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BLの丘
雛鳥の巣立ち 14
2009-12-29-Tue  CATEGORY: 淋しい夜
ジョージが千城に聖とのことをどう伝えたのか、英人には何となく想像がついた。千城の言葉を聞けば罵るくらいの発言はあったのだろう。
実際に昨日起きた真相など英人と聖しか知らないのだから誤魔化してしまえばいいと心の奥底で思うのに、千城の腕にぎゅっと抱きしめられた体が一瞬でも動揺してしまえば、千城が気付くのは容易いことだった。
「英人?」
深く問われることに恐怖を抱きながら、先程までの話の続きをするように英人は小さく頷くことで千城に返事をした。
千城とジョージが英人のことを話すのは嫌だと言うように…。
視線を伏せ再び強く千城に抱きついた英人をどう思ったのか、表情を見ることすら躊躇われた。顔など見られる余裕は今の英人にはない。
さりげなく交わしてしまったキスのたった一つ二つが今の英人には重い罪のようだった。

「英人にはいつも負担をかける…」
英人の反応を不思議に思わずにいてくれたのか、千城はまた謝罪の言葉を残して額にそっと口付けを落とした。
話が反れたことでひどく安堵している自分がいる。
泣いた顔を千城に拭われ、「車を待たせているからもう帰ろう」と促された。
車が見えなくなるまで丁寧に頭を下げ続けた女将たちに見送られながら、英人は後部座席の中でも千城の手を握り続けた。
そこには英人を離さないでという気持ちと、聖とのことを疑わないでという願いがあったのかもしれない。
今までの千城の性格を思えば、少しでも疑いを持てば執拗なくらいに問われる。先程の英人の反応を見ても何かしら感づいていそうなのに黙っていてくれるのは、ジョージとのトラブルがあったから気遣ってくれているのだろうか。
聖だったらもしも千城に詰め寄られた場合でも、彼なら悠然と白を切り通せるだろうと理由もない確信があった。
昨日の『連れ出してくれた』という一件がなかったら聖に対しての信頼度というのはまだ生まれなかった気もする。
千城には申し訳ないが、愛情とは全く違う意味で英人も聖を大事にしてあげたかった。それが何かなど分かりはしなかったけど…。

バスルームの湿った空気の中に「チュッ」という軽い音が幾度か響いた。
千城の胸に背中を預けた英人の体をすこしだけずらして振り返らせ、湿気を帯びた髪から耳朶や瞼、頬、唇へと千城の唇が動く。唇の上をちょっと吸うだけの口付けは何度か繰り返されたがそれ以上のことはされなかった。
身悶えたのは英人のほうで、もっと…と強請るようにそっと唇を開いて舌を出し千城の上唇を舐めた。
仕掛けるのは千城のくせに、追いこもうともしてくれない。結局最後はこうして英人から罠の中に潜り込んでいくことになる。
両の手を千城の首に回し腰を大きく捻って千城に縋りついた。
自分の節操のなさを露呈するようであまり好きではなかったが、この後に続く深くて甘い行為に充分なほど千城の思いを感じることになると思えば自然と体が動くようになっていた。
でも千城は軽く英人の口腔内を撫でただけで去ってしまった。
英人が淋しさを覚えたのは言うまでもない。
そんな英人に気付いて英人の体を持ち上げ向かい合わせになるよう腰を下ろさせたが千城に戸惑いがあるのは苦しそうな表情から見て取れた。
「今日はもう無理だろう。朝散々無理をさせた。壊してしまいそうだ」
ねっとりとした指遣いで英人の肌を這いまわらないのも、深い口付けをくれないのも英人の体を気遣ってのことなのだと理解はできたが、どこか中途半端に欲情を投げ出されたようで暗い影が差した。
一緒にバスルームに入るのも、一緒のベッドで寝るのもすでに『お決まりごと』のようになっていた。
だからといって毎日何をするわけではなかったが、こんな日は嫌な事を全て忘れるほどドロドロにしてほしいと思ってしまう。
確かにこれ以上の行為は千城を煽らせるだけだし、火が付けば英人にだって無理がくる。迷惑を被るのは神戸やその他のスタッフまでと範囲は広くなる。
千城が耐えてくれていると分かるから強請るのは酷なだけと重々承知していても、英人は千城だけのものなのだと改めて教えてほしかった。
「…壊れてもいい…」
伏せ目がちの英人から発された、波打つ水面にかき消されそうな小さな呟きは千城の耳に届いたのだろうか…。

