく文章にできなくても、組み立てて整理するのは榛名であって、英人はその解釈力に感心させられてばかりだった。裏を返せば隠し事などできるはずもない。
せっかくアトリエとしての場所をもらったのに申し訳ないと伝えながら、フランスで感じたこと、絵は趣味でしかないことなどを正直に言ってみた。
英人としては何かを作ってみたい。今振り返れば、広告デザインをやっていた頃はやりがいを感じていた。
大学を卒業して最初の年で、世間を知らなかったから余計に新鮮な世界だったのかもしれない。
榛名は黙って英人の言うことを聞いていたが、英人が申し訳なさそうに榛名を振り返りながら見上げればクスッと笑った。
「やりたいことが見つかるのはいいことだ」
相変わらず悩んでいたことが馬鹿気に思える返事だった。
それから仕事ができそうなところを神戸にでも紹介させると言われたが、さすがに就職活動くらいは自分ですると榛名を制した。
神戸にまで話が伝わってしまえば、面倒見の良い彼なら間違いなく幾社か名前をあげてくるだろう。
人の紹介ともなれば迷惑もかかる気がして尚更気後れしてしまう。
榛名を押しとどめた、黙らせたつもりだったのに……。
数日後には神戸から直接電話が入って、個展の件と就職の件を話す神戸に英人が面食らった。
個展については神戸が全てを担う形になっていたから特に問題もなかったのだが、「仕事をする」という件には英人自身、心が揺らいでいただけに驚きでしかなかった。
「うちのCM制作のスタッフになってみない?」
明るく誘う声は英人と榛名の間で交わされた会話の内容をしっかりと把握していた。
会社を紹介するどころの話ではなく、自分の下で働かないかという誘いだった。
神戸自身はフリーでプランナーとして活動しているとしても、ある程度の組織のようなものを抱えていて、先日フランスで一緒だった人たちもそんな中の一つだった。
どうして神戸のもとで…?と不思議に思う英人に、「千城がそうそう簡単に英人君を見知らぬ場所に放すわけがないでしょ」と軽くあしらわれる。
要するに榛名は自分の目の届かないところに英人を向かわせたくないという魂胆らしいが、ここまで徹底した束縛ぶりには英人の方が困惑した。
それを嫌だと思わない自分もどうかと思うが、引き受ける神戸も充分に英人に甘くなっているのだろう。
「きっとまだ英人君の中で答えなんて出ていないんでしょう。ゆっくり考えればいいよ。まだまだ若いんだからさ、色々なことにチャレンジして吸収して道を見つければいいんじゃないの?人生を歩んでいく道は一つじゃないんだよ。せっかく千城っていうスポンサーがいるんだからとことん甘えてやりたいことをやらせてもらいなよ。千城は英人君が甘えてくれるのが生きがいみたいになっているからうまく利用したら?」
まるで榛名を道具のように言う神戸には苦笑すら漏れる。
お互い憎まれ口ばかり叩いているが、付かず離れずの気を許した良い関係は憧れるところすらあった。
今の英人の中に、そう思えるような友人が見当たらなかったから余計に羨ましかった。
結局、神戸の押しに負けて、英人は神戸が持つオフィスに出入りするようになった。
フランスで一緒に過ごしたスタッフも時々顔を出してきて、懐かしさすら浮かぶ。
教えられることはたくさんあった。TVCMはもちろんだが、たった一枚のポスターにまで人を引き寄せる力がある。
英人は不思議とその世界にはまりこんだ。
一枚の写真も、一つの言葉。いざなう世界…。
神戸はある一企業の製品とコンセプトを英人に預けた。
「思ったままでいいから作ってみて」
英人の心に緊張が走った。
にほんブログ村
BLと全く関係のない世界に突入…
榛名は人から情報を得られるのであれば英人を問い詰めたりしないが、英人自身のことに関しては容赦なく踏み込んでくる。
それだけ心配されているのだと思えたが、いつまで経っても頼りなく親離れできない子供のようで不甲斐なさも感じた。
それに、アトリエとしての建物を与えてもらったのに、絵をやめて仕事をしたいと言い出すのも憚られた。
夕食もまだだというのに、身ぐるみ剥がされてバスタブの中に押し込まれる。
「それで。何か物足りないのか?」
背中を榛名に預けて、話の続きをされる。感じやすい英人の肌の上を撫でながら、うなじに唇が落ちれば黙っていることなど英人には不可能に近かった。
最近、何かの話をするときはこうやってバスタブの中かベッドの中ばかりだ。それも榛名が英人を煽り立てて逃げ場を失わせるやり方ばかりで、結局泣くのは英人である。
「物足りないとかじゃない。個展は嬉しいんだよ。だけど…なんていうか…」
