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BLの丘
雛鳥の巣立ち 7
2009-12-20-Sun  CATEGORY: 淋しい夜
聖が英人を守るように腕に収めるのを千城は黙っていなかった。
「離せっ」
相手を威嚇するような千城の口調に英人の体がビクリとなる。恐怖に慄きながら英人は聖の腕を離れようとしたが、聖は英人を包んだまま手放そうとはしなかった。
「自分がどんな行動を取ったか分かっている?千城さんが俺に英人を触れさせたくないように、英人だってジョージに近寄ってなんか欲しくなかったんだよ。たとえどんな挨拶にしたって」
「あれは…」
一瞬でも言い淀んだ千城を英人は感じてしまった。
外国で繰り広げられる『挨拶』が多種多様にあることは理解できたが、ジョージが持つ感情はただの『挨拶』なんかではなかった。
千城がそれを知りながら受け入れたようにしか英人には思えなかった。(ちーちゃん、恋愛感情には疎いもので気付かなかった模様…)それは聖も同様のようで、千城を責める言葉は怯むことがない。
「どれだけ懐かしくったって英人の前で取るべきものってあるでしょ。仮にも『正妻』に対して失礼だったって思ってよ。それが何? 一方的に英人が悪いみたいな言い方されたら千城さんに返す気なんてなくなるよ」
聖はそう言いながら英人と千城の間に入る体勢を取った。
千城がまっすぐに手を伸ばしたって英人には触れられなくなる。
「ひじ…り…」
腕の温かさに英人が戸惑った声を上げると聖の唇が髪の上に落ちた。
「聖っ!!」
千城は何よりも誰かに英人が触れられるのを嫌った。わざと千城の激怒を煽るような行為に英人も竦んだ。
ほぼ同時にドカッという音と共に英人の前から聖の体が消えた。
崩れ落ちるような聖を見た時、千城が殴ったのだということに気付いた。
英人は目をまん丸に見開いていた。
「これ以上英人に何かをしてみろ…っ!!」
「やめっ…!やめてっ!!」
状況を飲み込むまでには時間がかかっていたが、英人は咄嗟に聖を庇った。その光景をまるで信じられないものを見るもののように冷たい千城の視線が二人に降り注いでいた。
「英人、おまえは…」
「なんにもないっ!!何もないからっ!!聖を責めるのはやめてっ!!嫌だ、こんなのっ」
千城の愛情は分かる。分かっても誰かが暴力を受けるのは耐えられなかった。ましてや聖が自分の為に動いてくれたと知るだけに責めてほしくなどなかった。
「ごめんなさい。全部俺が悪いのっ。俺が悪いからっ!…俺が悪いから聖をこれ以上…っ」
辛い目にあわせたくない…。
涙をぽろぽろと零しながら倒れた聖を庇う英人に、千城は更なる激怒を表した。
たとえどんな理由にしたって、英人が千城以外の人間を最優先させるなど、千城には耐え難い行為だった。
しかも全ての罪を自らに背負わせようとする英人に尚更苛立ちは募る。
少しでも千城に対して嫉妬したと責めてくれたら、それはまた違った意味になっただろう…。

激高を隠そうともせず千城は聖に寄ろうとした英人を引き離した。
「帰るぞ」
千城がまだ帰れない時間なのだとは理解している。全てのゲストを返し終わるまで会場を離れられないはずだ。きっと一人だけ車に乗せて帰してしまおうというのだろう。
それに英人には聖をこのまま放っておくことはできなかった。
「やぁ…っ。聖、あのままなんてダメっ」
強引なほど力ずくで英人を引き上げた。千城の苛立ちは嫌というほど感じる。英人が千城以外の人間に興味や執着を持つことを何よりも嫌うと知ってはいても、自分のせいで傷ついた聖を放るなどできなかった。
そして聖はわざと千城の怒りを煽ったのだ。千城の想いがいかほどであるかとジョージに見せつけるように…。それは英人を守ることにも匹敵していた。
「救援のものは寄越す。おまえが心配することではない」
「ちがうっ!そうじゃないのっ!!なんで分かんないの?!聖は俺の為にっ…」
ピシッという痛みが頬を掠めた。
軽くではあっても千城が英人の頬を叩いたのだと分かるまでに時間など要しはしなかった。
「自分が誰のものか分かれ。人に触れさせて宥められて俺が満足すると思うか?おまえには前にも言ってあるはずだ。不満があるなら言えと。俺以外の男を頼るな。どんな感情だって受け入れる。言いたいことがあるなら直接言え」
千城がどれだけ怒っているのかは感じた。英人が千城以外の男を頼ってしまったことへの苛立ちは嫌というほど感じる。
けど、英人には叩かれたショックよりも投げ捨てられるような言葉の方が痛かった。
千城の怒り具合が分かっても、聖をこんなふうに扱ってほしくない…。
千城に愛されていると思える嬉しさよりも、自分を思ってくれる人間に対する扱いの酷さに心が激しい痛みを覚えた。
こんなのは千城じゃない…。
掴まれた腕を無理矢理にでも引き離そうとした。今近寄りたかったのは千城よりも聖だった。
「千城なんて嫌いっ!!」
英人が投げ捨てるように吐いた言葉に千城は目を剥いていた。掴まれていた腕が解ける。
聖を守るかのように英人はその場で泣き崩れてしまった。