濡れた千城の指先が英人の鎖骨から首筋を通って顎を引きあげた。
「神戸への言い訳は俺がしよう」
落ちてきた唇の熱さはぬるかったはずの湯を沸騰させそうだった。

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いつもお越しいただきましてありがとうございます。
年末の忙しい最中でもいらっしゃってくださる方がいて嬉しい限りです。
たぶんきっと年内はこの更新が最後になると思います。年始も4、5日くらいまでは書けないような気が…。
6月の末にこちらを立ち上げ、色々な方々に応援をしていただいて支えられて、私の中では本当に充実できた年でした。
(恐れ多くもランキングになんか参加しちゃってこんなところに居るのがいまだに信じられません 滝汗)
心より感謝申し上げます。
早いとは思いますが年末のご挨拶を…。
本当にお世話になりました。ありがとうございました。
また来年もお付き合いくだされば光栄です。
どうか皆さま、良いお年をお迎えください。
   たつみ きえ
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コメント

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コメント | | 2009-12-29-Tue 09:38 [編集]
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Re: ありがとうございました
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-29-Tue 09:53 [編集]
M様

こんにちは。パソを開いていたらちょうどお会いできました。

> 今年はきえさんのブログに出会えた事がとても嬉しかったです。
> 年末年始お忙しいと思いますがゆっくり素敵な時間を過ごして下さいね。来年も宜しくお願いします(*^_^*)

いつもお越しいただいて嬉しかったのは私の方です。
私もびっくりどっきりの世界でした。
こうして皆様に支えられてここまでこられたこと、本当に感謝しております。
M様にとって来年が素晴らしい年になりますように。
色々とありがとうございました。
もう一押し、ガンバレ!
コメント甲斐 | URL | 2009-12-29-Tue 10:40 [編集]
人は大抵、自分の生きてきた中で身に付いた尺度で物を見るものなのだと思います。
価値観とか常識とか。
そんな別々の人間が共に生きていこうというのはお互いの努力と歩み寄り以外の何物でもないんですね、なんて今更ながら思ってしまいました。
英人君は聖とのちょっとした過ち(って言うほどのものかとも思いますけど)を酷く後悔して怯えていますけれど、欧米風の親密なご挨拶のひとつとして気にしないって言うことにしませんか。(難しいけど)
千城さんもご両親や秘書、神戸さんのような友人など『大切にしたいの意味』はいろいろでも、多くの大切な人がいるように、英人君を守ったり癒したり導いてくれる大切な人が周りにいることは喜ばしいことだと思ってあげましょうよ。
何より愛しているのはお互いなのだからね。

今年の嬉しい収穫はたつみ様との出会いです。
ちょくちょくお邪魔しては、ステキなお話を読ませていただくことができて嬉しく思います。
来年も引き続きよろしくお願いします。
よいお年を。
Re:
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-29-Tue 13:41 [編集]

MO様

こんにちは。

>きえ様、いつも ありがとうございます。素敵なお話と出会え、どっぷりとハマリ 毎日 楽しませてもらっています。英人も千城も、仕事もできる魅力的な男ですから、これからも色々なことがあるでしょうけど、ハラハラドキドキしながら、いつも二人を応援しています。来年も、素敵な二人を楽しませて下さい。良いお年を~。

こちらこそいつもいらっしゃってくださいましてありがとうございました。
駄文にお付き合いくださったこと、心より感謝しております。
いつもコメントいただけてとても励みになりました。
来年こそは皆様のリクエストを聞けるくらいの力を身につけたいです。
MO様もぜひ良いお年をお迎えください。
大変お世話になりました。

Re: もう一押し、ガンバレ!
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-29-Tue 13:53 [編集]
甲斐様

