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BLの丘
雛鳥の巣立ち 8
2009-12-21-Mon  CATEGORY: 淋しい夜
夜もまだ遅くない時間、バーはそこそこの賑わいを見せていた。
泣きはらした顔で向かうのもどうかと思いながら、一人でいたくなかった英人は隠れるようにして佇むドアを開けた。
見慣れたバーはどこか落ち着きがあった。
千城は英人に、千城以外の人間を頼るなと言うけれど、千城に話せないことを相談したい人間はいるものだ。
カウンターの奥で客の相手をしていた日野が、入ってきた英人に気付いて隅の席を目で促す。
誘われるように流れついたところで水にも等しい液体を差し出された。
「注文、まだしてない…」
「今日は随分身綺麗な格好じゃん」
英人の言うことなど全く耳を貸さずに、流れ込んだ雰囲気に何かを察した日野はさりげなく状況を伺った。
指摘されて、自分がタキシードのままだったのだと気付く。無造作に蝶ネクタイを外し、襟元を寛げた。
やけっぱちの英人にただならぬ雰囲気を感じたのか、日野は英人を咎めた。
「そーゆーこと、すんなよ。今日の客、マジやばいから先に帰って。鍵、渡しておくから」
スッと店内を見回しながら、日野はそういって何を飲む間も取らせずにタクシーを呼んだ。日野のマンションの鍵をさりげなく渡される。
タクシーに乗り込むまで付き添った日野は「すぐ上がるから」と言葉を添えて英人を送り出した。
何を言わなくても全てを悟るような日野を、時々凄い存在だと思う時がある。
千城の存在を知りながら無理に家に帰すわけでもない。時にはおちゃらけて冗談で流す時もありながら、状況に応じてこうして真正面から真剣に付き合ってくれる時もある。
千城にバレたときの言い訳よりも、現在の英人の具合を最優先にしてくれるのだから英人は心から感謝した。
勝手に上がり込んだ日野のマンションで、勝手に冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出した。
さらに勝手にスエットまで取り出して着替えてしまう図々しさはいつの頃に覚えたことなのだろうか…。
英人用にと衣類の幾種類かはいつのまにか用意されていた。きちんと整理されて保管されていることには頭が下がる。
数度しか来たことのない家だが、こうも落ち付けるのは何故なのかと思いはしても、咎められない心地よさに甘えっぱなしだった。
日野は細かいことを気にもしなかったし、英人が寛ぐことで安堵を覚えるような雰囲気さえみせる。
夜の街を徘徊することを何よりも恐れていたから、こうして迎えてくれるのだろうか。
聖ではないが日野の温かさも心地よいものに変わりはない。たとえどんなに千城に怒られたって、失えないものはあるのだと思う。
英人にとってみれば第二の我が家にもなりつつあった。
1本目の缶ビールが飲み終わらない頃に日野は帰りついた。
まさかこれほど早くの帰宅とは思っていなかったから英人のほうが驚かされる。
「あんな姿見せられて放っておけるわけないだろ」
日野がオーナーに無理を言って先にあげてもらったのだと言われなくても分かることだった。
英人が榛名の姓となって出入りする頃から日野の無茶ぶりは増えた。オーナーも千城から援助を受けている以上文句も言えなくなっているらしい。

「それで。何があったの?」
日野も英人の異常とも思える行動を訝しげに思っていた。
ただでさえ泣きはらした顔で現れた上に、店先でショーでも始めるのかと言わんばかりの自棄なタイの解き方を見れば心配は募る一方だ。
缶ビールなどをあおったところで酔いなど回るはずもなく、ただ苛立ちと後悔に苛まれていた英人は日野の言葉に現実を思い出したかのようだった。
自分の嫉妬を聖に助けてもらい、挙句千城を怒らせ聖を傷つけた。
身勝手さに自棄が募りつつも、千城が起こした行動はどうやったって受け入れられるものではない。
でも千城を嫌いになるなどできなくてもどかしい感情の渦の中にいる。

英人は今日、榛名主催のパーティーがあったことや千城がジョージに対して取った行動、自分と聖との逃亡劇(キスしたとかはもちろん伏せたけど)、千城の聖に対する行為などを大まかに説明した。
英人が何よりも憤っていたのは千城の聖に向けた態度だった。
「そんなこと(逃亡)するから怒られるんだろうが。旦那の気持ちを信じてやれって前にも言っただろう。ちょっと嫉妬したくらいで他の男と消えたんじゃ誰だって納得いかねーよ」
「だからって殴ることないじゃんっ。ぶつことないじゃんっ。千城は勝手すぎるっ」
「まぁ、あんたの言い分も分からなくはないけどさ…。育ちの違いっていうやつだろ?たぶん、旦那、ジョージとかっていう奴にあんたが思ったような感情、気付いていないよ。だから平気で『挨拶』してたんだろうし。それを素直に打ち明けずに『逃げ』に入られたから機嫌を損ねたんだろうよ」
ジョージの気持ちに気付いていたら絶対に近寄ることはないと日野は言う。
日野の言葉に諭されるところはあっても、まだ英人の中では理解などできる心境ではなかった。
確かに英人は心の底を開けるように千城に何も言わなかった。それくらい気付いてくれるという甘えもあった。いつだって千城は英人が何を言うよりも先に感情を読み取って満足できる環境を整えてくれていたから改めて言葉にする必要がないとどこかで思っていた。
「人間、言葉にしなきゃ分かんないことなんてすっげーあるよ。いい機会だから不平不満全部ぶちまけちゃえば?『榛名』の人間になれないことに焦りがあるとか、どんな態度に嫉妬するとか。たとえあんたがどんな態度に出ようと旦那は受け止めてくれると俺は思う。それがダメって言うんだったら俺から言ってやるよ。何だって言ってやったほうがいい。絶対そのほうが旦那だって安心する」
『言葉』という壁を英人はとても深く感じた。ただでさえ文脈を上手に組み立てられない英人には、「それくらい分かって」と甘えているところがある。
これまでだって何も言わなくても千城が理解してくれていたから、尚更今日の”事件”は深い傷となった。
「ところでさ。あんたがここにいるって旦那は当然知っているんだよな?」
「知るわけないじゃん。千城なんかまだパーティーの真っ最中だよ。俺、携帯持たされていないし。運転手に『送り届けました』って報告受けて今頃ホッとしているよ」
英人が日野の言い分を理解しつつも、咎められる発言に投げやりな態度で悪態をつく。それを聞きながら、ホッとなどできないのはこちらのほうだと日野は冷や汗をかいた。