後々攻め立てられることを思えばここで吐露してしまうのが一番だと学習していた。
満たされない何かをどう伝えればいいのかと、口籠る英人に榛名は色々と思考を巡らせているようだ。
人の行動や心情を読むのは得意な榛名でも、きっかけがなければ詮索のしようがない。
「思っていることを全部言え」
どれほど脈略がなくてもいいといつも言われる。うまく文章にできなくても、組み立てて整理するのは榛名であって、英人はその解釈力に感心させられてばかりだった。裏を返せば隠し事などできるはずもない。
せっかくアトリエとしての場所をもらったのに申し訳ないと伝えながら、フランスで感じたこと、絵は趣味でしかないことなどを正直に言ってみた。
英人としては何かを作ってみたい。今振り返れば、広告デザインをやっていた頃はやりがいを感じていた。
大学を卒業して最初の年で、世間を知らなかったから余計に新鮮な世界だったのかもしれない。
榛名は黙って英人の言うことを聞いていたが、英人が申し訳なさそうに榛名を振り返りながら見上げればクスッと笑った。
「やりたいことが見つかるのはいいことだ」
相変わらず悩んでいたことが馬鹿気に思える返事だった。
それから仕事ができそうなところを神戸にでも紹介させると言われたが、さすがに就職活動くらいは自分ですると榛名を制した。
神戸にまで話が伝わってしまえば、面倒見の良い彼なら間違いなく幾社か名前をあげてくるだろう。
人の紹介ともなれば迷惑もかかる気がして尚更気後れしてしまう。
榛名を押しとどめた、黙らせたつもりだったのに……。
数日後には神戸から直接電話が入って、個展の件と就職の件を話す神戸に英人が面食らった。
個展については神戸が全てを担う形になっていたから特に問題もなかったのだが、「仕事をする」という件には英人自身、心が揺らいでいただけに驚きでしかなかった。
「うちのCM制作のスタッフになってみない?」
明るく誘う声は英人と榛名の間で交わされた会話の内容をしっかりと把握していた。
会社を紹介するどころの話ではなく、自分の下で働かないかという誘いだった。
神戸自身はフリーでプランナーとして活動しているとしても、ある程度の組織のようなものを抱えていて、先日フランスで一緒だった人たちもそんな中の一つだった。
どうして神戸のもとで…?と不思議に思う英人に、「千城がそうそう簡単に英人君を見知らぬ場所に放すわけがないでしょ」と軽くあしらわれる。
要するに榛名は自分の目の届かないところに英人を向かわせたくないという魂胆らしいが、ここまで徹底した束縛ぶりには英人の方が困惑した。
それを嫌だと思わない自分もどうかと思うが、引き受ける神戸も充分に英人に甘くなっているのだろう。
「きっとまだ英人君の中で答えなんて出ていないんでしょう。ゆっくり考えればいいよ。まだまだ若いんだからさ、色々なことにチャレンジして吸収して道を見つければいいんじゃないの?人生を歩んでいく道は一つじゃないんだよ。せっかく千城っていうスポンサーがいるんだからとことん甘えてやりたいことをやらせてもらいなよ。千城は英人君が甘えてくれるのが生きがいみたいになっているからうまく利用したら?」
まるで榛名を道具のように言う神戸には苦笑すら漏れる。
お互い憎まれ口ばかり叩いているが、付かず離れずの気を許した良い関係は憧れるところすらあった。
今の英人の中に、そう思えるような友人が見当たらなかったから余計に羨ましかった。
結局、神戸の押しに負けて、英人は神戸が持つオフィスに出入りするようになった。
フランスで一緒に過ごしたスタッフも時々顔を出してきて、懐かしさすら浮かぶ。
教えられることはたくさんあった。TVCMはもちろんだが、たった一枚のポスターにまで人を引き寄せる力がある。
英人は不思議とその世界にはまりこんだ。
一枚の写真も、一つの言葉。いざなう世界…。
神戸はある一企業の製品とコンセプトを英人に預けた。
「思ったままでいいから作ってみて」
英人の心に緊張が走った。
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BLと全く関係のない世界に突入…
蝶丸 | URL | 2009-11-14-Sat 01:30 [編集]
すごくいい感じに仕事が決まってきましたね。
プレイベートの恋愛だけじゃなく、仕事も充実してきたら、もっと自信が持てるるようになるんでしょうね。
英人、頑張って!!
甘えてくれるのが生きがいって・・・千城も大概かわいいって思っていまいます。
プレイベートの恋愛だけじゃなく、仕事も充実してきたら、もっと自信が持てるるようになるんでしょうね。
英人、頑張って!!