こんにちは。

> 人は大抵、自分の生きてきた中で身に付いた尺度で物を見るものなのだと思います。
> 価値観とか常識とか。
> そんな別々の人間が共に生きていこうというのはお互いの努力と歩み寄り以外の何物でもないんですね、なんて今更ながら思ってしまいました。

誰にとっても難しい課題だと思います。
みんなが同じ価値観ではないですからね。

> 英人君は聖とのちょっとした過ち(って言うほどのものかとも思いますけど)を酷く後悔して怯えていますけれど、欧米風の親密なご挨拶のひとつとして気にしないって言うことにしませんか。(難しいけど)
> 千城さんもご両親や秘書、神戸さんのような友人など『大切にしたいの意味』はいろいろでも、多くの大切な人がいるように、英人君を守ったり癒したり導いてくれる大切な人が周りにいることは喜ばしいことだと思ってあげましょうよ。
> 何より愛しているのはお互いなのだからね。

英人はいっぱい人と身体を重ねることを繰り返してきてしまって、それを咎められたことがあるので些細なことでも気にしてしまうようです。
千城が「それくらいは気にしなくていいよ」って言ってくれるのならまだいいですけど、正反対の態度ですからね…。
誰かを大事にしたいという思いやりの心を持つことは人にとって大事なことだと思います。
千城も理解するんじゃないでしょうか。

> 今年の嬉しい収穫はたつみ様との出会いです。
> ちょくちょくお邪魔しては、ステキなお話を読ませていただくことができて嬉しく思います。
> 来年も引き続きよろしくお願いします。
> よいお年を。

私も甲斐様と出会えてとても楽しかったです。
色々な刺激をいただきました。
ぜひまたご鞭撻を頂きたいと思います。
どうぞ良いお年をお迎えください。
コメントありがとうございました。
コメントちぃ | URL | 2009-12-29-Tue 21:59 [編集]
こんばんは。

皆様のコメントと同じく、私にとっての一番の収穫と言っても過言では無いほど、きえ様のブログに出会えて、本当に幸せでした。
独特な世界観の中で、ひたむきに生きている人物像がありありと見えて、いつもドキドキしていました。

雛鳥シリーズ、20話と言わず、ぜひ100話まで。。と言いたいところですが、
親鳥の気持ちを考えますと、そうは言えず。。
終わりまで、目を離さず、陰ながら見守っていきたいです。

多忙を極めながら、日々更新してくれていた、きえ様が、来年はゆっくり、ゆったり、魅力ある話を紡げて、幸せな年であることを願います。

一年間、ありがとうございました。
Re: タイトルなし
コメントたつみきえ | URL | 2009-12-29-Tue 22:45 [編集]
ちぃ様

こんばんは。いつもお越しいただきましてありがとうございます。

> 皆様のコメントと同じく、私にとっての一番の収穫と言っても過言では無いほど、きえ様のブログに出会えて、本当に幸せでした。
> 独特な世界観の中で、ひたむきに生きている人物像がありありと見えて、いつもドキドキしていました。

このようにおっしゃっていただいて感無量でございます。
こんな稚拙な文にお付き合いくださいましたこと、心より感謝申し上げます。

> 雛鳥シリーズ、20話と言わず、ぜひ100話まで。。と言いたいところですが、
> 親鳥の気持ちを考えますと、そうは言えず。。
> 終わりまで、目を離さず、陰ながら見守っていきたいです。

ひゃ、ひゃくわ?!
英人たちはいっこ書き始めるとなんだかダラダラと長くなってしまうのでサクッと切り上げたい気持ちもあったのですが…。
今回も親子(千城&英人)がドタバタとすれちがってばかりで頭を悩まされています。

> 多忙を極めながら、日々更新してくれていた、きえ様が、来年はゆっくり、ゆったり、魅力ある話を紡げて、幸せな年であることを願います。
> 一年間、ありがとうございました。

こちらこそお世話になりました。
今年は色々とありましたが、ブログで支えられたところは精神的にも大きかったです。
いつ閉鎖しようかと思いながら、続けて良かったと思うところもありました。
ぜひまた来年も見守っていただきたいと思います。
コメントありがとうございました。
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