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コメント

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日野さんの災難
コメント甲斐 | URL | 2009-12-21-Mon 09:49 [編集]
残念!
おねーさんは両手を広げてひーちゃんが飛び込んでくるのをまってたのに、お兄ちゃんのところに飛び込んだわけですね。
選択は間違ってないけど・・・。

拾ってきた仔猫にすっかり懐かれて、憎からず思っているのだからもちろん邪険に扱えないどころか気がすむまで泣かせて励まして元気付けてあげたいに決まってるのだけれど・・・、飼い主に黙って出てきちゃってるしー飼い主に怒られたくないしーで悩めるお兄ちゃんですね。

うまく言葉にして伝えられない英人君と、言っても理解できないことだらけの千城さんの間に意思疎通は可能かが課題ですかね。
そんなときは言葉の要らないスキンシップ?
いやいや、そんなんで流されても根本的な解決にはならんのだし、、、、一緒に悩みましょう。
コメント高谷 | URL | 2009-12-21-Mon 12:35 [編集]
まるで『実家に帰らせていただきます!』状態ですね。
一生懸命、頑張っているのに上手くいかないストレスがきっとかなりのプレッシャーになっているんでしょうね。
だからこそナーバスになっちゃうんでしょうけど。

英人の気持ちも、千城の立場も理解できる日野さんの気持ちは、きっと英人のお父さん…
しかも、家に着替えまで完備されているとは侮れません。
気苦労が絶えなくても、見捨てる事が出来ないんでしょうね。
Re: 日野さんの災難
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-21-Mon 12:53 [編集]
甲斐様

こんにちは。
日野の災難第二弾でございます。

> 残念!
> おねーさんは両手を広げてひーちゃんが飛び込んでくるのをまってたのに、お兄ちゃんのところに飛び込んだわけですね。
> 選択は間違ってないけど・・・。

ごめんなさいっ!!
本当はひーちゃんは甲斐様の温かな胸に飛び込みたかったんですけど、グチだらだら零して嫌われたくなかった模様。
一番安全パイな"お兄ちゃん"のところに転がり込んでしまいました。

> 拾ってきた仔猫にすっかり懐かれて、憎からず思っているのだからもちろん邪険に扱えないどころか気がすむまで泣かせて励まして元気付けてあげたいに決まってるのだけれど・・・、飼い主に黙って出てきちゃってるしー飼い主に怒られたくないしーで悩めるお兄ちゃんですね。

飼い猫と飼い主の間で餌を与えて良いのかと悩む日野氏です。
へんなものを与えておなかを壊されちゃったら嫌だし…とか。
でも空腹らしいので何か上げようかな…とか。
何よりもやっぱりお腹いっぱいにして満足させてあげたい優しい"お兄ちゃん"です。

> うまく言葉にして伝えられない英人君と、言っても理解できないことだらけの千城さんの間に意思疎通は可能かが課題ですかね。
> そんなときは言葉の要らないスキンシップ?
> いやいや、そんなんで流されても根本的な解決にはならんのだし、、、、一緒に悩みましょう。

解決方法をぜひお授けください。
このへんはもう、老成した日野氏が一役かってくれることを期待して…(逃げる)
言葉の要らないスキンシップ。いい案です。
英人はなんだって流されていっちゃいますからね。誤魔化されるのか?!

コメントありがとうございました。
Re: タイトルなし
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-21-Mon 13:08 [編集]
高谷様

こんにちは。

> まるで『実家に帰らせていただきます!』状態ですね。

英人の人の良さか、守ってくれる人がいて母も安心しています。

> 一生懸命、頑張っているのに上手くいかないストレスがきっとかなりのプレッシャーになっているんでしょうね。
> だからこそナーバスになっちゃうんでしょうけど。

積もり積もってきたものが爆発したっていう感じでしょうか。
千城父から求められるものとか自分の不甲斐なさとか、色々なものに挟まれている英人です。
日野のもとに逃げ込むのは一種の現実逃避?!
でも現実を諭される結果となりますが…。

> 英人の気持ちも、千城の立場も理解できる日野さんの気持ちは、きっと英人のお父さん…
> しかも、家に着替えまで完備されているとは侮れません。
> 気苦労が絶えなくても、見捨てる事が出来ないんでしょうね。

千城の出張などでしょっちゅう淋しがる英人君ですからね。
しかも最近は身形が良いのでそのままオネンネには持ち込めないもので…。
でも裸で寝かせるわけにはいかないわ、みたいな。
結局日野も英人が可愛いのだと思います。

コメントありがとうございました。
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