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BLの丘
淋しい夜の果て 3
2009-12-01-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
それほど長い距離は走っていない。会話は全く無く、車内には刺々しい雰囲気が漂っていた。
都内でも格式高い地名の中にある長い長い塀沿いに車は進んだ。鉄格子で覆われた一つ目の門と敷地内に入った二つ目の門、二か所でセキュリティチェックが行われ、更に車道のある庭を通って灯篭が並びぼんやりとした明るさの中に佇む、和の造りをふんだんに取り入れた平屋造りの屋敷に車が横づけられた。まるでどこかの高級旅館のような広々とした玄関口からキッチリとスーツを着こなした2名の、まだ40代ほどの男性が迎え出て、屋敷の中には数名のメイドが控えているのが車の中から見えた。
迎え出た男性の一人が車のドアを開けてくれる。
促されるまま英人は先に車を降り待っていると、続いて降りた千城の父にもう一人の男性が頭を下げた。
「おかえりなさいませ。お食事はいかがいたしますか?」
「結構だ。彼と話したいことがあるから部屋には誰も近づかないでくれ。妻には社用だと言っておけばいい」
「かしこまりました」
要件を確認した男は恭しく頭を下げてその場で千城の父が玄関の中に入っていくのを見届けた。
英人は何も分からず呆然としてしまったが、命令されるような視線は「付いてきなさい」と言われているようで後ろに続いた。

勤務帰りの格好はダークグリーンのシャツに白いパーカを羽織りジーンズという姿だったから、こんなに立派な屋敷に足を踏み入れることに躊躇いが生まれた。案の定玄関に入るなり、一瞬瞠目した使用人の女性陣たちの表情があったがすぐに元に戻り、千城の父に挨拶を済ませていた。

日本庭園が見渡せるガラス戸と襖の間にある廊下を進んだ。屋敷は一つだと思っていたら渡り廊下を伝わって幾つかあるようだった。一体どれほどの部屋があるのか、どこまで続くのか、英人には桁外れの大きさと広さだった。途中で何度かまがったり廊下を渡って、英人一人では完全に迷子になると思った。
ついてくる者はおらず、床の上を擦る二人の足音だけが響く。何の言葉もかけてもらえないことは緊張感を持たせたが、話を上手に組み立てられずいつもしどろもどろになってしまう英人にとって、逆に黙られていることのほうが気が楽になったくらいだ。
通された部屋…というより建物だった。きっとここが千城の父にとってプライベートルームなのだろうが、全ての襖が開けられていたせいか、広さには目を見張った。
一角はワークルームとして使うためか洋風にデザインされているが、畳の間から続いていても違和感のない造りになっている。ここには大きな両開きの木製のドアが取り付けられ、これも開いていた。
ダイニング部分は掘り炬燵式になっており10人は座れそうだし、日本庭園を見ながら寛ぐ居間だけでも30畳以上ありそうだった。今は一つの空間となっているが障子や襖を開けたてするための敷居が幾つかあるのを見れば隔てられるのだと分かる。

千城の父は、英人を居間へと案内した。
これだけで英人はオロオロとしてしまった。重厚な造りの大きな座卓のどこに座ったら良いのかが分からなかったからだ。いつもであれは全て千城が案内してくれるし、素直に従うばかりだった英人は席など気にしたこともなかった。
千城の父は英人を招き入れた位置で立ち、英人が行動を起こすのを待っていた。背後に浮かぶ威圧感は背中にビシビシと当たるようだ。

彼の目を見返すこともできずに俯いてしまった英人に、初めて小さな吐息が漏れる音が聞こえた。
畳の上をスッと歩いてくる音と、「そこに座りなさい」と案内する手に、英人は弾かれたように顔を上げた。
千城の声がしたような気がした。だが見上げた先にあったのは厳しさを湛えるだけの表情で、冷徹な瞳は相変わらず英人を値踏みしている。相手を刺すような目の作りは何度見ても千城と同じくらい良く似ていた。

英人が座るのを確認すると、その向かいに千城の父は腰を下ろした。
「千城には随分と勝手なことをされたよ」
年を重ねているからか声は静かで落ち着きがあったが端々に怒気を感じた。
何の前置きもなく単刀直入に言葉を発した彼に、何故自分がこの場に呼ばれたのかなんとなく想像がついた。それから千城が誰の許可もなく榛名の戸籍に英人の名前を入れてしまったのだと彼の口ぶりから知った。
安易に受け入れられる件ではないと思ってはいたが、一言も告げられていなかったとは予想もしていなかった。
英人は咄嗟に座卓の下で左手を右手で覆った。

「養子縁組などとふざけたことを誰が認めると思うんだね?どこの女に作らせた子供かと思えば君だと聞いて呆れ返った。まだ当家の血が混じる者であれば多少の心付けを渡しても良かったが全く話にならない。あの子だって私共の家にどこの馬の骨ともわからない存在を入れるわけにいかないことぐらい承知のはずなんだが。野崎に聞けば、君が千城をたぶらかしたそうじゃないか」
誰も聞いている者がいないのをいいことに、千城の父は言葉を濁すこともなかった。そして反論する隙すら与えない。
「しかも当家の名に恥を晒すだけの遊び人だったと耳にすれば尚更腸が煮えくり返るというものだ。散々遊び歩けるだけの容姿を使って若い今のうちに取り入り、うまくいったと自慢でもしたかったのか?」