甘えてくれるのが生きがいって・・・千城も大概かわいいって思っていまいます。
きちんとことばで言えなくてもちゃんと分ってくれるダーリンがいるのだからいいですね。
けど、目の届かないところに一人でひーちゃんを送り出すことは過保護な千城さんがしないでしょう。神戸さんのところなら安心てわけですね。
それでも、毎日今日は何したのかどこで誰と会ったのか、気になって仕方ない、心配で心配で思わず見に行ってしまいたくなる様子が目に浮かびます。
初の大仕事うまくいくといいですね。
けど、目の届かないところに一人でひーちゃんを送り出すことは過保護な千城さんがしないでしょう。神戸さんのところなら安心てわけですね。
それでも、毎日今日は何したのかどこで誰と会ったのか、気になって仕方ない、心配で心配で思わず見に行ってしまいたくなる様子が目に浮かびます。
初の大仕事うまくいくといいですね。
蝶丸様
こんばんは。レス遅くなりました。
> すごくいい感じに仕事が決まってきましたね。
>
> プレイベートの恋愛だけじゃなく、仕事も充実してきたら、もっと自信が持てるるようになるんでしょうね。
こじつけるように展開しています。
とりあえず英人君再生物語(?)なので自信を持ってもらいたいものです。
> 英人、頑張って!!
応援、ありがとうございます。
英人も皆様に励まされてやる気を起こしてくれることでしょう。
> 甘えてくれるのが生きがいって・・・千城も大概かわいいって思っていまいます。
甘やかしすぎだろう…っていつも思う私です。
千城ってばいつの間にこんなに甘々な人間になっちゃったのか私でも不思議…。
他の人に対して特別な感情を抱いたことがないし、千城も闇の中をさまよっているんですかね。
離さないために甘やかし続けているのでしょうか。
ぬるま湯に浸せば出られなくなる心理状態を計算したかのようなこいつには閉口です。
コメントありがとうございました。
こんばんは。レス遅くなりました。
> すごくいい感じに仕事が決まってきましたね。
>
> プレイベートの恋愛だけじゃなく、仕事も充実してきたら、もっと自信が持てるるようになるんでしょうね。
こじつけるように展開しています。
とりあえず英人君再生物語(?)なので自信を持ってもらいたいものです。
> 英人、頑張って!!
応援、ありがとうございます。
英人も皆様に励まされてやる気を起こしてくれることでしょう。
> 甘えてくれるのが生きがいって・・・千城も大概かわいいって思っていまいます。
甘やかしすぎだろう…っていつも思う私です。
千城ってばいつの間にこんなに甘々な人間になっちゃったのか私でも不思議…。
他の人に対して特別な感情を抱いたことがないし、千城も闇の中をさまよっているんですかね。
離さないために甘やかし続けているのでしょうか。
ぬるま湯に浸せば出られなくなる心理状態を計算したかのようなこいつには閉口です。
コメントありがとうございました。
甲斐様
こんばんは。
> きちんとことばで言えなくてもちゃんと分ってくれるダーリンがいるのだからいいですね。
> けど、目の届かないところに一人でひーちゃんを送り出すことは過保護な千城さんがしないでしょう。神戸さんのところなら安心てわけですね。
過保護すぎです。
どんだけ可愛がれば気が済むんだ…と私のほうが少々呆れに入りました。
引き受けちゃった神戸も逐一連絡が入って辟易の様子だったり…?(爆)
> それでも、毎日今日は何したのかどこで誰と会ったのか、気になって仕方ない、心配で心配で思わず見に行ってしまいたくなる様子が目に浮かびます。
間違いなく問い詰めているんでしょうね。
オフィスに顔を出さないだけまだマシなのでしょうか。
盗聴器とか発信機とか付けられないだけいいのかしら。
(犯罪の一歩手前だぞ)
> 初の大仕事うまくいくといいですね。
少しずつ英人の中で自信に繋がっていってくれるといいです。
根暗で引っ込み思案な性格が変わるかしら…。
コメントありがとうございました。
こんばんは。
> きちんとことばで言えなくてもちゃんと分ってくれるダーリンがいるのだからいいですね。
> けど、目の届かないところに一人でひーちゃんを送り出すことは過保護な千城さんがしないでしょう。神戸さんのところなら安心てわけですね。
過保護すぎです。
どんだけ可愛がれば気が済むんだ…と私のほうが少々呆れに入りました。
引き受けちゃった神戸も逐一連絡が入って辟易の様子だったり…?(爆)
> それでも、毎日今日は何したのかどこで誰と会ったのか、気になって仕方ない、心配で心配で思わず見に行ってしまいたくなる様子が目に浮かびます。
間違いなく問い詰めているんでしょうね。
オフィスに顔を出さないだけまだマシなのでしょうか。
盗聴器とか発信機とか付けられないだけいいのかしら。
(犯罪の一歩手前だぞ)
> 初の大仕事うまくいくといいですね。
少しずつ英人の中で自信に繋がっていってくれるといいです。
根暗で引っ込み思案な性格が変わるかしら…。
コメントありがとうございました。
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