最初に英人に触れたのは痛みをおして起き上がった聖だった。宥めるように髪を擦っただけだった。
多数のゲストがいる中で繰り広げられた醜態に千城の父も黙ってはいなかった。
「突然消息不明になり心配をかけた挙句、戻った途端にこの様はなんだ?!車を用意するからすぐに帰りなさい。聖、おまえもだ」
一世の指示ですぐさま駆け寄った立川家の人間に聖は連れ去られるも同然だった。
最後まで英人のことを気にしていた聖の様子が分かって、英人は申し訳なさでいっぱいだった。

一世に促され、スタッフに連れられるがまま英人は迎えの車に乗せられた。千城は悔しそうに何の言葉も漏らさず、英人を見送った。千城がいつも扱う運転手はマンションまで送り届けてくれた。エントランスには入りはしたものの、英人は部屋までたどる気力はなかった。このまま千城の帰りを黙って待っていられる度胸もない…。
幸いなことに携帯電話は投げ捨てられたまま英人は持たされていなかった。
再び夜の街に出るとタクシーを拾った。こんな時に行ける場所は一つしかない…。

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コメント

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コメントたつみきえ | URL | 2009-12-20-Sun 15:36 [編集]
MO様

こんにちは。

>英人の向かう先は、もちろん彼ですね(^o^)  

はい。彼です。(本当に合っていてるのか…?!)
同い年のお兄ちゃん。誰よりも英人を心配しつつ見守る親のようです。

>永遠の愛を誓った二人ですが、育った環境の違いもありますし、まだまだお互いの思いをぶつけ合わなくてはいけないようですね。千城の怒りをかってしまいましたが、榛名家で頑張るためには、聖の存在がとっても重要なようですね。更新を楽しみにしています。

育った環境の違いをまざまざと見せつけられる今回の番外編でございます。
聖くんは覚悟していましたが、千城さんに贈られたクリスマスプレゼントは安くはなかったですね。
英人はなんとか榛名家の名にと努力をするものの追い付いていない状況です。
そこをダーリンになだめてほしいのにこんな結果…(涙)

コメントありがとうございました。
理不尽だよ千城さん
コメント甲斐 | URL | 2009-12-20-Sun 17:52 [編集]
やっぱりねぇ。千城さんは全然分ってません。
『千城さんが俺に英人を触れさせたくないように、英人だってジョージに近寄ってなんか欲しくなかった』って指摘されてもなお理解不能って感じでしょうか。知人に挨拶して何が悪い!?って。
英人君、千城さんなんか捨てて聖と駆け落ちしよ。おねんさんも応援するよ♪
っで?ひーちゃんどこ行くの?
こんなときには、思いっきり泣かせてくれて頭を撫でて「英人はわるくない。よくやった。頑張ったね、いい子だよ」っていいてくれるお兄さんがいてほしいんだけどな。
Re: 理不尽だよ千城さん
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-20-Sun 19:08 [編集]
甲斐様

こんばんは。

> やっぱりねぇ。千城さんは全然分ってません。

分かっていません。
自分の育ってきた環境が全ての人ですから英人とは思いっきりギャップがあります。

> 『千城さんが俺に英人を触れさせたくないように、英人だってジョージに近寄ってなんか欲しくなかった』って指摘されてもなお理解不能って感じでしょうか。知人に挨拶して何が悪い!?って。
> 英人君、千城さんなんか捨てて聖と駆け落ちしよ。おねんさんも応援するよ♪

聖も堕ちてくることを望んでいますからね。
縋っちゃったら千城以上に『いーこいーこ』しそうな聖です。

> っで?ひーちゃんどこ行くの?
> こんなときには、思いっきり泣かせてくれて頭を撫でて「英人はわるくない。よくやった。頑張ったね、いい子だよ」っていいてくれるお兄さんがいてほしいんだけどな。

いますっ!!
英人はとってもいい子なので守ってくれる人はいっぱい(?)いますっ!!
なにより甲斐様の腕の中に飛び込みたいひーちゃん。

コメントいつもありがとうございます。
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