英人は目頭が熱くなるのを抑えることができなかった。
過ぎてきた過去は変えようがないと何度も思う。でも千城は全てを受け入れてくれた。何もかも過去を思い出せないくらいに英人を作り変えてくれた。その優しさに溺れて浸り、幸せの絶頂にいた。
今のこの言葉を聞くまで、束の間でも英人は過去を忘れていたし幸せだった。
野崎の名前を出されると同時に、あの時浴びた卑劣な言動を思い出さずにはいられない。
真正面に佇む男を視野に入れることなどできず、両手で顔を覆えば間髪入れずに冷たい声が響いた。
「その指輪を外しなさい」

エンゲージリングというよりもなるべくファッション性を生かした作りを施したつもりなのに、目の前の男は意味合いを知っている。もっとも千城が英人の戸籍を共にした意味まで理解しているくらいだから、簡単に想像できるのだろう。
千城に嵌めてもらった指輪だ…。できない…と小さくではあっても拒絶の仕草を見せれば徐に立ち上がった影が視界の隅に走った。

あまりにも突然の行為に、英人は喉の奥に貼りついたような悲鳴を音に出すことができなかった。
「ヒっ…っ!!」
「言うことがきけないのであれば従わせるまでだ」
英人の隣に膝を付いた千城の父に力強く左手首を引っ張られ、指輪を抜かれることを何とか阻止しようと指先を握り締める。自分の方へ引き戻す力が全身から溢れた。
畳の上に転がるくらいの力が働き、勢いがつき過ぎたせいか、バランスを崩した英人と共に千城の父が倒れ込んでくる。
間近に迫った千城と同じ目に、英人は刺されたように動きを止めた。

「ああ、そうだな…。おまえが生きるべき世界に戻してやろう」
フッと悪魔のように笑った彼の手は手首を放すこともなく、英人を跨いで畳の上に押さえ込んだ。
冷たい指先がスッと英人の首筋を撫でた直後、勢いよくシャツのボタンが吹っ飛んだ。

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さすが親子だ…。とか言っている場合ではない???
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コメント

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コメント蝶丸 | URL | 2009-12-01-Tue 21:47 [編集]
う~ん。すごい豪邸ですね~

まさか親父様までが・・・

そういう展開ですか。英人には男に襲われるフェロモンが出てるんでしょうね~

千城さま、早く助けにきてあげて~
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-01-Tue 23:18 [編集]
T様

こんばんは。またのお越しありがとうございます。

>いや、お父さん最低ですよ。ちーさんとは違いますもの。

親子とは思いたくない…。
いくらなんでも息子の恋人に手を出すなど言語道断です。
千城も自分勝手だけど、英人との出会いで親とは異なる、人に対しての感情を身につけましたからね~。
この先を書くのが少々辛い。

コメントありがとうございました。
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-01-Tue 23:23 [編集]
A様

こんばんは。初コメありがとうございます。

>英人、ピ~ンチ(∋_∈) 千城パパは男もいけるんですね。 美人を目の前にして味見したい下心は無きにしもあらずでしょうか? 続きが気になります!! いつも読み逃げしてました、済みません。 毎回楽しく読ませ頂いてます♪ 応援してます!

うちに登場するキャラはほぼ全員オトコいけます!!(いばるなっ)
お小言言うつもりだけだったのに、惑わされちゃったのかな~。
まさかこれほどとは…?!

読み逃げでも結構です。いつもいらしてくださってありがとうございます。
ぜひまた遊びにきてください。
コメント、感謝です。
Re: タイトルなし
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-01-Tue 23:29 [編集]
蝶丸様

こんばんは。

> う~ん。すごい豪邸ですね~

想像の世界ですから、さらぁりと流してやってください(冷汗)

> まさか親父様までが・・・
> そういう展開ですか。英人には男に襲われるフェロモンが出てるんでしょうね~

あっちでもこっちでも襲われているような気がしてきました…。
そういう展開です、きっと。
そういえば、女性ボディーガードはどこにいっちゃったんだろう…。
もう結婚しちゃったかな。

> 千城さま、早く助けにきてあげて~
ちーちゃんは異国の地におります。
榛名パパは狙いましたね、この時を。

コメントありがとうございました。
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-02-Wed 07:02 [編集]
S様

おはようございます。

>きゃぁ~!!英人がぁ~。千城飛んできてぇ~。と叫んでしまいそうです。お父さん怖すぎます・・・。それにしてもすごいお宅ですね。あぁ、続きが気になります。

英人、人生で最大(?)の危機に遭遇しました。
千城がそばにいないとなーんにもできない子になっちゃって、あらま~ぁってため息つきながら書いています。
榛名パパ、貫録つきすぎちゃったかな???
お屋敷のことは完全なる妄想です。(あまり突っ込まないで…汗)

コメントありがとうございました。
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